校長室
学生たちの休日6
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★ ★ ★ 「見つかってしまうとは、あなた、相当の手練れですわね」 空京デパートの裏通りで、冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)はバルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)と対峙していた。 「二人の邪魔はさせんのだよ」 重装甲の鎧に身をつつんだバルト・ロドリクスが、まさに壁となって冬山小夜子の前に立ち塞がって言った。 「どいてほしいものですわ。東園寺雄軒には、マ・メール・ロアで敵についたと聞いていますし、他にも悪い噂はかねがね。一度空京警察に突き出して罪の償いをしていただきませんと……」 「ふっ、言いがかりを」 「どうでしょうか」 「口で言って分からぬのなら、実力で排除するのみ……」 バルト・ロドリクスが言い終わらないうちに、冬山小夜子が神速で突っ込んできた。 打ち込まれる鳳凰の拳を、左右の陵山三十人殺を交差させた受太刀でバルト・ロドリクスが防ぐ。そのまま金剛力で弾き飛ばすが、敵と共に左の陵山三十人殺もその手から弾き飛ばされた。 飛ばされた冬山小夜子がアスファルトの上をすべるようにして体勢を立てなおそうとするところへ、間髪入れず乱撃ソニックブレードの真空波が飛んできた。 間一髪、冬山小夜子がバーストダッシュで上に飛びあがって避ける。 クルリと一回転して、数条の深い傷跡が刻まれたアスファルトに着地するなり、再びのバーストダッシュで冬山小夜子がバルト・ロドリクスに肉薄した。 待ち構えていたバルト・ロドリクスがスウェーで体を躱すと、落ちていた刀を拾いあげて身構えた。その巨体から、渾身のソニックブレードが放たれる。 「きゃあ」(V) 避けきれず、冬山小夜子が吹っ飛ばされた。彼女の鍛え抜かれた肉体は耐えきったものの、背後にあったコンテナが真っ二つになって砕け散る。 「これじゃ、私のために周囲がめちゃくちゃになりますわ」 場所が悪い。 「日をあらためますわよ」 冬山小夜子が光術を放った。閃光に、一瞬、バルト・ロドリクスの視力が奪われる。すぐに回復したバルト・ロドリクスが周囲を見回したとき、すでに冬山小夜子の姿はなかった。 ★ ★ ★ 「エース、俺のサンタ宛てメールは覚えてるよな」 イアラ・ファルズフ(いあら・ふぁるずふ)が、ニタリとエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)に言った。 「サンタさんからは、クリスマスに大きなケーキを届けるのは大変だって連絡があったぞ。事前に材料を送るから、自分たちで好みのケーキを作りなさいっていうことだ」 「なんだ、それは……」 反論しかけるイアラ・ファルズフに、玄関前のエース・ラグランツが、パチンと指を鳴らした。 「御依頼ありがとうございます。本日この件を担当させていただく、橘恭司と申します。お見知りおきを。メリー・クリスマス!! またの御利用をお待ちしています!!」(V) 勢いよく開いたドアのむこう側から現れた橘恭司が挨拶した後、大量の食材を一気に投げ込んで風のように去っていった。 「ぐああああ……」 「さあ、これからこれをケーキにしてやるぞ。喜べ。じゃ、後はシェフ、頼みます」 「まっかせといてよね」 エース・ラグランツに呼ばれて、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)とエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が、食材に押し潰されてひくひくしているイアラ・ファルズフの上から、ケーキの材料を運んでいった。 「うーん、せっかくだから、おいらの身長を超える百五〇センチのケーキがいいです」 「百五〇センチ!? これから結婚式か何かですか。そんなに大きな物、年内に食べきれるわけがないでしょう」 クマラ・カールッティケーヤの言葉に、エオリア・リュケイオンが呆れる。 「みんなで食べたら大丈夫だよ」 「しかたないですねえ」 脳天気なクマラ・カールッティケーヤに、エオリア・リュケイオンはいくつものホールケーキを焼くように指導した。その間に、ケーキの土台となる骨組みを作っていく。ウェディングケーキなどによくある、ほとんどの部分はハリボテにして、要所だけケーキにするというあの方法だ。 「はいよ、焼きあがったよ」 クマラ・カールッティケーヤに、エース・ラグランツが焼きあがったばかりのホールケーキを渡した。トッピングはクマラ・カールッティケーヤのお仕事だ。 「ふーん、ただ見ているのもつまらんな。どうだ、エース、俺にお前をプレゼント……おい、それはなんだ」 エース・ラグランツにちょっかいを出そうとしたイアラ・ファルズフが、喉元にペティナイフを突きつけられて固まった。 「昼間から、全年齢対象じゃないヨコシマなことをするんじゃない」 威嚇したエース・ラグランツが、ぴしゃりと言った。 そんな裏方のバタバタをよそに、巨大ケーキは着々とできあがっていった。 多少のつまみ食いをしつつも、クマラ・カールッティケーヤが、フルーツを載せていく。 ケーキの種類も、チョコレートクリームに、バタークリーム、生クリーム、それとチーズケーキとバラエティに富んでいた。もっとも、それぐらいないと、とてもこの大きさにはならなかったわけだが。足りない部分には、クッキーやマカロンやマジパンの人形、果てはシューやワッフルまで貼りつけて、ちょっとごてごてした巨大ケーキが完成する。 「みんなー、記念写真だよ。ちゃんと、おいらよりもおっきいことを証明してよね」 「へいへい」 クマラ・カールッティケーヤに言われて、イアラ・ファルズフがカメラをセットする。 「撮るぞー……いてててて」 セルフタイマーでシャッターが落ちる瞬間にエース・ラグランツに手を出そうとたイアラ・ファルズフが、エオリア・リュケイオンとエース・ラグランツによってその両手をつままれる。そんな背後には構わず、最前列のクマラ・カールッティケーヤはケーキの前でニコニコしていた。 ★ ★ ★ ――燿夜はちゃんとやってるかなあ。 ちょっとそんなことを思いつつも、七姫芹伽はすぐ前にいる夕月綾夜を見つめて顔を赤らめた。今の時間が本物なのかどうか、夕月綾夜にもらったかんざしの飾り部分をピアスとしてつけた耳に軽く手を触れて確かめてみる。うん、大丈夫、これは現実だ。 二人でのんびりと空京の街のクリスマス風景を見て回り、オープンテラスで夜景を見ながら食事を終えたところだ。日の落ちた空京に、シャンバラ宮殿の威容が巨大な光の柱として映える。 「綺麗よね」 そうつぶやく七姫芹伽の手を、夕月綾夜がさっと両手でとった。 「それほどでもないさ」 そう言って、夕月綾夜が七姫芹伽を見つめる。ちょっと、恥ずかしげに、七姫芹伽が軽く目を伏せて頬を染めた。 「芹。君の言葉、想い、凄く嬉しかった。慣れなくて、きちんと受け止めるのに少し時間がかかってしまったけれど……今、返事をさせてほしい」 そう言って、夕月綾夜が七姫芹伽の手にキスをした。 そして、夕月綾夜は七姫芹伽をぐいと引き寄せると、彼女だけに聞こえるようにその耳許にしっかりとした言葉でささやいた。それを聞いた七姫芹伽の目から涙があふれ落ちる。 「ねえ、綾夜。私も愛してる」 そう答えると、七姫芹伽は夕月綾夜と唇を重ねた。