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学生たちの休日6

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学生たちの休日6
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    ★    ★    ★
 
「おっ、楽器屋か。そういえば、ベースの弦がだめになっていたなあ。ちょっと寄ってもいいか?」
 バンドの練習帰りにクリスマスパーティー用のグッズや食べ物を買い出しに来た弥涼 総司(いすず・そうじ)は、途中にあった楽器屋を見つけて、パートナーたちに聞いた。
「いいわよー。そろそろライブもやってみたいし、楽器は万全の態勢でなきゃね」
 アズミラ・フォースター(あずみら・ふぉーすたー)があっさりと同意する。そのまま四人は、楽器屋の中へと入っていった。
「ニッケルのフラットワウンドでいいかなあ」
 弥涼総司が弦を選んでいる間、手持ち無沙汰となったパートナーたちは思い思いに店内を物色して時間を潰していった。
「こ、これは……。薄っぺらいくせに、スココンスココンと気持ちのいい音がするのだよ。総司、これはどういった理屈で音が出ておるのだ?」
 展示してあったエレクトリックドラムを試しに叩いていた祭神 千房姫大神(さいじん・ちふさひめのおおかみ)が、よっぽど気に入ったのか大声で弥涼総司を呼んで訊ねた。
「そいつは、一種のシンセサイザーだ」
 レジで会計をしていた弥涼総司が答えた。
「さすがに、そんなの買ったら、お金がなくなっちゃうわよ」
「うーん」
 アズミラ・フォースターに言われて、祭神千房姫大神が残念そうな顔をする。とりあえず、叩けるうちに叩いておこうと思ったのか、思いっきりエレドラを堪能していった。
「こらこら。もう行くぞ。エヌはどうした?」
 買い物を済ませた弥涼総司が、季刊 エヌ(きかん・えぬ)を探して店内を見回した。
 いた。
 なんだか、エフェクターの前に立って、じっと機械を見つめている。
「うっ」
 振り返った季刊エヌから、買って買ってオーラが凄い勢いで迸っているのを感じて、思わず弥涼総司が立ち止まった。今声をかけたら、買わなくてはいけないような気がする。
「エヌ、どうしたの?」
 ああ、アズミラ・フォースターが声をかけてしまった。
「これほしい」
 じっと、アズミラ・フォースターではなく弥涼総司の方を見つめて、季刊エヌがぼそりと言った。
 結局、季刊エヌのオーラに負けて、弥涼総司はパーティーの予算をすべて使ってエフェクターを買うことになってしまった。
「なんで、エヌだけなのだ……」
 ギターを背負いエフェクターの入った紙バックをかかえて御機嫌な季刊エヌとは対照的に、祭神千房姫大神がちょっと不満そうに言った。
「誕生日が近いからな。千房さんの分は、また今度な」
 そう言って、弥涼総司が祭神千房姫大神をなだめた。
 
    ★    ★    ★
 
「どのお店もクリスマス一色ですね」
 大通りの人混みをかき分けるようにして進みながら、セルマ・アリス(せるま・ありす)オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)に言った。
「ちょっと待ってく……あん」
「ああ、ごめんよ」
 かかえ持った紙袋をオルフェリア・クインレイナーにぶつけてしまい、レイディス・アルフェインが謝った。
「だ、大丈夫です。待ってください、セルマさーん」
 返事もそこそこに、オルフェリア・クインレイナーがセルマ・アリスを追いかける。
「あ、あわわ……セ、セルマさん、はぐれちゃいそうです。腕組んで歩いちゃだめでしょうか?」
 答えを待たずに、オルフェリア・クインレイナーが、セルマ・アリスの腕にしがみついた。
「はぐれないでくださいよ」
 そのまま、ぴったりとくっついて、ウインドウショッピングを続けていく。目的は、クリスマスツリーの購入だ。
「あ、星のオーナメント。可愛いのです♪ 猫さんも白と黒でオルフェとセルマさんとお揃いなのです」
 オルフェリア・クインレイナーが、ウインドウの中に飾られた大きなクリスマスツリーに下げられたオーナメントをさして叫んだ。
「可愛いですね。それにしても、種類がたくさんあるなあ」
 ショウウインドウの前で、セルマ・アリスが考え込んだ。
「だから、今度はオレが兄貴にプレゼントを買ってやるって」
 真新しいパーカーを着た天海北斗の姿が一瞬ウインドウに映っては通りすぎた。
「よし、決めた。あれにしましょう」
 セルマ・アリスはようやくツリーを決めると、オルフェリア・クインレイナーと共に店の中へ入っていった。
 ウインドウガラスのむこう側の人となったセルマ・アリスたちと入れ替わるようにして、七尾 正光(ななお・まさみつ)たちの姿がウインドウに映り込んだ。
「荷物全部持って大丈夫なの?」
「これぐらい、全然大丈夫だよ」
 アリア・シュクレール(ありあ・しゅくれーる)に聞かれて、当然だという感じで七尾正光が答えた。
「無理はするなよ、私が少し持ってやるからさ」
 そんな七尾正光の様子を強がりだと思ったのか、ステア・ロウ(すてあ・ろう)が紙バックの一つをひったくった。
「ああ、大丈夫だって言っているのに」
「じゃあ、私もだよね」
 まねして、アリア・シュクレールも、紙バックの一つを奪う。
「やれやれ、こんなときぐらい頼りにしてほしいもんだ」
 言いつつも、左右から二人に腕をとられて、まんざらでもないように七尾正光は言った。
 
    ★    ★    ★
 
「あ、すいませーん。少しアンケートよろしいですか? 先日の大陸衝突未遂事件についてのアンケートに御協力くださーい」
 大通りで道行く人をつかまえながら、天司 御空(あまつかさ・みそら)はアンケートをとっていた。
「ああ、ごめん。今ちょっと無理なんだ」
 七姫 芹伽(ななき・せりか)をエスコートしていっぱいいっぱいの夕月 綾夜(ゆづき・あや)が、足早に遠ざかっていく。
「これは参ったなあ。クリスマスだからしかたないか。とはいえ、あれだけの大事件だったのに、物事の風化は早いもんだな」(V)
 天司御空は、軽く溜め息をついた。
 当時現場にいた者としては、あの事件は紛れもない現実であったのだが、他の都市にいた者たちにとっては伝聞でしか情報が伝わってはいない。今日空京に来ている人たちも、そういう人が多いのだろう。どこか他人事だ。
 それとも、その程度の事件は何度も起こっているので、騒ぐことではないと考えているのだろうか。それは、闇龍の脅威などにくらべれば限定的だったかもしれないが。
 未だに取り乱されても困るが、危機に麻痺するのも考えものではある。
 さらに、サイバーテロというのが、今ひとつ事件を理解しにくくしているのだろう。情報社会で暮らしてきた地球人や、情報産業の当事者たちとしては大問題だっただろうが、もともとそんなものとは無縁だった大多数のパラミタの人たちにとってはピンとこないのかもしれない。
「とはいえ、機械に頼りすぎて、イコンの出撃すらできないというのは問題だな」
 天御柱学院の生徒としては、イコンの弱点が露呈したようで、そちらの方が大問題だった。
 もちろん、イコン単体で出撃することは、外部からのサポートがなくてもできる。だが、それは運用という言葉とはほど遠い行為だ。たった一機で、右も左も分からないまま出撃したとしても、キマクの荒野に突然放り出されたようなものだ。ちっぽけな人が、巨大なイコンに置き換わっただけで、役にたたなさは大差ない。
 戦闘はできる。だが、それでは、戦略に対しては無力だ。それに関しては、もっと考えなくてはいけないだろう。
「それにしても、奏音はどこまで行ってしまったんだ?」
 天司御空は、周囲を見回して、一緒にアンケート調査をしているはずの白滝 奏音(しらたき・かのん)を探した。