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リアクション
★ ★ ★
「さてと、みんなはまだ見学中か」
城下町の食堂のテーブルに着くと、無限 大吾(むげん・だいご)は時計を確認した。
「コルセスカさんたちはお買い物のようです」
高峰 結和(たかみね・ゆうわ)が言う。
「帰りの飛空艇までは自由行動みたいだから、こちらはこちらで食事にしよう。えーと、メニューはと……」
お品書きと書かれた小冊子を無限大吾は開いた。
「弱肉定食……って、焼き肉の間違いじゃないのか!?」
「衝撃とんかつというのもありますね」
高峰結和が目を丸くする。
「滅殺らぁめんに、撃滅うどんって……。なんかもう突っ込む気力ないや。まあ、どんな物が出てきたとしても、さすがにセイルの殺人料理より何倍もましだろう」
無限大吾は、アンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)と一緒にカウンター席にいるセイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)の方をチラリと見て言った。
「うん、料理につける名前じゃないよね」
西表 アリカ(いりおもて・ありか)が、無限大吾に同意する。
「適当に挑戦してみるか。うーん、衝撃とんかついってみるかな」
「大吾のことだから、なんかそういう危なそうなのいくと思ったよ。ボクはっと……、ぶっかけ? 蕎麦なのかな、うどんなのかな。面白そうだからこれにしちゃえ〜」
西表アリカが適当に決める。
「どれもこれも危ない感じがするよ〜。う〜ん、どうしようかな〜」
廿日 千結(はつか・ちゆ)が悩む。さすがに、二人のように冒険する気にはなれない。
「あっ、はんぺんそばってあるんだ。でも、なんかこれが一番無難そうだからこれにしよ〜っと」
「うー、何を目指したいのかはなんとなく分かるんですけど……分かるんですけどー!」
悩みつつ、高峰結和も無難な所で日替わり定食を頼むことにした。
しばらくして、頼んだ物が運ばれてきた。
「どこが衝撃とんかつなんだろう……」
カミカツの載った皿を見て、無限大吾が悩んだ。
「多分、等活地獄かドラゴンアーツの衝撃で薄くのばしたとんかつなんじゃないの?」
ちょっと自信なさげに西表アリカが言った。
そんな西表アリカの目の前には、とろろをぶっかけたスパゲッティーがおかれている。
「以外と美味しそうでよかったねぇ〜」
それとくらべて自分はと、廿日千結は、自分のはんぺんそばを見つめた。蕎麦と言うよりも、うどんのような細切りのはんぺんが温かいつゆに浮かんでいる。
日替わり定食は、弱肉定食だった。蜂の巣とか、柔らかいモツの焼き肉定食となっている。
「うー、ネタメニューは避けたのに……避けたのに……」
高峰結和が、がっくりとうなだれる。
見てくれはどれもちょっとという料理ばっかりだったが、味はそこそこで、食べられない物はなかったのが唯一の幸いだっただろうか。
「みんな楽しそうですね」
アンネ・アンネ三号とカウンターに行ったセイル・ウィルテンバーグが、のんびりと言った。
彼女の前には、煮干しがおいてある。
煮干しという物が何か分からないセイル・ウィルテンバーグが頼んだのだが、実際に来たのは丸干しに近い大きめの煮干しで、充分におかずになりそうな物だった。
アンネ・アンネ三号の方は、せうゆという物がメニューにあったので、こちらもそれがなんなのかまったく分からずに注文していた。はたして、来たのはもろみ醤油で、完全に酒の肴であった。
「そうですね。君のパートナーは、どんな人なんですか?」
セイル・ウィルテンバーグに同意しながら、アンネ・アンネ三号が訊ねた。
「ん? パートナーの話ですか。そうですねえ……。大吾は、バカみたいに正直でお人好しですね。困ってる人を見ると放っておけませんし、お願いされると断れないですし。曲がったこと嫌いで悪いこと許せませんし。そのために全力で体張りますから、危なっかしいです。でも……、私は、そんなまっすぐな大吾に魅かれたんですよ」
無限大吾の方を振り返って煮干しをボリボリと囓りながら、セイル・ウィルテンバーグが言った。
「それで、あなたの方はどうなんです?」
「結和は、倉庫で埃を被っていた機晶姫の僕なんかの世話を焼いちゃうお人好しです。僕は、起動前の記憶がないので、分からないことや不安なことも多いけど、結和は笑顔で支えてくれるんです」
少しおずおずとアンネ・アンネ三号が答えた。
「三号、大事なのは過去ではなく今ですよ。ねっ」
パートナーたちの方を見て、セイル・ウィルテンバーグはニッコリと笑った。
★ ★ ★
「お小遣いの範囲内にするんだぞ」
城下の土産物屋ではしゃぐルーシェン・イルミネス(るーしぇん・いるみねす)たちに、コルセスカ・ラックスタイン(こるせすか・らっくすたいん)が注意した。
「いーじゃない。せっかくの観光なんだもん、来られなかったみんなにお土産買いたいんだから」
三角ペナントや、木彫りの鬼に手をのばしていたルーシェン・イルミネスが、ぷーっと頬をふくらませて言い返した。
「これ、格好いいんだけど、なんて書いてあるのかな?」
いくつかのプリントTシャツをかかえ持ったシエル・セアーズ(しえる・せあーず)が、そこに書いてある文字を神崎 輝(かんざき・ひかる)に訊ねた。
「ええと……」
でかでかと胸の部分に書かれた文字を見て、神崎輝がちょっと口籠もる。
「痔ですね……」
消え入るような声で、神崎輝が答えた。
「えーっ、痔なの!!」
シエル・セアーズが、大声をあげて驚く。
「ちょっと、シエル。声が大きい……」
ミラノ中の視線を一身に集めてしまい、神崎輝が顔を赤くしてうつむいた。絶対、何人か誤解しているに決まっている。
「テンプルだと思ったのになあ」
まあいいかと、シエル・セアーズが適当に諦める。どうせお土産だ。
「さすがに、それを着る勇気はないんだもん」
ルーシェン・イルミネスも、ちょっと引き気味だ。意味が分かっていれば、絶対にこんなTシャツを作ったりはしないはずなのだが、似非日本文化に毒された葦原島ではこれが普通らしい。
「まあ、変な物は多いですね」
店の隅においてあった信楽焼っぽいタヌキの置物をチラリと見て神崎輝が言った。なぜか、「TANUKI」と書かれた看板を持っていてアメリカ国旗の柄の水着を着ている。このセンスは、ちょっとあんまりだとは思う。
「もう、お土産、それでいいんじゃないのか」
時計の時間を気にしながら、すでに飽きているコルセスカ・ラックスタインが言った。
「ありえないんだもん。この置物も、コルも」
シエル・セアーズが、速攻却下した。
「定番のお饅頭とかでいいんじゃないかしら」
へたな物を買ってしまうよりはその方がましだと、神崎輝が言った。
結局、「葦原島観光記念」とでかでかと書かれた瓦せんべいを大量に買い込むことにした。レジに持っていくときに、あまりにたくさんの瓦せんべいを持っていた神崎輝が商品をならべている店員さんと間違われるというトラブルはあったものの、無事買い物を済ませてすべてコルセスカ・ラックスタインに持たせる。
「まあ、このメンバーなら、荷物持ちは俺だよな」
半ば諦めて、コルセスカ・ラックスタインは荷物を運んでいった。
やや時間に遅れ気味に集合場所に辿り着くと、すでに伊礼悠たちや無限大吾たちは集まっていた。自分たちの見てきた物や買ってきた物を話しあい見せあいながら、帰りの飛空艇に乗り込む。
「また来ましょうね」
発進する飛空艇の中で、北郷鬱姫が隣に座った高峰結和に言った。
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