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学生たちの休日6

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学生たちの休日6
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    ★    ★    ★
 
「ええと、じゃあ、それとそれとあれとこれとそれと……ああ、もう面倒だから全種類一つずつください」
 ワゴン販売のケーキを指さしながら、ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)が選ぶのが面倒そうに言った。何か、他に考えてることがあるらしく、ちょっと気もそぞろだ。
「それを全部一人で食べるのかな?」
 ちょっと呆れたように、夕月 燿夜(ゆづき・かぐや)が聞く。
「もちろん、二人でですよ。まあ、ちょっとしたやけ食いにおつきあいください。さあ、さっそくどこかで食べましょう」
 そう答えると、ミリオン・アインカノックが、夕月燿夜を連れていった。
 
    ★    ★    ★
 
「エミリアさん約束通り来ましたよ。繁盛しているみたいじゃないですか。サービスしてくれますよね?」
「もちろんです。さあ、早く中に入って」
 様子を見に来たセルマ・アリスとオルフェリア・クインレイナーを、エミリア・パージカルは喜んで店内に案内した。
 席に着いた二人に、ブッシュドノエルが運ばれてくる。
「わぁ、このケーキ美味しいです♪ はい、セルマさんもどーぞ。あーんしてくださいね」
「えっ!? ええっと。あーん」
 周囲を見回して注目されていないのを確認してから、セルマ・アリスは素早くオルフェリア・クインレイナーの差し出したフォークの先のケーキを一口で食べ取った。
「うん、なかなかのお味で……」
 もぐもぐしているセルマ・アリスに、今こそチャンスとばかりに、オルフェリア・クインレイナーが小さな包みをさし出した。
「あ、あのセルマさん! これ、クリスマスのプレゼントなのです!」
「はいっ?」
 この展開は予想していなかったらしく、セルマ・アリスがちょっと驚く。
「あの、手作りだから美味しくないかもですが……。だめ……でしょうか?」
 すぐに受け取ってくれないので、オルフェリア・クインレイナーがまただめなのかと悲しい目をして言った。
「いえ、そうではなくて。オレは何も用意してこなかったから」
 クリスマスだというのに、プレゼントを失念していたことをセルマ・アリスは後悔していたのだった。
「馬鹿ですね。じゃいただきます」
 そう言うと、セルマ・アリスは包みを開いて中のクッキーを頬ばった。
「手作りですか。美味しいですよ。ありがとうございます。俺の方は、今渡せる物がないから、いつかちゃんとお礼しますね。待っていてください」
 セルマ・アリスはそう言ったが、オルフェリア・クインレイナーとしては、その言葉だけで充分だったかもしれない。
「あの、お客様。店内に持ち込みは……」
 それを見咎めたアシャ・カリス・ユグドラドが注意しようとしたところを、いきなりセシル・レオ・ソルシオンが後ろから羽交い締めにして黙らせた。
「あの、何か……」
「いえ、なんでもありません。ごゆっくりとどうぞ」
 きっちりと決めて締めあげつつ、セシル・レオ・ソルシオンはアシャ・カリス・ユグドラドを厨房の方へと引きずっていった。
 
    ★    ★    ★
 
「まあ、それにしても、どうしてやけ食いなのじゃ」
 言葉とは裏腹に、パクパクとショートケーキを食べながら、夕月燿夜がミリオン・アインカノックに聞いた。
 公園のベンチに座りながら、二人は大量のケーキを食べ続けていた。
「それはですね、燿夜様、……おや、そんな所にクリームが」
 いきなりほっぺについたクリームを口づけでなめとられ、硬直した夕月燿夜が、持っていた食べかけのケーキを箱の中へぽとりと落とした。
「あわ、な、何をす……。だいたい、様づけはクリームつきではなくて、その、なんだ、わらわは何を言っておるのじゃ?」
 狼狽した夕月燿夜が、パクパクと口を開いた。
「様づけは、癖というか、そういうものなのですよ。そういえば、オルフェリア様も恋人には様づけでしたね」
「なんで、ここでそんな話が出てくるのじゃ」
「だから、恋人には様づけしてしまうのが癖なんです」
 またもや、言葉が形をなさなくなって、夕月燿夜が口をパクパクさせた。
「わらわで……いいのか?」
 やっとのことで、それだけを言葉にする。
「ええ、燿夜様……」
 そう言って、ミリオン・アインカノックは夕月燿夜をだき寄せた。
 
    ★    ★    ★
 
「みんなー、幸せな恋人たちに贈るクリスマスソングいきますよー!!」
 ベースを持った水橋 エリス(みずばし・えりす)が叫んだ。一緒にいる日比谷 皐月(ひびや・さつき)がギター型の光条兵器の輝く弦をかき鳴らす。
「うわ、路上ライブだ。いいなあ、みんな聞いていこうよ」
 大通りに流れるクリスマスソングに、アズミラ・フォースターが弥涼総司たちを手招きした。
「だめだわ。我慢できない」
 言うなり、飛び出したアズミラ・フォースターが、水橋エリスとならんで一緒に歌いだした。
 面食らった水橋エリスが日比谷皐月の方を振り仰ぐが、彼は何ごともなかったかのように演奏を続けている。それで充分だった。
「みんな、一緒に歌いましょー!」
「いえーい」
 水橋エリスの言葉に、アズミラ・フォースターがマイマイクを取り出して歓声をあげた。
「あたしも、あたしも!」
 背負っていたギターをケースから取り出すと、季刊エヌも飛び入りする。
「じゃ、いっちょうやりますか」(V)
 すかさず、日比谷皐月が合わせ、ツインギターで演奏が華やかになった。
「やれやれ、やっぱりこういうのは血が騒ぐか」
「我も、さっきのエレドラとやらがあれば……」
 祭神千房姫大神が、チラリと弥涼総司の方を見て言う。
「はははは、メリー・クリスマス!!」
 弥涼総司は、水橋エリスたちに声援を送ってこの場をごまかした。
「メリー・クリスマス!!」
 水橋エリスがそれに応える。
 日比谷皐月の方も、季刊エヌと背中合わせに演奏をしてちょっと御満悦だ。こういうのを、嬉しいサプライズというのだろう。
「メリー・クリスマス!」
「メリー・クリスマス!!」
 その場にいた者たちは、楽しそうに大声で唱和した。
「やれやれ、なんともにぎやかなことだな。すっかりクリスマスか。ついこの間まではハロウィーンとかで騒がしかったと思ったのだが」
 楽しげな水橋エリスたちの路上ライブの音を耳にして風羽 斐(かざはね・あやる)が物珍しそうに言った。
「ハロウィーンなんて、もう二ヶ月近く前の話だぜ。まったく、世情に疎いんだから……」
 翠門 静玖(みかな・しずひさ)がちょっと呆れたように言う。
「しょせん、世の中は行事という物が多すぎるんだ。細かく言ったら、毎日がお祭りだからな。いちいち、全部のお祭り騒ぎにつきあっちゃいられない。それより、研究の方が大事だし面白いからな」
 いかにも学者バカ丸出しという感じで、風羽斐が答えた。
「だが、まったく無視するのも愚かなことだ。どれ、お前たちにもプレゼントを買ってやらんといかんな。何かほしい物が目に入ったら言ってくれ」
「また、そんな大雑把なことを。プレゼントってのは、ちゃんと選んで渡すもんだぜ」
「あのー、それで、私たちからもお父様にクリスマスプレゼントがあるんですが」
 朱桜 雨泉(すおう・めい)が、ずっと大事そうに持ってきていた包みを風羽斐に渡した。
「日頃お世話になっているお礼です。音楽を入れた携帯プレイヤーなんですが……」
「ありがたくもらってくれよ」
「いや、日頃の礼をしなくてはならないのはこちらの方だったんだが、どうやら先を越されてしまったようだな。やれやれ。しかたない。これからお前たちのプレゼントを選びに行くから、アドバイスをしてくれ。頼んだぞ」
 そう言うと、風羽斐は両手を広げて翠門静玖と朱桜雨泉の肩をポンと叩いて引き寄せた。