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激闘、紳撰組!

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激闘、紳撰組!

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■■■其の終章


 ――それは数日後の事。

「そうか、不逞浪士――そして朱辺虎衆は、池田屋に集っているのか。今度こそ、最後の討ち入りとしよう。この扶桑の都を守る為に!」





「なるほど、俺様はつかさが戻って来るまで扶桑に怪しげなやつを近づけなければ良いのだな。任せておけ」
 ヴァレリー・ウェイン(う゛ぁれりー・うぇいん)が呟きながら、扶桑を狙う者に狙いを定めていた。
 彼女は、『隠れ身』で物陰に隠れ周囲をうかがっていた。するとなにやら朱の牛面をつけている連中がきたため、『殺気看破』で探りつつ見回りをしていたのである。
「扶桑に手を出すとは命がいらぬようだな」
 背後からギロチンを使い、ヴァレリーは、『ブラインドナイブス』で首を飛ばそうと試みる。朱辺虎衆の一人に対し、その試みは成功した。
 ――死神の噂が流れているだろうから丁度いいな
 続けて、と彼女は考える。
「『則天去私』だっ、これで気がつけよ、つかさ」
 ヴァレリーは思う。
 ――一部の相手には手加減をしておこう、つかさは子供と一緒だ全て殺しかねん。
「生き残ったものはいるか?」
 『鬼眼』で脅した彼女は、相手の言葉を引き出すように『吸精幻夜』を駆使した。
「ほら、俺様のような美しいものに口付けをもらえるのだ、少しは喜べ」





 枯れかかっている扶桑が遠目に見える。
 これは、未だ扶桑がイルミンスールとつながり活力を取り戻す前の、一時の宴の話だ。
 大白寺の祭りの後――時刻は、暁8つ即ち丑の刻となっていた。
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)の提案で、扶桑見廻組と紳撰組、そして彼岸花の宴がそこでは開かれていた。


 少し前、紳撰組の屯所では。
 ――武神牙竜に呼び出されたか……という事は松風堅守氏と共に居る可能性があるな。
 如月 正悟(きさらぎ・しょうご)がそんな事を考えていた。
 隣では、黒野 奨護(くろの・しょうご)ティア・ルシフェンデル(てぃあ・るしふぇんでる)が抱きついている。
「無事に帰ってきてくれて、本当に良かった」
 涙混じりの彼女の様子に、奨護が照れくさそうに笑う。
 それを後目に、正悟がヘイズ・ウィスタリア(へいず・うぃすたりあ)を見た。
「ヘイズ、此処は任せる」


 パートナーにそう告げ、黙って出てきた彼の推測は、半ば当たっていた。
 そこには、牙竜の他に鬼城松風家当主である松風堅守の姿があった。だが――
「遅かったな」
 そこには既に紳撰組局長近藤 勇理(こんどう・ゆうり)と、そのパートナーである楠都子、そして鬼の副長と名高い棗 絃弥(なつめ・げんや)罪と呪い纏う鎧 フォリス(つみとのろいまとうよろい・ふぉりす)の姿があった。
 扶桑見廻組の側からは、七篠 類(ななしの・たぐい)尾長 黒羽(おなが・くろは)、そしてアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)の姿がある。
「どうしてここに?」
「水くさいな、交流するなら呼んでくれればいい。壱番隊組長の声なら、いつだって私ははせ参じるよ」
 愉悦混じりに笑った勇理に対して、傍らで橘 恭司(たちばな・きょうじ)が煙管を灰皿にコツンと置いてみせる。
 他にも暁津藩家老である継井河之助の子供らしい笑みや、第三勢力・彼岸花の一人であり将軍家御花実様の一人である秋葉 つかさ(あきば・つかさ)等の姿も見える。
「はじめて顔を合わせるな」
 松風堅守が、正悟に声をかけた。
「ハッ、現在、紳撰組壱番隊組長を不肖ながらさせていただいております、如月正悟と申します」
「今日は無礼講だ」
 そういって堅守が笑うと、久我屋の久我内 椋(くがうち・りょう)坂東 久万羅(ばんどう・くまら)が、食物や飲料を配り始めた。モードレット・ロットドラゴン(もーどれっと・ろっとどらごん)がそれを見守っている。
 祭りの後もその場に残っていた黒崎 天音(くろさき・あまね)ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)、また秦野 菫(はだの・すみれ)梅小路 仁美(うめこうじ・ひとみ)、そして李 広(り・こう)の姿も見える。その奧には、鬼城家後見人であるアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)と、ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)の姿もあった。
「無礼講、無礼講」
 笑いながらそう口にした継井河之助が、天音へとつっこんだ。体勢を崩した彼と、その傍にいた松風堅守は、近場の噴水の中へと落っこちる。
 バシャン――そんな水音が辺りへと谺した。
「貞……友達にも見せたかったな」
 スウェル・アルト(すうぇる・あると)が呟くと、久我内屋が配った重箱から厚焼き卵を取り分けながら、ヴィオラ・コード(びおら・こーど)が切なそうに笑う。二人の足下には、境内に住み着いている猫が歩み寄ってきていた。
 酔いが回るにつれ、宵が深まるにつれ、人々は各個に分かれ、密談をしたり、情報交換をしたりと、宴以外を楽しみ始める。

「――だけど結局、鞘を置いたのは誰だったんだろうな」

 そんな中、一人勇理がポツリとそう呟いた。





 朱い牛面を身につけながら、楠都子は黒装束へと着替えた。
 彼女は、コレは自分がやるべき仕事であると考えていたから、他の誰にも任せる気はなかったのである。

 ――鞘の持ち主は、勇理でなくてはならない。絶対に。

 それは、首領の願いでもあったし、パートナーである自分に課せられた使命であるのだと、都子は考えていた。
 一見それは、勇理に嫌疑を向ける事になるが、ひいては、勇理から疑惑の念を逸らす事が叶うだろうから、と。
 迷惑をかけたくはないから、といっても通用しない理屈だろう。そう、都子自身も理解しては居た。だが、彼女は、その日、朱雀の面をつけたのだった。
「ごめんね、勇理」
 けれど糾弾されるべきは、やはり自分自身であるはずで、それを他の誰かに任せる事は躊躇われた。躊躇われたのだ。

 ――近藤 勇理(こんどう・ゆうり)の刀の鞘を奪取したのは、楠都子である。