校長室
学生たちの休日6
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★ ★ ★ 「上がっちゃってもいいのかなあ」 辿り着いた家の前で、レイディス・アルフェインが躊躇した。家と言っても、ナナ・マキャフリーの家だ。当然、レイディス・アルフェインはお客様である。 「大丈夫、大丈夫。だって、中に入らなきゃ、荷物下ろせないでしょう。自分の家だと思って、気兼ねしないでね」 そう言うと、ナナ・マキャフリーは、ちょっと躊躇していたレイディス・アルフェインの背中を押した。 「ふう、すっかり冷えちゃったな」 「そんな薄着をしているからですよ。たくさん食べ物買ってきたので、何か作りますね。その間にお風呂でも入ってきてください」 ナナ・マキャフリーに勧められて、レイディス・アルフェインは風呂に入ることにした。ちゃんと厚着して防寒対策していたナナ・マキャフリーとは違い、寒さをなめていて冷えたのは事実だったからだ。 「ふう。なんだか、都会にいる息子に母親が会いに来たって感じかな……、いや、俺がナナの家に来てるんだから、息子が実家に帰省したって感じなんかなあ」 湯船に浸かって必要以上にまったりとしながら、レイディス・アルフェインは思った。まったく、いつも感じてはいることだが、あらためてナナ・マキャフリーは母親みたいな人だ。 「さっき着替えも買ってきたから、着てくださいね」 脱衣所からナナ・マキャフリーの声がする。なんだか用意周到で、恐縮してしまう。 だが、風呂から上がったレイディス・アルフェインが目にしたのは、真っ赤なサンタ服であった。それ以外に着る物はおかれていない。 「はめられた……」 さすがに裸でナナ・マキャフリーの前に出るわけにも行かず、レイディス・アルフェインは渋々サンタ服を着ていった。 「まあ、やっぱりよく似合う♪」 そんなレイディス・アルフェインの姿を見て、ナナ・マキャフリーが歓声をあげた。 「レイディス様……いえ、レイちゃん。一日ありがとうございました。良い子だったレイちゃんに、プレゼントなのです」 「これがか……」 「嫌なんですか」 「いや、そういうわけじゃ」 なんだかナナ・マキャフリーにうるうるとした目で見つめられて、嫌だと言い切れないレイディス・アルフェインがそこにいた。 「もし嫌だったら、他にもトナカイとか猫とかの着ぐるみもあるんですよ」 そう言って、ナナ・マキャフリーは、買ってきた着ぐるみを広げて見せたのだった。 ★ ★ ★ 「やれやれ、思ったより買い込んできちまったな」 やっと家に帰り着いた七尾正光は、食卓の上に買ってきた物たちをおいた。ケーキの材料や、お菓子や、オードブルなどが所狭しとならぶ。 「じゃ、簡単に何か作るよね」 アリア・シュクレールが、キッチンを占領してパーティーの準備を始めた。 「あっ、私も手伝うぜ」 「いや、ステアは座ってろ。今日は誕生日だろ」 七尾正光が、ステア・ロウを椅子に座らせるとアリア・シュクレールの手伝いに行った。 あっと言う間に、食卓の上にクリスマスパーティーの料理と誕生パーティーの料理がハイブリッドでならぶ。 「誕生日おめでとー。ついでにクリスマスも」 なんだかわけの分からない音頭で乾杯する。 食事の後はプレゼント交換だ。 「何が入ってるのかな?」 七尾正光が包みを開けると、片方からは音楽CD、もう片方からは星砂の入ったボトルのお守りが出てきた。 「それ、珍しい砂なんだよ」 ニコニコにと、アリア・シュクレールが言う。そんな彼女がもらったのは、ペンダントと、指輪だ。 ステア・ロウは、ペンダントとカーデガンを手にした。 「二人お揃いということだな」 七尾正光が、満足そうに言う。 「えへへ、素敵なプレゼントありがとー♪」 「幸せだぜ。こんないいプレゼントをもらったんだからな♪」 二人も嬉しそうだ。 「えへへー、私たちといーっぱいいろいろと遊んでもらうからねー♪」 「覚悟しろよー、今日の夜は長いからなー」 さっそくお揃いのペンダントをつけたアリア・シュクレールとステア・ロウが七尾正光に言う。 「じゃ、とりあえずもう一度乾杯するか」 ノンアルコールのシャンパンの入ったグラスを持って、七尾正光が言った。 「メリー・クリスマース!!」 ★ ★ ★ 「みんな〜! めりーくりすます〜♪」 サンタクロースの姿をしたミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が、元気よく孤児院の扉を開いた。 「いろいろお料理持ってきたよー」 「ツリーだってあるんだよね」 イシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)が、担いできたクリスマスツリーをドンと床において言った。 「さあ、どんとこーい。一緒に作ろー」(V) ミルディア・ディスティンが、わーいと集まってきた子供たちを連れて厨房へとむかう。 「これは、後で皆さんに渡してくださいませね」 子供たちの目がないのを確認して、和泉 真奈(いずみ・まな)が保母さんに大きな箱を渡した。中には、プレゼントがたくさん詰まっている。明日の朝、サンタさんからのプレゼントということで子供たちに渡してもらうつもりだ。 「よいしょっと。こうやって、七面鳥の中に野菜を詰めていくんだよー。みんな、好きな野菜の皮をむいて刻んでね。男の子たちは、卵を溶いて。その中にレーズンとかパンを入れて、クリスマスプティングにするんだよー」(V) わいわいとキッチンに集まった子供たちと一緒に、ミルディア・ディスティンがクリスマスのごちそうを作っていく。自分たちで作った物でするパーティーは、また格別だろう。 「こらこら、サボってる子は、私が相手になるんだぞー」 料理に興味がなくて走り回っている子たちは、邪魔にならないようにイシュタン・ルンクァークォンが集めて相手をしていた。 「私に勝てるかなあ。かかってくるんだもん」 たちまちプロレスごっこが始まるが、小柄なイシュタン・ルンクァークォンでは子供たちといい勝負だ。 「よぉ〜し! 負けないぞぉ〜!」 だが、複数に群がれてしまうと、あっと言う間にやられてしまう。 「もう一度だぁー!」 イシュタン・ルンクァークォンが相手をしてくれている間に、ミルディア・ディスティンの料理ができあがる。 「こちらは用意できました。よろしければ、お料理をこちらに運んできてくださいませね」 会場の支度を調えていた和泉真奈が、ミルディア・ディスティンと子供たちを呼んだ。 できあがった料理が次々に運ばれてくる。 「みんな準備できたかなあ? メリー・クリスマス!」 「メリー・クリスマス!」 みんなが席に着くと、ミルディア・ディスティンは子供たちと一緒に、高らかに叫んだ。