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リアクション
第4章 水門管理室へ・・・
「さて、まだ交換してない情報はあるか?」
佐伯 梓(さえき・あずさ)は協力者たちの顔を順番に見て聞く。
「水竜が閉じ込められているパスワードについて、答えが分かった人はいますかな?別行動する人から先に聞いてしまったほうがいいかもしれませんな」
梓の方を見て道明寺 玲(どうみょうじ・れい)が、答えについてまとめようと言う。
「そうだな。俺はまったく分からないけど・・・」
「(ふむ、答えか・・・)」
オゼト・ザクイウェム(おぜと・ざくいうぇむ)も梓の傍で考えてみる。
「(絵と進化で同じような・・・と連想したら、進化の工程、過程くらいしか思い浮かばんな)」
思いついたことを、ペンでメモに書いてみる。
「何か思いついたのですかな」
傍から玲がメモを覗き込む。
「(進化の類語で生物に関する事というと、発展、発達くらいだ)」
オゼトはその2つの言葉もメモに書いておく。
「4階と7階に行った仲間から聞いておいたから、それも書いておこう」
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)がメモに書き加える。
「他に別行動をする人はいませんかな?」
パスワードの謎解きをメモしようと、玲は生徒たちの顔を見る。
「何か足音が聞こえるわ。それも大勢・・・」
ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が超感覚で、近づいてくる足音を聞きとる。
「では見つかる前に、それぞれ目的の場所へ移動するとしますかな」
オゼトからメモを受け取り、玲たちは水門管理室へ向かった。
「薬品があるところは・・・この部屋でしょうか?」
8階の薬剤室に来た緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は、幸に知らせようと携帯で連絡する。
「通じましか」
紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)が通話出来るのか聞く。
「えぇ・・・。途中で言葉が途切れたりしますが、なんとか通じます。―・・・そのまま進んで角を曲がったところにいます。えぇ、はい・・・では待っていますね」
幸の目当ての場所が見つけたことを知らせて電話を切る。
「―・・・たしかこの角を曲がったところで、待っているようですが・・・。あっ、見つけました!」
連絡をもらった幸が遙遠の元へ駆け寄る。
「薬剤室・・・何かありそうですね、入ってみましょう」
「姉様、ちょっと・・・」
「何ですか?」
遙遠に呼ばれて振り返る。
「7階の資料室で見たんですが、どの種族をターゲットにしているか分かりませんけど。十天君は奪った魔力でウィルスを作っているようです」
「ウィルス・・・ですか?いったい何のために・・・」
「分かりません・・・。魔女とシャンバラ人が病にかかった事件があって、それを実用化するための実験が、今回のウィルス作りに関わっているみたいです」
「そんなことがあったんですか」
「今から探しても間に合うかどうか・・・」
「それでも・・・それでも・・・・・・私は足掻きたい。ここで諦めてしまったら、私はもう科学者を名乗れない気がします」
ほんの少しでも阻止する手がかりを得ようと、一心不乱に探し始める。
「探してもあるかどうか分かりませんよ!」
「ありゃりゃ。まったく聞こえてないねぇ」
すでにウィルスが持ち出され、もう施設内にないかもしれないと言う遙遠の肩に、カガチがぽんっと手を置く。
「では、ここは頼みましたよ」
そう言うと遙遠は10階へ向かった。
「無線機?」
走りながらカガチが手に持っている無線機を見て、何に使うのか幸が聞きたそうな顔をする。
「さっき拾ったんだよ」
縁に弾幕援護をくらった拍子に、驚いた兵が落とした無線機をカガチが拾った。
「よお久しぶり覚えてるぅ?これから俺様チャンとらぶりぃな仲間たちがぶっ潰しにいくぜえ。シャワー浴びてまっててねぇマイハニービッチ☆」
それだけ言うと、無線機を通路に捨てた。
「―・・・大丈夫かい?」
傷の癒えていない真を心配し、声をかける。
「どうしてあの時、こうしなかったんだろうって後悔するくらいなら・・・。結果、ズタボロにされようが、全力で突っ走らなきゃいけないんだ!」
「へぇ〜、そうかい・・・」
後悔なんて言葉を言わないように決意する真に、カガチが笑いかける。
「なんだか厳重に警戒しているみたいね」
薬剤室がある階層にやってきたローザマリアは、ゴーストがいないか柱の陰から通路の様子を窺う。
手鏡で見張りのゴースト兵がいることを知らせる。
スナイパーライフルの銃口をターゲットの足元に合わせて撃つ。
「倒して通らないと無理か・・・」
仲間を呼ばれる前に始末しようと、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)は処刑人の剣を鞘から抜く。
「其之方、打首獄門の刑に処す!」
大剣の柄を握り、兵の首をはねる。
「私たちはちょっと、薬剤室の方を見てくるから。先に行ってて」
ローザマリアは玲にそう言うと、水門管理室へ向かう生徒たちとは別の通路を進む。
「ドアの近くに兵がいるな」
梓が兵に向かってアシッドミストを放つ。
「(こっちに気づかないうちに倒してしまったほうがいいな)」
酸の霧に慌てる彼らを仕留めようと、オゼトは轟雷閃の雷光を刃に纏わせ、首元から左肩へと斬り落とす。
得物を持つ手と脳を破壊し、ドアを開ける。
「何か桃天君の気を引けそうなヤツ・・・何かないかな」
ディテクトエビルを発動させ、自分たちに害をなそうとするヤツや邪念を持つ者が来ないか、警戒しながら探す。
「ウィルスのサンプルがあるといいんだけど」
棚を開けて探してみるが、見つからなかった。
「どれも普通の薬品ばかりなのだよ。エタノールやリンは、いざという時に使えそうか?」
薬品を隠そうとグロリアーナは机の上の白い布を取る。
「他には・・・特にこれといった物がなさそうだな。俺は10階へ行くけどそっちはどうするんだ?」
「9階に行った他の生徒たちが心配だから、そこへ行こうと思っているわ」
部屋から出た後どうするか聞かれたローザマリアは、上の階へ行くと答える。
「それじゃあ俺たちとは別行動だな」
通路を進みながら話し、階段を上ったところで別れた。
「先にここへ来た生徒たちの匂いがするわ。すぐ近くにいるみたい」
「待っていてくれたのであろうか?」
「そうかもね。あまり離れると、どこにいるのが分からないし・・・。皆を探している途中で、ゴーストに見つかるかもしれないからね」
ローザマリアは待っていてくれた玲の肩を軽く叩き、ようやくここへ到着したことを知らせる。
「この先はかなり大勢のゴースト兵たちがいますな」
「―・・・下の階に行ったザカコたちは無事だろうか」
下の階にいる仲間が無事かどうか心配し、エースは小声で呟く。
「うーん、誰も来ないわね」
アリシアはザカコと一緒に壁に寄りかかり、地下から情報を持ってくるかもしれない仲間を待っている。
階段を上っていった幸たちに出会ってからその後、誰もここを通らないからだ。
「ここで携帯使えるかな?」
浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)の携帯に通じるか試してみる。
「途切れて聞こえづらいけど、なんとか使えるみたいね。そろそろ上へ戻ろうか」
「えぇそうですね。これ以上待っても、ルカルカさんたちから連絡が来ないかもしれません」
ザカコたち2人は運搬場管理室のフロアへ向かう。
「ちょっと待って。ここでも携帯が使えるか試してみるから」
通じるかどうか翡翠にもう1度かけてみる。
「あれ・・・?電波が届かない・・・。よし、もう1度!」
つがなるか確かめようと、もう1度電話をかけてみた。
「―・・・一応かかるけど、聞こえたり聞こえなかったりするわ」
「通信手段を携帯に頼らず、別の方法を考えたほうがいい時もあるということですか?」
「そうね・・・場所によっては、まったく通じないところだってあるかもしれないわよ」
アリシアはそう言うと6階の資料室へ行き、翡翠に電話をかてみる。
「さっきよりは聞こえるかな」
電話をきり翡翠と合流しようと階段を上る。
そこにはヘルも彼と共に待っている。
「集められている魔力やウィルスについては、他の生徒たちが対処するようですから。私たちは9階へ行きましょう」
先に上の階へ向かった仲間と合流しようと、翡翠たちは棚の陰に隠れながら進む。
「このフロアに窓はないようだ・・・」
グロリアーナは9階に窓が無いか探してみるが、見つからなかった。
「―・・・やっぱりここにも見張りがいるわね」
水門管理室の近くにやってきたローザマリアが、木材などの資材の陰に隠れて様子を窺う。
「私が囮になって引き付けるから、その隙にパスワードを入力するのよ」
ローザマリアはグロリアーナが隠れている部屋へ、ゴースト兵を誘い込もうと走る。
「(ライザがいる部屋は、確かこっちよね)」
兵たちを明かりを消した部屋へ誘い込む。
「侵入者どもを見つけたぞ!」
無線機で仲間に連絡し、ローザマリアを捕まえようと短刀を投げつける。
「くぅっ」
床へ伏せて間髪避けた彼女は、グロリアーナが隠れている部屋へ飛び込む。
入ってきた兵が同じ顔の存在を見て動揺し、その隙に剣で頭部を突き殺す。
似た容姿を活かし、1人と見せかけた彼女たちの作戦だ。
「兵が来るわ、それもかなりの人数・・・」
ローザマリアは部屋の方へやってくる兵の足音を聞き通路へ出る。
「惑わされるな!とりあえず見えてるやつを捕まえろ!」
別の兵が仲間に大声で言う。
「パスワードが解除されるまで、なんとか耐えないと」
亡者どもを水門管理室の方へ向かわせないよう、ライフルを手に待ち構える。
「(なんとか水門管理室の近くからゴースト兵を、引き離してくれたようだな。他のやつらが中にいなければいいが・・・)」
虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)はドアをそっと開け、中の様子を覗き見る。
「(やっぱり中にも見張りがいるな)」
邪魔だと舌打ちしをする。
「考えてしても仕方ありませんわ」
防毒マスクをつけたエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が、ドアを開けた兵に向かって氷術を放つ。
「水門管理室に侵入されてしまった!生物兵器をこっちによこしてくれっ」
兵は術をくらいながらも、侵入者を捕縛しようと無線機で連絡する。
「しぶといですわね、もう一発くらいなさい」
助けを呼ぶ兵の全身を、エリシアが氷術を放ち凍てつかせる。
「無線機で連絡されてしまったか。早くパスワードを入力しないと・・・」
涼はアーミーショットガンを構え、凍結し床へ倒れた兵を砕く。
「何だ今の銃声は!」
ショットガンの銃声を聞いた兵が、何事かと廊下へ出る。
銃を構えたまま涼はターゲットの背後へ忍び寄り、後頭部と刀を持つ相手の手を撃ち抜き、パスワードを入力しようと水門管理室へ駆け込む。
「侵入されちまった。このことを早く他の仲間たちに知らせないと!」
異変に気づき隠れていた兵が廊下へ走る。
「1人管理室から逃げ出したぜ」
逃げていく兵を見つけた白銀 昶(しろがね・あきら)は、清泉 北都(いずみ・ほくと)たちに知らせる。
「きっと仲間をここへ呼ぶつもりだよ!」
そいつを逃がしていけないと北都が叫ぶ。
彼の声を聞き、イルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)がドアの方へ振り返る。
「さっきのゴースト兵が無線機で呼んだやつが来はりそうなのに。これ以上面倒なことしないでほしいどすなぁ〜」
氷術で室内の出入口前の床の上に、氷の板を作りだす。
「―・・・ゆっ、床が!?」
足を滑らせ転んだ兵を葬ろうと、玲は標的の頭を鞭で叩く。
「ふむ、もう動けないようですな」
動き出さないか、ただの死体に戻ったのを確認する。
「今のうちにパスワードを入力してしまいましょう」
影野 陽太(かげの・ようた)は操作パネルの前へ行き、“文明”と文字を入力する。
いつゴースト兵が呼んだ生物兵器がやってくるか分からない状況で、4階に行った仲間を待つことは出来ない。
「モニターにエラー表示が出てしまいました・・・これじゃないみたいですね。BUNMEIかcivilizationでしょうか?」
「皆の意見も聞いてみないか」
「そうですね、誰か思いついた方いませんか?」
エースに言われ、他の生徒が考えた答えを陽太が聞いてみる。
「次は僕が入力してみるよ。変異とか変化かなって考え見たけど。他に思いついたのは変身と退化て言葉かな」
資料室でメモしたやつを参考にして、北都が考えてみる。
「メモの絵に合わせて考えると、一番近いのは変化なんだけど」
「それを入力してみてください」
「やってみるよ。―・・・違うみたい」
パスワードを入力してみるが、エラー表示が出てしまう。
「もしかして水竜とかじゃないか?」
「資料で見つけたヒントと関係ない感じがするな」
「そうか・・・」
見つけたヒントの言葉や絵に該当しないため、涼はエースに止められてしまった。
「じゃあオイラも。食物連鎖って言葉もあるしー。漢字2文字ならこれ?」
クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が“食事”という文字を入力する。
「食事どすか?麿が考えた答えと似てはりますなぁ〜」
「どんなの考えたの?」
似たようなのを考えたというイルマに目を丸くする。
「麿が考えたのは食料どすぇ〜」
「へぇー、オイラと同じような感じだね!―・・・えーっ、食事じゃないの!?」
考えた言葉が不正解なため、しょんぼりと項垂れる。
「そしたら麿の答えも違いそうどすなぁ」
「ふむ・・・それがしも“栄養”と考えてみたのですけど、2人が違うということは不正解かもしれませんな・・・」
「見つけた資料と関連するもんじゃないとな。ザカコたちから聞いた言葉を入力してみよう。―・・・いや、何度も間違えたら入力出来なくなってしまうかもしれない」
ザカコが考えた“欲望”と、ヘルが思いついた“呼吸”、翡翠の予想した“睡眠”とエース自身が考えた“天敵”のどれにしよか悩む。
「彼らが考えてくれたのも、生きていくために必要なことだけどな・・・」
「ねぇ、その言葉って資料室で見た絵と関係ある?」
「資料室で見たやつ・・・。人が建物や道具を作っているようなやつか?」
首を傾げて言う北都の言葉に、エースは絵柄を思い出そうと考える。
「うん・・・たしかそうだよ」
「あぁそうだったな。そうすると、呼吸と睡眠は違うかもな。何かを作る・・・ていうなら、欲望か天敵のどっちかか?人が何かを作るなら・・・商売敵とかいそうだからな」
先に欲望の方を入力してみようとエースがパネルに触れる。
「(もしこれで間違えたら・・・)」
正しいパスワードを入力出来ず、システムロックされてしまったらと思い、手を止めて入力を躊躇する。
「どうしたらいいんだ。これじゃあ水竜を助けることが出来ない!」
答えを選べないエースは悔しさのあまり、壁を拳で殴りつける。
「―・・・別の階に行った生徒から聞いた言葉も、試してみてはどうですかな?」
玲は操作パネルの傍へ行き、エースにメモを渡す。
「進化の・・・工程、過程・・・発展か発達・・・。この4つのどれかなのか・・・」
受け取ったメモの言葉の中に、正解があるかどうか考えてみる。
「ドアの向こうから何か聞こえますわ」
エリシアはハーフムーンロッドを握りドアを睨む。
キリキリとドアを引っ掻くような音が聞こえてくる。
「少なくとも他の生徒じゃないみたいだね」
禁猟区でドアの向こうにいる者が、危険な存在だと北都が探知する。
人が爪で引っ掻く音ではなく、獣が引っ掻く音でもない。
ブチブチッと潰れる音を立てながら、ドアの隙間から触手が無理やり侵入してくる。
隙間から侵入した触手はドアに巻きつくと、ミシミシと締めつけ破壊する。
「こいつはわたくしたちに任せて、早くパスワードの入力を!」
「あぁ、分かった!」
頷くとエースはパワーブレスをエリシアたちにかけると、急ぎ正解の言葉を選ぶ。
「まさかこんな時に襲撃されてしまうなんて」
エリシアは襲い掛かるヒューマノイド・ドールの触手を火術で焼き払い、再生しようとするそれをロッドで殴る。
「さっき倒したゴースト兵が、無線機で仲間に連絡してましたよね?それがここへ向かわせたんです」
星輝銃のトリガーを引き、陽太はゴーストの頭部を狙う。
「グベッゴベァアッ」
撃たれたゴーストが彼に向かって心臓の裂け目から酸を噴出す。
「―・・・っ。(これでも防ぎきれないなんて・・・)」
防毒マスクでも防ぎきれず、酸を吸わないように片腕でガードしようとする。
「うぁあ、しまった!」
一瞬の隙をついてゴーストの触手が陽太の手から銃を叩き落とす。
化け物の鋭利な爪が彼に襲い掛かる。
「ほらよっ!」
昶が鉄甲でゴーストに殴りかかり、床に滑り落ちた銃を陽太に投げ渡す。
「ありがとうございますっ」
両手でキャッチした陽太は、ターゲットの足元を狙う。
「早くパスワードを入力してくれないかい。この人数でもこいつを数体相手にするのはキツイからね」
メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)がエースを急かす。
「待ってくれ。今、考えている途中なんだ」
「進化と資料室で見た絵柄を合わせて考えてみるといいかもね」
「建物とか作っているんだよな。それに合うパスワードの答えということか?」
エースは北都に問いかけるように聞く。
「うん、そうかもしれないね」
「―・・・人が建物や道具を作る・・・生きていく上で必要なこと・・・。そうか、発展ということか!」
「きっとそれだよ!」
「それを入力しよう」
ゴーストを防いでくれている仲間のためにも急がなければと、エースはオゼトが考えてくれた“発展”と文字を入力する。
「正解か・・・不正解か・・・」
モニターに確認中の表示が出る。
「やった成功だ!」
喜びのあまり、エースは大声で叫ぶように言う。
鍵を差し込む蓋が開く。
三日月の鍵を持っている涼が入れる。
「ここに三日月の鍵を入れるのか?―・・・よし、開いたみたいだな」
ロックが解除されたモニターの表示を見る。
「鍵を持って10階へ行ってみるか」
「それを外したら水門が閉じちゃうんじゃないかな?それか時間が経ったら閉まっちゃうとか・・・」
そんなことをしたら水門が閉じてしまうのではと、北都が不安そうな顔をする。
「―・・・そうなのか?しかし10階で使えるかもしれないからな・・・。何・・・水門が閉じただと!」
涼が鍵を外すと水門が閉じてしまった。
「すまない・・・」
「上の階に行くんですか?」
「あぁ・・・」
陽太に聞かれ、涼は小さな声で言う。
「兵たちがここへ入って来てしまったら、もう1度入力できないかもしれませんから。ここで待ってますね」
そう言うと銃を構え、ゴーストの方へ向き直る。
「なるべく早く戻るようにする」
水門管理室に陽太とエリシアを残し、涼たちは廊下へ出る。
「すみません、パスワードは見つからなかったようです」
「入力する文字は分かったから大丈夫だ、グーメル」
廊下へ出た涼たちは仲間たちと合流する。
「ここまで来ると、さすがにゴーストが多いな」
階段を上り施設内監視室があるフロアへやってきた涼は、どうやって進もうかと考える。
「隠れ身で見つからないように気をつけても、発見されてしまうかもしれません」
考え込む彼に、ザカコが小声で言う。
「なるべく足音を立てないように進みましょう・・・。見つかってしまったら・・・走るしかありませんけど」
「そうするしかないようだな」
涼たちは物陰に隠れながら進む。
「見張りがいるね、なんとか退かさないと」
北都は光精の指輪で精霊を呼び出し、兵の注意を引こうとする。
「何だこりゃ」
精霊を見た兵が訝しげな顔をする。
「―・・・もしかしたら侵入者が近くにいるかもしれないぞ。仲間を呼んだほうがいいか?」
もう1人の兵は仲間を呼んでおこうと、無線機のスイッチを入れた。
「(まずい!)」
仲間を呼ぼうとする兵をナラカの蜘蛛糸で捕らえた北都が、ターゲットの両手首と頭部を斬り咲く。
「5人・・・10人・・・いや、40人くらい中にいるな」
施設内監視室のドアをそっと開け、涼は中の様子を覗き見る。
「精霊で注意を引けないなら、倒しちゃったほうがいいね」
実力行使の体術で蹴り飛ばし、床に倒れた兵たちの首に蜘蛛糸を巻きつけ、ぐいっとひっぱる。
兵の首がドスンッと床へ転がり落ちる。
「いい気になりやがって、ガキどもが!」
「北都に手出しさせねぇぜ!」
大切なパートナーを狙うやつに、昶が延髄蹴りをくらわす。
「施設内の様子は見れるけど。ほとんど自動化されているね。管理者の十天君が部屋から離れるとき、そうしたのかな?」
仲間たちが動きやすいように操作しようとするが、重要システムがほとんどロックされている。
「せめて魔力を奪わせないように止めないと・・・。どれかな・・・あったこれだ!」
スイッチを押して魔力を奪う装置を止めた。
「(姚天君たちはいないようですな・・・)」
玲は室内を見渡して確認する。
「痛覚がないという存在は、本当に厄介だな・・・!」
ショットガンでターゲットを仕留め損ねた涼の身体を銃弾が掠める。
「倒しても次から次へと来る・・・。くっ・・・博識でも、こういった場所は分かりづらいな」
三日月の鍵で開けられるところがないか周囲を調べる。
「何か見つかりましたか?」
エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が涼にヒールをかけてやる。
「いや、何も見つからない」
「これは何ですかな?」
玲は大型のケースを見つけて指差す。
「開けてみよう・・・。―・・・この鍵じゃ、無理なのか?。なっ、なんだ!?」
無理やり開けようとしたせいで、施設内に警報が鳴り響く。
「やばい、もの凄く沢山こっちに来てるよ。逃げよう!」
ここへ向かっている何十人もの、ゴースト兵たちの足音を聞いたアリシアが逃げようと叫ぶ。
「では施設を管理している装置を破壊していきましょう」
「待って!そんなことしたら、地下にいる人がどうなっちゃうかわからないよ!」
システムを破壊しようとするザカコを北都が止める。
「十天君なら緊急事態に備えて、全て地下を封鎖するかもしれない・・・ということですか?」
仲間の手当てを終えたエオリアが言う。
「うん・・・最悪の場合、そうなるかもしれないね」
彼の問いかけに北都は軽く頷く。
「な・・・・・・何かこっちに来る」
禁猟区で危険な存在の気配を探知する。
「まずいよ、早く9階へ戻らないと。それ貸して!」
涼の手から三日月の鍵を取り、北都は昶と共に水門管理室へ戻る。
「早く監視室から出るぞ!」
エースたちも下の階へ戻ったが、システムを破壊しようとしているザカコたちだけ残った。
コツコツと足音が近づき、施設内監視室の前で止まる。
「あら・・・知った顔のやつと・・・。知らないやつがいるわね」
監視室に現れた姚天君が、彼らを睨む。
「どうするつもり?」
システムにカタールの切っ先を向けるザカコに言う。
「施設の機能を停止させます」
「へぇ〜、やってみれば?その瞬間、あんたたちの負けよ」
「(相手がわざと挑発して、破壊されないようにしているのかもしれません。ですが・・・もし本当だとしたら・・・)」
強気の表情で言う姚天君が嘘をついているか考え込む。
「破壊して失敗するより、破壊せずに成功させる方を選ぶに決まっているじゃないですか」
「なっ!?」
ヘルに煙幕ファンデーションを投げつけさせ、隠れ身の術を使いザカコたちは逃げる。
「まぁいい・・・目的を達成出来れば、それでいいんだから」
無駄な戦いをしない十天君は、逃げていく彼らを見てクスリと笑う。
「ようやく戻ってきましたね」
水門管理室に侵入されないように守っている陽太が、北都たちの方へ振り返る。
「もう1度パスワードを入力して、施設から出よう」
戻ってきた北都は操作パネルの前へ走り、パスワードを入力する。
「蓋が開きましたね」
「これを差し込んでっと・・・。よかった、水門が開いた!」
差込口に三日月の鍵を差し込んで水門を開く。
「2人だけ残してすまない」
10階から涼たちも戻ってきた。
「早く脱出しましょう」
陽太たちは水門管理室から廊下へ出て、階段を駆け降りる。
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