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学生たちの休日5

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学生たちの休日5
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リアクション

 
    ★    ★    ★
 
『響け! 鮮烈のフレッシュビート! ピュアマスカット!』
 スピーカーから流れる声優の声にあわせて、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)はステージに駆けあがっていった。
 被り物のミニヒロインショーのバイトで、ホテルでの映画制作発表会に来ている。
 べつだん、ローザマリア・クライツァールが映画に出られるわけではないが、番組が広く展開してくれれば、バイトでやっているヒーローショーの依頼も増えるというものだ。それに、今日のバイトは、ちょっとした余録が魅力的でもあった。
 
    ★    ★    ★
 
「ローザマリア・クライツァール様ですね。お預かり物でございます」
 ショーを終えてドレスに着替えたローザマリア・クライツァールがロビーに駆け込むと、待ち受けていたホテルマンがかかえるほどの花束を彼女に手渡した。
「あちらの方からでございます」
 ホテルマンが指し示す方に、こちらを見て微笑んでいるセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)の姿があった。
「お疲れ様」
 座っていたソファーから立ちあがって、セオボルト・フィッツジェラルドがローザマリア・クライツァールを迎える。
「待ちました?」
「ええ、楽しく」
 これまた、あまりこういったデートには慣れていないセオボルト・フィッツジェラルドが、微妙に答える。
「さあてっと、行きますか」(V)
 そう言うローザマリア・クライツァールをエスコートして、セオボルト・フィッツジェラルドはエレベーターにむかった。
 大きな花束をプレゼントするところまではよかったのだが、おかげで手を繋げなくなったのは誤算だ。
 最上階に辿り着くと、そこはほぼフロア全部が、このホテルの名物である展望レストランであった。
 ローザマリア・クライツァールが、今日のバイトの報酬として特別にもらったのが、このレストランのペアお食事券だった。
「どうぞ。御予約のお客様ですね」
 これまたレストランのバイトをしていたフランシス・ドレーク(ふらんしす・どれーく)が、二人を予約席へと案内していった。普段とはまったく別のちゃんとした格好をしているため、パートナーであるローザマリア・クライツァールにも気づいてもらえない。もっとも、ローザマリア・クライツァールがデートで舞いあがっていて周りをちゃんと見ていなかったということもあるわけだが。
 そのころ同じホテルのロビーでは、二組のカップルが待ち合わせをしていた。
「本日は、お招きいただき、ありがとうございました。こちらは、ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)カシス・リリット(かしす・りりっと)殿です」
 ウィリアム・セシル(うぃりあむ・せしる)が、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)に一緒に来た二人を紹介した。
「御招待ありがとうございます」
 ヴィナ・アーダベルトとカシス・リリットが軽く会釈した。
「妾がエリザベス?世だ」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーが大仰に挨拶を返す。
「さて、じゃあレストランに行こうか」
 ヴィナ・アーダベルトが、カシス・リリットをエスコートしてエレベーターへむかおうとする。
「大丈夫。一人で歩けるから」
 少しはにかんで、カシス・リリットが軽くヴィナ・アーダベルトの手を避けて歩きだす。
「あれはなんだ?」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーが、ちょっと不可思議そうにウィリアム・セシルに訊ねた。
「カシス殿はヴィナの内妻です」
「ほう、男同士で……。いつの時代も変わらぬものなのだな」
 簡単に納得して、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーがウィリアム・セシルと共にエレベーターにむかう。
 レストランでは、それぞれが別のテーブルに案内された。
「御久しぶりですな、陛下。そちらは、バーリー卿ですか。同じ時代を生きた者として、このドレーク、お二人の再会、嬉しく思います」
 ウェイターとしているフランシス・ドレークが、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーとウィリアム・セシルをテーブルに案内して言った。
「うむ。そうだな。同じ時代を生きた――ウィルが息をひきとったとき、妾はそちにすがって涙にくれ、『臣下を称しながら、妾を残して先に逝くとは、そちは世界一の不忠者ぞ!』と心にもない言葉を其方に浴びせてしまったな……。当然のごとく側に在ったそちの存在の大きさに、そしてそちへの想いに、おそまきながら初めて気づかされたのだ。今となっては、苦い思い出よのう」
「そのようなことは、お気になさらずに。東西に分かれてからというもの、私としてもライザ様が気がかりでしたから。情勢も安定しているとは言い難いですし。もっとも、私の沈まぬ太陽が輝きを失うとは思ってませんが。そして今、ライザ様は輝いておられるのですから」
 同じ時代に同じ場所で生きた英霊たちが集まれば、残る記憶の断片で積もる話もあるだろう。それは時を超えた言の葉の続きであったりもするのだ。
 
 そのころ、カシス・リリットはヴィナ・アーダベルトとともにのんびりと外の夜景を眺めていた。
「いい眺めだぜ」
「そうだな。たまにはこういうふうに外食もいいもんだ」
 ヴィナ・アーダベルトが相づちを打つ。
「まあ、自炊だと大変なことになりかねないしな。この前の帰省のときなんか、カレー一つ作るのに二人がかりで指導してやっとこさだったからな」
「それは……。なんとか作れたからいいじゃないか。娘も喜んでくれたし。今度はケーキが焼けるようになるまで頑張るさ。そこでだ、また手ほどきを頼む」
 そう言うとヴィナ・アーダベルトがカシス・リリットを拝む格好をした。
「しかたないな。ケーキを作れるようになるまでの道のりは相当長いと思うぞ、覚悟しとけよ」
 ちょっと嬉しそうに、カシス・リリットは答えるのだった。
 
 同じ夜景を、ローザマリア・クライツァールもうっとりと眺めていた。
「バイトは順調なのですかな?」
 何か話題はないかと、セオボルト・フィッツジェラルドが苦労して訊ねた。
「うん。所属しているアクションチームの責任者の人が、私のアクションを見込んでくれて、今日のチケットを手配してくれるぐらいには順調よ」
 悪気なくローザマリア・クライツァールが答える。
 いや、本来なら、チケットの手配は自分の仕事だろうと、セオボルト・フィッツジェラルドが少し落ち込んだ。まったく、自分の甲斐性のなさがうらめしい。
「一度こういう場所に、好きな人と来てみたかったのよね――セオ、今日は一緒に来てくれて感謝するわ。大好きなあなたと二人きり。私、とても幸せ」
 一回り以上年下の少女の横顔に見とれながら、セオボルト・フィッツジェラルドは、喜んだり戸惑ったり、複雑な心境だった。