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Blutvergeltung…導が示す末路

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Blutvergeltung…導が示す末路

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第14章 “欲”が示す末路 story5

 封神台から最初に出てきたのは・・・。
 妖精アウラネルクを連れた陣たちだった。
「退けやぁああっ」
 大佐を退かせようと、陣がファイアストームを放つ。
「(何人か封神台の天辺へ飛んでいったようだからな。これでもう研究を続ける手は残っていないだろう)」
 彼女は反撃するでもなく、十天君の計画は完全に失敗したのだろうと、焔をかわし撤退する。
 天辺だからといって必ず上層へゆくのではなく、下層へ送られる者もそこへ飛んでゆくものなのだ。
「げっ、逃げちゃった!?」
「いいじゃないの、妖精がそこにいるんだし。さっさとやっちゃおう♪」
「な、なんだと・・・てめぇらっ」
「陣さん、今は妖精さんを元いた森へ帰してあげなきゃ!」
「追ってきたらそんときは炭にしてやるから、止めないでくれ」
 真に止められ、ひとまずオメガの屋敷へ向う。
「すっかり頭に血が上っているな・・・」
「炭にしたくなきゃ、ここで俺たちが止めないとな、真」
「そうだね、兄さん」
 ぽりぽりと頬掻き、屋敷へ行く者の背を守る。
「ふぅ〜ん。地球人のくせに生意気ねぇ」
「ぐがぁああっ」
 ウィザードのサンダーブラストの直撃をくらいながらも・・・。
「―・・・炭になりたくなきゃ、大人しく捕まってもらわないとね!」
 その小柄な身体を実力行使で叩き伏せる。
「んもー!真さん!だから無茶しないでっていってるでしょ!」
 怪我するのが趣味なのかと思うほど、毎回傷だらけの彼を皐月は叱りつけながらも、命のうねりで治してやる。
「あはは・・・ごめん」
「他の人も脱出したようですよ」
「レリウスさん、軽傷の人の治療をお願いできる?」
「分かりました」
「ただいまっ、十天君の1人をやっつけたよ!」
「その傷なら、消毒などをしておけば大丈夫そうですね」
 ハイラルが持ってきた医療道具で、クマラに簡単な手当をしてやる。
「念のため、治療もしていってくれ」
 龍玉の癒しで左之助は封神台から出てきた者たちを順番に病原体の毒を取り除く。
「鏡の破片があたっちゃったのかな、ありがとう」
「オメガさんところへ行こうぜ。きっと心配してるだろうからな」
「だね、エース!いこーいこーっ♪」
 一番乗りしようとクマラは空飛ぶ箒に乗る。
「アルファも行こう?オメガの魂を、一緒に返しに行くって約束したでしょ」
 泡は約束は守らなきゃね、とアルファに言う。
「はい・・・」
 きっとまだ自分を恐れているだろうし、魂を得たとはいえ、本物が目の前に現れたら奪おうとするかもしれないと、まだ悩んでいる。



 皆の帰りを待ちながら花輪を作りっているリュースは、レヴィアに話しかける。
「きっと、無事に戻ってきてくれますよ」
「深手を負わされていなければよいが・・・」
「そうですね・・・。無傷は難しいかもしれませんが、あんなおばさん連中にやられるような人はいませんよ。―・・・あっ、おかえりなさい!」
 超感覚で近づいてくる足音を聞き、その方向を見ると陣たちが妖精を連れて帰ってきた。
「ただいま!」
「妖精さんも無事にようですね」
「―・・・おぬしの友なのか?」
「そうッスよ」
「記憶はどれくらい戻ったんですか?」
「俺たちのことは思い出してくれたんやけど。全員ってわけじゃないんや」
「―・・・そうですか」
 また1からなのは辛いだろうが、封神台から無事に出られただけでもよしとしなければならないようだ。
「完全に忘れているわけじゃない人もいるんですよね?」
「そうやね」
「まったく初めから・・・というわけでもないんですね」
「レヴィア、なぜおぬしがここに?」
 パラミタ内海にいるはずなのに、どうしてここにいるのだと妖精が首を傾げる。
「ここにやつらが作ったゴーストが送られてきたんでな・・・」
「ふむ・・・。それが陣たちがいっていた十天君とやらの仕業かぇ?」
「最後にはオメガを殺そうとまでしてきたぞ・・・」
「オメガとは、あの魔女のことかぇ?ここに移り住んでいたのじゃな」
 どうしてここに住むことになったことの記憶まで再生していないらしく、初耳だというふうに言う。
 話しこんでいると泡たちも屋敷に到着し、大きな声でオメガを呼ぶ。
「オメガーっ!約束通り戻ってきたわよ!!」
「おかえりなさい皆さん」
 昶と一緒に階段を下りてきたオメガは、玄関の前で足を止める。
「その様子だと、十天君を何人か倒したんですね?」
 いよいよオメガが屋敷の外へ出られるようになったのかと、リュースが泡に聞く。
「金光聖母は倒せたんだけど、他は分からないわ」
 その女の最後は口に出来ないほど壮絶なものだったが。
 今までのことを思えば、残酷な死に様が相応しいとまで思えるし、もちろん哀れんでやることも出来ない。
「そう・・・ですか」
「えっと・・・ちょっといい?」
 本物のオメガの魂を大事そうに手の中に抱え、泡が話を遮る。
「あのね、今・・・アルファがいるんだけど」
 彼女がその者の名を口にしたとたん、オメガはびくっと身を震わせる。
「アルファ、この魂をオメガに返してあげられる?」
 泡がそう言うと、もう1人のオメガだった魔女は首を左右に振る。
「触れてしまったら・・・またほしくなってしまうかもしれませんの」
「そう・・・」
 無理させてもとのように魂を狙うようになってしまっては、非常にまずい状況だ。
 先に屋敷へたどりついた陣と彼のパートナーは特に、彼女を信用しているわけではない。
「(まだ心の中に、恐怖が残っているのかな・・・)」
 2人の距離はまだ縮められる段階ではないらしく、クマラは残念そうにしょんぼりとする。
 日早田村で襲ってきたことを思えば、やっぱりまだ怖いのだろう。
「私が渡すわね」
 本当にいいのね?と確認するように言うとアルファは静かに頷いた。
「オメガ、あなたの魂よ」 
 手の平に乗せた本物の魂をオメガに戻してやる。
「ありがとう・・・、皆さん」
 それは魂を取り戻してくれただけでなく、無事に戻ってきてくれてありがとう、の言葉だ。
 全て身体に戻ったおかげで、やっと心から自然に笑えるようになった。
「オメガ殿、外に・・・出てみてはどうだ?」
 十天君の1人はすでに自分の固有の術すら使えないから、おそらく誰かが討ってくれただろうと願い、彼女に片手を差し出す。
「まだ気軽に触れるのが怖いのか・・・」
「一緒に外へでましょう」
 風花は彼女の隣へ行き、そっと背中を押してやる。
「ほら、出られただろう?」
 オメガが押された拍子に指先だけ、ちょんと触れた。
「おめでとう、オメガさん」
 記念すべき日のために作った美しい花輪を、リュースが彼女に渡す。
「キレイ・・・ありがとう、リュースさん」
「さて、わらわたちは宴会の準備でもしよう」
「お帰り皆。ん、宴会って?」
 不便のないように屋敷を修理していた北都が顔を出す。
「オメガとアルファのために、何か作ろうかと思ってな」
 お菓子でも作ろうかとエクスが言う。
「ちょうどハロウィンの時期だし、ハロウィンパーティーの準備もしていたんだよね」
「ほう、それもよいな。材料は余っているか?」
「うん、まだあるよ。紅茶を淹れてあげるから、皆はリビングで待ってて」
 そう言うと北都はエクスとキッチンへ向う。