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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

リアクション


【4】CRUSADER【5】


「寿子ちゃん……?」
 桐生 理知(きりゅう・りち)は、ビクビクと怯えながら、通りを進むポラリスを見付けた。
 アウストラリアスとはどこかではぐれたのだろう。心細そうに周囲をきょろきょろ見回し落ち着きがない。
「寿子ちゃん」
「はう〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「きゃああっ!!」
 声をかけた理知は、カウンター気味に返ってきたポラリスの悲鳴に驚いて、尻餅をついた。
「あ、あれ……? 理知ちゃん? 智緒ちゃんも?」
 小さなマスコット(妖精)になった北月 智緒(きげつ・ちお)は苦笑を浮かべていた。
「ものすごい悲鳴だったね……。耳がおかしくなっちゃうかと思った……」
「ご、ごめんなさい。クルセイダーが襲ってきたのかと思って……怪我しなかった、理知ちゃん?」
「う、うん。大丈夫」
 理知はポラリスとおそろいの魔法少女ドレスを着ていた。ポラリスがオレンジ。理知はブラックだ。
「あ、そのドレス……」
「えへへ、この仮契約書って結構融通利くみたいだから、おそろいにしてみちゃった」
「はううぅ……。なんだか照れるよぉ……」
「あ、大文字先生との仲も応援してるからねっ。いつか一緒にダブルデートしようねっ」
「ちっ、違うよぉ。大文字先生は憧れの人だけど、男の人として好きとかじゃないんだから……」
「あ、そうなの。なんだぁ」
「なんだ、お嬢さんフリーなのか。そんなにかわいいのに勿体ない」
 不意に、もふもふなワンコ姿の使い魔マスコットが、ポラリスの胸に飛び込んできた。
「はう。あ、なんかかわいい」
「使い魔のナイナイだナイ〜。俺様と契約して魔法少女コスチュームでぱふぱふし……はぶっ!」
 かわいい容姿に似合わぬ邪悪な眼光を見せた途端、ナイナイはひっぺがらされ、地面に叩き付けられた。
「変身したと思ったら急に姿を眩ましやがって。子犬の姿を利用してスケベなこと考えてんじゃねえぞ、この淫獣!」
「いやー何をするやめてー!」
 狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)はナイナイ(尾瀬 皆無(おせ・かいむ))にぼこぼこと蹴りを入れまくった。
「あ、乱世さん……」
 乱世もアイリの話を信じて、手を貸してくれる事になった一人だ。
 魔法少女風のミニスカコスチュームだが、黒レザーのビスチェ等、ボンテージデザインがところどころに。
「その格好……」
「うるせぇ黙れ。触れるな」
 恥ずかしそうに頬を染めてる。
「おい、駄犬。犬鍋にされたくなかったら、早速捜索に行ってこーい!」
「は、はいぃ〜〜〜。俺様これからランちゃんの下僕として働くナイ〜。犬と呼んでくださいナイ〜」
 犬なのかボロ雑巾なのかよくわからなくなったナイナイはトテトテと通りを走っていた。
 50メートルほど進んだところで、曲がり角から出てきた青白く光る槍がナイナイを串刺しにした。
「ナイ〜〜〜〜!」
「!?」
 角を曲がったところには、イコン関連の研究をしているラボラトリーがあった。クルセイダーの一団は鉄柵を乗り越え侵入を試みているところだった。今回の彼らのターゲットはこのラボのようだ。
 クルセイダーはポラリス達に気が付くと武器を手に迫ってきた。乱世は銃を構えた。
「歌舞伎町の狂犬と呼ばれたこのあたいが、何の因果か落ちぶれて、今はこの世のドブさらい。
 カタギに仇成すゴミ共はあたいがこの手で殺ってやる。
 暗い闇夜を引き裂いて、クロスファイアが悪を討つ! 外道魔砲少女ラディカル☆ラン、推参!!」
(…………あー頭痛て)
「トカレフ・マカロフ・ドラグノフ★ マグナム・ベレッタ・ニューナンブ☆ みんな一緒にトリガーハッピー♪」
 次の瞬間、凄まじい早撃ちでバラまかれる魔法弾が、クルセイダーに降り注いだ。
「さあああああち、あああんど、ですとろおおおおおい!」
 素手で銃弾を叩き落とす技術を持つクルセイダーだが、あまりにもランの弾幕の密度は高かった。
「……がっ!!」
「ぐっ!?」
 直撃を受けた敵は、次々にその場にひっくり返り、倒れていった。
 しかしそれでも死を恐れない彼らは、倒れた仲間を踏み越えて、ランに真っ正面から向かってくる。
「我等は神に愛されし者。我等が敵の邪悪な弾は、大いなる加護が守ってくださる」
「正気じゃねぇな、こいつら……!」
 ランは動きを止めようと脚を狙い撃つが、クルセイダーは素早く回避し、ランの胸元に刃を突き付けた。
「そうさせないよっ! キラキラ攻撃受けてみて!」
 理知の放った光術が敵の視界を覆う。その僅かな隙を突き、ランの銃弾が敵の肩を撃ち抜いた。
「助かったぜ」
「ううん、魔法少女同士助け合っていかないとね!」
「うーん、でもキラキラ攻撃ってもう少し捻りが欲しいね。今の時代、魔法少女にもネーミングは大事よ」
 親指をおっ立てる理知に、智緒の駄目だしが入った。
「えー? そうかな……あ、敵が来た。よーし、私の魅力でビリビリ痺れさせちゃうぞ☆」
 掌から飛び出した稲妻がクルセイダー達の間を走る。
「物理的な意味で!? 魔法少女が痺れさせるのは身体じゃなくて心じゃなきゃ駄目よ!」
 バーストダッシュで理知は飛び出し、爆炎波を至近距離でクルセイダーに叩き込んだ。
「ビリビリ痺れた後は、心も燃え上がっちゃうよねっ♪」
「だからそれ、心じゃなくて身体が燃えてるってば!」
「え、でもあれだけ激しく燃えてれば心も燃えちゃってるんじゃないかな。あはっ」
「……魔法少女でハートが熱くなるって言うのは、火だるまでのたうち回ることじゃないと思うの……」
「あ!」
 数名を足止めに残し、クルセイダー達が柵を乗り越え、ラボに入って行くのが見えた。
「寿子ちゃん、力を貸して。一気にここを突破しなくちゃ」
「どうするの?」
「そうだなぁ……。ここはやっぱり、魔法少女らしく合体魔法で一気に決めちゃおう!」
「う、うーん、上手く出来るかなぁ……」
「そんな顔してちゃ駄目。大丈夫。智緒も力を貸すからきっと上手くいくよ」
 不安気なポラリスを智緒は励ます。
「よーし、それじゃ行くよーっ!」
 魔力を糸のように束ねるように、智緒の轟雷閃、理知の雷術、ポラリスのシューティングスター☆彡を融合させる。
 そうすると、理知の頭上にバチバチとスパークする大きな星が生まれた。星からは稲妻がほとばしり、周囲のクルセイダーを自動的に迎撃する。
 ところが、電撃が狙うのは敵ばかりではなかった。三人を守るように弾幕を張っていたランにも電撃が走った。
「うおおおっ! 何やってんだ、てめぇら! どこ見てやがる!」
 ランは横たわるナイナイを放り投げて、電撃から身を守った。
「ナナナナナイ〜〜〜!!!」
「ご、ごめんなさい……! ど、どうしよう! 寿子ちゃん、これどうやって止めればいいの!?」
「えええっ!? わ、わかんないよぉ!」
 ぐるぐる回転する電撃の星は、辺り一面を黒こげにするまで止まる事はなかった。
 初めての合体魔法は失敗だった。でも、もう少し練習すれば完成するような気もする。