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【カナン再生記】風に舞いし鎮魂歌 ~彷徨える魂を救え~

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【カナン再生記】風に舞いし鎮魂歌 ~彷徨える魂を救え~
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第7章(3)
 
 
「敵戦力はあと僅かです、ここで勝敗を決しましょう!」
 比島 真紀(ひしま・まき)が一匹のレイスを抑えながら周囲を鼓舞する。ラウディを撤退させるか捕らえるかすればこの戦いは終わりだ。その為の戦力を投入するべく、自身は敵レイスを相手取って戦っていた。同様にサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)源 鉄心(みなもと・てっしん)ミンティ・ウインドリィ(みんてぃ・ういんどりぃ)もそれぞれがレイスを抑え込む為に散っていた。
「任せろ。こいつは俺が片付ける……!」
「後は皆が彼を止めてくれればいい。その為にもここは勝利せずとも唯、不敗であれ……」
「そうだね。何回復活してきても負けなければ……。だから、これで足止めするよ!」
 斬撃が、銃撃が、そして魔法がレイスへと襲い掛かる。既にレイス達はラウディの護衛という役割を果たせなくなっていた。そんな外壁を失ったラウディへと、リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の二人が攻撃を始める。
「もう終わりだよ! 終焉へのダンス……踊って貰う!」
「非道な行いをするのなら、自身が滅びる事も覚悟の上だろう? 真の悪ならば……命での償いをさせてやろう!」
 リアトリスはフラメンコを基本とした動きで、エヴァルトは銃舞に更なる動きを付加した立ち回りで戦っていた。二人とも緩急を使い分けた戦い方でラウディを翻弄する。
「ちょこまかとうるさい奴らだ……消えろ!」
「――甘いっ!」
 闇属性を伴った杖を振るうが二人は回避する。そして出来た隙を逃さずリアトリスが通り抜け様に斬りつけた。手首や膝の近くなど、ピンポイントで狙い斬る事でラウディの行動に制約を付けていく。
「くっ……! くそっ、どいつもこいつも……ふざけるな!!」
 叫びと共に襲い来るエンドレス・ナイトメア。だが、それすらも事前にダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が味方にかけておいた護国の聖域が威力を軽減する。
「お前達も! お前達も滅びてしまえ!」
 次々と闇の魔法を放つラウディ。最初の頃の冷淡な印象は消え、今は怒りを露わにしていた。
「冷静に努めようとも、その本質はまだ外見通りの少年か。お前が何に憤っているのかは知らないが……軍人として、取締りの手を緩める訳にはいかん」
 対照的に冷静な表情を崩さないまま、ダリルが二丁拳銃でラウディの攻撃を妨害する。そして最後の一撃――エヴァルトの魔弾の射手がラウディの身体へと喰らいついた。
「許されざる者に情けをかけるほど、俺は人間が出来ていないのでな……! 報いを受けろ!!」
「ぐっ……! あぁぁぁっ!!」
 至近距離からの銃撃を受け、大きく吹き飛ぶ。いくらネクロマンサーの身体が痛みを感じる事の無い体躯を持つ者が多いとしても、これほどの攻撃をうければ痛覚に届かないはずは無かった。
「くそ……ボクが……お前達なんかに……!」
 僅かな自己治癒能力を頼りにゆらりと立ち上がる。だが、ふらついた身体は最早戦闘を続ける事など無理だという事を物語っていた。それが分かっているのだろう、ラウディは撤退を始める為に影の翼を広げる。
「――! 逃げる気か……ティー!」
「はいっ!」
 僅かに浮き、後方へと移動を始めたラウディの前に突如ティー・ティー(てぃー・てぃー)が現れる。彼女はベルフラマントを使用して姿を消し、この瞬間の為に潜んでいた。可愛らしい外見には似合わぬ見事な手さばきでラウディの翼を押さえ、地上へと落とす。
「ナイスよ、ティー! これで終わりっ!」
 落下した所にルカルカ・ルー(るかるか・るー)が神速で辿り付き、二人掛かりで取り押さえる。ラウディは何とか脱出しようと暴れるが、関節をきっちりと押さえ込まれて動く事すらも不可能だった。
「くそっ……くそぉぉぉぉ!!」
 ラウディの叫びが響き渡る。抑え込まれていたレイスの姿も今は無く、彼の戦いの結末は孤独な物となった。
 
 
「おや、彼は捕らえられてしまいましたか。……これは予想外でしたね」
 最後に残った戦い――神殿の前で戦うパートナーの近くに潜みながらラウディ達の方を監視していた両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)は、訪れた結末にやや意外そうな顔を浮かべた。
 協力を申し出たものの特にラウディと信頼関係があった訳では無い悪路は、彼が負ける可能性も視野に入れ、その際にこちらがとるべき行動も考えていた。それは六黒にラウディを回収させ、自分達も撤退すると共にラウディへの貸しを作る事だった。
 だが、ラウディと戦っていた者達の手腕は想像以上のもので、彼が単独で撤退するならまだしも捕縛されるとまでは思ってもいなかった。
(まぁ良いでしょう。彼は私達の為にどうしても必要な戦力という訳ではありませんし。それに……予想外という意味ではこちらも同じですからね)
 悪事の視線がパートナー、三道 六黒(みどう・むくろ)へと移る。彼は自身へと立ち向かって来る者達と対等な戦いをする為、二重三重の強化手段を用いていた。にも関わらず相手はそれに堂々と渡り合い、ついに六黒の手も、憑依している虚神 波旬(うろがみ・はじゅん)の力を借りる所まで来ていたのである。
「さぁ……わしの全てを賭けた一撃、受け止めきれるか!!」
 六黒の身体を操る波旬が龍骨の剣を神速で叩きつける。その力、重さは今までの比では無く、地面を抉るほどだった。
「こいつは……前の戦いでは無かった強さだねぇ……! まともに喰らうとひとたまりもないな」
 クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)が飛び散る土砂を避けながら冷静に分析する。強さだけでは無い、速さもこれまでを上回るものだった。
「けど、全てが完璧なんて有り得ねぇ。こいつの隠し切れない綻びは……よし、やってみるか」
「何か手があるのですか? マーリン」
「まぁな。ちょいとキツいだろうが、あいつの狙いを分散させといてくれ」
 沢渡 真言(さわたり・まこと)へと軽く答えながらマーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)がファイアストームを放つ。渦巻く炎は波旬へと襲い掛かり、回避行動を取った彼の剣へと直撃する。
「まだまだ! こいつもだ!」
 続いてブリザード、凍てつく炎と連続して詠唱する。それらの全てを波旬は避け、その度に剣に防がれていった。
「無駄な事だ。例え当てた所でその程度ではな」
 波旬の視線がマーリンへと向く。そこに、先ほどの彼の言葉に応えるべくクドと榊 朝斗(さかき・あさと)が攻撃を仕掛けた。
「おっと、やらせる訳にはいかないねぇ。ここはお兄さんがお相手しましょう」
「僕も相手だ。大切な者を護る為に……弱さからも、痛みからも、僕は逃げない!」
 二人の銃が、戦輪が、幾度と放たれるマーリンの魔法の間を縫って波旬へと喰らい付く。反撃として相手の一閃が襲い掛かるが、回避しながらも逃げはせず、常に気持ちは前へと向いていた。
「久方ぶりの生身での戦いで斯様に心強き者達とまみえる事が出来ようとは、世の中は分からぬ物よ。……よかろう、なればこそわしも存分に力を揮えるというもの!」
 渾身の一撃を喰らわせようと大きく剣を振りかぶる。その剣にマーリンが何度目になるか分からないブリザードを放ち、周囲に叫んだ。
「よし、もういいぞ! 散れ!」
 回避行動から退避行動へ。マーリンの言葉に従ってクド達が大きく下がる。全力を持って振り下ろされた剣は対象無き空間を易々と通り過ぎ、大地へと大きくぶつかる。
 ――次の瞬間、打ちつけられた刀身がまるで飴細工だったかのように砕けた。その段階になってようやく波旬はマーリンの行動の真意に気付く。
「……そうか、先ほどの炎と氷……あれはわしに防がれていたのでは無く、『防がせて』いたのだな」
「ご名答。いくらお前が強くなった所で、武器まではそうもいかないだろ?」
 急速に加熱と冷却を繰り返された物質は耐久度に難が生じる。そこでマーリンはわざと波旬が武器で振り払う程度の――そして、完全に避けられないほどの――絶妙な速さで魔法を放っていたのだった。
「……ククク、面白い。中々に面白いぞ。今のこの身体ではここが限界なれど、再び相見える事……楽しみにしておこう」
 武器を破壊されただけでは無く、まだ二回目の憑依という負担が掛かっていた事もあり、波旬と悪路はその場から立ち去る。最後の脅威も去り、今度こそこの村での戦いは終わりを迎えていた――