リアクション
5.ツァンダの絆 「きっのこ、のこのこ、きっのこのー♪」 バスケット片手に、岬 蓮(みさき・れん)はツァンダ近くの森を行進していた。 「静かな森が台無しやろ」 せっかくの散歩なのにと、アイン・ディアフレッド(あいん・でぃあふれっど)が言った。 「だって、たくさんキノコが採れるんだもん。今日は、帰ったらカレーキノコうどん鍋だよ」 夕飯の食材を確保しながら、岬蓮が言った。 「間違っても、毒キノコ採りなさんなよ」 「大丈夫! 私、運が強いし! 毒なんかぜーったいあたらないもん! ……多分」 「多分って……」 だめだこりゃと、アイン・ディアフレッドが天を仰いだ。 「食事ちゅうもんは、正しく行わないといかんのや。正しくな……」 言ってしまってから、アイン・ディアフレッドがちょっと遠くを見つめて黙り込んだ。 「ねえ、アインが前に住んでいた森って、ここと同じような所なのかなあ」 岬蓮が、アイン・ディアフレッドに訊ねた。 「そうやな。似ちゃってると言えば、似ちゃってるとも……」 「そうかあ。何か見つかるといいよね」 そう言って、岬蓮はキョロキョロとあたりを見回した。 彼女としては、アイン・ディアフレッドが気にしているマイン・ディアフレッドのお墓が見つかればいいなあとは思う。 アイン・ディアフレッドは、過去に彼女を死なせてしまったらしい。それをずっと悔やんでいるのだが、悔やむだけでは何も変わらない。過去を見つめるのなら、悔やむのではなく、正面から見据えてもらわなくてはだめだろう。 ならば、現実として、その人の死を受け入れてもらう方がいい。 「頑張って、いろいろ探そうねっ」 アイン・ディアフレッドを元気にうながすと、岬蓮は走りだした。 ★ ★ ★ 「静かな森だと思ったのに、意外と人がいるようだな」 どこからか聞こえてくる岬蓮の元気な声を耳にして、神崎 優(かんざき・ゆう)が言った。 「こんなときまで、周囲の気配を気にすることはないさ。のんびりいこうぜ」 少しは力を抜けと、神代 聖夜(かみしろ・せいや)が言った。 森の中のちょっと開けた所で、神崎優たちはランチを食べていた。パートナーたちと総勢四人で森林浴に出かけてきたのだ。 「お味はどうですか?」 陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)が、男性陣に訊ねた。 タッパーに入れて持ってきたお弁当は、里芋の煮つけと栗ご飯だ。遅い紅葉の風景と相まって、実に秋らしい。 「うん、美味しいぜ」 「ああ、絶品だな」 元気にお弁当にぱくつきながら、神崎優と神代聖夜が答えた。 「やったね、刹那」 水無月 零(みなずき・れい)が、陰陽の書刹那と軽くハイタッチをして喜びあう。 「ごちそうさま」 食べ終わった神崎優がごろんと横になった。ちょうど頭が膝頭にあたりそうになったので、水無月零が少し動いてそのまま膝枕をする。ちょっと恥ずかしいかと思うが、神代聖夜たちは見て見ぬふりをしてくれていた。 「いい天気だ」 「うん」 秋晴れの空を見あげて、神崎優がつぶやく。水無月零は、素直にそれにうなずいた。 自分たち以外の人の気配も消えて、聞こえてくるのは風にそよぐ木々の葉擦れの音だけになる。時の流れは、流れていく雲の位置でしか感じられない。 ふと気づくと、神崎優は微かな寝息をたてていた。 「やれやれ。いつもこれぐらい肩の力を抜いてくれているといいんだがなあ」 寝顔を見ながら、神代聖夜が言った。 「いつも、私たちのことを気にしてくれていますから。――本当に御苦労様です」 「そうだな。これからもよろしく頼むぜ、相棒」 陰陽の書刹那の言葉に、神代聖夜がうなずいた。 「ええ。いつもありがとう。優……」 膝枕を続けながら、水無月零が言った。 三人は、そのまま神崎優が目を覚ますまで、その周りで思い思いに彼を取り囲んでいた。 ★ ★ ★ 「何を買おうかなあ♪ ねえ、某さん……聞いてます? あの某さん、もしかして楽しくないですか?」 せっかくツァンダにショッピングに来たのに、なぜか上の空に見える匿名 某(とくな・なにがし)に、結崎 綾耶(ゆうざき・あや)がちょっと不満そうに声をかけた。 「いや、楽しいよ……」 「ほんとに?」 再度問いただされて、匿名某が苦笑する。 「綾耶に、隠しごとはできないなあ。実際、俺は今までのこの世界の出来事には無関心だった。いや、無関心でいられたというのが正しいかな。誰が女王になったとしたって、それなりに世界は回っていく。何かあれば、そのときに考えればいいことだったんだ。だが、今は違う。西と東……。世界が二つに分かれちまった。人もな。いつ、昨日までの知り合いと闘うなんて状況になるやもしれない。それに、東には親友や恩人もいる。だから東西戦争なんて事態は絶対に避けたい。だから、今度ばかりはどんなに無力だろうと世界とむきあわなければならないんだ俺も、変わらなければならない……。だから、綾耶も力を貸してくれないか? ……こんな俺を、助けてくれないか?」 「もしも、もしも、それが、可能なのでしたら……」 「もちろんだ。だからこそ、俺は何があっても綾耶のそばにいる。何があってもだ」 言外に自分にその資格があるのかと言いたげな結崎綾耶の手をとると、匿名某は力強くしっかりと握りしめた。 「はい。何があっても!」 結崎綾耶はそう答え返すのだった。 |
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