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リアクション
その頃の百合園女学院
一人のツインテールの少女が愁いを帯びた瞳で空を眺めていた。
(「静香校長がお見合い……上手くいったらその人もこの学院に来るのかしら」)
そこで身震いする。
その少女茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)には、耐えられないことだった。
あることをきっかけに男性恐怖症になってしまった彼女には……。
私とお見合いしましょ♪
廊下を歩いていた、セシルの腕を一人の少女が引っ張った。
「ねえねえお兄ちゃん。静香校長先生のお見合い相手なんでしょ?」
「そうだけど君は?」
「私は、天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)〜。お兄ちゃん、校長先生なんてやめて私と結婚しよう〜♪」
「は?」
「だってお兄ちゃんだし環の貴族さんなんでしょう? だったら私をお嫁さんにしてよ〜」
「いや、そう言う訳には……」
「しようよ〜」
結菜に引き留められて困っていた、セシルを救ったのは、ジェイダスだった。
「セシル殿、静香殿がお待ちですよ。参りましょう」
「あ、はい」
「それじゃあお嬢さん失礼」
残された結菜はジェイダスの威圧感に何も言えなかった。
賭けた張ったのご様子は?
「ブルタがDで、クリストファーがB。それ以外の賭け参加者は0……」
ぽつりとキャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)が呟いた。手にしたメモ帳を険しい目で見てから、ふぅ、と溜息を吐く。
「総勢二名の参加者。不況のあおりをヒシヒシと感じマース」
大仰に肩をすくめて言った。金校長にうまく接触して、『金校長はお見合い成立に賭けた』という情報も流したのに、賭けられた内容は両方とも破談。
「これも不況のせいかも知れマセーン」
いわゆる、他人の不幸で飯が美味い、そんなのを望んでいるのかも、なんて。
キャンディスは天を仰いだ。空は不況なんて無視して、晴れ渡っている。
*...***...*
同時刻、別の場所。
「タシガン貴族の御子息との出会いなんて、今このチャンスを逃したらもう二度とないな」
走行中の車のトランクの中、オットー・ハーマン(おっとー・はーまん)が呟く。暑いし暗いし、さっさと出て行きたいが我慢だ。
どうしてそれがしはトランクに隠れるという選択をしたのだろうか、と自問自答して車が止まるのを待つ。答えは、パートナーの南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)がセシルを拉致……もとい、歓談に誘おうとして車の運転手にすり替わったからである。
答えが出たので次の自問、と考え始めて車が止まった。
「これはどういうことだい?」
聞きなれない低い声。きっとこの声の主がタシガン貴族のご子息様なのだろう。
「いいじゃんいいじゃん♪ 人生たまには寄り道してみなくっちゃ」
そしてこっちの、脳味噌の重さが限りなくゼロに近そうな軽い喋りがパートナー。
「先方を待たせてしまうかもしれないから、申し訳ないが付き合えないな」
「あれ? 脱線とか興味ないすか? 脱線」
「生憎、ない」
「あ、いやそれよりも。俺様気になってることがあるんすよー」
短い答えをさくさくと返すセシルにめげることなく、光一郎は喋る。
「俺様は意地を通すためだけに士官様の道を蹴っ飛ばしたわけなんすけどぉー」
光一郎の声は、遠くなったり近くなったりを繰り返す。歩きながら喋っているのだろう、そのせいかいつもよりふわふわした声だ。
「で、転校までしちゃったんすけど」
「何が言いたい?」
「家門ってそんなに大事なものなの? 教えて」
返事はしばらくなかった。沈黙だけが空間を支配している。いやそれよりも、暑い。
「それがしそろそろ限界だ」
低く呟き、トランクから出た。
「家門は――」
「細けぇこたぁいいんだよ!」
セシルの言葉とかぶって出てきてしまったが別に構うものか。
「春といえば鯉、故意、濃い! そう恋の季節! この際嫁入り婿入りエイプリルフールの宦官科、BLもMLも構わぬ。セシル殿! それがしと結婚を前提に――」
「断る」
一刀両断された。
「興味深い話のところ申し訳ないが、失礼するよ」
そして、春らしく爽やかな笑みを向けて立ち去っていく。
「なぁなぁオットー。MLってなんすか」
「メンズ、ラブ……だ。うむ、しかしセシル・ラーカンツ……貴殿はそれがしの大変なものを盗んで行ったぞ」
「それはあなたの心です?」
「然り」
微笑みにやられたのだ、きっと。
ぼんやりとあの笑みを浮かべて、オットーは目を閉じた。
「オットー? ちょ、顔熱っ! 熱中症すか!? ねぇオットー!?」
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