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リアクション
第十三章:行け行け! 第一次産業!
午前7時前。今日もまた、お嬢様の優雅な一日が始まる。
「いってらっしゃいませ。お嬢様」
車が止まり扉が開くと、黒服姿のコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が深々とお辞儀をした。
「執事のコハク・ソーロッドでございます。本日も一日よろしくお願いいたします」
「あ、ありがとうございます」
恐縮しながらリムジンを降りたベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、ズラリト整列して待っていた子分たちの列を見て困り果てた表情になった。
「おはようございます。みなさん」
「おはようございます! 今日も一日よろしくお願いいたします」
ベアトリーチェの挨拶を心待ちにしていた子分たちがいっせいにお辞儀した。かなり早めに登校してきたのに、子分たちはもっと前に集まって彼女を待ち構えていたのだった。
先日のイコン格闘大会で優勝し、金ワッペン保有者となったベアトリーチェの生活は次の日から一変した。彼女の意思にかかわらず、極西分校では最高の待遇が与えられるようになったのだ。
広くて豪勢なつくりの宿舎に高級なディナー、毎日リムジンが送り迎えしてくれる。分校へつくと、彼女を慕う子分たちが到着を待ち構えていて丁重に校内へと案内してくれる。
モヒカンやヤンキーギャル風のパラ身女子たちなのだが、そうとは信じられないほど礼儀正しい。普段は荒れていてもベアトリーチェの前では従順だ。護衛はもちろん、鞄は持ってくれるし必要なものはすぐに買出しに行ってくれるし食堂では彼女専用の席を確保して待っていてくれる。授業は設備の整った個人ブースだ。特別に招聘された専任の教師が付きっ切りで濃密な授業をしてくれる。当然、特命教師たちとは違う、クリーンで優秀な先生だ。パラ実の本気は凄かった。
「私、いつからパラ実生になったんでしょうか。車が迎えに来るので、しばらく通ってしまっているんですけど」
ベアトリーチェは、半ば唖然として呟いた。
個人授業は、蒼空学園と同じレベルで行ってくれるので、帰る必要がなくなっていた。今頃、蒼空学園のベアトリーチェのクラスでは、彼女が通学してこないのでどうしたのかとクラスメートたちが心配しているかもしれない。
「お嬢様生活も、毎日だと飽きるわね。そろそろ事件を片付けて帰りましょう」
ベアトリーチェと並んで子分たちに囲まれていた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、言った。豪勢で裕福な暮らしもたまにしてみるからいいのであって、毎日続く息苦しくなってくる。お嬢様はお嬢様で気苦労が多いのだ。普通の生活が一番だと思う。
「って言うか、どうしてコハクが子分の一人になっているのよ?」
美羽が、傍に控えるパートナーのコハクに気付いて突っ込んだ。
「お嬢様のお世話ができて、このコハク幸福の至りにございます」
こんな機会もそうなかろうと執事気分のコハクに、美羽は冷たく言った。
「執事はクビよ」
「ガーン!?」
「パラ実だからって普段とは違う演出しなくていいから、いつもどおりのコハクとして対応して」
「執事は男のロマン……」
周囲の異様な雰囲気にのまれていささか緊張気味だったコハクは、ぶつぶつ言っていたが、すぐに我に返った。
「しばらくパラ実にいることになると思うけど、困ったことがあったら何でも僕に相談してね。即席の子分たちより頼りになるはずだから」
突然現れて美羽とベアトリーチェに急接近し始めたモヒカン子分たちと熾烈な占有権争いを水面下で繰り広げていたコハクは、いつものようににっこりとほほ笑んで安心させた。そんな彼の背後で、中指を立ててガルル……と野獣の牙を剥くモヒカンたち。金ワッペン保有者様にお仕えできるのは、彼らの特権の一つなのだ。恋人だか何だか知らないが、彼らにとってはコハクはただの金ワッペン保有者様のパートナーに過ぎないらしく、構わずお近づきになろうと迫ってきている。
「……!!」
「……!!!!」
美羽とベアトリーチェが見ていないところで、コハクは子分モヒカンたちと無言の縄張り争いに身を投じざるを得なくなっていた。
「?」
美羽とベアトリーチェが振り返ると、コハクもモヒカンたちも友好的に肩を組んで、頼もしげにかっこいい笑みを浮かべた。お互い、こっそりと足を踏んでいたり肘で小突き合ったりしているが。
「……まあいいか」
それはさおておき、と美羽はすぐに成すべきことを思い出していた。
「そういえば、吉井さんが、特命教師たちを相手に決闘するって聞いたんだけど?」
分校内の噂を聞きつけてやってきていた美羽は、取り巻きとしてうろうろしていた子分のモヒカンの一人に尋ねた。
「荒野の開墾ゲームが始まるんだぜ! ヒャッハー! わけわかんねぇ! ヨッシー、いなくなったと思っていたら、他の生徒たちを連れて地下室から復活してやがるぜ。特命教師たちと決闘だぁ」
モヒカンが大声で伝えてくるのを、彼女は先を続けさせた。
「できる限り広く耕し、できる限りたくさんの促成栽培の苗を植えて、収穫数の多いほうが勝ちという無制限の無謀な挑戦は、ありえねぇくらいに楽しめそうだぜ。野生の血が騒いでくらぁ! ヒャッハー!」
「えっ、なにそれ? 農業科目での勝負って、広さも育てる本数も無制限なの?」
それは無茶だろう、と美羽はベアトリーチェと顔を見合わせた。真理子には、何かそうする理由があるのだろうか。
「ですが、どんな計画であれお手伝いするつもりですよね。早速行ってみましょうよ」
ベアトリーチェは、気を取り直して美羽に言った。
「そうね。決闘の場所を案内してちょうだい」
美羽が子分のモヒカンに言うと、彼らはヒャッハー! と歓声を上げながら全員でぞろぞろとついてくる。頼めば喜んで作業を手伝ってくれるだろう。
数は力だ。耕作範囲が無制限である以上、モヒカンの手下が参加してくれるなら十分な戦力になりそうだ。
「見ろよ、この広さ。ハンパねー」
美羽たちが入ってきた校門から離れ、しばらく歩いたところでモヒカンの一人が一面に広がる荒野を指差す。
分校にはそもそもまともに外壁がなかった。かつてはあったのだろうが、パラ実の慣例で破壊されて単なる瓦礫となり、さらに風化して見るからに痩せこけた赤土の大地と一体化していた。でこぼこに荒らされた地面には、石に混じってゴミや廃棄物まで放り散らかされており、ところどころ雑草が生えている。
「ヒャッハー! こいつはヤベぇ。穀物の苗木を植えるってレベルじゃねぇ! 後片付けをして開墾するだけで期限が終わっちまうぜ!」
「誰だよ、俺たちの学校をこんなにめちゃくちゃにしたのは!? ヒデェ奴らだ、絶対に許せねえぜ!」
これまでパラ実の惨状に目をそむけて本能の赴くままに暴れてきたモヒカンたちが口々に感想を述べる。
「やったのはあなたたちでしょ」
美羽は、律儀に突っ込んでおいてから、モヒカンの台詞が気になって聞く。
「今、期限があるって言ったわよね? 何時までなの?」
「決闘の期間は一週間らしいぜ。泊り込みで農業の強制労働だぁ! オレたちゃ、哀れな小作人。出来上がった農作物はお上の手によって召し上げだぜ! コルホーズ、ソフホーズの世界だ、ヒャッハー!」
「この広大な荒地を、一週間で耕せるだけ耕して、促成栽培で農作物を育てるわけですか。吉井さんも、大変な計画を思いついたものですね」
途方のなさにベアトリーチェは、ごくりと喉を鳴らした。作業にイコンが必要になるわけだ。どこから手をつけていいのかわからないくらい広大で混沌としている。
「想像していたより過酷かもしれないわね。それだけに、特命教師たちも悲鳴上げるほど苦労するでしょうけど」
作業量の多さに半ば唖然としていた美羽は、離れたところに真理子たちを見つけて近寄って行った。子分たち曰く、決闘は朝の五時から開始されたようで、すでに大勢が集まって荒野の開墾に汗を流している。制服を着ている女子生徒から、モヒカンまで、思い思いの格好だが、農耕具を手に真面目に肉体労働に従事している姿は、非現実的光景だ。
「おはよう、吉井さん。ずいぶんと大がかりなことになっているのね」
「あ、おはよう、美羽さん。パラ実らしく派手に喧嘩売ってみたらエライことになったわ」
美羽が声をかけると、真理子は耕耘機に乗ったまま接近してきた。違法改造バイクのような爆音を轟かせ刺々しい装飾の施された耕耘機は、本気なのか冗談なのかよくわからない。ヤンキー風に仕立てたツナギを着た真理子は、ウェルカムと親指を立てて見せる。
「手伝ってくれるつもりなら、前もって感謝と歓迎の意を表しておくわ。死して屍拾う者なし。何でもアリの無制限農作業デスマッチなんだから」
「そうなの。まあ、私たちに任せておいて。イコンも持ってきたし」
楽しそうに参加の意を表す美羽だが、その背後から真剣な表情のコハクが尋ねる。
「吉井さん、おはよう。僕も参加するんだけど、いくつか聞いておきたいことがあるんだ」
ある意味、想定の範囲内と納得していたコハクは、美羽たちを全力でサポートするために割って入った。出しゃばるつもりはないが、美羽たちは純真無防備で人がよすぎる。この決闘の裏には、悪の陰謀が渦巻いていると彼は直感的に察していた。美羽の安全が第一だ。
「お手伝いするのはいいとして、正直なところを聞かせてほしいんだ。この決闘の本当の意味での勝利条件は何なの?」
開墾地が広大すぎるのも栽培する穀物が無尽蔵なところも、今さら驚かない。農作業のために十分な用意してきたのだ。ただの家庭農園のつもりは毛頭なかった。決闘はいいとして、目的をはっきりとさせておかないと闇雲に作業したところで優位に立つことは難しい。
「吉井さんを地下教室に閉じ込めた特命教師たちに仕返しをして一泡吹かせる。それだけじゃないでしょ? 事件の奥に深い謎が潜んでいるから、これだけ大事になっているのよね。吉井さんが、地下室送りになった原因もそれなんじゃないの?」
「ええっ、そうなんですか?」
ベアトリーチェは素で気づいていなかった様子で、コハクと真理子を見比べている。
「そうだよ」
ほら、やっぱり全然気づいていない、とコハクは心配になりながら真理子を正面から見つめた。彼女の手伝いもしたいが、あまりにも無法で危険すぎるなら、美羽とベアトリーチェを説得して帰ってもいいと思っていた。彼にとっては、何よりもパートナーたちが大切だ。
「どうなの? 裏事情もあるんでしょ?」
真剣なまなざしのコハクに本気を見て取った真理子は、頷いて耕運機から降りてきた。彼に耳打ちするように小声で答える。
「伝説の樹木が育つ土壌を探しているの。農作業は、半ば本気だけど半ば口実でもあるわ。荒野を開墾することによって、特命教師たちの野望を打ち砕くことができるはずよ」
「伝説の樹木って……」
無人島の時にもそんなことを言って、酷い目にあったのではなかろうか。美羽もコハクもオフレコで噂話は聞いていたが、それ以上は口にしなかった。胡散臭い気がしたが、否定する材料もない。
「今回、決闘で使う苗木はこれよ」
真理子は、耕運機に積んである容器から種子を取り出して見せた。他にも、芽の出た状態の苗木も有り、品種も一つだけではないようだ。一見、普通の種に見えるが……。
「詳細は割愛するけど、この種は品種改良されていて季節を問わず促成栽培に対応しているの。ここだけの話、まだ遺伝子操作の実験段階でデータ数が少ないために一般的には使用不可となっているわ。危険ということはないし、実がなると普通に食べられるけど、商品としてお店に並べるのは難しいかもしれないわね」
品種については詮索しないで、と真理子は遠くに視線をやりながら言った。怪しすぎる。
「そんな種、どこで手に入れてきたのよ?」
美羽は、話を聞いて少し引き気味になった。何でもアリのパラ実とはいえ、真理子は無茶をしていると思った。碌でもない結末が待っている気がする。
「この種から生え出た芽が成長しない場所が開墾地帯にあるはずなの。そこが伝説の樹木の育つ土壌よ」
真理子はやましいところなど一切ない口調で答えた。
目的の地点が判明すれば、その一体に伝説の樹木が生えないよう中和するというのだ。強力な雑草を敢えて生やして土壌を枯らせてしまう。ただの農作業ではなく、危ない話になってきた気がした。
実験段階の種をパラ実に持ち込んだのは、農業実習として生徒たちに栽培する楽しみを知ってもらおうとしてのことらしい。講師としての真理子もいつまでパラ実に留まっていられるかわからないし、飽き性のモヒカンたちにはすぐに成果が出る果実を育成させたほうが興味を持ってもらうことができるのではないか、という考えだったようだ。
「あの、もしかして。先日のイコン格闘大会の商品だったお米や野菜類も、その促成栽培の種からできているってことはないわよね?」
ふと思い当たって、恐る恐る尋ねる美羽に、真理子は胸を張って答えた。
「残念ながら、私は悪のバイオ科学者ではないわ! 生態系を変えるほどの大発見をしていたら、今頃パラ実で講師なんかやっていないわよ。特許などで大金手に入れて、悠々自適の生活をするっての!」
「つまり、賞品だった農作物は、普通に育てたって信じていいのですね?」
農業分野の禁忌に触れていないか心配していたベアトリーチェがひとまず胸をなでおろす。多くの参加者たちが口にしたであろう食物は、遺伝子組み変えなどで出来た特殊な農作物ではないようだった。
「この促成栽培の種はね、偶然知り合ったバビッチ・佐野っていう男からもらったの。小さな村に隠れ住んでいて、飢餓や貧困の解決のために食物量産の研究をしている偉大な錬金術師よ。本人は天才って言っていたわ」
「うわぁ! 真っ黒だぁ!」
聞き覚えのある不吉な名前に、コハクはがっくりとうなだれた。
どうしようか、これ? 真理子の決闘を手伝うつもりで来たのだが、背景が黒くてモチベーションが下がりそうだ。嫌な予感しかしない。
「どうして前もって言ってくれなかったのよ。他にも対応の仕方があったのに」
美羽はため息交じりに言った。不満がないではないが、手伝いをやめるつもりはなかった。目的さえわかればやることをやるだけだった。
「要するに、種や苗を絨毯爆撃で植えまくりながら、農作物の発育の悪い場所を見つければ、そこが探している場所ってわけね。面白いじゃない。この荒野を見渡す限りの畑にしてあげるわ」
美羽は了解して、取り巻きの子分たちを見まわした。
「聞いた通りよ、あんたたち。目の前に広がっている地面を全て農作物の生い茂る田畑に耕すのよ! 土を興して種を植え、育てて収穫する。これは、訓練でも授業でもないわ。戦争だと思いなさい! 生き残りたかったら、働くのよ!」
「ヒャッハー!」
美羽の煽り口調に、子分モヒカンたちは歓声を上げた。
くどくどと理屈を説くよりも、大袈裟でも威勢のいい掛け声のほうがモヒカンたちはよく反応してくれる。
「計画が上手くいったら、ものすごい数の種モミが手に入るわよ! その他、いい物も用意されているだろうから、みんなで頑張ろう!」
美羽ははっぱをかけてから、真理子に確認する。
「私たちはいいけど、働いたモヒカンたちには何か報酬をあげてね」
「もちろんよ。金ワッペンを手に入れなくても新鮮野菜が食べ放題よ!」
真理子は力強く請け負った。
「実験段階の遺伝子組換え野菜だけどね」
コハクがポソッと呟く。あのバビッチ・佐野が真面目に研究開発をしていることを祈るばかりだ。
「悪魔の鏡だって騒動は起こしたけど、制作物の完成度は悪くなかったんだし、欠陥品じゃないと思うわよ」
美羽は前向きに考えて、早速農作業の準備に取り掛かる。
持ち込んできたイコンはグラディウスだ。格闘大会でも優勝した名機で、全身が黄金に塗装されていた。背中に真紅のマントを羽織り、肩に蒼空学園とロイヤルガードのエンブレムが描かれた、金ワッペン保有者のイコンにふさわしい風格で、際立った存在感だ。
今回、美羽はこのグラディウスを農作業に惜しげもなく投入してきた。手には、イコンサイズの鍬を装備し、戦闘力を耕作へ変換できる仕様になっている。
「ありがとう。頼もしすぎるわね」
真理子が見上げる中、美羽とベアトリーチェはイコンに乗り込む。
「さあ、始めましょう!」
「僕は、地道に手作業といくよ」
コハクは、子分モヒカンたちに向き直ると照れ笑いを浮かべて言う。美羽に接近しすぎていたため警戒していたが、敵対するのは本意ではない。
「本当は、僕だってきみたちと仲良くしたいんだけどな」
「馴れ合いは性に合わないぜ! 男は常に戦っていなければ駄目だぜ、ヒャッハー!」
「いいね。じゃあ、ライバル同士ってことだ」
「勝負ならいつでも受けて立つぜ! どこからでもかかってこいやぁ!」
子分モヒカンたちは、斧やハンマーを手に戦意旺盛に威嚇してきた。それがパラ実スタイルと知っているコハクは対抗するでもなく、笑顔で受け流す。
「やる気十分だね。みんなで力を合わせることができそうだ」
「何だか知らんが戦争だぜ! 血がたぎって来たぜ、ヒャッハー!」
「よっしゃー! パラ実極西分校生の意地を見せてやるぜ!」
子分モヒカン達は、よく理解しないまま奥の倉庫から農機具を持ち出して来た。鍬や鋤、ツルハシに鎌にスコップなど、彼らは普段は暴れるための道具として保管してあったのだが、初めて本来の目的で使用されることになった。
「バイクよりもパワーシャベルだぜ! 当然、無免許だぁ!」
かなり古いシャベルカーやフォークリフトを操縦しているモヒカンたちもやってきた。機晶石のエネルギーではなく、軽油とバッテリーで動く重機が何台も置いてあるところがパラ実らしい。しばしば重機を使っての戦闘も行われるために、武装が施されている。
「ゲハハハハハ! 大地めぇ、ぶっ殺してやるぜぇ!」
「喧嘩はなしだよ。決闘委員会の人たちも見ているし」
コハクは、モヒカンたちを眺めながらも、借りてきた鍬で土を掘り起こし始めた。範囲が広すぎて果てしない道のりに思えるが、コツコツと地道な作業は嫌いではない。あとは、真理子の指示に従うとしよう。
子分モヒカンたちも、乱暴ながらも農作業に取り組み始めた。種もみの略奪しかしてこなかった彼らが、生産活動をするとはなんという成長だろうか。それとも、今だけだろうか。
「決闘委員会か。彼らも少しは役に立っているのかな」
コハクは、作業を見張っているお面モヒカンたちに視線を投げかけた。彼らは、遠くから作業を見張っているだけだが、暴力の抑止力になっている。決闘の規模が大きいだけに、かなり大勢の決闘委員会メンバーが監視していた。校内の他の場所は手薄になっていないのか、農作業しているモヒカンたちの中にも委員会メンバーが紛れ込んでいるのか、一目ではわからない。相当な勢力の組織であることは確かだ。
「……」
誰か、決闘委員会を調べている人がいるのだろうか? コハクは気になりながらも、美羽たちと農作業に集中することになった。
真理子も、地下教室にいた生徒たちと開墾を再開する。しばらくは、大きな騒動もなく淡々と事態は進展するだろう。
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