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リアクション
第五章 画家の肖像・1
空京美術館は、緊急閉館となった。
ただし、騒ぎの一般被害者の関係者は館内に残ることとなり、現場有志の窓口となっている二色峯景が彼らの対応に当たった。
「現在被害者救出の為に全力で捜査に当たっている。新しい動きあれば逐一報告するので、どうか落ち着いて待っていて欲しい」
というアナウンスに被害関係者らも納得し、現在は対策本部とは別な会議室に詰めてもらう形となってる。
また、被害者台帳が出来上がり、その内容も「ビュルーレ絵画事件@空京美術館」にアップされた。その内容に、スレッド内は騒然となった。パラミタ大陸の者をパートナーに持つ「契約者」が、少なからずいたからだった。
被害者となった「契約者」は、以下の通り、
五月葉 終夏(さつきば・おりが)
広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)
広瀬 刹那(ひろせ・せつな)
ニアリー・ライプニッツ(にありー・らいぷにっつ)
遠野 歌菜(とおの・かな)
フリードリッヒ・常磐(ふりーどりっひ・ときわ)
伊藤 若冲(いとう・じゃくちゅう)
黒崎 天音(くろさき・あまね)
シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)
浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)
白乃 自由帳(しろの・じゆうちょう)
蚕養 縹(こがい・はなだ)
白菊 珂慧(しらぎく・かけい)
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)
夢野 久(ゆめの・ひさし)
佐野 豊実(さの・とよみ)
岬 蓮(みさき・れん)
芦原 郁乃(あはら・いくの)
師王 アスカ(しおう・あすか)
ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)
エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)
ノックをした。
「失礼します」
クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)はそう言ってから、ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)と一緒に館長室のドアをくぐった。。
応接用ソファには「館長」の名札をつけた禿頭の中年と、白髪頭の彫りの深い顔つきをした五〇手前と思しき白人の男が向かい合って座っていた。
「対策本部のクリス・ローゼンとユーリ・ウィルトゥスと申します。館長とロデリックさんに教えていただきたい事がありますが、今、よろしいでしょうか?」
「ああ、構いません」「私に答えられることならば、いくらでも」
クリスの台詞に、両者が頷いた。どうやらこの白人男性がコルバン・ロデリック氏のようである。
クリスがロデリック氏に向けて問いかけた。
「ロデリック家は、代々故アルベール・ビュルーレ氏を支援しているとうかがいました」
「……まぁ、曾祖父、祖父は相当入れ込んでいましたね。父も多少は支援していたようですが。それが何か?」
「支援された理由は何だと思われます?」
「『才能を感じた』、『自分が支援しなければこの画家は埋もれてしまうと思った』、と生前の祖父は答えていました」
ロデリック氏は答えた。
「同じような質問を、父も祖父にしたそうです。『こんな気持ち悪い絵のどこがいいんだ』って。
その理由が私にも分かるようになったのは最近ですね」
「その理由とは?」
「祖父と同じです。『才能を感じたから』ですよ。あの老人は、父や私には見えないものが見えていたのです。さらにそれを、他人に見せて、伝えることができた。
――こういうのをこそ、『才能』というのでしょう。天賦のものか、錬磨と努力の末に身につけたものかは分かりませんが、どれほどお金を積み上げても、例え人生をやり直しても、私がそれをつかむことはできますまい」
クリスは、質問に答えるロデリック氏のしぐさを注意深く観察した。
眼を細め、微かに口元に笑みを浮かべる様子には、過去を懐かしむ以上の意味は感じられない。
「あの老人――という事は、生前のビュルーレ氏に会ったことが?」
「もちろん、ありますよ。臨終の場面にも立ち会いました」
「……何か、言い遺されていましたか」
「ええ。『人は信じるに値するか』、と」
束の間、沈黙が下りた。
「……よろしいか?」
ボソリ、とユーリが口を開く。
「差し支えなければ、美術館の最初の企画展に『アルベール・ビュルーレ展』を選んだ理由をうかがいたい」
「それも、私が強くお願いしたからですよ。こちらの館長に」
ユーリの問いに答えたのもロデリック氏だった。
「自分が贔屓にしている画家を、もっと多くの人達に知って欲しい。そんな単純なファン心理です。もっとも――」
「もっとも?」
「もっとも、空京やパラミタに関わるきっかけが欲しかった、というのも正直な所ですがね。ここは地球最後のフロンティアです。ビジネスチャンスはいくらでも転がっている。放っておく手はありませんからね」
館長室を退室した後、クリスは眼で(どう思う?)とユーリに訊ねた。
ユーリは首を横に振った。(怪しい所は何もない)、というのが心証だ。
事前にできるだけ調べて見た所、ロデリック家にも特におかしい所は見つからなかった。曾祖父の代で成功したアメリカの富豪の家で、鏖殺寺院等テロ組織との関わりも見られなかった。騒ぎの起きた今日、空京美術館に来館していたのも「偶然」以上の意味はなさそうだ。
館長室から大分離れてから、「空振りですね」、とクリスは口を開いた。
「収穫は遺言だけ、か。多分他の人達にも、すぐに見つける情報ですよね」
「鏖殺寺院等の息はかかっていなさそう、というのも大きな収穫だろう。おかげで余計な事に気を回さず、画家と絵だけの調査に専念できる」
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