First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
第十一章:蒼学生とかが分校に凸するお話
さて、馬場正子も少々危惧する突撃組の女子生徒たちはというと。
「ここが地獄の門ね。中に入って無事に出てこれた蒼学生はいないというわ」
ちょうど極西分校の境界付近。
データ奪回のためにいち早く蒼学を出発していた雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)は、そろそろモヒカンが出てきそうな気配に戸惑いがちに足を止めた。
勢い余って蒼学を飛び出してきたものの、大荒野に踏み入れると一気に空気が変わった。彼女が普段過ごしている平和な学園生活とは明らかに違う、弱肉強食の世界のにおい。幾度となくパラ実に来たことはあるがやはり独特の殺気をはらんだよどんだ空気には馴染めそうにない。
どこかで魔獣のうなり声のような音が聞こえる。雅羅が立ちすくんでいると、イルミンスール魔法学校から来ていた想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)は力強く声をかけた。
「大丈夫だよ。俺が先行するから、雅羅は後をついてきてくれればいいんだ」
普段は消極的な彼だが、今日に限っては大人しくしていられない。彼もまた、データ消失の被害者なのだ。それは、まかり間違って雅羅の目に触れようものなら、軽く死ねるくらいの破壊力を持ったデータだ。何としても取り戻すか、人知れず葬り去るしかない。もちろん、自分だけのためではない。雅羅を助けたい一心でもある。
夢悠は、雅羅から距離を取って前を歩き始めた。出来れば、本心を言うなればもっと近くにいて一緒に行きたい。そうできない理由があった。
彼にとっては誤算なことに、遠山 陽菜都(とおやま・ひなつ)が雅羅と同行しているのだ。
男が苦手で、男が近寄ってくると条件反射的にボコ殴りにしてしまう陽菜都だが、果たして彼女にとって“男”の定義とはなんだろう? それを検証するのにいい機会だった。
女装した男ならどんな反応をするだろうか。つまり、男の娘だ。外見はとてもかわいい女の子。男の娘アイドルとして活躍する夢悠にとっては彼女の目を誤魔化すことは難しくない。
だが、殴られた。言っていなかったが、夢悠は顔に打撲跡が残っていた。出会いざまに陽菜都の悲鳴とともに無数のパンチが飛んできたのだ。陽菜都は平謝りだったしアイドル活動に支障はないが、いささか釈然としない。容姿が女の子なだけでは、彼女に受け入れられない。逆に男装した女の子は平気だ。実験のため、陽菜都には知らせずに雅羅が男子制服を借りてきて髪型を変えメイクを男っぽくして会ってみた。胸にサラシを巻くのに苦労したが、上手く男装できたはずだ。それに対して陽菜都は無反応だった。
結果、陽菜都は外見に関係なく、男という性別が苦手なのだと分かった。本能で感じ取るのか、他の雰囲気で判断するのかそこまではわからない。今更だが、この身体を張った実験は必ず役に立つだろうと夢悠は確信していた。雅羅の男装写真も彼のスマホのデータとして残っている。
めったに手に入らないであろうお宝写真だ。特に着替えているところとか。いや、完全に不可抗力だ。覗いたわけではないし、隠し撮りでもない。気が付いたら映像になっていたのだ。何があろうと失うまい。
ハイレベル男の娘である夢悠は、ただ女装するだけではなく【桃幻水】を使って本当に性別的にも女の子になったこともある。だが、今回彼はそれを用意していなかった。陽菜都の存在を失念していたのは少々痛いが、雅羅と一緒に色々と遊べたので良しとしよう。
そんなことをしているうちに出発が少々遅れてしまったが、まだ間に合う。
「今のところ何もないけど、気を付けてね」
歩きながら後ろにちらりと視線をやると、雅羅と陽菜都も離れた後ろから黙ってついてくる。二人とも真剣な表情だ。距離と取りつつも彼女たちを守らなければならないという困難なミッションだ。
他には同行者がいないのは、彼にとっていいことなのかそうでないのか。
偶然ツァンダを訪問していた夢悠は、データ消失事件に巻き込まれてしまったわけだが、周囲の様子から被害が自分だけに限らない異常事態だと判断し、何かわかるかと蒼空学園へ向かい、生徒達から話を聞いて事態を把握していた。
そこで、同じ症状の雅羅と陽菜都に出合い、合流したのだった。
彼が先行しているからまだ恰好はつくが、後ろから距離を取ってついていく形だとストーカーみたいだ。そんな屈辱に耐えながらも行かなければならない。
夢悠のスマホの中には、彼がアイドル活動で活かすため、所属する芸能事務所やスタジオで特技【誘惑】を磨いている様子の画像が幾つも入っていたのだ。
清純なものから少々淫靡なものまで、女装も含めて様々な衣装とポーズをした夢悠の画像は、芸能事務所の親しい人が撮影し、彼を批評したりからかったメールと共に送られてきた。それらは夢悠にとって恥ずかしかったものの、自分でも見て参考にするため削除せずに残していた。
これは見られるとまずい。流出を阻止しないといけない。しかし、流出して混乱し雅羅の消失データを見てみたい気もする。彼女をここまで焦らせるどんな秘密が眠っているのだろうか。雅羅が見られてはいけないのは乙女ゲームのデータだけではあるまい。
「ところで、分校のコンピューターがどこにあるか知ってるの?」
夢悠が振り返って聞くと、雅羅は困った表情になった。
「全然見当もつかないわ」
とりあえず分校に行ってから考えようということらしい。これは陽菜都も同意見だった。校内での捜索も必要となるのは間違いない。
モヒカンが多数いるパラ実で、陽菜都を連れて聞き込みができるだろうか。前途多難な予感がした。
それを裏付けるように、彼方から砂煙が見えた。ヒャッハー! と声を上げて、バイクに乗ったモヒカンたちがさっそくお出迎えしてくれる。
さてどうするか?
夢悠たちの無事を祈りつつ、一旦シーンを変えよう。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last