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リアクション
第7章(2)
「あいつか……! 人の生命を踏みにじる奴は……!」
混戦の中辿り着いた九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)がラウディの姿を見つけた。村人達を使役している相手を直接見た事で再び心に怒りが湧き起こる。
「人を傷付けるフラワシじゃないんだけど……来いッ! 『フィール・グッド・インク』ッ!」
ローズの呼びかけによってナース姿のフラワシが背後に現れる。その姿は見えないが、降霊した事に感付いた冬月 学人(ふゆつき・がくと)はパートナーに釘を刺すことを忘れない。
「ロゼ、相手は強敵だ。それに怒りに身を任せるとフラワシを暴走させかねない。僕もあのレイスを抑えるのを手伝うから、君も冷静に事に当たるんだ」
「分かってるよ、学人。私は冷静だから……大丈夫」
とてもそうは思えないが、この戦いを止める為には自分達も戦わなくてはならない。そう思い、学人はレイスと戦っている者達の所に行き、光術や火術で支援を始めた。それとほぼ時を同じくしてローズの存在に気付いたリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)が走ってきた。
「ロゼ! 君も来てたんだね」
「あぁ……疫病で苦しんでるって聞いてここまで来たのに、こんな事になってるなんて……」
「許せないよね……せめてあのペンダントを何とか出来れば村の人達の利用は防げるんだけど……」
「? どういう事?」
入り口付近で戦っていた者達と違い、ここにいるリアトリス達はラウディの名前や所属、そしてアンデッド大量使役の秘密を知っていた。それを聞いたローズは改めてラウディへと視線を向ける。
「なるほど、あのペンダントか……なら、私が切っ掛けを作ってみせる……!」
「切っ掛けって……ロゼ!」
リアトリスが止める間もなく、ラウディへと走っていくローズ。それに気付いたラウディは一匹のレイスをローズのそばから感じる気配、フィール・グッド・インクへと飛ばした。
両者が戦っている間に横をすり抜ける。そしてラウディのそばまでやって来たその瞬間――突然、ローズが転びだした。
「ハハハッ! 怒りのあまり自滅とは、良い様だね! そのまま眠ってしまうといいよ!」
「ロゼ!」
相手の失態に嘲笑しながらアンデッドを仕向けるラウディ。学人が走り寄るが間に合いそうも無い。
だが――
「行けっ、シン!」
「おうっ!」
ローズは決してミスで転んだのでは無かった。これは相手の油断を誘う為の罠――自身にアンデッド達が寄ってきた所に悪魔であるシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)を召喚し、敵もろとも頭上を飛び越えさせる。
「こいつでっ!」
シンの放った鞭がラウディへと襲い掛かる。それは回避行動を取ったラウディの身体に巻き付き、更にローズのサイコキネシスも加わって彼を拘束した。
「くっ! 何だと――!」
効果を発揮する関係上ペンダントは服の中には仕舞えない。その為むき出しで首から提げる形になっていた今、ペンダントを奪取するには絶好の好機と言えた。
(おっと、こいつはマズいねぇ。別に最重要って訳じゃないけど、出来るだけ奪られるのは阻止しないとね)
「世話が焼けるのぅ。じゃが、これも仕事じゃ」
周囲の牽制をしていた松岡 徹雄(まつおか・てつお)と辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)が奪取を防ぐ為にラウディの下へと向かう。だが、ここで動き出す者達がいた。
「皆さん、今が最大のチャンス。仕掛けましょう」
「えぇ! その隙――ヘリワード・ザ・ウェイクは逃さない!!」
声の主は志方 綾乃(しかた・あやの)とヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)。彼女達はラウディや他の敵が地上での戦いに集中している隙に上空へと布陣していた。綾乃の二丁拳銃がラウディの支援に駆けつける二人を足止めし、更にヘイリーの狙い済ました一撃が遥か下にいる徹雄の刀をその手から弾き飛ばした。
「まだ邪魔をするか――! レイスよ! あいつ等を追い払え!」
使役出来る物の中で空へと向かえるレイスに命令する。だが、綾乃達はそれも読み切っていた。
「狙い通りですね。あれの相手はあなた達にお任せします」
「任せるがよい。我らの槍術、見せてくれよう!」
「うむ、亡霊など恐れるに足りぬ。ジュレール殿、参ろう」
「承知した。では、行くぞ!」
レッサーワイバーンを駆る二人の槍騎士、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)とコンスタンティヌス・ドラガセス(こんすたんてぃぬす・どらがせす)が降下し、槍を振るう。ドラゴンライダーである両者にとって、三匹いるとはいえ空中戦でレイス相手に後れを取る事など有り得なかった。二人がそれぞれレイスを打ち破り華麗に空を舞いながら戦う中、ジュレールが光精の指輪から呼び出した人工精霊が三匹目のレイスを逃さないとばかりに周囲を漂う。
「この光、亡霊には辛かろう。コンスタンティヌス・ドラガセス、今だ!」
「我が槍の一撃……その身に刻め!」
身動きが取れなくなったレイスに向けてショットランサーを放つ。為す術も無く飛来した穂先を受けたレイスは瞬時に霧散していった。
「あらあら、ミモリったら今日も見事なアホっぷりを見せてるわね♪ さすがはマダレイだわ。さて……石化がレイス相手に効くか分からないけど、やってみましょ★」
とどめとばかりにシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)が上空からさざれ石の短刀を投げつけた。奈落の鉄鎖によって加速されたそれは、天寺 御守(あまでら・みもり)が説得を続けていた地上のレイスへと突き刺さり、石化の後に消滅させた。
「きゃっ!? な、何ですのいきなり! それに今、ワタクシをマダレイと呼ぶ声があったような……何度も申し上げますがワタクシは――」
不名誉ともいえる通称を聞きつけ、御守が必死に否定の声を上げる。当の本人であるシオンはガーゴイルに乗ったまま、高みの見物をするのみだった。
機動力のあるレイスは復活には時間が足りず、ラウディに与する契約者達も足止めされている。周囲が作った機会を逃さないとばかりにレギーナ・エアハルト(れぎーな・えあはると)が大地を蹴った。
(ラウディを護る者はあのアンデッドのみ。私ならかわせない相手ではありませんね。目標のペンダント――奪わせて貰いましょうか)
「ちっ、あいつを食い破れ!」
唯一残っていた冥界鯱にレギーナの迎撃を命じる。だが、鯱が大きく口を開けた次の瞬間、ラウディにも、そしてレギーナ達にも予想外の事が起こった。
「だ〜ひゃっはっは!! 俺様登場! ってかぁ〜!!」
冥界鯱の『口の中』に隠れていたゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)が勢い良く飛び出し、素早くラウディからペンダントを奪い取る。実は彼も偶然この近辺を訪れ、皆の会話からペンダントが不思議な力を持つ事を盗み聞きしていたのだった。その為地中から接近し、奪い取るチャンスを虎視眈々と窺っていたのである。首尾良く目的を果たしたゲドーは地獄の天使によって翼を生やし、素早くこの場から離脱を試みる。
「鯱が操られた時はどうなるかと思ったが、良いタイミングで開けてくれたじゃん。さぁ、宝石よ! 俺様に力を!」
力を我が物とするべく、ペンダントを強く握り締める。次第にペンダントは蒼から赤へと光の色を変え――
「……え?」
――爆発した。
「な、な、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!」
このマジックアイテムは契約を交わして利用する種類で、前の持ち主が契約を解除しない状態で他者が上書きしようとすると消滅してしまう物だった。そうとは知らずに契約を試みたゲドーは爆発を真っ向から受けて遠くへと滑空する形で吹き飛ばされて行った。
「お、俺様は! 俺様は幸せになるまで諦めな――」
心の叫びが段々と遠ざかり、やがて聞こえなくなる。単に状況をかき乱しただけとも言える彼の行動は、この戦いを治める為の大きなうねりの切っ掛けとなろうとしていた。
「くっ……馬鹿な! あんなふざけた男に奪われるなんて……!」
ラウディの身体から大勢のアンデッドを操っていた感覚が消える。それと共に遠くから聞こえていた戦闘音が次第に止んでいった。呼応するように藤井 つばめ(ふじい・つばめ)の眼からも紅い輝きが消え、正気を取り戻す。
「あ……あれ? 僕は何を……?」
「つばめ! ようやく戻りやがったか!」
パートナーの復活に安堵するゲルト・エンフォーサー(げると・えんふぉーさー)。局面は次第に収束へと傾きかけていた。
「まだだ……! ボクがこんな奴らに!」
再び四体のレイスを復活させ、更に使役の効果がまだ続いている近くのアンデッド達に攻撃を命じるラウディ。だが、そのアンデッド達の一部からも使役の感覚が消えて行った。そのそばにはニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)が立っている。
「魂の輝きが感じられない……。そうか、君達の魂はもうナラカへと旅立ったんだね」
アンデッドの主導権を奪ったニコが亡骸へと優しく話しかける。そんな彼の真意が分からず、篁 八雲が話しかけた。
「ニコさん、一体何を……?」
「大丈夫ですよ。ニコさんは村の方達を救いたいだけですから」
パートナーであるユーノ・アルクィン(ゆーの・あるくぃん)が疑問に答える。彼の言う通り、ニコの目的は村人達を自分のアンデッドとして使役する事では無かった。
「ペンダントが破壊されたとは言え、あのラウディさん自身のネクロマンサーとしての力が失われた訳ではありません。このままでは彼の近くにいる村人達は操られたままでしょう」
「だから自分が操る事で戦いを止めさせようと?」
「えぇ、そうすれば――こういった事も起きませんから」
まだラウディに支配されているアンデッドがニコへと襲い掛かる。ユーノはそれを庇い、盾で防いだ。
「八雲さん、あなたもネクロマンサーなんですよね? なら、ニコさんと同じ事が出来るはずです」
「え、うん……。でも……」
死人を使役する事に躊躇いがある八雲。そんな彼に同じ力を持つニコが語りかける。
「死んだ皆は物でも、ましてや化け物でも無い。魂は既に無くても、れっきとした心を持っていた『ヒト』なんだ」
ニコは地球に住んでいた頃、精神異常者として地下に幽閉されていた過去を持っていた。その時に自身の心を繋ぎ止めてくれたのが霊や、死者の魂といった存在だった。かつて自分を救ってくれた彼らの恩に報いる為に、今は自分が亡者となった者達の声を聞き、平穏を迎えられるようにとネクロマンサーとしての力を使っているのである。
「皆の為に……僕の力を……」
「そうだよ。あのラウディのやってる事はネクロマンサーとしてやっていい事じゃない。このままじゃ村の人達の魂は救われないんだ」
「魂を救う……」
ラウディの支配下にあるアンデッド達を見る。彼らの魂も既にナラカへと旅立っているはずなのに、まるで現世へと縛られている身体を嘆いているようだった。
「……分かりました。僕にネクロマンサーとしての力があるのなら――お願い、あの人達を救って!」
八雲が今、忌み嫌って一度も使う事の無かった自身の死霊術師としての力を解放する。その力によってニコと同等の――残っていたラウディの使役するアンデッド全ての主導権を奪って見せた。
「出来た……。村の皆、もう戦わなくていいんだよ。どうか、これからは安らかに……」
ニコと八雲によって操られた村人達がラウディとは反対側、戦闘区域外へと移動する。そしてまるで皆で静かな眠りを迎えるかのように、ゆっくりと横たわった。
「――そんな! ボクよりも支配の力が上回るだと!」
レイスを除いて使役していた存在を全て奪われた事にラウディは驚きを隠せない。そんな彼を見て刹那がそろそろ頃合いかと考えた。
(この分じゃとラウディは敗北か。私兵である以上アバドンからも切り捨てられるであろうし……潮時じゃな)
素早く跳躍し、屋根へと上がって姿を消す。戦っていた綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)とアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)もそれを追って屋根へと上がるが、既に刹那は消え去った後だった。
「また消えはった……? アルス、奇襲に気をつけないとあかんぇ」
「うむ。じゃが先ほどまでとは感じが違うのぅ……主様はどう思う?」
「さっきまであった殺気がどこにも無いな……。気を付けておくに越した事は無いけど、多分撤退したんだと思う」
遅れて上がってきた御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が周囲の気配を念入りに調べる。ラウディに与する者の一角。その戦いはここに終わりを告げた。
「ちっ、邪魔が入ってきやがったな……せっかく愉しくなってきたってのによ」
白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)が吐き捨てるように言う。今までは七誌乃 刹貴(ななしの・さつき)が憑依する七枷 陣(ななかせ・じん)との戦いを繰り広げていたのだが、アンデッドがラウディの支配から外れた事によりそれらを抑えていた者達が自由になった事が、純粋な殺し合いを楽しむ竜造と刹貴の戦いに水を差していた。
しかも相手の増援はそれだけでは無い。
「まだ終わりではありませんよ。あなた達のような人の生命を弄ぶ外道……分かり合おうとも思いません。ナラカへお還りなさい」
「デファイアント、下よ! 焼き払え!」
上空からは綾乃とヘイリーがこちらの動きを制限させる形で矢弾を降らせ、ワイバーンの炎を吐かせる。とてもでは無いが刹貴だけに集中していられる状態では無い。
徹雄も同様だった。天津 麻羅(あまつ・まら)とフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)の妨害をしているのはいいが、増援が現れた事により次第に劣勢を強いられていた。
「はっ!」
「これで……どうじゃ!」
光条兵器、バルディッシュに持ち替えた長原 淳二(ながはら・じゅんじ)の攻撃が襲い掛かったかと思えば、麻羅の力を溜めた一撃がジェットハンマーの突進力を利用した形で突撃してくる。防戦に徹する事で何とかそれを避けるが、そこに追い討ちをかけるようにフェイミィの大剣までもが繰り出された。
(これはちょいとおじさんにはキツいかな〜。刹那とかいう嬢ちゃんも退いたみたいだし、これ以上留まるメリットは無いね)
そうと決まれば長居は無用。竜造の近くに寄ったタイミングで二つ目の煙幕を張り、周囲の視界を奪う。
「ちっ……またコレか! ヘイリー、相手はどこだ!」
「上からも見えないわ! まだ煙幕の中にいると思う。気を付けて!」
フェイミィ達が周囲を警戒する。その間に竜造達は上空から見えないように巧妙に移動していた。煙が晴れ、向こうが気付いた時にはさようならという寸法だ。
警戒網を潜り抜けた時点で竜造が笑みを浮かべる。だが、そんな彼を狙う者が遥か遠くにいる事までは予測出来ていなかった。
「マスター、こちらが周囲の観測データです」
「ありがとう、ゾルダート。……データ確認。照準補正は……このくらいですね」
イズルートを望める位置にある小高い丘。ニーナ・イェーガー(にーな・いぇーがー)はそこで身体を伏せ、大口径のライフルを構えていた。ゾルダート・クリーク(ぞるだーと・くりーく)が観測したデータを基に微調整を行い、狙いを定める。目標は竜造達だ。
「相手は二人……初撃は確実入れるとして、二発目はさすがに警戒されるかしら」
「念の為メモリープロジェクターを展開します、マスター。これで出所を隠す効果はあるかと」
スコープから見える景色では、竜造達が煙幕を展開して撤退する所だった。上手く周囲に見つからないように移動しているが、こちらからは丸見えだ。そうとも知らず、相手の顔に笑みが生まれる。
(…………今!)
対象が動きを止めたその瞬間を狙い、ライフルから弾丸が放たれる。荒野を駆け抜けた一発の弾丸は竜造が装着している魔鎧へと着弾した。大口径ゆえの威力の大きさを殺しきる事は出来ず、大きく吹き飛ばされる。
「がっ!? な、どこから撃ってきやがった……!」
素早く壁へと隠れ、追撃を警戒する。だが、狙撃は続かなかったものの、今の音を聞きつけて刹貴が飛び込んできた。
「そこにいたか……。邪魔が入ったのは俺も残念だが、それはそれだ……汝、斬刑に処す」
『やったれ! 刹貴!』
陣の言葉が脳裏に響いた時、既に刹貴は短刀を抜いて駆け抜けていた。その一瞬に間に手を、足を切り刻む。
「チィッ……! やってくれるじゃねぇか……!」
思わず片膝をつく。リジェネレーションが無ければ致命傷になっていただろう。
何とか倒れこまずに済んだ竜造を、素早く徹雄が回収する。ニーナの二撃目か、徹雄自身の肩からも血が滲んでいるのが見えた。
「逃しましたか……。あのガスマスクの男、初撃で警戒されていたとはいえ、見事な察知能力ですね。狙い撃った一撃をかすった程度にまで抑えるとは」
「ですが、もう一人の男は怪我を負い、二人とも撤退した模様です。次はいかがなされますか? マスター」
「後は元凶といえる少年だけですか。念の為狙撃の準備をしますが……必要無いかもしれませんね」
軽く覗き込んだスコープから見える光景、それはラウディへと肉薄する者達の姿だった。刹那と竜造が去った今、戦いの終焉は近い――
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