校長室
学生たちの休日6
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★ ★ ★ 「サンタの絵っていっても、いろいろな物があるのねぇ」 美術館のサンタクロース展をのんびりと見て回りながら、師王 アスカ(しおう・あすか)が言った。 「そりゃあ、サンタクロースの英霊なんてのもいるくらいだからなあ。なんでも、地球じゃサンタクロースが世界中から集まって会議までするって言うじゃないか」 ちょっとそわそわして周囲を気にしながら、蒼灯 鴉(そうひ・からす)が言った。 「うん、このゆる族のサンタっていう絵、かわい〜。あっ、あっちにもいろいろ展示があるよぉ」 蒼灯鴉の手をつかむと、師王アスカが次の展示ルームにむかって駆けだした。 彼女のマントが翻るたびに、蒼灯鴉がちょっと怖い顔をする。 なにしろ、マントの下は身体にぴっちりしたボディースーツなのだ。誰の入れ知恵かは知らないが、これでは周囲の男どもの目を集めてしょうがない。 「面白かったねぇ」 堪能した師王アスカとは対照的に、気の休まることのなかった蒼灯鴉はちょっとぐったりしている。 「少し休む?」 師王アスカが、美術館の中庭のベンチを示した。木立に囲まれた、あまり目立たない落ち着ける場所に、小さなベンチがあった。 「そうするか」 同意した蒼灯鴉と共にベンチに座る。 「そうそう、これ、忘れないうちに渡しとくぜ」 なぜか耳たぶまで真っ赤にして、蒼灯鴉が小さな箱を師王アスカに手渡した。 「なになに、これぇ?」 師王アスカが開けてみると、中から小さな貴石のついたペンダントが出てきた。 「一応、クリスマスプレゼントだ」 「凄い、嬉しい。でもぉ……」 「でも?」 ちょっと口籠もった師王アスカに、怪訝そうに蒼灯鴉が聞き返した。 「私何も用意してないんですけど! どうしよぉ」 焦る師王アスカの唇に、何か暖かい物が触れた。 「プレゼントなら、今もらったぜ」 蒼灯鴉は師王アスカの耳許でそうささやいた。 ★ ★ ★ 「クリスマスグッズ、いかがですかあ」 「行きますわよ、マッシュ、オ……じゃなかった、迫」 ミスティーア・シャルレント(みすてぃーあ・しゃるれんと)が、緋桜遙遠を無視して、マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)と魄喰 迫(はくはみの・はく)と共に空京デパートに入っていった。 東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)とシャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)のデートを興味本位で覗く、デバガメ三連星である。 「シャノンさんが、雄軒兄さんと普段どんなことしてるのか。ふふふっ。まあ、だいたい予想はついてるけど、興味深いな〜♪」 「姐さん、一週間前から時折赤面したり、呆けたりして。後で取り繕ってもバレバレだったぜ」 「まあ、だから、こうして尾行できたわけですわ。二人共、絶対に見つかっちゃだめですわよ」 カサカサと身を低くして物陰から物陰へと移動しながら、三人はバカップルの後を追いかけていった。 「んっ?」 「どうかしたのか?」 突然立ち止まった東園寺雄軒に、シャノン・マレフィキウムが訊ねた。 「いや、何か今悪寒が。それに、誰かにバカップルと言われた気が……」 「気にしすぎだ。それに、他人から馬鹿に見えるのも悪くはない」 そう言って、シャノン・マレフィキウムが笑った。 「ああ、そうですね」 一応周囲を見回してから、東園寺雄軒が言った。 「ふう、危なかったですわ。二人共、殺気は押さえておくのですよ」 「しかたないなあ。見つかったら、思いっきり暴れて隠れるつもりだったんだよね」 ミスティーア・シャルレントに言われたマッシュ・ザ・ペトリファイアーが、残念そうに言う。 「あっ、二人が動きだしたぜ。本屋かな?」 魄喰迫が、追跡を開始しようぜと二人をうながした。 「これなんか、面白いのかな」 東園寺雄軒が好きそうな民間伝承関係の本を手にとって、シャノン・マレフィキウムが訊ねた。 「うーん、それは結構読みにくかったですから、同じ内容なら、その隣の本の方がいいですね」 「凄い、もう読んじゃってるんだ」 シャノン・マレフィキウムが素直に感心する。 「それぐらいしか分からないですからね。他の売り場も見ましょうか」 「うん」 東園寺雄軒にうながされて、二人は移動を始めた。 「凄い、姐さんが、雄軒兄さんの腕につかまったぜ」 「これは、予想外だね」 「メモですわ、メモするのですわ」 二人の一挙手一投足に、尾行中の三人は大喜びである。 「今度は家具売り場に移動だね」 「追跡続行ですわ」 家具売り場のベッドに腰かけている二人をのぞき込みながら、三人がキャアキャア騒ぐ。 「何か気に入った物でもありましたか?」 ちょっとキョロキョロしているシャノン・マレフィキウムに、東園寺雄軒が訊ねた。 「ええと……」 「これですか?」 シャノン・マレフィキウムの視線の先を追った東園寺雄軒が、そばにあった犬と猫の抱き枕を取りあげた。 「どっちなんでしょう。買ってあげますよ」 ちょっと奮発して、東園寺雄軒が言う。そのくらいは、最初から覚悟してきたことだ。 「猫が私で、雄軒が犬……」 ぼそりと、シャノン・マレフィキウムが言う。 「ええと……、じゃ、両方買いますか」 少し意味を計りかねて、東園寺雄軒が言った。もちろん、のぞき組は床の上を転げ回っている。発見されるのは時間の問題であった。