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リアクション
第6章 怨霊蠢く闇・・・落魂陣
「10階まで来てみたけど、もう皆いないみたいだな・・・」
施設内監視室へたどり着く前、ゴースト兵たちに阻まれ、梓とオゼトは来るのが遅れてしまったのだ。
「中に誰かいるみたいだな」
監視室の中を覗き込むと女が1人、モニターを見ている。
「兵の服を着てないから、ゴースト兵じゃなさそうだけど・・・。もしかして十天君か?」
梓たちに気づいた女が振り返る。
「もしかして・・・桃天君か?」
「えぇそうよ」
そうだと答える彼女は、シマリスっぽい感じの、ぱっちりとした目をしている。
黙っていれば可愛い容姿で、外見年齢は18歳くらいの女だ。
「なるほどな・・・」
「邪魔をするなら倒すけど?」
桃天君は梓を警戒し、鞘から短剣を抜く。
「ま、待て!こんな実験とかしなきゃいけない理由ってなんだ?」
「何でそんなことを教えなきゃいけないのよ」
理由を聞こうとする梓を、桃天君が茶色の双眸で睨む。
「ただ困らせたいだけじゃないのか。それとも・・・誰かに言われたのか・・・?」
「―・・・いいわ、あなたカッコイイから少しだけ教えてあ・げ・る♪私たちはある方のためにやっているの。その方の目的を達成するために作っているのよ」
「ある方?その目的って・・・」
「邪魔なやつらを葬るためのウィルスよ!」
「もうやめないか、こんなこと・・・。誰かを傷つけて得られるものなんて何にもないって」
悪魔のような研究を止めようと、梓は説得しようとする。
「これは私たち十天君の意志よ・・・。途中でやめるならやらないわ。まぁ、私の研究も兼ねてだから、やめるつもりないけど!」
短剣の刃に火術の炎を纏わせ、桃天君が梓に斬りかかる。
「(こうなったら気絶させるしかないかっ)」
もうこうなったら仕方がないと心の中で呟いた梓は、桃天君を気絶させようと禁忌の書で殴りかかる。
「すばしっこいな」
オゼトの方へ視線を移し、相手を気絶させるように目配せする。
「(むう・・・避けられたか)」
高周波ブレードの柄で殴ろうとするが、避けられてしまう。
床へ転んで避けた桃天君は、オゼトに向かって火術で作り出した矢を放つ。
とっさに氷術でガードし気化させる。
「んーっ、もう!落魂陣の中に閉じ込てやるわ」
彼らを捕まえられない桃天君は苛立ち、術を発動しようとする。
「何かやばそうだぞ・・・逃げろ!」
捕縛されてはたまらないと、梓とオゼトは監視室から逃げるように走る。
「せっかく素敵コレクションにしようと思ったのに、逃げられたわね。まっ、いっか。またどこかで会うかもしれないし♪」
2人を捕まえようとしたが、特に何か持っていかれたわけじゃなかったため、追うことを諦めた。
「施設内監視室の機能を使えば、姚天君が施設内のどこにいるか分かるはずよ」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はパネルを操作し、姚天君を見つけようとする。
「誰かここでゴースト兵たちと戦ったようですね・・・」
床に転がっているただの死体に戻った兵を見て、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が呟くように言う。
「そこで何をしているの?」
監視室へ戻って来た姚天君が、彼女たちを睨む。
「今度こそ、あの人の仇をとるんだから!」
憎い相手を睨み返した美羽は、ブライトマシンガンを構えてトリガーに指をかける。
「サポートします・・・」
ベアトリーチェはパートナーの傍に寄り、ブライトスタッフを握る。
「あの人って誰よ?」
「―・・・あなたが殺した人・・・ヘルドのことよ」
睨みながらギリリッと、トリガーを引こうとする。
「うーん・・・誰だったかな。・・・あぁー思い出した!この私を裏切った野郎のことね。邪魔をするなら、パラミタ内海に沈めてやるわよ」
3人を囲むように円環内に黒白の2線が現れ、ぐるぐると回転する。
真っ暗な闇が床や壁、天井へ染み込むようにフロア内を覆う。
「ここは・・・・・・。墓場・・・?姚天君はどこ!?」
目の前にいたはずの姚天君の姿はない。
彼女を探そうと美羽が周囲を見回す。
「ここよ」
姚天君は墓石の上に座り、美羽たちをクスクスと笑いながら見る。
「私の陣の空間・・・私を倒さないかぎり、お前たちはここから出られない」
落魂陣を発動させ、2人をこの空間の中へ閉じ込めたのだ。
「ていうかさぁ、何で仇とか言われなきゃいけないのよ」
「あなたがゴーストに命じて、ヘルドさんを殺したからです」
憎い敵を見る目で、ベアトリーチェが姚天君を睨む。
「実験の秘密を知る者を、葬るのは当然じゃない?もっと利用してやろうと思ったけど・・・。島村幸とかいう小娘とかが、あいつに余計なことを喋ったから協力を拒否してきたのよ」
「あんな生物兵器を作るための実験と知ったら、そんなの拒否して当然です!」
「愛する人・・・婚約者を蘇らせるチャンスかもしれないのに、まったくばかな男だわ。お前たち・・・小娘どものSPを奪い尽くしなさい♪」
姚天君は美羽たちのSPを奪えと怨霊に命令する。
「邪悪なる魂よ・・・消え去れ!」
ベアトリーチェが迫り来る死霊に向かってバニッシュを放つ。
「蘇らせる方法・・・?そんな方法、教える気もないくせに!」
美羽は卑劣な悪女を倒そうとマシンガンを撃つ。
「あら?この実験を元に、愛する彼女を蘇らせられるかもしれないわよ?」
「嘘つき女。愛する人とか、軽々しく口にしないで!あんたなんかにその言葉を言う資格はない!」
墓石の陰に逃げ隠れする女に向かって怒鳴り散らす。
「(逃げても無駄よ、このマシンガンは姚天君だけに当てるようにしているんだから)」
「あっははは。どこを狙っているの?」
口元に片手を当ててクスクスと笑うと姚天君は、美羽に向かって火術で作った炎の矢を放つ。
「火術!?」
美羽はとっさに地面へ転んで避ける。
「早く起きないと、灰にしちゃうわよ♪」
動物をいたぶるように、姚天君が火術を連発させる。
「立ってください美羽さん」
ベアトリーチェは美羽を助け起こし、バニッシュを放って墓石の陰へ隠れる。
「視界が悪すぎる・・・」
暗闇の中では視界が悪く、命中させることが出来ない。
「美羽さんこれを」
「ありがとう」
ベアトリーチェから手渡されたSPルージュを美羽は唇に塗り、身体の疲労で減ったSPを回復させる。
「怪我してますね・・・。今、治してあげます」
ヒールで美羽の火傷を治してやる。
「私はここよー、撃ってみなさいよ」
姚天君は両腕を左右に広げ、やれるものならやってみろと挑発する。
仕留めるチャンスだと思い、ターゲットに向かってマシンガンを撃つ。
「きゃぁあ、痛いーっ」
「自分から撃ってくださいなんてことするなんて、バカなヤツね」
「フフフ・・・」
「―・・・何が可笑しいの?」
不敵に笑う姚天君を見て、美羽は眉を潜める。
「私は低リスクで勝利を得る派なの。この程度のダメージなら低リスクよ」
「しまった!」
姚天君の行動ばかりに気を取られ、忍び寄る怨霊たちの存在に気づけず、いつの間にか美羽たちの背後まで迫っていたのだ。
スピリットが美羽とベアトリーチェにとり憑こうと、彼女の腕を掴む。
憑依されないように、聖なる札で防ごうとする。
「あっははは!そんな札1・2枚でどうするの?やってしまいなさい、怨霊たち!」
「―・・・まさかこんなにいるなんて!」
バニッシュで悪霊たちを何体倒しても、次々とどこからか湧いてくる。
「あのさぁ。私がゴーストに命じてヘルドを殺したから、私を倒すっていうの?」
「そうよ!」
問いかけてきた姚天君に、仇を取るために倒すと言い放つ。
「はぁー?目的は違うけど生物を実験に使ったのは、私と同じじゃないの。餌に釣られて協力したあいつも同罪・・・」
「違う・・・」
「いいえ違わなくないわ。あいつだって生命を使ったことには変わりはないのよ」
「―・・・違う」
「どこが違うのか言ってみなさいよ」
「ヘルドは姚天君と違って、心のどこかでいけないことだと思っていたはず・・・。平気で生命を道具のように扱っているあんたなんかと一緒にしないで!」
負けるものかとSPタブレットを口に放り込み、美羽は姚天君を追いかけながらマシンガンを撃ち続ける。
「うぅ、この私が小娘なんかに・・・。なぁんてね♪」
姚天君は追い詰められているフリをし、ベアトリーチェを大量の怨霊で囲む。
「くっ・・・、今そっちに行くわ」
「大丈夫です美羽さん、聖なる光で消してみせます」
怨霊を倒そうとベアトリーチェはバニッシュを放ち、SPタブレットを食べる。
「フフフ、そんなに術を使っていいのかしら?」
「その勝ち誇ったような笑いも、いつまで続くでしょうね」
「SPタブレットは1度服用すると、時間が経たないと効果ないのよねぇ。それと・・・聖なるローブでも、怨霊たちに効き目はないわ」
「ま・・・まさか・・・」
「直接SPを削れないなら、こういう方法もあるってこと♪あまりダメージをくらわないように、距離をとってたからね」
彼女たちに術を使わせてSPを切らせるためにわざとマシンガンをくらい、自分に注意を向けている隙に怨霊を標的の背後へ向かわせたのだ。
火術の爆煙に紛れて姿を隠し、墓石の陰に隠れながら間合いを詰める。
「小細工ばかり使って、卑怯よ!」
接近されないように、美羽はマシンガンを撃ちまくる。
「これで終わりよ♪」
術の届く位置まで間合いを詰め、ファイアストームの炎の嵐で美羽たちを囲み、怨霊たちの餌食にする。
「魂を貫かない限り無理♪私を倒す方法は・・・ないこともないけど、あんたらじゃ無理よ」
小ばかにされたように、せせら笑う女を2人は悔しそう睨む。
「残念だったわね、小娘たち。もしもし?こいつらを牢屋へ連れて行って」
無線機でゴースト兵を呼び、美羽たちを牢へ連れて行かせた。
「邪魔なのが来ないうちに、水竜を連れて逃げようかしら。大事なコレを取られたら最悪だし」
涼たちが開けることが出来なかったケースに手をかけて鍵を開ける。
「あいつがこの施設のボスか?」
美羽たちを牢へ連れて行かせ、監視室に戻ろうとする姚天君をミューレリアが見つける。
道の途中で幸たちと別れ、何か情報を得ようとここへやってきたのだ。
ここまで来る途中にだいぶ疲労し、SPが減ってしまったミューレリアは、SPタブレットを食べて回復する。
光条兵器を構え、光学迷彩で姿を隠しながら近づく。
標的の身体を貫こうとブラインドナイブスで相手の隙を狙い、不意打ちをくらわそうとする。
「誰!?」
静まり返った室内へ近づいてくる足音に気づき振り返る。
「ちっ、掠り傷か」
気づかれてしまい、腕に掠り傷を負わせた程度だった。
「(何だあれは・・・)」
相手の傍にあるケースの中に手を突っ込み、蓋をしてあるシリンダー型の容器を1つ奪い、煙幕ファンデーションを投げて監視室から出る。
「待て小娘ーーっ!!」
姚天君はケースを閉じて抱え、逃げるミューレリアの後を追いかける。
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