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 4.窓辺の一団

 という訳で、一同は「窓辺のテーブル席」に移動した。
 そこで愛美達を囲み、生徒達は再びコイバナに花を咲かせる。
 彼らばかりではない。
 大衆心理で、新たな「コイバナ」友達が次々と引き寄せられては、それぞれの「運命」を語って行く。
 
 広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)も、そんな「コイバナ」友達の1人であった。
 彼女はウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)広瀬 刹那(ひろせ・せつな)を伴って、話の輪の中に入っていた。
「私は、理想の姿からずれた姿にばっかりなっちゃう、落ちこぼれアリスっス」
 先に話したのはファイリアではなく、パートナーの刹那だった。
「ファイリアお姉ちゃんの夢に出た時にも、今のこの姿のように、全く似ていない姿で出てきて。また失敗しちゃって1人のままなんだ、って落ち込んで泣いちゃってしまったっス。けどお姉ちゃんが『そんなに泣かないで下さいです。ファイ、お姉ちゃんとしては力不足かもしれませんけど、もう1人ぼっちにはしないです。一緒に行きましょうです?』って言ってくれて。私に『刹那』の名前をくれて、契約してくれたっス。刹那って、お姉ちゃんの(義理の)お母さんが娘が生まれたら付けてあげたい名前だったそうで。そのことを話してくれた時、本当に妹にしてくれたんだ、ってまた嬉しくなっちゃったっス」
 一気に話して、ひと息。
「で、私が聞きたいのは。自分はこんな感じだったっスけど、ファイリアお姉ちゃんとウィノナお姉ちゃんはどうやってパートナーになったのか興味あるっス〜」
「なるほどねー」
 分かるわー、と一同。
 注目はファイリアに移る。
「え? ウィノナちゃんですか?」
 どうだったけっな? 天井を見上げつつ、語りはじめる。
「地上にいた時、ファイを呼ぶ声が聞こえました。それでその声を追いかけて、ウィノナちゃんのいる所へたどり着いたですー。で、ウィノナちゃんを見た時に、ファイの中で『この人と離れたら、絶対に後悔する』って思って。ウィノナちゃんに一緒にいたいって、押し切って契約したですー。どうしてそう思ったのか、ファイも未だに分からないですけどね?」
「『運命』ってそういうものだよねー」
 誰かが言った。
「で、ウィノナは?」
「ボクですか?」
 ウィノナは自分を指さす。
「地上にいた時に、何かを探して歩き回っているファイリアに起こされたのが、出会いかな? なぜか倒れていたみたいなんだよね。ボクの事を色々聞いてきたり、こうなったきっかけの事とか聞かれて。ボクは過去の事は一切覚えていない事と、パラミタの事を話して。で、契約の話になった時には、何とファイリアの方から『ファイと契約しましょう!』 って言い出して。契約者になると色々大変かもしれないよ? って言ったんだけど、根気よく譲らなくってさ。それならいいかな? ってボクの方が根負けして契約しちゃった、って訳。でも、ファイリアを見て自分の近しい人……たぶん、姉妹とか親子みたいな? 感覚がしたから、契約して悪い気はしなかったけどね」
「ふーん、そうなんですかっス」
 刹那は晴れ晴れと笑った。
「長い間の謎が解けて良かったっス。やはり3人は『運命』だったんですね! っス」

「面白そうな話だねぇ。オレ達も混ざっていい?」
 首を出したのは曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)だ。
「ちょ、りゅーき!」
 パートナーのマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)は慌てて見上げる。
「昼食が先じゃ!」
「いいじゃないか! おもしろそうだから」
 すみませんねえと頭を下げつつ、瑠樹は眠そうな目で一同に混ざるのであった。
「マティエとの出会いは、中3の時だ。着ぐるみ沢山のイベントに行った事があって。何故か猫着ぐるみ……マティエだけ、妙に『近くにいきたい』感覚がしたから追っかけたら、かなりの速度で逃げられてだなぁ……。で、契約したのが、高一の時。夏に叔父さんが山でキャンプするのに便乗したんだけど。キャンプ地の河原で偶然会えたから……つい追いかけちゃって。こけかけた拍子に『背のファスナーに触っちゃだめー!』って言われて飛び蹴り喰らった。うん、あれは痛かったねぇ……」
「そりゃ、ゆる族じゃしょうがないわよね?」
 愛美達の笑い声。
「それで、マティエさんは? どうして逃げたりしたの?」
「だ、だって小学生とかは着ぐるみにちょっかい出すんですよ! そんな感じの眼をしてたからー!」
 慌てて弁解する。
「出稼ぎで日本に居た頃だったんですよ。イベントでバイトしてたら、興味津々な目で見てきたのが、りゅーきでしてね。『妙な感覚』を感じて、つい逃げてしまって……。それが『パートナー間の絆』だって、当時は分からなかったものでしたから」
「でも、契約したのね? どうして?」
「ストーカーじゃないですよ。会ったのは偶然です」
 マティエは胸を張って断言する。
「たまには自然の中で過ごしたい……そう思って山に行ったら、また遭遇してしまって。また逃げたら追ってきちゃって。私の背面に向かってこけかけたから……つい、飛び蹴りを。ふぁ、ファスナー触れられたら爆発しちゃうから! 危ないと思ってーっ!」
「ま、ゆる族じゃ仕方ねえよな」
 誰かが言って、2人の話は終わる。
 だが瑠樹達はその後も残り、全員の話に真摯に耳を傾け続けたのであった。
 
 沢渡 真言(さわたり・まこと)は、ユーリエンテ・レヴィ(ゆーりえんて・れう゛ぃ)マーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)を伴い、ふらりと立ち寄った。
「何やら、楽しそうなお話ですね?」
「うん! マナの『運命の人』捜しのヒント、皆に聞き回っているんだ!」
 良かったら、どう? 瀬蓮に勧められて、真言は語りはじめる。
「パートナーとなったきっかけを話す事で、お役に立てるのでしたら」
 コホンッと咳払い。
「ユーリとの出会いは夢の中でしたね」
「へえー、ロマンチック!」
 一同は真言の言葉に引き付けられる。
 彼は予想外の反応に臆することなく、淡々と話しを紡ぐ。
「幽霊の姿のユーリが遊ぼうって、話しかけてきたのがきっかけでした。その後夢の中で不思議な湖畔に連れて行かれると、そこに凍り付けになっているユーリがいて。助け出したくて、夢中で色々としていたら……こう……何と申し上げますか。気がついたら、契約していたといいますか。不思議な体験でしたね。マーリンとは……」
 おや? と首をひねる。
「そういえば、どうやって私達は契約したんでしたっけ?」
「あー、うん。覚えてなくて良いんだよ、お前は」
 マーリンはあっはっは〜と陽気に笑った。
「今こうしていられるだけで、良いのだからね」
 だから彼の腹黒い次の言葉は、誰にも聞かれることはなかった。
(とある湖の乙女に幽閉され、そこで俺は悠久の時を過ごしていた。という訳で、真言。お前とは現実じゃなく、夢でリンクして出会ったのさ。会ったとたん、俺は突然長い時間幽閉されていることに耐えられなってしまった。狂気にとりつかれて、俺は間もなく死に至る。幽体となって彷徨い……そして、生まれたばかりのお前を見守って来たんだよ。それでいいと思っていた。なのに成長した真言は、よりによって『夢』で過去の俺を見ちまった。だから契約に至った時、ついでに魔術でお前の記憶を消したのさ。悪く思うなよー! チャンチャン!)
 マーリンが黙ったので、一同の興味は今一人のパートナー――ユーリエンテへと向かった。
「ユーリね『オマエハキケンナヤツダ』って。湖の中に閉じ込められちゃったんだ!」
 いきなりの爆弾発言である。
「でもね、マコトが助けてくれたの! 一緒に遊んでくれるって、言ってくれて。すっごく嬉しかったんだ! ユーリ、みんなと遊べなくてずっと寂しかったから……」
「ずっと?」
「うん! ザッと300年ぐらいかな?」
 えっへっへ〜と無邪気に笑う。
 助かってよかったと、一同は涙するのであった。
「でも今はみんな遊んでくれるからとっても楽しいよ。甘いものとかも初めて食べたけどとっても美味しいよね☆」
「私達の話は、以上です。愛美さんのお役に立ちますでしょうか?」
「うん、そうだね。チョット違うかもしれないけど……」
「でもいいお話だったと思いますよー、ね? 愛美さん」
 花音の言葉に、そうだねーと、愛美は頷いた。
 彼女の傍らで、「皆、色々あるんだねぇ……」と瑠樹がしきりに頷いている。
 
 エルシー・エルナ(えるしー・えるな)リリス・チェンバース(りりす・ちぇんばーす)は興味津々でチョコンと覗き込んだ。
「何のお話をしているんですかー?」
 首を突っ込んで、そのまま愛美達に押さえられた。
「分かりました! 愛美さん! 話します、話しますって!」
 という訳で、エルシーから話す羽目になった。
「幼い頃から、敵は滅ぼす。それが戦士であり、『強さ』だと教えられました……しかし14才になった年に、1人の男の人に逢ったんです!」
 おお!
「運命」の出会いに一同はどよめく。
「彼は、言いました。『君は、ただ力を固辞しているだけだ』と。何だか自分を否定された感じがして、その人を滅ぼそうとしました。しかし出来なかった……。負けた私は、死を覚悟しました。でもその人は止めを刺さず、『家族が待ってるよ』っといい、何処かに行ってしまいました。彼に逢いたい! 私は彼を探しました、そして月日が流れ……契約者となる顕様に会ったんです」
 彼女はニッコリと笑った。
「顕様があの人か分らないけど……いえ! あの優しい目は、きっと彼だと思いますよ」
「だから、田桐 顕と契約したのね?」
 そうです、とエルシーは頷く。
 リリスが肩に手を載せた。
「いい思い出ね、大事にしなさい」
「ええ、そうね、リリス様。大事にするわ!」
 そーいえば、と口元に手を当てる。
「リリス様と顕様の出会いって、どんな感じだったんですか?」
「うん、マナミンも」
「瀬蓮も聞きたい!」
「私も! 是非是非ですね!」
 3人娘が顔を出す。
 一同の注目を浴びて、リリスは咳払い。
「退屈してたし。扱きがいがありそうだったからですよー」
 軽い調子で言う。
 まーたまたあ、とエルシーは脇をチョンチョン突いた。
「ツンツンしちゃって〜リリス様。本当は顕様の優しさに触れて、恋に落ちちゃったんですよね〜〜?」
「え?」
「何ですか? 顔中真っ赤かですよ〜?」
「う、嘘っ!」
 リリスは両頬を、思わず手で包み込む。
「そ、そんなことないわよ」
 大声で絶叫!
「あんなバカで、ただ優しくて、真っ直ぐで、困った人を放っておく事が出来ない……と、とにかく! あんな奴、す、す、好きなはず……ないでしょ……」
 そこへ、運悪くトイレから戻ってきた田桐 顕(たぎり・けん)が現れた。
「ん? リリスどうしたんだ? そんなに真っ赤になって……」
 顕はリリスの肩に手をかける。
 その刹那、リリスのビクトリーダイナマイトパンチが、顕の顔面に飛んできた。
「ぶへ」
 何が何だか分らないまま、ぶっ飛ばされ、壁に突き刺さる
「お、俺が何をした……ガフ」
(乙女心分かって頂戴って、これも「運命」かね?)
 一同は合掌しつつ、次の犠牲者……もとい、語り手の話に耳を傾けるのであった。
 彼らの傍で瑠樹だけが、「これも試練だねえ〜」とうんうん頷いている……。

 白羽の矢が立ったのは、霧雨 透乃(きりさめ・とうの)だった。
 霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)という両手に花(?)ぶりが目立ってしまったらしい。
「やっちゃんと陽子ちゃんとの馴れ初め? 2人とも地球で出会ったよ」
 透乃は元気よく答える。
「私は中卒後、食べ歩きの旅をしていて、その時立ち寄った飲食店でやっちゃんと出会ったんだよ。そのお店は凄く混んでいて、相席させてもらった席にいたんだ。弟(まだ生きているけど)にそっくりだったから驚いたよ。しかも名前まで同じだったなんて……」
「うん、『運命』だね?」
「でしょ? 愛美ちゃん」
 透乃は頷いて、泰宏を見る。
「でも、雰囲気や性格は違ったんだ。話していると、やっちゃんは自分の生きる目的が分からなくて、それを見つけるために旅をしていて地球に来たことを教えてくれたよ。私はパラミタに興味があったし、一緒に目的を探してあげたいと思ったから、やっちゃんに契約しよう、って申し出たんだよ」
「透乃ちゃんのその心遣いはありがたかったしね」
 泰宏は照れ臭そうに鼻柱をかく。
「それに……可愛くて、いい体してるだろ? 契約すれば……まあその、いずれそんなことも……なんてさ。不純なことも考えて、承諾した訳だ。しかも本当にそんなこともしたしな。契約すると心や命の繋がりが出来たようなものだから、体の繋がりも欲しかったんだと」
「もう1人の契約は? どんな感じだったの?」
「陽子ちゃんとのこと? やっちゃんとの契約後に、初めて実家に帰った時だよ」
 透乃は陽子に振り向いた。
「私の実家は今は一般家庭だけど、昔はそこそこ名のある家系だったみたい。その名残で、でっかい倉庫が残っていたんだよ。陽子ちゃんは、その中のかなり奥の隠し部屋のような所に眠っていたんだ! そんな普通じゃ気づかない場所に私が気づいたのは、多分やっちゃんと契約して感覚が鋭くなったからだと思うんだ。実家の敷地に近づいたあたりで、陽子ちゃんの気配みたいなのは感じた。私が近づくとそれだけで陽子ちゃんは目を覚ましたよ。起きたばかりの陽子ちゃんは、私にはとても弱々しく見えて放っておけなかったから、契約しようって申し出たんだ」
「で、陽子さんは契約した訳ね? でもどうして急な申し出なのに、承知したの?」
「さあー、私にも理由は分かりませんが……」
 陽子は少し悩んで、当時を振り返る。
「覚めたばかりの私は酷く寂しかったんですね。だから、透乃ちゃんの申し出はとてもありがたいものでした。だからだと思いますよ。ただ、どうして私が透乃ちゃんの実家の倉庫にいたのかまでは分かりません……」
 でもね、とこれはとびっきりの笑顔で。
「私は透乃ちゃんややっちゃんと出会えて、幸せなんだと思いますよ」
 3人の幸せパワーに、一同はほんわかとした空気に包まれる。
 
 その空気が壊されたのは、閃崎 静麻(せんざき・しずま)が登場したためだった。
 正確には、彼のパートナー――レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)に入り口から引き摺られてきたのだった。
「日々の生活の為にも、しっかり仕事して貰いますからね! 逃げても無駄ですから」
 そうしてズルズルと引き摺られて……輪の中に到達したのだった。
「え? 静麻との契約ですか?」
 メンドクセー、俺は行く気ないぞーと、抗議する静麻を手近な椅子に座らせて、レイナは真面目に語りはじめる。
「私は、ザンスカールにあるヴァルキリーの集落で技を磨きました。そして長老達に里を出る許可を頂いて、王国復活の悲願を果たす為に契約相手を求めて空京に向かったのです。静麻と契約した理由は、今なおはっきりしていません。直感の類ですね。ただ小谷さんが言っている『運命の人』ではない! と断言は出来ます。こんなグータラな人が運命の人だ! なんて、考えられませんよね? 静麻が契約を受け入れた理由は、今まで語ってくださりません。………私は契約せねばならぬほど、弱い存在に見えたのでしょうか?」
「弱い、ていうかだなあー」
 静麻は椅子席でタレたままで答える。
「何せ、レイナと会った時は今まで持っていたものを全部失ってたしな。シャンバラとか関係ないテロで、家族や最愛の人を失って……大人の事情で今まで住んでた家は競売に出す事になって。合格していた高校も結局行けなくて、行く所もやる事もなくて、気がつけば空京にいたっけ。レイナと契約したのも、ただ単にやる事が他に思いつかなかっただけだしな。こいつの面倒を見てやる、って事だけしかな」
 場が静まり返る。
 言わんこっちゃないな、と静麻は頭をかいた。
「暗くなるから、この手の話は嫌だったんだが。ま、これも『運命』って奴さ」

 が――。
 これを機とみて、語りだす輩もいる。
(何だ何だ? 知り合いの声がすると思ったら、面白そうな話をしてるじゃねぇか! リーブラの情報収集もかねて参加してみっか!)
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は、そんな好奇心からリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)を伴いと共に参加していたのだった。
 シリウスと共に歩み出たリーブラは、フードを深くかぶっている。
「オレが話すのはリーブラとの馴れ初めだな」
 祈るような思いで、一同を見回す。
「オレの家って、けっこう歴史がある家だったらしいんだよな。親父もお袋も生まれてすぐ亡くなっちまったから、詳しい事はしらねぇんだけど。その家の地下に遺跡が見つかってさ……何で気づいたかは覚えてねぇ。何かにひかれるような感じだったかな。まぁそこにいたんだよ。棺みたいなのに入ったリーブラがさ。起き上がるまでは死んでるんじゃないかって、正直ビビったぜ」
 そしてリーブラに話すよう促した。
「目覚めた時、わたくしには殆ど記憶がありませんでしたわ……」
 フードの中から、品の良い声が響き渡る。
「名前は棺にあったのですけれど……オルタナティブ、『代替』という意味らしいですわ。恐らく……驚かないでくださいね?」
 言って、彼女はフードを外す。
 一同にどよめきが走る。
「ティ、セラさん……ですよね?」
「マナミン、ティセラさんと会ったことあるけど……」
 愛美は小首を傾げる。
「雰囲気が全然違うなぁ。確かに顔は似てるけど、雰囲気が柔らかいし、重圧感って言うのかな、プレッシャーを感じないわ」
「ですね。世の中には自分のそっくりさんが7人はいるといいますし」
 瀬蓮や花音にもそれほど驚いた様子はない。
 頃合いを見て、リーブラは再びフードをかぶった。
「私は、何者なのか。それが知りたくて、シリウスとここまで来ましたの」
「なあ、頼むよ! 誰か知らねぇのか?」
 だが、一同は顔を見合わせるばかりで答えは返ってこない。
「ゴメン、私達だと分からないわ。早く、何か分かるといいのだけど……」
「そうだ!」
 瀬蓮がポンッと手を叩いた。
「ねえ、いっそのこと……十二星華のティセラさん本人に聞いたら早いんじゃないのかな?」
「ああ、それいいかも!」
 瀬蓮の言葉に愛美は明るく頷く。
「じゃ、これにて解決っ! そう言うことで、次の『運命の人』! 行ってみよう!」
 
 という訳で(どんな訳なんだか)、話題はクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)ローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)サフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)の3名に振られた。
「そう、あれは2年前の夏でしたか……」
 朗々とローレンスの声が室内に響き渡る。
 スッと吸って、そのまま進行して行くのかと思いきや。
「ストップストーップ!」
 陽気な声がさえぎった。
 サフィである。
「もう、男同士の話をしてどーするのよ、ここはあたしとの出会いでしょ♪ そう、あれはクライス君。まあ、実は遠乗りしてて迷子になっただけなんだけど」
「ってサフィさんこういう話で嘘つくのやめて下さい!?」
「えー、こういう話だからこそつくのが面白いんじゃない♪ っていた!?」
「全くお前は……」
 ローレンスが頭を小突く。
「クライス! こいつがこれ以上何か言う前に、本当のことを話しておけ」
「あ、うん……えっと……」
 ローレンスのフォローで、ようやくクライスが「真実」を語りだす。
「サフィさんと初めて会ったのは空京でですね、その時はたまたま相席になったので軽く会話しただけだったんですけど。何故かその後もいろんな場所で会って……結局最後はヴァイシャリーででしたっけ? 『騎士なんてつまらない事、やめたら? もっと面白い事一杯あるのよ』って……」
「だってあの時本当に惨めだったしねー。それに普段話してた感じからしたら、凄く面白い人になれそうだったし。だから騎士なんてつまんないでしょって言ってやったのよ」
「で、騎士はそんなつまらないものじゃないって反論したんですけど。そしたらサフィさんが、『あら、あたしの家は騎士だったし、あたしも騎士になるよう育てられたけど……凄くくだらないしつまんなかったわよ』って。何でしょう……その時はその言葉が許せなくて、つい熱くなってしまって……」
「……主が帰って来た時は驚きましたよ」
 ローレンスは神妙な顔でうんうんと頷く。
「いきなり『ごめん、新しく契約しちゃった』ですからね。全く、私がその場についていたなら! 口論の末に『主が騎士をやめるか、サフィが騎士の素晴らしさを理解するまで一緒にいる』等と言う理由で、そのまま契約にまで持ち込ませなかったものを……」
「いやいやー、ちゃんと騎士様の気持ちを理解する気はあるのよ? それにいいじゃない、結局契約は上手く行ったんだし。疎遠とかにもなってないしね。後が上手く行ってれば、きっかけなんてどーでもいいのよ♪」
 サフィがお気楽にしめて、3人の話は終わった。

「でも、皆『パートナー』なのね?」
 愛美はしんみりとした表情で、深く溜め息をつく。
「『運命の人』って、『パートナー』しかいないのかな?」
 だとしたら、と愛美は思う。
「マナミンには『マリエル』しかいない、ってことなのかな?」
 マリエルは確かに大切な人ではあるけれど――。
「でも、それとこれとは違うような気が……」

「それなら、愛美さん!」
 ビッと、花音が指差したのはその時だった。
「あの方達に聞いてみてはいかがです?」