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蛙の代わりに雨乞いを……?

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蛙の代わりに雨乞いを……?

リアクション

     ◆

一方、雅羅たちは一度一区切りをつけて公園への帰路へと着いていた。
「皆のおかげで何とかここまで集まったし、とりあえずあの先輩のところに戻りましょうよ」
「そうですね、これだけ集まればきっと大丈夫ですよ」
 雅羅の言葉に賛同する一同を代表して、柚がそう言った。
「それにしてもまた会えちゃうって、なんか面白いよね! ね、ベアちゃん」
「そうですね、あのお二方、結構慣れてしまえば面白い方たちですしね」
「慣れたんですか? お二人は」
 美羽とベアトリーチェが話しているのを聞いた豊和がそう尋ねる。とはいえ、まだウォウルとラナロックに合っていない豊和たちにしてみれば、どれほどキャラの濃い先輩たちなのかがわかっていない様子だ。
「うん! ちょっと癖はあるけど、でもいい人たちだよっ」
「機嫌が悪いラナ先輩は、少し怖いですけどねぇ……」
 ベアトリーチェが苦笑を浮かべながらそう呟くと、その時の光景を思い出したのか、美羽も「ま、まぁね」と言って苦笑した。
一同が来た道を帰っていると、そこで反対側を歩くエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)を見つけた美羽、ベアトリーチェ、雅羅。
「あれ、あの人って――」
「うわぁ! エヴァっちゃんじゃん! ちょうどいいや、誘ってみようよ」
「エヴァルトさぁん! おはようございまぁす」
 ベアトリーチェと美羽が手を振ると、それに気づいたのかエヴァルトが一同の元にやってきた。が、少し顔が赤い。
「美羽さん。君、その呼び方やめてくれないかい?」
「え? ダメなの? 何でぇ? 可愛いじゃんっ」
「別に呼ばれ方はなんだろうと構わんが、こんな大勢がいる前でその呼び名は……その、恥ずかしいと言うか……」
 口ごもりながら俯くエヴァルトはしかし、はっと思い出して顔をあげ、一同に尋ねた。
「それより君たち、何故こんなところに?」
 それぞれ彼に面識がない、もしくは少ない為に口ごもっているが故に、必然その返事は美羽とベアトリーチェが担当する事になる。
「雅羅がね――」
「雅羅?」
「この子ですよ、新入生の雅羅さん」
 雅羅がお辞儀をすると、エヴァルトも簡単に挨拶を交わす。
「で、続けていい?」
「ああ、すまん。続けてくれ」
「雅羅がね、ウォウルさんに声をかけられたんだって。何か協力して欲しい事があるってさ。事情は完全には聞いてないみたいだけど」
「ひ、人を集めて欲しい。と言う事らしいです」
 少しもじもじしながら、美羽の言葉を補足する様に柚が続けた。
「君も新入生、の様だね。蒼空の制服を着ているって事は」
「あ、はい。杜守 柚、と言います。初めまして」
「ボクは柚のパートナーの三月って言うの、よろしくね、先輩!」
「ああ、よろしく頼む」
 そういうと、三月とエヴァルトは握手する。
「できればエヴァルトさんも協力しては貰えないですか?」
 少し不安そうに豊和が言うと、エヴァルトは少し考える様な仕草をした。
「またあの先輩、か。まぁ悪い人ではないとは思うんだが……いいだろう。俺も少し体を動かしておきたいしな、協力するよ」
「よぉし! そうと決まったらエヴァっちゃんも一緒にゴーっ! だねっ」
「だ、だからっ!」
 かくして、エヴァルトが参加した一同は再び公園へと向かう。
暫くは雑談を交わしながら一同がワイワイやっていると、突然物陰から一同に向けられた――と、言うよりは雅羅に向けられた声が聞こえる。

「もし……そこのお方」

 一同は既に公園付近までやってきている。あと少し、と言うところで雅羅がその声を聴き、立ち止まる。しかし、声のする方に目をむけど、其処には誰もいない。不思議そうにしながらも、再び歩き出そうとする雅羅に、再び声がかけられた。

「もし……そこのお方。少し待っては頂けませんか」
「……誰?」

「もう少し下です。下を見てやってください」
 言葉の通り雅羅が下を向くと、鬱蒼と生い茂る叢がガサガサと、何やら蠢いているではないか。若干後ずさりながら、更に目を凝らして叢を見つめる雅羅――と。
「とうっ!」
 掛け声と共に、叢から何者かが飛び出て来て、雅羅の前で着地する。まるで彼女に忠義を尽くす騎士(ナイト)が如く跪き、その男は暫くの沈黙を持った。
「実は――お頼みしたい事がありまして」
「………?」
 思わず喉を鳴らす彼女はしかし、言いながらゆっくりと立ち上がる男の全貌を見るや、何とも言えない顔をした。
 真紅のマントを翻し――
 凛々しい仮面で素顔を隠し――
 輝く白銀の頭髪を靡かせて――
 男は仁王立ちした。      が――。

 彼は服を着ていない。

「えっ、えっ……? えぇっ!!!?」
「御嬢さん――一つお尋ねしよう、どう思う俺様のに――」
「きゃあああああああああああああああああああああああああああ!」
 雅羅の悲鳴によりその男、変熊 仮面(へんくま・かめん)の言葉は悉くかき消される。
「おじょ――」
「きゃあああああああああああああああああああ!!!!!」
「お――」
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
 辺りに響き渡るうら若き乙女の叫び声に、周囲の通行人は勿論、先行していた一同も振り返り、雅羅の元に慌ててやってくる。
「サンダースさん? どうした」
 慌ててやってきた一同も、雅羅の前に佇む仮面姿の男の格好を見て、思わず硬直した。
「ちょ、静かにしようよ御嬢さん! そんな声を出したら俺様がまるで変質者と間違われるではないか!」
「全力で不審だろう!」
 エヴァルトの的確な突っ込みに悔しそうな表情を浮かべた変熊仮面は、再び「とおぅ」なる掛け声と共に叢に飛び込み、頭だけひょっこり顔を出して一同を見やった。
「貴様等には聞いていない! 用があるのはそこの御嬢さんだけなのだから!」
「ねぇ……それもそれで不審だよね」
 美羽が少しおどおどしながら、変熊仮面に突っ込みを入れる。
「何っ!? 俺様は決して不審などではない!」
 今度は普通に表れた変熊仮面は、事もなげにそう言った。
「そうだ、遅くなったが……俺様は『美の伝道師』、変熊仮面」
 これでもか、とばかりに決めポーズをして、変熊仮面は得意げに名乗りをあげる。が、特にリアクションはない。と言うより、一同は返事に困っている様である。
「さぁ! 御嬢さん、答えておくれ! 俺の、俺様のこの肉体、どう思う」
「変熊仮面よ、もういい加減前を隠せ、前を。君のその質問に意味はもうないのだから、とりあえず前を隠せ」
「そうですよ、とりあえず服を着てください!」
 エヴァルトを皮切りに、豊和も懸命に変熊仮面を制止し始めた。
「三月ちゃん、あの……その、まだ見えますか?あの人」
「うん、いるいる。普通に話してるよ」
 思わず三月の背後に隠れている柚は恐る恐る三月に尋ね、三月は平然と質問に答える。
「ところで、変熊仮面さん。一つだけ言っても良いかな」
 両手で懸命に顔を覆っている美羽が、そこで変熊仮面に尋ねる。
「なんだい、御嬢さん」
「雅羅、もう失神しちゃってるけど」
「な、なんだって!? そうか、俺様の肉体がそれほどまでに洗練されていたとは――罪な存在だな、俺様って」
「明らかに違うと……思いますよ」
「これでは他の人々にも被害が及ぶかもしれんな、よし、豊和! 一緒にあいつを止めよう!」
「そうですね、とりあえず服を着ていただかない事には、更なる被害者が増えるかもしれませんし……」
 言いながら、豊和はベアトリーチェに抱きかかえられる雅羅をちらりと見やった。
「ごめんね、ボクが此処をどくと柚に遮蔽物がなくなるから、ボクは暫くこのまま待機させてもらうよ」
 二人は頷き、目の前に立つ変熊仮面へと向き直る。じりじりと距離を詰めながら、しかし彼がどんな動きを見せても良いように体勢を低くし、構えを取っていた。
「ほう、俺様の肉体にそこまで触れたいか!」
「違う!」
 二人は同時に否定した。と――。
「あの――あの方たちは何を……」
 唖然とした様子で、彼らのやや後ろにいる美羽、ベアトリーチェ、柚、三月に向けて声がかかる。思わず肩を竦めた四人だったが、振り返るとそこには本郷 翔(ほんごう・かける)がいた。
「あ、違うんですよ。これはその――」
「突然出てきたんだよ、あの人」
「そうそう。突然出てきて、あの格好だったからね。この子失神しちゃって」
 柚、三月、美羽が懸命に弁明し、ベアトリーチェが簡単に此処までのいきさつを説明する。全部聞き終ると翔は「成程」と頷いて、再びそのすぐ先で行われている変熊仮面、エヴァルト、豊和の三人による死闘の様子を伺う。
「ぬぅ……ならばあとで直接本人に聞くまでだ! また来るぞ、さらばだっ! とおぅ!」
 どうやら決着がつかなかったのか、肩で息をしながら変熊仮面はそう言うと、再び元居た叢へとその身を翻し姿を消した。
「何がしたかったんだろうか、あいつは」
「さぁ……?」
 懸命に息を整えようとしながら、二人が呟く。
「ねぇ、三月ちゃん……あの人は――」
「もういないから大丈夫だよ」
「皆さん、大丈夫ですか?」
 翔は心配そうに一同を見つめて声をかける。
「おーい、雅羅……大丈夫?」
「暫くは……このままでしょうね」
 それぞれがそんな事を呟きながら、しかしベアトリーチェが彼女を背負うと、再びその足を公園内へと向けた。ウォウルたちと合流するはずが、しかしその合流場所を知っているであろう雅羅は今失神している為、とりあえず一同は公園内に入り、適当に探しながら合流する事にした。