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【十二の星の華】双拳の誓い(第2回/全6回) 虚実

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【十二の星の華】双拳の誓い(第2回/全6回) 虚実

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「まったく、ピンクの奴、いったいどこに行っちまったんだよ」
 荷物運びをしながら、吉永竜司はカリン党ピンクことサレン・シルフィーユを探していた。さすがに、クイーン・ヴァンガードとして捕まっているなど、想像だにしていない。
「にしても、変な荷物ばっかだぜ。機械物か何かか?」
 運んでいる荷物の中身が気になって、ちょっと盗み見した吉永竜司ではあったが、何かの電子部品の基盤だったようで、何が何だかさっぱりであった。脳みその筋肉の強靱さで頭の優劣を競うパラ実生としては、電子部品を見たところでさっぱりだ。
「ああ、待っていましたよ。こっちに運んでください」
 小太りした海賊の男が、吉永竜司を手招きした。
「探しましたよ。私もまだ新入りで、勝手がよく分からないものですから」
「ほーう、てめえも新入りかい。オレもそうだぜ」
 呼ばれる方に、かかえた荷物を運びながら、吉永竜司が言った。
「だったら、そんなに凄まないでください。こっちは、この前までヴァイシャリーでゴンドラ会社の社長をやっていた身なんですから」
「そんな奴が、なんで海賊やってんだ、ごらあ」
 デラックスモヒカンをつけた、ドスの利いた濃ゆい顔をずいっと海賊に近づける。
「だから、凄まないでくださいって」
 泣きそうな声で、海賊の親父が言った。
「倒産しちゃったんですよ。いろいろ、人に手伝ってもらったりもしたんですけれど、だめでしてねえ。それで、かつてのつてを頼って、海賊に転職した次第で……、ああ、その荷物は、この飛空挺に積んでください」
「ふーん、苦労してるんだな」
 新米海賊に言われて、吉永竜司は中型の輸送用飛空挺に、荷物を運び込んでいった。
 
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「ふう、お腹いっぱいだわ」
 カレーを堪能したアルディミアク・ミトゥナが、自分の準備に戻ろうと通路に一人出たときであった。
「アルディミアクくん、アルディミアクくん、こっち、こっち」
 月詠司が、物陰からアルディミアク・ミトゥナを手招きした。
「なんだ、お前は?」
 警戒しながら、アルディミアク・ミトゥナが近づいてくる。
「どうも、初めまして、私は月詠司と申します。噂によると、アルディミアクくんは、ココ・カンパーニュを、仇として狙っているとか。そこで一つお話が。もし、その本人と二人きりで会えるとしたらどうです?」
「怪しいことを持ちかける奴だ。そんなことを簡単に信じると思っているのか」
 先ほどまでのまったりした雰囲気はどこへやら、アルディミアク・ミトゥナが月詠司にむかって凄んだ。
「もちろん、話を信じるかどうかは、あなた次第ですがね。ただ、少なくとも、私のパートナーが、ココ・カンパーニュをおびきだす段取りをしていることだけは事実です。もし、その機会が訪れましたら、また御連絡いたします」
「ふん。できるのであればな」
 そう言うと、アルディミアク・ミトゥナはその場を去っていった。
「食いつきましたね。私を捕まえたりしなかったのが、その証拠です。さて、肝心のウォーデンくんの方はうまくいっているのでしようか」
 自分の首尾に満足しつつも、月詠司はパートナーの首尾を案ずるのだった。
 
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「やあ、いたいた、アルディミアク・ミトゥナ、勝負!」
「今度はなんなの」
 月詠司を追い払ったばかりなのに、今度はメイコ・雷動(めいこ・らいどう)に絡まれて、いったいどうなっているんだとアルディミアク・ミトゥナは額に手をやった。
「だって、下に就くんだったら、上の人の実力は知っておきたいじゃん。だから、手合わせしたいのだよ」
「死にたいの?」
 遠慮なくアルディミアク・ミトゥナは言った。本気で戦えば、実力のレベル差は倍ではすまないだろう。星拳を使うこともなく、簡単に葬れるはずだ。だが、そんなことをしても馬鹿らしいだけなのだが。
「でも……」
 馬鹿らしいと思いつつも、昔の自分を思ってちょっと苦笑する。海賊に入りたてのころ、デクステラ・サリクスとシニストラ・ラウルスの二人に格闘技術を教わっていたころの自分は、今のように意味もなく突っかかっていって腕をみがいていたではないか。
「いろいろと確かめたいんだよ。ココなんか、なぜ自分が狙われているのか分からないと言ってたんだよ。そんな奴をぶっ飛ばしてもつまらないじゃん。殴るなら、殴る理由があたしはほしいの!」
「そう。まだしらを切っているの。本当にひどい奴。いいわ、かかってきなさい。私の怒りがどれほどの物か教えてあげる。ただし、怪我をしても知らないわよ」
 すっと、重心を下げてアルディミアク・ミトゥナが言った。
「どちらが!」
 言うなり、拳を構えたメイコ・雷動が、バーストダッシュで飛び出した。
 だが、勢いを乗せた拳は、突然間に入った者によって受けとめられた。
「アルディミアクさんの拳は、後のためにとっておくべきだ」
 メイコ・雷動の必殺の一撃をなんとか受けとめたルイ・フリードが言った。直前に氷術で作りだした氷塊を盾にして勢いをそいだものの、さすがにまったくのノーダメージというわけにはいかなかったようだ。わずかに、顔をしかめながら無理に笑いを作って、二人の少女を分けている。
「興がそがれたわ。また今度にしましょう」
 そう言うと、アルディミアク・ミトゥナが拳を収めて歩き去った。当然、メイコ・雷動は後を追おうとしたが、ルイ・フリードに阻まれて果たせなかった。
 
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「落ち着かないようだねえ。もっとどっしりしていればいいじゃないか」
 うろうろしているアルディミアク・ミトゥナを見つけて、ゾブラク・ザーディアが言った。
「そうそう。雑魚はあたしが引き受けるから、お嬢ちゃんは存分に戦えばいいさ」
 デクステラ・サリクスが、自信満々で請け負う。
「いずれにしろ、お嬢ちゃんは、仇から星拳を奪い返さなきゃなんないんだろ。星拳を元の姿に戻すこと、それがお嬢ちゃんの姉さんの願いだったっていうじゃないか。それは叶えてやりな。せめてもの供養だ。あれができあがるのはまだ少し先だからねえ。私は海賊島に戻ってそれを進めなきゃならないから、こっちは任せたよ」
「はい、ありがとうございます」
 ゾブラク・ザーディアの言葉に、アルディミアク・ミトゥナは礼を言った。それを聞いて、ゾブラク・ザーディアは満足してアジトを去っていった。
「復讐か。私の仇は今は手の届かないところにいるみたいだけれど、あなたの仇は手の届くところまで来ているんですね」
 鬼崎 朔(きざき・さく)が、アルディミアク・ミトゥナに自分を重ねて言った。
「それはまた幸せな。わたくしは、復讐者を助ける者。喜んで力を貸そう」
 アンドラス・アルス・ゴエティア(あんどらす・あるすごえてぃあ)が、鬼崎朔の言葉を受けて、アルディミアク・ミトゥナに約束した。
「復讐か。本当にそんなことして楽しいのかあ」
 話を聞いていた日比谷皐月が、わざと間延びした声で言った。
「復讐だなんて生き方辛いだろ? 仇をとるまで楽しい事なんて何もねーし。だいたい、仇をとったところで死んだ人間が帰って来るわけでもないしな」
「仇を持ったこともない者に、何が分かると言えるのであろうな」
 日比谷皐月の言葉に、アンドラス・アルス・ゴエティアが疑問を投げかけた。
「まあ、オレがとやかく言える問題じゃねーか。敵討ちで何か答えが出るって言うんなら、俺はそれを見届けるために力を貸すぜ」
「また安請け合いを」
 日比谷皐月の言葉に、雨宮七日が呆れる。
「そうそう。人を呪わば穴二つって言うじゃん」
「人を呪わばか……」
 如月夜空の言葉を、アルディミアク・ミトゥナは小さく繰り返した。呪うべきは、ココ・カンパーニュなのか、あるいは、彼女を信じた自分自身なのか……。
「ねえ、あんたたちもそう……」
 鬼崎朔に同意を求めかけて、如月夜空が言葉を濁した。何か、見てはいけないものでも見てしまったのだろうか。
「はあ、そういうわけね」
 彼女の視線の先を見たデクステラ・サリクスが、電光石火で動いた。誰もが動く暇を与えず、鬼崎朔の喉に抜き身の短剣を押しあてる。
「どうして、こうもクイーン・ヴァンガードに入り込まれてるんだろうねえ。さて、そちらも、おとなしくしてもらいましょうか」
「わたくしは、クイーン・ヴァンガードでは……」
 突然の展開に、アンドラス・アルス・ゴエティアがあわてる。
「パートナーだろうが、観念しな」
 そうきっぱり言い渡すと、デクステラ・サリクスは二人を拘束した。
 そのまま二人は、牢にぶち込まれた。中には、先に捕まったサレン・シルフィーユの他に、斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)ネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)の姿があった。
「畜生、クイーン・ヴァンガードに所属はしてるけど、今回は関係ないって言ったのによ、問答無用でここに放り込みやがって」
「斎藤、見苦しいですよ。言葉が乱れています。少し落ち着きなさい」
 ネル・マイヤーズが、静かに斎藤邦彦を諭した。
「そうは言いますがねえ。まったく、どうやら女王像の欠片は本物だったみたいだし、すべて裏目に出てるんだぞ」
 参ったという感じで斎藤邦彦は言った。海賊たちが、ここまでクイーン・ヴァンガードと反目しているとは思いもよらなかった。いったい、どんな背景があるのだろうか。
「協力すると言った自分たちもこの様だ。どうにも、自分の立場というものを軽視しすぎていたようだな」
「そんなことより、なんとかここを出たいッス。このままじゃ、カリン党のみんなに面目が立たないッス」
 サレン・シルフィーユが床の上でじたばたしながら言った。
「大丈夫ですよ、いざとなれば斎藤はピッキングが使えますから」
「なんだって、なら、すぐに逃げだすッス」
 ネル・マイヤーズの言葉に、サレン・シルフィーユがピタリと動きを止めて言った。
「今は、まだ時じゃないな。外に出ても、また捕まるだけだぞ。じっくりチャンスを待つんだな」
 自らを落ち着かせるように目を閉じて、斎藤邦彦が言った。