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Blutvergeltung…導が示す末路

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Blutvergeltung…導が示す末路

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第11章 “欲”が示す末路か story2

「グラキエス・・・っ!紛い物の死期に、こんなに苦しめられるとは・・・あぁっ可哀想に!!」
 ベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)は私が変わってやれたらどんなにいいかと、苦しみもがく彼を膝に乗せてよしよしと頭を撫でている。
 不老不死となった獣人に追われるアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)のことなどお構いなしに、必死にグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)だけを守る。
「いつまでもそこにいると、銃弾をくらってしまうぞベルテハイト!」
「黙れアウレウス。グラキエスが私の膝の上で苦しんでいるというのに、立ち上がれるわけがない」
「すまんが少し空気を読んでいくれないか」
「空気だと・・・?空気に文字でも書いてあるのか?まったく、おかしなやつだ」
「―・・・・・・そういう意味では・・・」
「苦しんでいるグラキエスを助けてやるのが、私の努めでもあるからな・・・」
「ふむ・・・・・・それならよいが」
「(この苦しみ方・・・・・・グラキエスは私の弟と同じ死期を・・・・・・)」
 そうはさせるものかと、ただの幻覚だ・・・この私が救ってみせると彼を抱き寄せる。
 狂った魔力などに、お前を殺させはしない・・・。
「私の元へ戻っておいでグラキエス。お前の行先はそっちの道ではない、私がいる場所へおいで」
 いつ暴走してもおかしくない状況だと、一刻も早く彼を苦しみから救おうと、優しく語りかける。
「ホント、可哀想ですね。不老不死の体になれば、そんな恐怖ともさよなら出来るのに」
 天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)はそう冷ややかに言うが、哀れんでやってるわけでなく、擲弾銃バルバロスでいたぶろうとする。
「(あの獣人め・・・グラキエスがまだ死期の幻覚から戻らぬというのに、撃ってくるとは!)」
 私の弟を傷つけさせるものかと、彼を抱えて降り注ぐ弾丸の雨の中を駆ける。
「両手が塞がっているから、反撃も出来ないようですね・・・。そんなの捨ててしまえばいいのに」
 クスリと笑い、その身を蝕む妄執で幻覚に囚われている者に、その身を蝕む妄執でさらなる恐怖を与えようとする。
「そんな・・・のだと!?私のグラキエスを貴様のような輩に、指1本触れさせはいないぞっ」
「とはいっても、背ががらきではないか!」
 アウレウスは主だけでなく、彼を抱えているベルテハイトも、レッドラインシールドで守ってやる。
 嘆息しつつグラキエスまで気づけさせるわけにはと、銃弾を盾で弾く。
「(何か聞こえた・・・・・・。今のは、銃声・・・・・・敵がいるのか!)」
 グラキエスがゆっくりと目を開けると、そこには・・・。
「(アウレウス、ベルテハイト・・・・・・!)」
 葛葉だけでなくどこからか、アウレウスを狙撃しようとする銃声を聞き、自分を銃弾から守るパートナーの姿が、金色の瞳に映る。
「(くっ、こんな幻覚など・・・・・・!邪魔だ!消え失せろ!)」
 必死に自分を守ろうとしているパートナーが傷つく前に、この苦痛から逃れなければと、怯懦のカーマインを己の足に撃ち込む。
「主?!何をなさるのですか!」
 幻覚から逃れるためとは言え、何と言う事を・・・・・・と、思いながらも、紛い物の死期から逃れるとはいえ、魔鎧としての己の力が足りないばかりに、主自身が銃弾をその身に受けて正気に戻る手を使わせてるとは・・・。
「いや・・・それから開放されるには、この方法しか思いつかなくってな・・・。それに1発くらいなら、たいしたダメージもない」
「―・・・主。やつらは俺が倒してやります」
 主を傷つけてしまい、せめてこれ以上、苦しい目に遭わせしまわないよう、敵を屠ろうと立ち向かう。
「ベルテハイト、もう降ろしてくれないか」
「まだ傷を癒してあげていないだろう?」
 腕の中から逃れようと暴れる彼を抱きかかえたまま、ベルテハイトは氷雪比翼を広げて、いったん葛葉から離れようと空へと逃れる。
「治したばかりだから、あまり動かないほうがいいぞ」
 ヒールでパートナーの傷口を塞ぎ、派手に動けばまた出血してしまうぞ、と注意する。
「それと・・・その傷の仕返しもしてやらないとな」
「(はぁ・・・彼の傷って僕のせいでしょうか?)」
 確かに銃弾を浴びせようとはしていたが、いつ契約者に当たったのかまったく分からないし、正確にいうと掠りもしていない。
「(まぁ、あれだけ撃ったわけですし、おそらく数発くらい当たったということでしょうね)」
 しかし頭に怒りのあまり、こうなったのは敵のせいだと言い放つベルテハイトの言葉に、そうなのかもしれない・・・と思い始めてしまう。
「その身を蝕む妄執で、もっと苦しむと思ったのですが、すぐ正気に戻ってしましたね・・・」
 彼らの契約者に、死の恐怖を増幅させてあげようとしたが、意外に効き目が浅かったようだ。
 銃でなぶるよりも、もっと死期とやらを体感させたかったと、残念そうに言う。
「まず貴様を氷付けにしてやろうか!」
 狙撃者のゆる族の気配が、ディテクトエビルのエリアから離れていき、ターゲットは目の前の獣人だけとなった。
「(これを壊されたら、斬られるばかりでしょうから、機体の破壊だけはさけないと・・・!)」
 彼女は墜落させられて機体が故障しないように、地面ギリギリまでに高度を下げるが・・・。
「墜落はまぬがれたようだが、貴様はどうかな?」
 氷雪比翼の羽ばたきが凍てつく風となり、葛葉の身体を指先から凍らせていく。
「ぼ・・・僕の身体が!?」
 身を斬るような烈風に身体を凍結させられ、ぐらりと擲弾銃バルバロスから落下して砕け散る。
「―・・・・・・髪の毛1本も残らないとは、これはどういうことだ?」
 大切な弟を傷つけた罪で罰しようと、倒そうとはしたが葬ろろうとまではしなかった。
 身体も全員凍らせたわけでもないし、擲弾銃バルバロスの上から落ちても死なず、重傷になるだけだ。
 まるでわざと自ら命を絶ったかのように思える。
「死んだ・・・・・・のか?」
「いいえ、いますよ・・・」
「な、何!?どこにいるっ」
「フフフ、あなたの真下です」
 殺してしまったかと思った相手の声を聞き、焦りの色を見せる彼を、どこからか見上げてクスクスと笑う。
「(死んでいないだと!?なんとまぁ、化け物のようだヤツだ・・・っ)」
 アウレウスは強化光翼で飛び、影のように揺らめき葛葉の姿となっていくその者を、幻槍モノケロスで貫きライトブリンガーで討つ。
「酷いじゃないですかっ。僕が死なないからって、いきなり刺すなんて!」
 いくら痛覚のない不老不死の身体とはいえ、何度も壊されのが平気なわけでもない。
 彼らの怒りや憎しみの感情を糧に、再生した彼女は赤色の双眸に怒りの色を宿す。
「(いよいよ本物の化け物と化したようだな・・・)」
 全ての争いごとを祟るかのように何度も再生する葛葉を、アウレウスはどう倒せばいいのか・・・考え込んでしまう。
 彼女が不老不死になったといっても、元々の能力が強化されたわけではない。
「降ろしてくれ、ベルテハイト」 
「傷はもう癒えたのか?」
「完全とまではいかないが、動けなくはない」
 防戦一方のアウレウスを助けようと、グラキエスは草むらの上へ降ろしてもらい、すぐさま葛葉にブリザードを放ち墜落させようとする。
「吹雪程度じゃ、擲弾銃バルバロスは止められませんよ!」
 飛ばすスピードが遅くなっているが、それはたいして問題はない。
「(あれさえ落としてしまえば、獣人の力を削げることが出来そうだな)」
 だが彼女の身体が、再び再生するようなことになればそれまでの間、機体は操縦者を失い、地面へと落ちてしまうだろう。
 何度も機体が落下してしまうと、動かなくなる可能性もある。
 彼はそれを狙い、銃弾がどこへ放たれるか、銃口を向けるパターンを身ながら行動予測をする。
「それさえなければ、たいした攻撃も出来なくなるだろう?」
 サンダーブラストの雷を葛葉にでなく、擲弾銃バルバロスへ目掛けて放つ。
「ひ・・・・・・、卑怯じゃないですかぁああ!!」
 まさか自分でなく、擲弾銃バルバロスの方が狙われると思わなかった彼女が叫ぶ。
「うわぁあ、やめてーーーっ」
 背のネロアンジェロを羽ばたかせ、迫るグラキエスから逃れようとするが・・・。
「来ないで、来ないでください盗賊っ」
「あの獣人は誰のことを言っているんだ?」
 視線の先にいるのは私の弟しかいないのだが、とベルテハイトが首を傾げる。
「主のクラスもローグではないな」
「だな・・・」
 なぜ、そのようなことを叫んだのか不思議に思い、ハンドルを持つ手をがくがくと震わせる葛葉を見る。
「アハハッ・・・トウゾクハミンナシネシネシネェ〜!」
 盗賊とやらに怯えていたはずの葛葉は、突然人格が変わったかのように、無差別に銃弾を乱射をする。
 死期の幻覚によって、彼女の視界に入る者は全て盗賊に見えてしまっているようだ。
「主、ここはいったんさがりましょう」
 アウレウスは主の手を引き、迫り来る銃弾を盾で弾き彼を守る。
「グラキエスを守るのはこの私だ!」
 それをベルテハイトが許すわけがなく、すぐさまアウレウスの傍から引き離す。
 弟の身の安全を優先し、木々の中へ身を隠した。



 目の前のターゲッドがいなくなろうとも、葛葉は笑い狂いながら銃弾の雨を地面へ降り注がせる。
「シネ、シネシネシネッ、ミンナシンデシマエェエエ!!!」
「墜ちなさいっ」
 それがパートナーにまで手をかけようとし、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が不老不死の狂った獣に迫り、ブリザードで擲弾銃バルバロスをぐらぐらと揺らす。
「ウルサイ、トウゾクメ。オマエモシネ!」
「確か、死も痛みもない身体なったんですよね・・・」
 ベアトリーチェは苛立つようにぎゅっと拳を握り、何でこんな罪人がこの世にいて、優しい人が生きられないのだろうと、悔しげに歯を噛み締める。
 争いの耐えない嫌な世の中でも、絶望しきることばかりでもないが・・・。
 この獣人が軽々しく口にする言葉は、どうしても許せない。
「死んでしまったら、その先はないんですから!!」
 命をバカにする者を許すものかと、一切手加減せず猛吹雪を放ち、機体ごと地面へ墜落させる。
 葛葉は擲弾銃バルバロスの下敷きになりながらも、紛い物の死期に囚われ続け、両手をばたつかせながらケラケラと笑う。
「そうだね、あまり言ってはいけないものだよ」
 ベアトリーチェが怒るのも無理もないと、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)も静かに頷いた。
 それは英霊の熊谷 直実(くまがや・なおざね)にも重くのしかかる言葉だ。
 人生は1度きりなのだから、他人の命を誰かが弄んでいいわけがない。
 ましてや死体を辱める十天君の所業も、死人からだからといって、好き勝手扱っていいものではないだろう。
「キャハハッ、この世は平等ではないんですよぉ〜。争いが起こる度に人間どもだって、利用出来るものは、なんだって活用してきたじゃないですか〜♪」
「なるほど・・・。あなたみたいな方といるから、魔女さんたちの感情も酷く歪んでしまったんですね」
 耳障りな趙天君の笑い声に、沢渡 真言(さわたり・まこと)は心底不愉快そうに顔を顰める。
「魔女たちが不老不死になりたいって言ってるんだから、いい加減ほっといてくれねぇか?」
「そう言われましても、私は引き下がるつもりありませんが?」
「同等の対価として、働いてもらってるだけなんだぜ」
「対価・・・それが、命というのですか!?」
「(命・・・・・・か)」
 マーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)は研究所の前で、ゴミのように放置された亡骸を思い出してしまった。
 王天君の態度に、不老不死になりたいなら、一番大切なものを捧げて当然というように聞こえる。
「(協力者に守られているから術を使う様子もないし、どうしたらいんだろう・・・)」
 何かよい策はないかと考えていると・・・。
「ぅ・・・・・・ぅう」
 突然、身体が引き裂かれそうな激痛が走る。
「―・・・どうした佐々木っ」
 天 黒龍(てぃえん・へいろん)が急に苦しみだした弥十郎の元へ駆け寄る。
 弥十郎は死期の幻覚に襲われ、いつもは料理する側の彼が、何者かに生け捕りにされて調理されるという苦痛に苦しめられている。
「人狩族が・・・人狩族が来る!うわぁああっ!!」
 それも美味しい部位だけを奪われ、他はその辺に捨てられるという屈辱的なものだ。
「食材は全てつかいきるものなのに・・・。どうしてそんな雑に扱うんだよ!?嫌だ・・・ちゃんと最後まで使ってよーーーっ」
 そう絶叫したかと思うと・・・。
「―・・・・・・雑に、扱わないで・・・・・・」
 ふっと意識を失い、倒れてしまった。
「くっ、こんな時に幻覚に襲われるとは・・・っ」
 弥十郎の身体を揺り起こそうとするが、まったく起きる気配がない。
「(たまには、借りてる体の恩をかえさないとな)」
 うとうとと眠っていた伊勢 敦(いせ・あつし)は、彼らが封神台に入った後に目覚め、彼の目を通して戦況を見ている。
 これはやばそうだと手助けをしてやる。
「その頭・・・いったいどうした?」
 目覚めた弥十郎の髪の毛が黒く染まり、直実は驚いた様子で目を丸くする。
「おっさん、女装の時に使ったウィッグだよ」
 彼はそうごまかすと、天狗の面で顔を隠してから振り向く。
「ほう・・・そうか。(おいおい、今まで銀髪だったろ)」
 納得したように言いながらも、ずっと地毛のままだったじゃないかと、心の中で突っ込む。
「私の髪の毛を気にしている暇があったら、あいつを倒さす策でも考えようよ」
「まぁ、それはそうだが」
「イヤ・・・皆・・・、壊れちゃイヤ、ハツネを独りぼっちにしないで・・・。・・・大好きな人が壊れたら・・・ハツネだって悲しいの・・・」
 斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)まで死期の幻覚を見てしまい、膝を抱えてうずくまる。
「これが・・・「死」なの・・・?」
 いつも相手を壊してきたように、今度は自分が壊されていき、身体がだんだん冷たくなって動かなくなっていく感覚に怯える。
 身体に損傷はないが幻覚の中では、少女の身は何者かに内臓を抉り出され、ナイフで臓器をぐりぐりと掻き回れている。
「くっくるしぃよぉお。い・・・息が・・・うぅ」
 ずるずると引き出された腸で、首をぎゅーっと締めつけられた。
「怖いよォ・・・なでてよぉ・・・王天君お姉ちゃん」、
 幻覚に囚われてしまった少女は、ぽろぽろと涙を流し、ただの幼い子供のように泣く。
 大好きなお姉ちゃんにイイ子、よしよしと撫でてほしい。
 しかし、何度名前を呼んでも返事は返ってこない。
 壊されるよりも、独り孤独に死んでいくほうが辛く悲しい・・・。
「ハツネ!おい、起きやがれっ」
「―・・・えっ」
 聞き慣れた声に少女はパッと起き上がる。
 言葉づかいは乱暴だが、ハツネを心配してくれている声の主の姿がある。
「王天君お姉ちゃん・・・?いなくなっちゃったかと思ったの・・・。怖かったよぅ・・・」
「オレ様がハツネを置いていくわけねぇだろ?」
「―・・・うん」
 死の幻覚から逃れ、暖かな温もりを感じようと、王天君に抱きつく。
「ハツネ、今まで通りオレ様のために働いてくれるだろ?」
「うん・・・頑張るの」
 優しくも残酷な言葉を向けるアヤカシの女に、ハツネはこくりと頷いた。