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リアクション
★ ★ ★
「いや、いきなりこんな所に呼び出して何かと思ったが、そういうことか」
葦原島の外れの原野に呼び出された武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)と龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)を前にしてそう言った。
「ええ。あなたは強くなった。仮面を必要としないほどに。自らを隠すことをやめたあなたに対して、そろそろ私も隠れてないで正面から戦うべきだと感じました」
龍ヶ崎灯が、淡々と武神牙竜に言った。
「リリィがいろいろちょっかいを出してくる裏に誰かがいる、それが灯だとうすうす気づいてはいたが、まさか、人を捨てて魔鎧になっていたとはな」
「私には、もう時間がなかったから」
地球にいたころの龍ヶ崎灯は、余命幾ばくもない身体だった。いきさつはまだ分からないが、それを克服してパラミタに来るために、彼女は魔鎧になったらしい。だとすれば、彼女は一度死んだのか、あるいは生きている間に魂を抜かれて魔鎧にされたのだろう。それが誰の手による所行なのかは、本人に聞かせてもらうしかない。
「だからって、人を捨ててまで……。灯が俺の前から姿を消すときに残していった『ヒーローとしての牙竜を一番見られる場所に行く』という言葉の意味は、ここで聞かせてくれるんだろうな?」
「私に勝てたらね」
龍ヶ崎灯は、きっぱりと武神牙竜に言った。
「ごめんなさい。お姉様と牙竜のために、私は牙竜と戦う悪になるね」
リリィ・シャーロックが身構えた。
「戦わなければ話してはもらえないのか……。手加減はしないぜ」
武神牙竜が、すっとその手を翳した。
殺気はない。
「まったく……。武器は必要ないな」
武神牙竜はつぶやくと、持っていた物をその場に投げ捨てた。
「全力を出さないと、失礼だよ!」
リリィ・シャーロックが血煙爪を振り上げて襲いかかってきた。
武神牙竜が素早く体を躱すところを、サンダーブラストで逃げる方向を薙ぎ払う。
予期していた武神牙竜の姿は、すでに別の場所に移っていた。
「リリィの戦い方は、知り抜いている」
「ええ、あなたの戦い方もね……」
武神牙竜の先回りをして待ち構えていた龍ヶ崎灯が、ヘキサハンマーを振り下ろした。怪力の籠手でかろうじてそれを弾き返すと、武神牙竜が間合いをとろうとする。そこへ、再びリリィ・シャーロックが割り込んできた。
「いいコンビネーションだ。だが……」
全力で二人から離れると、武神牙竜が大きく広げた両手をパチンと打ち鳴らした。追ってくる二人の左右から、サイコキネシスで動かされた登山用のザイルが、生きている蛇のように鎌首をもたげて飛んでくる。そのまま、二人を絡めとって動けなくしてしまおうというのだ。
「だから、あなたの戦い方は分かっているのよ」
素早く飛び退った龍ヶ崎灯とリリィ・シャーロックが、背中合わせに立って声を揃えた。
「そうかな……。俺は変わった」
武神牙竜がそう言ったとたん、ザイルを避けた二人の足許から、突然しびれ粉が噴きあげた。
「しまった……」
思い切りしびれ粉を吸い込んだ二人が、その場に倒れ込む。
「まったく。相変わらず二人とも不器用な奴だ。こんなことをしなくちゃ、まともに話もできないなんて……」
倒れた二人をちゃんと地面の上に寝かせて、武神牙竜が言った。
「さあ、話してもらおうか、約束だ」
武神牙竜に言われて、龍ヶ崎灯がゆっくりと口を開いた。
「パラミタに着いた私は、あなたのパートナーではなく敵になることを選びました。だって、パートナーになったとしても、ワタシが見ていられるのはあなたの背中だけ。あなたの視線の先は、別の所にある。それならば、敵であれば、あなたは私を見てくれる。それが、たとえ憎しみの瞳であったも……。だから、リリィに頼んで、あなたが私とちゃんと戦えるように……」
「まったく、どこまで抜けているんだ……」
一言言ってくれればいい物をと、武神牙竜が溜め息をつく。
「みごとです。これで、もう、思い残すことも……」
「いや、魔鎧になったのなら、もう別の身体なんだから、病気関係なくないか?」
「あっ……」
武神牙竜の言葉に、龍ヶ崎灯がはっとする。
「昔から、肝心なところが抜けてるんだよな。灯の未来は、閉ざされてなんかねーよ。これからは、こんな回りくどいことをしないでちゃんと話せよ。リリィもな」
二人に手を貸して引き起こしながら、武神牙竜が言った。
「お姉様は死なないのね? 私は、この似た者同士の単純馬鹿二人のために頑張ってたのに……。でもいいわ、これで無事に解決よね!」
リリィ・シャーロックが、今までのことを思い出して、ちょっと複雑な心境で言った。
「認めましょう。これが契約の印のカードですよ。これから私はあなたの鎧です」
龍ヶ崎灯が、お手製のカードを武神牙竜に手渡した。
「これで、真・ケンリュウガーに……」
「こうか? 変身、ケンリュウガー!!」(V)
武神牙竜が、カードを掲げて叫ぶ。
龍ヶ崎灯の姿が光につつまれ、一糸まとわぬ姿が光となって消える。次の瞬間、武神牙竜に光が収束して、魔鎧が現れた。その姿は、ケンリュウガーそのものだ。
「さて、帰りましょう。もちろんあなたの家にですよ」
龍ヶ崎灯の声だけがする。
「よし、行くぜ! 行くぜ! 行くぜ!」(V)
武神牙竜が走りだした。
「ちょっと、おいてかないでよ!」
リリィ・シャーロックは、あわててその後を追って走りだした。
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