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あなたの馴れ初めを話しませんか?

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あなたの馴れ初めを話しませんか?

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「え? 『パートナー』じゃねえ、馴れ初めねえ……」
 東條 カガチ(とうじょう・かがち)は友人の椎名 真(しいな・まこと)と顔を見合わせた。
 彼らはじゃれ疲れ……もとい、剣術後の反省会をかねて、休憩を取りに来たところだった。
 そこを、愛美達の一群に強襲されてしまったのだった。
「俺達の馴れ初め? ですか?」
 真は顔を上げて聞き返す。
「生憎そういう相手はいねえからこいつとのでいいかい?」
「ええ、是非お願いします! 椎名さん、東條さん」
 それで愛美の「黄昏」モードが治まるのなら、とばかりに、花音は話をせがむ。
「お2人は『親友』なんですよね? 入学した時から何ですか?」
「いや、ちゃんとツラ合わしたのはSSLだよねえ」
 タレてこそいるが、カガチは真面目に答え始める。
「最初真面目な奴だと思ってて。俺合わねえんじゃねえかなあと、思ってたんだけど……」
 クリームソーダを引き寄せる。
「殺しかけて殺されかけて。
 死にかけて。
 必死で呼んで。
 呼び戻して。
 ……俺みたいな奴でも誰か救えるんだって思ったよ。屍人斬るだけじゃなくさあ。ただ破壊するだけじゃなくて。まあ、根っこはきっと同じなんだ。良くも悪くも。だから響きあうんだろう。それが魂の片割れっつー奴だろ」
「【魂の片割れ】……」
「ああ。幸せだと思ってるよ、俺は……」
 言って、カガチは照れ隠しにアイスを突き回してみたりするのだった。
「椎名さんは?」
「そうだな……最初時々依頼で顔を合わすこともあったけど。ちゃんと顔合わせたのは、SSLだったか?」
 うーん、と真は顎先に手を当てる。
「性格違うけどやたら気があって……気がついたら、こんな関係になってたって感じかな? 依頼で……うん、俺って憑かれ易い体質みたいで……殺しあいしたこともあるんだよ。ナラカに片足突っ込みかけた時は、呼び戻してくれたしね」
 苦笑。
「照れ臭いし。言ってもはぐらかしそうだから言わないけど。出会えてよかったよ、俺の片割れ」
 と、最後は小声。
 照れ臭いのか、ドーナツと豆乳カフェオレを一気に喉へ流し込むのだった。
 
「え? 何々? 『運命の人』だってー?」
 騒動に首を突っ込んだのは、岬 蓮(みさき・れん)だった。
「うーん、私にはそんな話向かないなぁ……というか、彼氏欲しいのに全く来ないのよ!」
「そうなんだ」と愛美達。
「パートナーのアインにまで、『太るからモテないのでは』とか言われるし……超悔しいっ! 私だって恋人欲しいよー!!」
「じゃ、マナと同じだね!」
 瀬蓮が明るく断言して、愛美が再び黄昏る。
「あっはっは〜、冗談だよ! マナってば!」
 マナ? と瀬蓮が覗き込む。
 愛美は床にめり込んで、立ち直る気配がない。
「あ、そうだ!」
 空気を変えたのは蓮だった。
「パートナー以外の話でしょ? だったら、うちのアインなんかどう? アインなら元恋人持ちだし、小谷さん達が求めるようなのがあるかもしれないし」
「恋話? ……性に合わん」
 アイン・ディアフレッド(あいん・でぃあふれっど)は躊躇したが。
「『恋人が亡くなったのに笑っても意味ない』って……アインは本当ネガなんだから! そんなんじゃ恋人さんも浮かばれないでしょ?」
 ほら、男ならドーンッと笑って! と連はアインの背を叩く。
 そうした次第で、アインは昔話をする羽目となった。
 連の内心の黒い声も知らずに。
(アインはいつも通り無茶苦茶クールぶってるからねぇ……ここはビシッとチョップを入れないとね! どっかの誰かさん曰く、「恋する乙女は怒ると怖い!」だよ!)
 一方で、「恋人募集中」の宣伝も忘れずに行う連であった。

「全く、最近の女共はこういう下らん夢を見るのだな……」
 連に促され、アインは渋々「元恋人」との馴れ初めについて語りはじめる。
「物心ついた時には、自分は暗い森の中でさまよっていた。その中でさまよっている間に、1人の少女が餓死状態である自分を助けてくれたのだ。その少女に……自分は一目ぼれしてしまったのでな。いわば『白馬の王子様』ならぬ『白馬の姫様』だな」
 ロマンチックな展開に、一同の期待は高まる。
 が、急にトーンダウン。
「それ以来、彼女の義理の兄として過ごしてきたが……その日々は……とても楽しかった。けど……彼女は不死の病で亡くなったがな……」
「そうでしたか……」
「今思うと、彼女がいなければ今の自分は存在しなかったかもしれん。しかし……自分はもう『笑って生きていられない』」
 自嘲気味に笑い。
「そもそも彼女の首を噛んで殺した本人が、笑う資格などないがな……」
「は?」
 一同の目が点になる。
「あ! アインはね、『吸血鬼』なんだよ!」
 連の声が、室内に明るく響くのであった。
 
「幸さんは? 『S×S×Lab』の主催者でしたよね?」
 花音は首を傾げつつ、空京大学の島村 幸(しまむら・さち)に尋ねた。
「S×S×Lab設立についてですか?」
 幸はしばし考え込んだが。
「恋のヒントになるようなものは何もないと思いますが、まぁいいでしょう」
 花音の願いを受け入れる。
「未知の技術を研究する為に、パラミタに来たのはいいのですが。当初、検た……いえ、研究員が足りなくて。より優れた人材(検体)を見つける為に、意識調査アンケートを各校で取ったのが切欠ですね」
 カガチ、陣、椎名、蓮見、と指を折る。 
「こうした答えが特徴的だった方に、平和的に交渉して入って頂きました。貴方もどうです?」
 爽やかに笑って、アンケートを見せる。
『検体達の証言』と書かれてある。

『検体K:拾われてアンケート答えたら、何かケンタイがどうとか言われまして。なし崩し的に何かの書類にサインしました』
『検体H:何の気なしにラボをそーっと覗いてみたら。目が合った瞬間『イケメン機晶姫の人!』と言われて捕まりました』

(あ、あやしー……)
 アンケートを幸に突き返す。
「退屈はしませんよ、退屈だけは…ね、くくくっ」
「い、いえ、私達は……」
 愛美達は早々に退散した。
 
「あれ?」と声を上げたのは、瀬蓮だった。
「その指輪! ひょっとして……『婚約指輪』だよね?」

「これ、かな?」
 左手を見せたのは藍澤 黎(あいざわ・れい)だった。
 薬指に翼の意匠の婚約指輪がある。
「ごめんね! 男性に失礼とは思うのだけど……」
「愛美さんのために! 是非是非お聞かせ願いませんでしょうか?」
 瀬蓮や花音ばかりではない。
 その場にいた100名以上の学生達が、愛美のためにと懇願する。
「な、馴れ初めですか……ゴードンとの……」
(に、逃げられない……か……)
 こめかみから汗が伝い落ちて行く――。
 
 そうした次第で、黎はゴードンとの馴れ初めについて語らされることとなってしまった。
 
「熱射病気味だった所為で、ゴードンが寝ているのに気が付かずにつまづき、薔薇学にある噴水に落ちたのだよ」
 黎は渋々だが、几帳面に話し始める。
「衝撃で意識を失って。そのままなら溺れてしまう所を、助けて頂いて感謝はしている。けど……起きたら、ゴードンの部屋のベッドの上に居たのは心臓に悪かったかな? だってゴードンの事先生だとばかり思ってたし、何も身に付けてなかったから……」
「俺は、むしろ歓迎モードだがな」
 巨漢の男が、ぬうっと顔を出す。
「ゴードン!」
「おや? 黎、両手に花だな」
 ゴードン・リップルウッド(ごーどん・りっぷるうっど)はからかいつつ、黎の頬に軽く口づけをした。
「さて、黎はどこまで話したのかな?」
「噴水に落ちたって」
「そうそう! 噴水に突っ込んでずぶ濡れになった黎を自室まで運んで、着替えさせたんだったかな?」
 ニヤニヤと笑う。
「ずぶぬれの黎を着替えさせて、その後どうなったか? 詳しくといった展開になったら、さてどうだっただろう?」
「もう、ゴードンのバカッ!」
 黎は頬を押さえて彼の後ろに駆け込む。
 だが一同は、思わぬ展開に喝采の嵐だ!
「もしかしたら『運命の人』とやらは、意外と近くに居るのかもしれんよ」
 焦らずやりなさい――そう言って、ゴードンは愛美達の頭を軽くポムポムと叩いて去って行った。
 3人娘はホウッと2人の背を見送る。
 
「いかにも大人の恋愛! って!」
「『白馬の王子様』って、感じで!」
「うんうん! マナミンのイメージピッタリ!」
 愛美が明るい声で断言する。
「『運命の人』って、やっぱり偶然に出会うものなんだね?」
 そうだよね! そうに決まってるよね!
 3人は声を揃えて、ワアッと大歓声。
 
 かくして、愛美に笑顔が戻り。
 蒼空学園に平和が戻り。
『運命の人』捜しの結論も出た。
 
 総てが一件落着した……かのように思われた。
 
 ■
 
 が――。
 
 座が開ける頃、パラ実の南 鮪(みなみ・まぐろ)がスパイクバイクでカフェテリア前に参上した。
「ヒャッハァ〜ッ! 今日もお迎えに来たぜ、花音! キャラクエに行こうぜえ!」
 という訳で、最後の最後で彼は愛美達に囲まれてしまったのだった。
「はあ? 花音との馴れ初めだあ?」
 鮪は片眉を上げる。
 メガネがいないことが不服のようだ。
「まあ、盛り上げ役がいねえって言うのも、つまんねえんだけどよおー」
 そういって、彼はバレンタインで涼司に凹み、怒っていた花音を楽しませた事を語った。
「鮪さんって、意外と格好よかったのね?」
「今更気付いたってぇ、遅いんだぜ? 愛美」
 鮪はフフンッと鼻先で笑う。
「格好いいと思うのだけでは、只の憧れ止り。行動の積み重ねが『愛』なのだ」
 鮪はそう言って、花音をスパイクバイクに乗せる。
「最後に一緒にいる奴が運命の相手だァ〜。まずは行動をしろよ。『都合の良い二号さんでも良いの』とか言いながら毎日抱き付けば、ばっちりだぜ! ヘタレは積み重ねで押し切れ!」
 ヒャッハァ〜! と叫んで、鮪は花音と共に走り去って行ったのだった。
「『運命の人』って複雑みたいだね、マナ……マナ?」
 瀬蓮は振り返った。
 愛美は肩を落とし、出口目指してトボトボと歩いて行く……。