波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

リアクション公開中!

インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

リアクション


【5】GURDIAN【3】


「あまり踏み込み過ぎるなよ。データを採取するのが最優先だ」
「ええ、わかってます。未知の敵に突撃をかけられるほど肝は座ってませんよ」
 ジェファルコンはG2と単独で交戦中だった。ヒット&アウェイで、中距離を保ち、不用意な接近は裂ける。
「敵、左腕部、右腕部に伸縮の兆候……、軌道予測開始、ガイドを画面に。レイナ、気を付けろ!」
「……っ!?」
 機体を指向する2本の腕を回避。すれすれで躱したところで、ビームサーベルで斬り付ける。見た目に反し強度のあるガーディアンの装甲だが、伸縮中は幾分強度が下がるのか、斬り付けた腕から紫色のガスが噴き出した。
『ありゃオイルでもなけりゃ、血でもなさそうだな。どういう構造してるんだこいつら……?』
 G2は翼を広げ、接近してくる。
「間合いに入れないよう気を付けろ。組み合ったら危険だ」
「わかっています。しばらく激しく動きますよ」
 接近するG2から大きく間合いを取った。空間を縦横無尽に飛び交う腕をくぐり抜ける。
 ガーディアンのパワー、速度、防御はジェファルコン級だ。しかし反応速度はそれ以上である。それはパイロットの知覚、コクピットの操作、二段階の手順が必要なイコンと違い、自身が生命体であるガーディアンは行動が脳に直結している。その差が、イコン以上の反応速度を生み出している。
 不意にG2は顔をこちらに向けた。
「G2の口部に高エネルギー反応探知。急速上昇中。例の熱線砲が来るぞ!」
「忙しないですね!」
 ジェファルコンを急降下させた。次の瞬間、直上をG2の熱線砲”メギドファイア”が通過していった。
 熱線が巻き起こす熱風が、機体に叩き付けられる。高熱を受けたカメラにノイズが走り、モニターの映像がちらつく。
「……生命体をイコンのカタログスペックに当てはめるのも難しいが、大体ジェファルコン相当のスペックか。ただ、さっきの光線の威力だけは第二世代のレベルじゃない。と言うか、この時代にあの威力は明らかに不必要だ……!」
 直撃を受ければイコンのバリアも貫通、装甲蒸発は確実だ。あの熱量を凌ぎきれる装甲は現行のイコンにはない。

「……前方200にG2を確認。交戦してるのは、閃崎さんですね……」
 アイオーンを駆るシフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)は言った。
「それにしても予想していたより、随分と楽ですね。この空間ではもっと疲労感に襲われると言う話でしたが」
「えー、そりゃそうだよ。だってワタシ達、魔法少女なんだもん」
 後部座席に腰を下ろすミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)は言った。
「え?」
「ほら、さっき魔法少女仮契約書にサインしたでしょ。ちゃんと全員分、4枚貰ってきたんだから」
「さっき書かされたのって……そう言う事だったんですか? 契約書なら契約書って言って貰わないと、安易に契約書にサインさせないでください。ちゃんと契約内容を説明して貰ってからで無いと怖いじゃないですか……」
 ぽふんとシフは魔法少女に変身した。フリフリのかわいいミニスカ衣装に、慌ててスカートを押さえる。
「ちょ、ちょっと何ですか、この格好! ちょっと霊亀!」
「折角、魔法少女になるんだから、普段とは違う格好の方がいいと思って」
 シフの纏う魔鎧四瑞 霊亀(しずい・れいき)は言った。
 普段はロングコート形状の魔鎧だが、契約書の効果に便乗して、折角だからフリフリのかわいい……そしてちょっとセクシーな衣装になってみた。
「ま、まぁコクピットの中ですからまだいいですけど……」
 シフははっとした。
「4枚?」
「ワタシとシフでしょ、霊亀でしょ、あとはアイオーンで4枚でしょ?」
「アイオーン……? アイオーンってこの、アイオーン??」
「これでマジカル☆アイオーンとかになるよ、きっと! じゃないとシャドウレイヤーで活動できないしね!」
「え、ええ……?」
 通気口から射出された契約書とペン。アイオーンは超精密動作でペンをキャッチする。
「さぁ、マジカル☆アイオーンに変身だぁ!」
 ペンを滑らせた途端、ビッと契約書が破れた。当たり前だけど。
「ああっ! しまった!」
 と言うかそもそも、イコンにクラスの概念はないので、サインをしても何も起こらない。先ほども言ったが、魔法少女の搭乗する機体であれば、シャドウレイヤーによる浸食から守られるのだ。
「……そろそろこちらの攻撃範囲に目標が入りますよ。遊んでないでバックアップお願いします」
「その点に関してはご心配なく。防衛計画を構築しておいたわ」
 モニターにこの区画の地図と、施設を避けての攻撃プランが表示された。
「まぁもっとも、ターゲットの火力を考慮すると、このプランでは凌ぎきれないかもしれないけどね……」
 攻撃射程に到達。機体のターゲットマーカーが、G2をロックオンする。
「よし……!」
「あ、ちゃんとシフも皆みたいに魔法少女っぽく名乗らないと!」
 ミネシアは言った。
「えーと、魔法少女名とかいきなり振られても……」
「ほら、早く!」
「か、海京の平和を守るため、マジカル☆アイオーンを駆る魔法のパイロット、マジカル☆シフ!」
「あっはっはっはっ! いいぞー! マジカル☆シフ、いえーい!」
「うう……」
 アイオーンは間合いを詰めた。目標の能力を削ぐため、武装やセンサーを探すがそれらしきものは見えない。
「となれば、まず破壊するべきはあの翼ですね。機動力を削ぎましょう」
「マジカル☆アサルトライフルだよ!」
「マジカルは付けなくていいですっ!」
 ビームアサルトライフルで、G2の眼前に弾幕を張った。弾幕に紛れ、ブレイドランスで接近戦に持ち込む。一撃目が入った、と思ったのも束の間、流石反応速度は向こうに分がある、すぐに身を退き、ランスの連続攻撃を回避する。
「速い……ぐっ!」
 腕のひと振りでアイオーンは後方に激しく弾き飛ばされた。すぐにスラスター噴射で立て直す。
『グアアアアアアアアア!!!』
 追撃に飛びかかってきたG2を斬り払う。
「どうにか隙を作り出さないと……!」

 戦闘開始から少し遅れ、ジェファルコンカスタムは戦場に到着した。
 コクピットでコンクリート モモ(こんくりーと・もも)は、スパナを空中浮遊でグルグル回して弄ぶ。
「あたしもねー、魔法使えるのに魔法少女って認めてもらえないのよねー」
「それは魔法じゃなくて超能力ネ」
 後部座席に座るハロー ギルティ(はろー・ぎるてぃ)は、機体管理を行いながら突っ込む。
「コンクリートが粉砕できる魔法のスティックも持ってるのにー」
「それは削岩機ヨ!」
「ま、魔法少女話はこれぐらいにして……ここらで活躍しとかないとテストパイロットにはなれないよね」
 くるくる回るスパナを座席下のボックスにしまうと、モモはスロットルレバーを握りしめた。
「……何の話してるのネ?」
「大文字先生。ほらとんでもない変形合体イコンを開発してるって言うから、テストパイロットにしてくんないかなーと思って。先生のお眼鏡に敵うよう戦果を上げておかないとねぇ」
「ああ、大文字先生。でも、あの先生の理論じゃ完成するのは何十年先かわからないネ。それに合体イコンなんてろくな事ないヨ。どうせパイロットに選ばれても地味目な部位の担当に……」
「嫌! 合体イコンの足の部分になるキャタピラ付の3号機とかタンク型に乗るのだけは嫌ー!」
 ジェファルコンカスタムが接敵する。
「よーし!」
 このためにサクッと魔改造して取り付けた特製ボタンを押し込む。
『カボンバ(水草)、ビビンバ(食べ物)、ハッテンバ(ホモ)! プリティタッチでマジカルイコンになーれ!』
 腰元に取り付けたボックスから、中身の布が一斉に下りる。リボンの付いたピンクのフリルスカートが装着された。
『スカート付き。局地(シャドウレイヤー)専用ジェファルコン!』
 ばぁーんとジェファルコンカスタムは可愛くポーズを決めた。
『三体揃えばアレもできる。ジェットストリーム……』
「それ以上言ったらだめー!」
 G2はジェファルコンカスタムに気付き、メギドファイアを発射してきた。
「おおっと!」
 大きく余裕を取って攻撃を回避。目標を外した熱線は研究棟に直撃。一瞬にしてビルを蒸発させた。
「うわあああ……。あ、あれ当たったらやーヨ。死んじゃうヨ」
 取り乱すギルティに反し、モモは余裕の表情だ。
「それにしても、みんな、普通にイコン戦しちゃって……魔法少女の戦い方がなってないわね。魔法少女の力の源は夢と希望だって隣のおばちゃんが言ってたのに……」
 スロットルを倒し加速する。
「男の人のアソコってどうなってるの? 未来人と子供作ると現代人? 教導団のお給料っていくら!」
「それはエロと妄想ネ!」
 モモはG2を観察し装甲の薄い箇所を探す。敵の矢面に立つ前面部より背面部。そちらのほうが装甲は薄いだろう。
「何系武器が効くかわからないから確実にネ!」
 ギルティは光学迷彩を使う。がしかし、イコンに光学迷彩の効果は適用されない。適用されるのは、迷彩塗装である。
 ギルティの姿が消えた。
猫が一匹消えただけじゃないのよ!
「ああ、しまった!」
 消える事の叶わなかったジェファルコンカスタムは、真っ直ぐに突っ込んでくる格好の的だった。
「南無三!」
 伸びる腕を左腕で防御すると腕を掴まれ、そのまま握力で腕をバキボキとへし折られた。
「うわわわわっ! 何してるネ! 逃げたほうがイイヨー!」
「まだまだぁ!」
 更に加速して突っ込むとメギドファイアが。すれすれで回避するも、足をとられ、右脚が融解。右脚に連なる腰回りも高熱のため一部機能が冷却のため停止。機体安定性が極度に低下し、ブースターの加速にコクピットが揺れる。
「ふにゃああああああ〜〜〜!!」
「でもでも、肉も骨も切らせてケツを抉る! 行くぞおおおおおおおおおおおお!!」
 渾身の体当たりでG2を吹き飛ばす。態勢を崩したところで、おもむろにパイルバンカーを臀部に叩き込んだ。
「患者さん、座薬ですよー」
 ドスンッと凄まじい音を上げて叩き込まれたバンカーに、G2は腕と翼を大暴れさせもがき苦しんだ。
『グガガガアアアアァァッ! 祝福を受けし我の聖なる門が!!』
 ジェファルコンカスタムを振りほどき、G2は不安定な飛行で上空に逃げる。

「いいなー、あのジェファルコン。うちも帰ったらああいう改造しようっと……」
 ミネシアはそう言いながら、コンソールパネルを操作する。
「リアクターからバスターレールガンへのチャージ完了。銃身のチェック……OK。システムオールグリーン」
「目標をロック!」
 シフはターゲットマーカーをG2に合わせる。マーカーはグリーンからレッドに変わった。
「発射!!」
 バスターレールガンから飛び出した閃光が標的を飲み込む。
『グガアアアアアアアアァァァァ!!!』
 次の瞬間、大爆発が灰色の空を覆った。紫色の爆炎と紫色の煙が、醜悪な臭いを撒き散らす。
 爆発の瞬間、G2の身体がバラバラに吹き飛ぶのが見えた。しかし吹き飛んで間もなく散った身体の部位は紫のガスを勢いよく噴き出し、サウナに放り込んだ氷のようにあっという間に影も形もなく消えてしまった。
『残骸も残らず……バスターレールガンの威力の所為、と言う訳ではなさそうですね』
『生体活動の停止に伴い、分子レベルで自壊させるプログラムが組まれてるんだろう』
 モニターに静麻が映った。
『自分達の正体に連なる痕跡は全て隠滅する……と言うことでしょうか?』
『それ意外に理由はないだろうな。連中は自分の痕跡を残すのがどうも気に入らないらしい』
『ところで、静麻さん……』
『?』
『なんですか、その格好』
……あぃあぃ、ボクしずえモンです