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【カナン再生記】風に舞いし鎮魂歌 ~彷徨える魂を救え~

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【カナン再生記】風に舞いし鎮魂歌 ~彷徨える魂を救え~
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エピローグ(2)
 
 
 夕暮れが近づいた頃、全ての村人の埋葬が終わった。七枷 陣(ななかせ・じん)マーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)がこの場にいる者達に清浄化を使い、疫病への対策を取る。
「契約者なら耐性があるかも知れないけどな。ま、念の為だ」
「そうやな。それにこいつも弔い代わりになるやろ」
 そのそばではハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)、そして九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が持参した医薬品の確認をしていた。
「こちらの量は十分です。この場にいる皆様へ処方する事も可能ですね」
「そうか。では村を離れたらどこかで一度皆の診察をした方が良いかもしれないな」
「そうだね。これ以上こんな悲劇を繰り返しちゃいけない……」
 ローズが近くの墓標を見つめる。そして彼らへの想いを伝えると共に、心の中で誓いを述べた。
(間に合わなくてごめんなさい……。時間はかかるかもしれないけど、必ず特効薬を作ってこの病気の犠牲者を減らして見せるから……)
 
 いくつもの十字架が立ち並ぶ中、長原 淳二(ながはら・じゅんじ)ミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)が墓前に花を添えていく。
「近い未来、絃弥さん達の蒔いた種がこの場所の景色を変えてくれるでしょう」
「ですから今は……これで許して下さい」
 同じように藤井 つばめ(ふじい・つばめ)レオポルディナ・フラウィウス(れおぽるでぃな・ふらうぃうす)ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)がそれぞれ墓前に花を捧げていく。それを手伝いながら、エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)がパートナーを気遣った。
「大丈夫ですか? エース。今回の事、あなたの心の重荷になり続けるのでは無いでしょうか」
「ああ、心配無いよ。俺達は生きているんだ……彼らに比べたらこんな物、重荷だなんて言っていられないからね」
 背を向け、あくまで気丈に振舞うエース。だが、エオリアは彼が人一倍優しい心を持つ事を知っていた。
(生きているからこそ重荷に感じる事だってあるというのに……。沢山の命が失われ、一つの村が滅ぶ……エース、あなたはその事実を一人で抱え過ぎです)
 せめてその重荷を一緒に分け合えたら。そんな想いを込めて、エオリアは優し過ぎるパートナーを優しく抱きしめるのだった。
 
 
「全員整列! 物故者の魂を悼み……黙祷」
 比島 真紀(ひしま・まき)の言葉で皆が眼を伏せ、心の中で村人達の安寧を祈る。
(いつか必ず、亡骸を悪用する元凶を断って見せます……)
(だから今はただ、ゆっくりと休んでくれ……)
 真口 悠希(まぐち・ゆき)冴弥 永夜(さえわたり・とおや)がそれぞれの誓いを、想いを胸にする。その隣に立つクド・ストレイフ(くど・すとれいふ)も胸の中で、語りかけるようにつぶやいた。
(Gute Nacht(おやすみなさい)。良い眠りを――)
 皆の村人達を弔う気持ちは奈落人である七誌乃 刹貴(ななしの・さつき)にも届いていた。彼は戦闘が終わってすぐに憑依している陣に肉体の主導権を戻し、後はただ傍観者として見ていただけだった。
(だってのに……何だろうね、この気持ちは。別にただ、ナラカに還るだけだって言うのに……)
 言いようの知れない想いが湧き上がる。それは宿主である陣の物なのか、刹貴自身の物なのか――今はまだ、彼には分からなかった。
「――黙祷、終わり」
 サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が終わりを告げ、皆が顔を上げる。ラデル・アルタヴィスタ(らでる・あるたう゛ぃすた)は隣で微妙な顔をしている木崎 光(きさき・こう)に気が付いた。
「……どうした、光?」
「俺様は、村の人達を助けられたのかな……? 出来る事をって頑張ったけど……意味はあったのかな」
 立ち並ぶ十字架を前に、自分が取った行動の結果を考える光。そんな光の頭をラデルは優しく撫でた。
「大丈夫さ、光。君は勇敢に、かつ村の人達を出来るだけ傷付けないように戦っていた。そのお陰で彼らは綺麗な姿のまま、静かに眠る事が出来たんだ」
「そう……なのかな?」
「あぁ、誇ってもいい。今日の君は本当の意味で『正義』だったよ」
 撫でられるままに、光が眠っているであろう墓に今一度視線を移す。幼き光にとって、今日のこの光景が成長を促す糧になる事を、今はただ祈るばかりであった。
 
 
「皆、ありがとう。これでこの村は救われたよ」
 全てが終わり、クリフが助けてくれた皆へと礼を言う。彼の亡骸も既に荼毘に付され妻が眠っているという墓のすぐ横に埋葬されている。
「奥様……ナラカで見つかると良いですね」
 かつては地球人は死んだらナラカに堕ち、パラミタ人はどうなるかは不明だった。だが篁 光奈の言葉通り、最近になってナラカエクスプレスの発見などによってパラミタ人も同様にナラカに堕ちる事が判明したのである。
「そうだな。どれだけ時間がかかるかは分からないけど、必ず捜し出してみせるよ」
 力強いクリフの言葉に笑顔で頷く光奈。その横で瓜生 コウ(うりゅう・こう)が沈み行く太陽を見ていた。
「日が没する昼と夜の狭間……今なら生者の声を届け、死者の声を聞けるかも知れないな」
 『森の魔女』たる彼女が今、魔女の語源たる『Hexe(垣根の上にいる女)』として知識を授ける。だが、それよりも近しき存在に篁 八雲ニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)が気付いた。
「待って……! また……聞こえる」
「うん、僕にも分かるよ。この近くに『いる』ね」
「どうしたの? 八雲ちゃん、ニコさん」
「聞こえるんだよ、お姉ちゃん。クリフさんの時みたいな声が、また」
「女の人の声……そこ、だね」
 ニコが指を差した先、それはクリフの埋葬された墓の隣だった。つまりそこは――
「――た……。あ……なた……」
「この声は――ロナ!」
 皆の視線が集まる。僅かに聞こえていたその声は次第にその場にいる全ての者に聞こえるようになり、クリフと同じく半透明の姿をした長い髪の女性が現れた。
「あなた……会いたかった」
「俺もだ、ロナ。ナラカで捜し出すしか無いと思ってた」
「私、死んでからずっと魂がここに縛られていたの。村の事が気がかりで……」
 自分しか薬師がいない状況で倒れ、亡くなってしまった。その無念は余りあるだろう。ロナが涙をこぼし、自らを責める。
「ごめんなさい。私がもっと力になれていれば、皆は助かったかもしれないのに――」
「それは違う! 君は良くやってくれていたよ。誰も悪くなんか無いんだ……」
 クリフがロナをきつく抱きしめる。実際の所その通りだ。突如生活基盤を破壊され、その上で流行った病を自身を顧みずに出来る限り食い止めようとした彼女の事を誰が責められようか。
「ありがとう、あなた……ごめんなさい」
 再びロナの眼から涙が溢れる。その涙はなおも自身を責める物か、救われた事に対する安堵の涙か、それとも最愛の人と再会出来た事への喜びの涙か――
 
「さぁロナ。ナラカへと旅立とう」
「えぇ、あなた。あなたと一緒ならどんな所でも怖くないわ」
「君達も本当にありがとう。もう誰も残らない滅んだ村だけど……イズルートが有った事、記憶の片隅にでも覚えていてくれると嬉しい」
 クリフとロナ、二人の身体が消えかける。そこに村の最終確認で参列から外れていた源 鉄心(みなもと・てっしん)が慌てて戻って来た。
「ま……待ってくれ!」
 突然何事かと皆が鉄心を見つめる。そんな視線などには気付かず、鉄心はクリフ達がまだ消えていない事に安堵した。
「良かった……間に合った……。村の人達は全員亡くなったとは聞いていたけど、まさか魂の状態で残っているとは思わなかったよ」
 途中から戦闘に加わった鉄心はクリフの――魂として残っている村人の存在を知らなかった。その事実をつい今し方聞きつけて、急いで走ってきたのである。
 そうまでしてクリフ達と話したい理由、それは鉄心とローズが疫病対策にイズルートに来るきっかけとなった、ある者からの頼み事だった。
「お二人に聞きたい事があります。グライアさんという方をご存知では無いですか?」
「! グライアだって! どこでその名を!?」
「ここから離れた場所、ポート・オブ・ルミナスという港近くにある街でその人から頼まれたんです。故郷の辺りに疫病が流行っているらしいから医者に行って欲しい、と。それで俺は医学の心得がある友人と一緒にやって来たんです。……グライアさん、お知り合いの方ですか?」
「あぁ。ライは……俺の、弟だよ……」
 全てが滅びた訳では無かった。この村の記憶を持つ者はまだ残っていたのだった。クリフは鉄心がかざしたグライアの――妻と子らしき人物と一緒に映っている写真を見て、嬉し涙を零す。
「あいつ……小さな村で人生を終えるのはごめんだって飛び出してから何をしてるのかと思ったら……幸せそうな顔しやがって、この馬鹿野郎が……!」
「グライアさん、心配してましたよ。カナンがこんなになって、村はどうなっただろう、って。でも家族を抱えてる上に道が破壊されてしまって、確かめに行く事も出来ないと悔やんでいました。貴方から彼に……伝えたい事はありますか?」
 クリフが何かを話そうとするが、涙が止まらず声にならない。魂ゆえに触れて慰める事も出来ないので、鉄心は静かに彼の言葉を待った。
「あいつに……ライに伝えてくれ。最期にお前達の事が聞けて嬉しかったって。それから……『離れていても幸せを祈ってる』って――」
「……分かりました。絶対に……お伝えします」
 
 今度こそクリフとロナの姿が薄れ、静かに天へと昇っていく。そんな彼らの為にホーリーローブ姿のシエル・セアーズ(しえる・せあーず)が歌いだした。それに併せ、神崎 輝(かんざき・ひかる)カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)テスラ・マグメル(てすら・まぐめる)、レオポルディナも同じ旋律を奏でる。
 
 聖なる神よ 全ての死せる信者の魂を
 地獄の罰と深淵からお救いください
 
 その歌声は厳かながらも増え続ける。沢渡 真言(さわたり・まこと)が、ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が、水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)が、天津 麻羅(あまつ・まら)が。それぞれの想いを紡いでいく。
 
 聖なる神よ 彼らが暗黒に落ちぬように
 彼らを永遠の光でお照らしください
 
 更にはメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)セシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)ステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)の四人が。彼女達の旋律に見送られるようにクリフ達の魂が一筋の光を残し、消えていく。
 
 天使が彼らを楽園へと導きますように
 彼らが永遠の安息を得られますように
 
 テスラの飛ばしたディーバードが光を護るように大空へ羽ばたく。
 そして高らかに響く少女達の歌声。それは遥かな先まで安らぎを与える――
 
 
 
 
 ――風に舞いし、鎮魂歌

担当マスターより

▼担当マスター

風間 皇介

▼マスターコメント

 こんにちは。風間 皇介です。
 無事に第四作をお届けする事が出来ました。えぇ、本当に、無事に……
 今回ほどこの言葉が相応しい回はありませんが、早速次へ。
 
〜今回の予想外〜

・参加人数
 【カナン再生記】が付いているから50人は行ってくれるだろう。仮に抽選になっても5人オーバーくらいが妥当かな、とそう思っていました。
 ……まさか全体で79人も来るとは。予約抜いたら64/35ですよ。倍率1.8倍ですよ。
 正直自分の見通しが甘かったと言わざるを得ませんね。落選した方には大変申し訳ない事をしました。

・ラウディへの反応
 元々このシナリオは「家族をテロで失って死に敏感な八雲が皮肉にもネクロマンサーとしての才能を持っている」という前提から構想が始まりました。
 その為ナラカとか奈落人とかに関連させる事も検討していた所、「カナンって砂漠化とか起きてるから亡くなる人も多いよな。なら相手もネクロマンサーってのはどうだろう」と思い立ち、そこからラウディが生まれ、カナン再生記となりました。
 なので風間的には主軸は八雲でラウディについては軽く考えていたんですが……届いたアクションのほとんどが
「ラウディ許せん」
「ブチ切れた」
「ぶっ飛ばす」
 といった感じで本気の怒りが見えていました。
 話がシリアス飛び越えてドシリアスになったのは多分この辺が大きく関係しているんじゃないかと思います。
 ワールドガイドのネクロマンサーの説明に「恐怖や嫌悪の対象となって〜」と書いてありますが、それってこういう事なんだな、と実証してしまった形ですね。
 
・悪役サイド
 多い! なんか第二作でPC対PCの場を作ったからでしょうか。それ以来どんどん増えてる気がします。
 お陰で風間にもどこで戦闘が起きるかアクションが集まらないと全く読めません。
 なので今回も対ラウディ相手予定の方が対悪役の方に行ったり、本来完全別行動だった周囲のアンデッド排除組と札破壊組が一緒に行動したりと色々変わっています。
 とはいえ、だから悪役の方は自重して下さい、と言うつもりは無いのでご安心下さい。
 どうしても非戦闘区域を作りたい場合はガイドとかに書くと思いますので。
 一般側の方もアクションなどで明記して下されば悪役側の方と戦闘になった際、巻き込まれないようにするといった対処は取ると思います。その時次第ですが。
 
・ラウディへの対処
 ある意味これが一番の予想外でした。
 当初の予定ではラウディは劣勢になった時点で撤退し、今後またカナン系シナリオをやる機会があったら敵として再登場させようと思っていました。
 ところがアクションの中にラウディを説得される方と逮捕しようとする方が。
 結局迷った上でラウディは逮捕。出す予定の無かった「親に捨てられ、貧困の中で不幸な人生を送ってきた」という裏設定まで引っ張り出されました。
 それどころかラウディの心まで救われる始末。この結末は完全に予想外でした。
 これ、仮にカナン系シナリオをやるとしたら、敵どころか「お前達には任せておけない」とかいって味方になるフラグですよね。
 
・弔い
 予想以上に多くの方が弔い方法を書いて下さっていました。
 その為エピローグが1〜2章規模の8千文字強に。
 普段だと長くても4千文字程度で締めていたので倍近い量ですね。実際始めてエピローグが2ページに渡っています。
 また、最後はあんな形で締めたいと思い、タイトルに鎮魂歌と入れました。
 その思惑通り歌をメインとしている方を含め多くの方が歌い手として参加して下さいました。
 ……けどまぁ、ここまで多くなるのは予想外でしたね。
 それ以外に、クリフの弟というのは本来設定されていた人物ではありませんでした。
 妻の魂は当初から登場予定でしたが、あくまでそこまで。夫婦でナラカに旅立つ事が救いのつもりでした。
 ですが、アクションの中でより良い救いを求める声があった事。それによりこのような結末を迎える事になりました。
 実際の所、クリフの魂は真の意味で救われたのだと思います。
 
 
 
 
 ――とまぁ、本来ならここで終わるはずでした。本来なら。

 皆様もご存知の通り、3月11日(金)に東北地方太平洋沖地震が発生しました。
 フィクションの世界の話だと思い、何の気も為しに決めた「街を壊滅させるほどの大災害」
 それが現実に起きた訳です。それも日本に。
 その時点で4章の辺りまで執筆が終わっていたのですが、正直そこからはかなりの難産でした。
 単純に計画停電やら余震の警戒やらで執筆に専念出来ない環境が続いていたのもありますが、それ以上に扱っている題材故のプレッシャーみたいなものが襲ってきました。
 何とかそういった問題を乗り越えつつ期限内に仕上げる事が出来た訳ですが、このシナリオが持つべき『意味』をきちんと伝えきれたかは難しい所です。
 現実世界にナラカはありませんし、ましてやナラカエクスプレスなんて物は夢物語ですが、願わくばこの震災で亡くなられた方が多くの弔いによって安らかに眠れるように、そしてこのシナリオの結末のように滅びの中にも希望が残ってくれる事を祈るばかりです。
 
 なお称号ですが、今回は現実での地震もあり、敢えてほとんどの方に同じ称号を贈っています。
 例外もありますが、悪役・歌い手・その他といった形です。





 長々とお付き合い有難うございました。最後はいつも通りのこの言葉で。

 それでは今回はこの辺で。次回また、篁ファミリーの冒険にお付き合い下さい。