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リアクション
第4章 「感謝の気持ちをチョコと一緒に人に伝えることができる、素敵な日だと思いますっ!」
■□■1■□■「原材料がチョコレートとか生クリームのチョコババ様の目など欺いてしまいましょう……!」
一方そのころカンナ様。
立川 るる(たちかわ・るる)が、デパートで買った高級チョコを奪われた件について、
環菜に抗議にやってきていた。
「カンナさん! 全部あなたが仕組んだことなんでしょ。
ワレンティヌスちゃんと組んで、
1)『チョコレートを買う』
2)『取られる』
3)『また買う』
っていう無限ループに陥らせようとするなんて、そんなやり方間違ってるよ!
るるのだって、なけなしのお小遣いをはたいて買ったチョコだったのに、
その包みを開ける間もなく奪い取るなんて……うぇーん!」
るるが、だだっ子のように環菜をポカポカ叩く。
なお、るるの高級チョコは、チョコレートを回収しては食いまくっていた、
霧雨 透乃(きりさめ・とうの)が食べてしまっていたのだが。
「あ、ちなみに、バレンタインにしか入荷しないような、
珍しいチョコレートだから自分用に買ったんだよ。
別に、渡す相手がいないとか、受け取ってくれる相手がいないとか、
そういうのは関係ないから。ホントだってば」
「な、何言ってるのよ、あなたは……」
環菜が困惑していると、湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)が現れて、るるの提案を聞き、ニヤリと笑う。
「なるほど、それはいい案ですね。
ワレンティヌスがチョコを売って、
そのチョコをワレンティヌスがもらえば、商品が再利用できるんですよ!」
環菜に一目置かれたいために、
「聖ワレンティヌスにチョコレートを贈ろう!」キャンペーンを立ち上げ、
贈答用チョコを売りさばくつもりだった凶司は、
通販サイトを立ち上げて、
「バレンタインは聖ワレンティヌスの殉教日。
彼女にチョコを贈り、あなたの恋にも祝福をもらおう!」
というキャッチコピーで集客していたのである。
パートナーのヴァルキリーエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)は、
「へぇ〜、ワレンティヌスさんにチョコレートを贈ると恋が適うんだ!
今まで本人がいなかったから恋人同士で贈っていたんだね。
面白い事聞いちゃった! みんなに教えてあげよーっと!」
と、凶司に吹き込まれた嘘八百を頭から信じて、みんなに教えて回っていた。
無邪気な親切心から、学校や街で会う人会う人しゃべりまくり、
これも完全な親切心から、凶司の通販サイトの宣伝もしていたのだった。
「なるほど、買わせて、回収して、また売る……それもいいわね。エコロジーだし」
環菜が、サングラスの奥の瞳を光らせて言う。
「さすがです、カンナ様」
(フフフ、事の本質は『バレンタイン商戦に勝利する』ことさ。
御神楽環菜、僕が商売の本質を見せてやるよ)
環菜に本性はバレているが、るるの前なので、猫かぶりモードの凶司が言う。
「あれ? なんかよくわからないけど、るるまずいこと言っちゃったのかな?」
かくして、エグい商業戦略が強化されてしまったのであった。
一方そのころアーデルハイト。
レン・オズワルド(れん・おずわるど)は、アーデルハイトの護衛を行っていた。
「お前のことが心配だ。寒くないか?」
レンが、真冬でも超薄着なアーデルハイトに上着をかけながら言う。
「ああ、すまんな。
このくらい平気じゃよ。
最近の若い者は多少の寒さで音を上げていかんのう。
特に、イルミン生は、制服の構造上、中が見えないのをよいことに、
ババシャツを着たり、色気のない格好をする者が多いからな。
後衛職のウィザードは、自分が怪我する危険が少ないからと、
『いざというとき服を脱がされても恥ずかしくない格好』を怠るものも多いのじゃ」
アーデルハイトが偏見を語る。
「……そうなのか?
それにしても、お前に何かあったら、イルミンスールは!
絶対に守って見せるからな!」
「ど、どうしたのじゃ?」
レンの意味深な台詞に、アーデルハイトが顔を赤らめる。
しかし、実はレンは、
「アーデルハイトがチョコで出来ていると信じ込んでいて、
その秘密が公になるのを心配している」
だけであった。
そこに、アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が、ワレンティヌスを追い回して走ってきた。
「ぎゃー!」
サンダーブラストを喰らって転倒したワレンティヌスに、アルツールが迫る。
「殉教までしたのに、現代人達はチョコレート会社に踊らされている。
うむ、その怒りもっとも。
だがしかし。
あまりキリスト教とは関係ない日本での習慣だからなぁ……。
俺はドイツ人だから、特にチョコを贈りたいとは思わんし。
日本人の習慣に他の多くも影響された、
ということで生徒達のことは勘弁してやってはくれんかな?
まあ、それはそれとして……。
アーデルハイト様と校長のご命令により、お命頂戴つかまつる。
いや、違った大人しく縛についてもらう。
俺はオーディン信仰だ。
聖人だから、女だからと手加減なぞしてもらえると思うなっ!
そもそも、聖ワレンティヌスなんぞ、随分昔から存在が疑問視されている。
そんな怪しい英霊が魔法学校で暴れようとは良い度胸だ。
捕まえて、バナナチョコ風味のアーデルハイト様を口の中に押し込んでくれるわ!
ああ、チョコの場所は吐かなくていいぞ?
……お仕置きを途中でやめずにすむからなあ!」
「こ、こら、何をするのじゃ!?」
「うわあああああん、やめろおおおおお!!」
アルツールが、アーデルハイトをワレンティヌスの口に押し込もうと迫る。
逃げようとするワレンティヌスだが、
レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)と
パートナーの黒猫のゆる族チムチム・リー(ちむちむ・りー)が、回り込む。
(どんな理由であれ、他人の大切な物を奪うなんて良くないよ!
まあ、食べすぎて太ったり吹き出物が出たりするのは困るけど。
学園対抗だと無所属になっちゃうんだけど、
今回は被害者のアーデルハイトに味方してチョコを奪い返すよ。
それに、見た目は子どもな魔女はボクの所にもいるし、とても他人事とは思えないんだよ)
「チョコを返しなさーい!」
「チョコ奪う良くないアル!
みんなが楽しみにしている日を滅茶苦茶にするなんて許せないアル」
レキとチムチムが、スプレーショットでワレンティヌスの足元を狙う。
「わぎゃぎゃぎゃぎゃ!?」
転んだワレンティヌスに、レキがお説教する。
「一年に一度の行事だし、大目に見てくれないかな。
ワレンティヌスだってされたら嫌でしょ?
この日の為に頑張った子はいるし、
伝えられない気持ちを別の何かに詰めて渡す行為は決して悪い事じゃない。
ボクにはまだ渡す人とかいないけど。
それでもこの日が楽しいものであるようにしたいんだ」
「終わったら、御褒美にチョコ欲しアルね。
無理にとは言わないけど」
チムチムがわくわくした表情で待つ。
「そんなに楽しみなのか?」
「あ、そうだ。これあげる」
レキが、ワレンティヌスに小さな一口大のチョコを渡す。
「……これ、テロルチョコじゃねーのか?」
状況が状況だけに、ワレンティヌスが不安がる。
「やっと捕まえたぞ!」
「ぎゃああああああ!?」
「や、やめんかアルツール!!」
そこへ、アルツールが割って入り、ワレンティヌスの顔にアーデルハイトを押し付ける。
それを見ていた赤羽 美央(あかばね・みお)は、
エリザベートに話を持ちかける。
(聖ワレンティヌスさんを保護すればチョコの在処を教えてもらえそう……。
食費が浮きます……!
交渉には、やたら大げさに言うといいと聞きましたし、ちょっと過激に言ってみます)
「エリザベート校長は何のために聖ワレンティヌスさんを捕まえるのですか?
食べ物の恨み……?
違いますよね。
そう、あのオデコの人に聖ワレンティヌスを先に捕まえられるのが嫌だからでしょう!
ならば、あのチョコの亡者の大ババ様など切り捨てて、
じゃたさんやざんすかさんと協定を結び、
聖ワレンティヌスさんを保護する立場に回るべきなのです。
エリザーベート校長ならば、
聖ワレンティヌスさんを隠し通せることがきっと出来るはずです。
蒼空学園の若デコや、
あの原材料がチョコレートとか生クリームのチョコババ様の目など欺いてしまいましょう……!」
「うーん、たしかに環菜に勝つためにはその方がいいかもしれないですねぇ……」
「いいわけあるか!
誰がチョコババ様じゃ!!」
アーデルハイトが近くにいるにもかかわらず、大声で交渉していたため、
美央はアルツールともども、ぶっ飛ばされてお星様になった。
「あっ、るる1号、るる2号! でも、他にも撃ち上がってるだろうし、判断に悩むところだよね!」
「何の話ですか?」
空を見上げたるるに、凶司がいぶかしむ。
「しまった……。
アーデルハイトの原料のことはすでにバレていたのか……」
レンがショックでこっそり落ち込んでいると、ざんすかがじゃたを引きずって走ってきた。
「ワレンティヌス、加勢するざんす!」
「私も加勢します、ざんすか!」
ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が、
パートナーのブルドッグ顔の合成獣っぽいドラゴニュート、
ネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)を連れてやってきた。
「精霊祭に呼ばれなかった、ざんすかとじゃた。
マスターの壁があるとはいえイルミンスールを代表する2大精霊が参加していないのが謎です。
能力的にも5000歳と10000歳の森の精、精霊としか考えられません。
『ザンスカールの森の精などの種族は、
まだ研究上の種族の区分があいまいなのじゃ』とアーデルハイトが言っていましたが、
偉い人にギャグキャラだから精霊には含めるなとか圧力でも?
精霊NPCは偉い人が考えるから、
ざんすかとじゃたは、森の精と思い込んでる
魔女にでもしておけとか命令がくだったのでは?
これはざんすかとじゃたの危機です!
アーデルハイトが森の精の設定を無き物にしようと画策しているようです。
ここは力を見せ付けて森の精の存在を世に知らしめねば
森の精と思い込んでいる魔女に格下げされます!」
ガートルードが、「邪妖精ザンスカー」などと呼んで敵対した、
過去の軋轢をさっぱり忘れ、ざんすかを煽る。
「おい、じゃた、盗んだチョコ食わねえのか?
食べないなら俺が全部食っちまうぞ!」
「人のもの食べるのよくないじゃた……。
でも、どうせネヴィルが食べるならワタシが食べるじゃた!」
ネヴィルはチョコをじゃたの前で食べて見せて、じゃたを煽る。
「どおりでミーはなかなかNPC登録されないはずざんす!
よくもミーたちの設定を葬ろうとしたざんす!!」
「なに言ってるんじゃゴフッ!?」
ざんすかが、ガートルードの言葉を半分信じてアーデルハイトをぶっ飛ばす。
「お前ら、精霊とはそもそも根本的に別の種族じゃろ!」
「そういえばそうざんす! でも、今日こそ決着つけるざんす!」
ざんすかとアーデルハイトが争いはじめる。
「ぐるるるる、チョコレートじゃた……」
じゃたも、暴走してチョコレートを食べはじめようとしていた。
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