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リアクション
エピローグ
――こうしてイズルートに平穏は訪れたが、全てを終えるにはまだ早かった。
今も村に横たわる亡骸。彼らを埋葬するまで真の意味でこの村を救ったとは言えないのだ。
「弔うなら、まずはこの村の風習を確認しておかなければなりませんね」
「そうだな。出来る事ならそれを尊重するべきだが……クリフよ、どうなのだ?」
志方 綾乃(しかた・あやの)と、刀に宿る魂『世音』の意識が現れている月詠 司(つくよみ・つかさ)がこの村の住人であるクリフの魂へと尋ねる。文明レベルが中世ヨーロッパと同等の物であるなら――
「ああ、この辺りは基本的に土葬が一般的だな。村のすぐ外に墓地があって、そこに埋葬しているんだ」
「土葬……ですか」
綾乃が否定的な表情を見せる。可能であれば叶えてあげたい所だが、今の状況では適切な埋葬手段とは言えなかった。同様の事を考えたクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)とハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が問題点を指摘する。
「だが、この村は伝染病に侵されている。ならば遺体をそのまま埋葬する事は止めた方が良いだろうな」
「クレア様の仰る通りです。これ以上伝染病を拡散させない為にも、ここは火葬するのが宜しいかと」
「私もお二人に同意ですね。あの少年はもう同じ事はしないと思いますが、誰かにまた亡骸を悪用されないとも限りません」
クレアと綾乃、二人の挙げた点からも火葬が一番良いという意見に皆が賛成する。薬師の夫であったクリフもそれを拒否する事無く受け入れた。
「分かった。俺もそうするべきだと思う。済まないが皆、宜しく頼むよ」
その言葉に皆が頷く。そしてそれぞれが自分の出来る事を行う為に走り回った。
「レイラ、そっちを拭いて頂戴。グロリアはその子を診てあげて」
遺体を安置してある場所でアンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)がパートナー達に指示を出しながら、戦いで傷ついた亡骸を綺麗にしていた。
「……ん」
「この子ね……良かった。余り傷ついていないみたいですね」
レイラ・リンジー(れいら・りんじー)とグロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)の二人も布を手に取り、出来る限りの汚れを落としていく。そこに民家に使える布を探しに行ったレオポルディナ・フラウィウス(れおぽるでぃな・ふらうぃうす)とエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が戻って来た。
「お待たせしましたです。この辺りの布なら使えると思いますです」
「すみません、お嬢さん方。このような役目を任せてしまって」
「構いませんよ。これは私達がしてあげたいって思った事なんですから」
エースの言葉にアンジェリカが首を振る。彼女達は、例え火葬するとしてもその前に村人達の身を清めてあげたいとこうして動き回っていた。
「それじゃあ、ここはお任せするよ。俺も他の所に行ってくるから」
女性陣に後を託し、エースが再び民家へと戻る。衣服や生活用品など、疫病対策の為には焼却しておく必要がある物を運び出す為だ。
(こうして村の文化や歴史が失われる……これもまた『罪』だな……)
エースと同様に民家の中から物を持ち出している者達がいた。神崎 瑠奈(かんざき・るな)と道明寺 玲(どうみょうじ・れい)だ。
「玲さん、これなんかはどうですか〜?」
「非常に使い込まれている品ですな。恐らくはここに住んでいた方が大事にしていた物でしょう」
二人は亡骸と一緒に墓へと入れるべき副葬品を探して走り回っていた。クリフに聞けば誰がどの家に住んでいたか分かるだろうし、一緒に埋めるなら疫病対策としても問題無いだろうと判断したからである。
「この家はこのくらいで宜しいでしょう。一度クリフさんの所に戻り、持ち主を尋ねなければ」
「分かりました〜」
そのクリフはルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)、蓮見 朱里(はすみ・しゅり)の二人と話をしていた。彼女達の提案によって、出来る限り遺体を家族や親しかった者ごとに纏めて、それぞれを近しい場所で埋葬してあげようと思っていた。
「では、こちらの方々が夫婦でお間違い無いですね?」
「あぁ。それから、あそこに見える男の子が二人の子供だ」
「じゃああの子もこっちに運びましょう。アイン、いいかしら?」
「任せてくれ。朝斗、足の方を持ってくれ」
「はい、分かりました」
出来るだけそばにいさせる為にアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)と榊 朝斗(さかき・あさと)が安置所を動き回る。
(皆が安らかに逝けるように、あたいも一生懸命やるんだよ〜)
彼らのそばには経を唱えている廿日 千結(はつか・ちゆ)の姿が。その声に見送られ、身元が判明した者から火葬されるべく運ばれていった。
「よし、この穴はこのくらいでいいだろう」
墓地では火葬された亡骸を埋葬する為に三船 敬一(みふね・けいいち)が穴を掘っていた。その横ではコンスタンティヌス・ドラガセス(こんすたんてぃぬす・どらがせす)と白銀 昶(しろがね・あきら)が別の穴を掘っている。
「ドラガセス、白銀、そっちはどうだ?」
「こちらも間もなく完了だ。そろそろ数としては十分であろうな」
「そうだな。生まれた土地で静かに眠って欲しいぜ……」
三人が用意した墓穴に火葬を終え、骨を納めた木箱が次々と運ばれる。
「こちらの四人が家族でしたね。では北都さん、あちらに埋葬しましょう」
「分かりました。昶、手伝って」
「おう」
菅野 葉月(すがの・はづき)と清泉 北都(いずみ・ほくと)が木箱を四つの穴が固まっている所に入れ、昶達と共に埋めていく。反対側ではセイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)と無限 大吾(むげん・だいご)も一人の亡骸を埋葬し終わった所だった。
「これでよし……と。出来れば簡単にでも墓標を用意したいですね」
「ああ、それなら――っと、来たな」
大吾達の下に藤井 つばめ(ふじい・つばめ)がやって来る。その手には木で作られた簡素な十字架があった。
「お待たせしました、大吾さん。時間が無いから簡単な出来ですけど……」
「いや、大事なのは気持ちさ」
つばめから十字架を受け取り、地面に突き刺す。今はこれだけでも、墓としての体裁は十分だろう。
「こいつも置いといてくれ。誰の墓か分かるようにな」
その横からウルス・アヴァローン(うるす・あばろーん)が木彫りの護符を添える。その護符には埋葬された村人の名前が書いてあった。
「かなり凝った出来ですね……これを全員分作るのは大変では?」
「まぁな。でも……思い出に浸りながら作るには十分過ぎる時間さ」
護符の作成を再開する為に離れていくウルス。つばめが改めて見た護符には、彼の想いがこもっている気がした。
「う〜ん……」
墓地の中央、やや開けた場所で唸るシエル・セアーズ(しえる・せあーず)。そんな彼女に如月 玲奈(きさらぎ・れいな)が声をかけた。
「ん? どうしたの? キミ」
「あ、えっと。この辺りに慰霊碑みたいな物を用意出来ないかなって考えたんだけど……やっぱり難しいかなぁ」
「慰霊碑かぁ……なら石碑とかが定番だけど、さすがにねぇ」
「うん。作るのも持ってくるのも無理だし、どうしようかなぁって」
悩む二人の耳に地鳴りのような音が響く。振り向くとルイ・フリード(るい・ふりーど)が大きな岩を持って来た所だった。
「ああ、その辺りが良さそうですね。申し訳ありません、失礼しますよ――っと!」
大きな音をたて、岩が地面に置かれる。近くの山から採ってきたのだろうか、その大きさはシエルを超えるほどだ。
「ルイさん、これは?」
「慰霊碑の代わりになるかと思い、運んできました。無骨なのは許して頂くとして、出来れば周りに花の種でも植えられれば良かったのですが……」
「なら、こいつが役に立つかな」
ルイの言葉を聞きつけ、棗 絃弥(なつめ・げんや)が懐から皮袋を取り出した。
「これはゼラニウムの種だ。乾燥や日差しにも強いし、手入れをしなくても育つ」
「なるほど……この地には丁度良い条件ですね」
「あぁ……今はまだ種でも、この辺のゴタゴタが全て終わる頃には綺麗な花を咲かせているはずだぜ」
埋葬が進む中、テスラ・マグメル(てすら・まぐめる)は歌を歌っていた。
『マグメル』とは、海底にある死者の国を指す言葉。例えクリフ以外の魂が既に旅立っていたとしても、彼らの下までこの歌が届く事を願う。
――悲しみの歌が村へと伝わる。それは、この村において決して眼を逸らす事の出来ない、起きてしまった悲劇。それを悼む為に必要な歌だった。
(悲しみの次は、次なる生を祝う祝福の歌へ――)
曲が幸せの歌へと変わる。その時、テスラの歌声に合わせ、もう一つの音色が加わってきた。
その音色の主、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は歌い続けながらもテスラに軽く頷いて見せる。
(カレンさん。あなたも思う事は同じですね)
(うん、村の人達が旅立って行けるように……幸せだった時を思い出して欲しいもんね)
二人の歌姫の旋律が響く。それは埋葬が終わるまでの間、幾度と無く繰り返された。
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