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リアクション
光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)が纏うのは彼が漢の正装として疑わない、黒い六尺褌であった。
誰かが『褌を履いていこう』と言っていたけれど、それに便乗したわけではなく、自らの意思で決めた正装だ。
そんな彼が遠泳大会に参加したのは己の体力の限界に挑むためであった。自らを一から鍛え直すため、手を抜かず、全身全霊を込めて、泳ぎ続ける。
泳ぐ途中、背泳ぎする女性のバストが見えようとも、誰かの水着が流されたと言われても、それに惑わされることはなく、突き進んでいく翔一朗。
誰の手も借りず、完泳を目指す彼には、折り返し地点とゴールしか見えていなかった。
(この遠泳には他の学校のやつらも来るんだろう? まともに遠泳が出来るとは思わないな。まあ、参加するからにはちゃんと泳ぎ切るが……)
パートナーに『出ろ』と促され、参加することになった守郷 皇斗(かみさと・みこと)。
そんなことを思いながら泳いでいるけれど、周りでアクシデントは起こるものの今のところ、自身に害が及ぶでもなく、泳ぎ続けていた。
念のため、と他の学生を抜かすときには、妨害行為のことも考えて、相手の様子を窺うことから始める。そして、隙を見て、追い越していくのだ。
(ただでさえ、水中で体力を奪われるんだ……)
面倒ごとには巻き込まれまいと、周りに注意しながら、皇斗は泳ぎ続けた。
青と白のツートンカラーの競泳水着を纏い、髪の毛は邪魔にならないよう、これまた競泳用の帽子に詰め込んだ菅野 葉月(すがの・はづき)は、ペース配分を考えながら泳いでいた。
先頭集団の仲間でもトップを保ったまま、中盤を向かえ、そろそろ終盤に入ろうとしている。
最後の最後でスパートをかける者が多いだろうと考えた葉月は、早速スピードを上げていく。徐々に引き離されるのを他の学生が気づく頃には、当初より倍ほどの距離が開いてからだ。
「葉月、頑張って〜!」
開始直前まではボートで併走するつもりだったパートナーのミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は、運営スタッフの方からストップをかけられ、ゴールの砂浜で待っている。けれど、彼女が出す大きな声の応援が、葉月にまで届いた。
優勝目指して、残りの距離をスピードを上げて泳ぎ始める葉月であった。
中世で吸血鬼となったパートナーは人間、吸血鬼の両社会に居場所がないと言ったのを降夜 真兎(ふるや・まさと)は思い出していた。
スタート時の混雑を避けるために一時的にスピードを出した真兎は、先頭集団の中をのんびりと泳いでいる。
(本当にそうだろうか?)
泳ぎながら真兎は己のうちで訊ねた。
居場所がないのではなく、その居場所を作ることを本人が諦め、自らの世界を狭めているからなのではないか。
そうだと言うなら、『諦めず、手を抜かず、一生懸命手を伸ばし続ければ叶わない事等無い』ということをパートナーに示してあげたい。
そう考えて、泳ぎ続ける。
中盤まではバタフライの型で泳ぎ、中間地点を越えた辺りから周りが徐々にスピードアップするのに合わせて、彼もスピードを上げるために、クロールに切り替えた。
「一緒にパートナーコースに出ましょう」
「そんなの面白くないであろう? 折角やるからには罰付きの勝負をするのだよ」
参加前日にそんなやり取りをした和佐六・積方(わさろく・せきかた)と鹿山 タリ子(しかやま・たりこ)は互いの泳ぎ方で、一進一退の攻防を繰り返していた。
タリ子がマイペースで徐々に距離を稼いでいくのに対して、和佐六はその肥満体を生かし海面に浮くようにし、潮に乗り流されることを選んだ。
スタート時から潮に乗ろうとした和佐六は、逃げ切るどころか砂浜に押し寄せる波に負けて、出遅れた。
けれど、沖に出れば上手い具合に潮に乗れたのか、タリ子に追いつき、今、少しばかり抜かしていた。
中間地点である岩場を周る頃には並び、どちらが勝つかは分からない。
周りでアクシデントがあっても自分たちに害がない限り、知らない振りを続け、2人は終盤に差し掛かっていた。
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