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リアクション
序
まるで竜の歯、無数の鍾乳石が垂れ下がっている。
鍾乳石の先端から一滴、二滴、ときおり雫が落ち、水たまりに落ちる他に物音はない。ダンジョンは墓場のように静まり返っていた。
地下第一層、岩肌に開いたスロープからつづくこの場所には、まだ幽かに光の差し込む余地がある。そのおぼろげな光に眼を細めるか、あるいは闇に目が慣れれば、いずれわかることがあるだろう。
――この場所は、無人ではない。
方々に見られる石筍(落ちた雫が長い年月をかけ結晶化したもの。タケノコのような形状となるためこう呼ばれる)、あるいは石柱の影、さもなくば壁の裂け目から、黄色く濁ったものがちらちらと見え隠れしている。
眼だ。
一組や二組ではなかった。数え切れないほどの黄色い眼が、飢えた獣さながらにせわしなく動いている。
注意深く観察することができるなら、その眼の持ち主が尖った耳、平らな顎と口を有し、口の間から鋭い犬歯をのぞかせているのも見えるに違いない。人間の子ほどの背格好、腰にまとうものを除けば全裸に近かった。大抵のものの肌は枯れ葉色で、ほぼ例外なくかさかさに乾いている。ゴブリンである。
雫ではない物音が聞こえた。足音、それも、集団が近づいてくる音だ。
ゴブリンの一匹が、手にした棍棒を握り直した。涎があふれそうになり、反対側の手首でごしごしと拭う。耳まで裂けそうな口でほくそ笑むものがあるかと思えば、別の一匹はグッグッと含み笑いした。だがそれも暫時のこと。
獲物は近い。ゴブリンたちは期待と興奮に上気しつつ口を閉ざしていた。もうすぐ、何も知らぬ人間の集団がやってくる。以前侵入してきた一団は逃してしまったが、そのときの反省を生かし、今度は何倍もする頭数を揃えている。奇襲すれば数の暴力もあり、たやすく殺しつくせるはずだ。そうすれば腹一杯食えるだろう。
人間、とりわけ若い女の肉は、極上の甘さだと聞いている!
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