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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

リアクション

――現れた光景は、『戦士達』とモンスター達との戦いだった。
 先程の一方的な虐殺とも、防戦を目的とした抵抗とも違う。モンスター達を押していた。
 その者達はやはりはっきりとは分からないが、先程のハイ・ブラゼルの者達とは違う装備を持っている事は解る。
『異国から来た『戦士達』はこの状況を見て、自分たちの世界にも危険が及ぶ事を危惧し、ハイ・ブラゼルの民達に手を貸してくれた。彼らはハイ・ブラゼルの民には無い技術を持っていた。そして、戦う術を知っていた……戦況は一転し、ハイ・ブラゼルの民にも希望の光が戻ってきた』
「あれは……魔法ね」
 イリス・クェイン(いりす・くぇいん)が呟く。
「魔法だけじゃない。銃なんかもありおるのぉ……」
 その隣、十六夜 白夜(いざよい・はくや)も頷く。
 二人の言う通り、戦う戦士達が用いている攻撃方法は何処かで見た事がある物が多かった。
「……しかも、モンスターに効いておるぞい」
「そうね、特別モンスター側も無敵ってわけじゃないみたい」
「……あの三人は?」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が指さしながら『賢者』に問う。彼女の先にあるのは、『戦士達』の先頭に立つ三人だった。
『戦士達を纏める三人の指導者だ。後に『賢者』と呼ばれる事になる』
「『賢者』? 四人いたはずじゃ……」
 祥子が言いかけたその時、戦士側に援軍が現れる。
――剣、槍と言った武器を持った援軍――ハイ・ブラゼルの民だ。
――そして先頭に立つ一人が、民達を先導する。
『あれが残りの一人の『賢者』……ハイ・ブラゼルの民、ファフナーだ』
「ファフナー……ですって?」
 ファフナー、という名前に祥子を始め、何人かが反応する。
『三人の異国の者と一人のハイ・ブラゼルの民……四人は互いに手を取り合い、戦士達、民達を導いた……民達はいつしか、四人を『四賢者』と呼ぶようになっていった……攻勢へと転じた『四賢者』に戦士達は、元凶である『大いなるもの』に挑んだ……だが』
 溜息を吐きつつ、『賢者』が首を横に振った。
『……彼らを以てしても、『大いなるもの』に太刀打ちはできなかった。モンスターは無数に産み出され、戦士達も戦いが続き何時しか疲弊していった……そこで発生源である『大いなるもの』を叩く事にするが……敵わなかった』
 そう言った後に現れた光景は――数多もの『戦士達』が倒れている姿だった。
 地面に伏せる者、壁にもたれて座る者……様々な戦士達が居るが、共通しているのは微動だにしない事。
――光景に映る者達は、皆事切れていた。
「さっきはあんなに押していたのに……! まさか、『大いなるもの』の攻撃だっていうの!?」
『いや、あれ自体は何もしてこない……だが、あれ自体が恐ろしい存在だ。あれの内部は異空間になっている。その中は瘴気に溢れていて、居るだけで精神を蝕まれてしまう……挑んだ幾人もの戦士たちが精神を病み、廃人になってしまった……何時しか形勢は逆転し、我々も防戦一方になっていった』
 イリスの言葉に首を振りつつ、『賢者』が答える。
――『賢者』の言うとおり、戦況は目に見えて変わっていった。攻勢に出ていた頃とは裏腹に、モンスター達の勢いを抑えるので手一杯になっていった。
――だが、戦士達は諦めず挑み続けていた。その際の激しい攻防により、ハイ・ブラゼルの地は荒れ果てていき、死屍累々の光景が築かれていく。
『……我々は諦めなかった。犠牲を払いながらも、『大いなるもの』の正体について探っていった。まずは瘴気の正体。恐らく、人の負の感情というような物の集合体だろう。それがどうしてあのような形になったかはわからんが、あれの内部の奥にはその依代となる核のような存在がある事がわかった……だが、それを知った時には遅かった。戦士達は疲弊しきっており、挑むのは無理だった……我らは決断を下さなくてはならなかった』
「決断……?」
『我らに残された最後の手段……『大いなるもの』の封印だ』
「封印……ですか。何故最後の手段にしたのですか? 確かに倒すことができるのであればそれに越したことはありませんが」
 御凪 真人(みなぎ・まこと)が問うと、『賢者』は一瞬言葉を詰まらせる。が、ゆっくりと口を開いた。
『……『大いなるもの』の異空間の中には、取り込まれた者もいた。そして封印を行う際、やはり数多くの者があの異空間に入らねばならない……封印を行うと、その者達を異空間に閉じ込め続けることになる』
「……成程、犠牲が大きすぎますね」
 真人が眉根を寄せ、呟いた。
『この案を考えた賢者の一人、アルケーも多くの犠牲を払う事になると知っていた。だから最後の手段だったのだ』
「ちょ、ちょっと待ってください? 今アルケーと言いました?」
 姫宮 みこと(ひめみや・みこと)が『賢者』の言葉を遮る。
『ああ、この案を考えたのは『聡明なる賢者、アルケー』だ……魔術に長けていた奴だからこそ、封印の手段も思いついたのだろう』
「やっぱり第二世界のアルケーは『四賢者』の一人でしたか……」
 一人納得したようにみことが頷く。
『……アルケーの案はまず、大規模術式を用いて『大いなるもの』を分断することから始めた。あの巨大な物をそのまま封印することはできなかったからな。我ら『四賢者』が持っていたアーティファクトを媒体として行い、分離に成功した……代わりに犠牲も多かったがな』
 そう言って『賢者』が手を叩く。また変わる景色。
――現れたのは、巨大な建造物だ。
「あれは……遺跡に似ている?」
 海が建造物を見て呟く。何処かで見た事のあるような建造物は、妖精村のはずれにあった遺跡に似ていた。過去である為か、朽ち果ててはいないが。
『これはハイ・ブラゼルの地のはずれにあった建造物だ。ここで触媒となるアーティファクトを用いて、分断した『大いなるもの』を封印する事にした』
――そこで、ある人物達――『四賢者』が現れた。
――『四賢者』達は遺跡に入ると、そこにゲートが姿を現した。
――『四賢者』の一人がゲートを開き、中へと消えていく。
「あれは……何をしているんだ?」
『あれが封印だ。『大いなるもの』の異空間は、分断しても瘴気を放ち続けていた。その為、まず空間自体に封印を施す必要があった。中にいる者達の為にも』
「空間自体に封印?」
『そうだ……あの負の感情に満ちた空間の上に、我々で仮想空間を作り出し覆うことで瘴気を封印したのだ』
「――ちょっと待ってくれ、仮想空間だって?」
 ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)が遮る。
『ああ。仮想空間を重ね、仮想の世界を作り出した。瘴気を外に漏らす事、中にいる者達をこれ以上蝕まれることが無いよう抑え込む為だ』
「……ってことは……あの四つの世界は全部、貴方達『四賢者』が作り出した仮初めの世界ってことじゃありませんか!」
 クリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)が声を上げた。
「……おかしいと思ったんだよ。パラミタに実在する土地だとは思えなかったからな……『賢者』が作ったまではわからなかったけどな」
 ハインリヒが一つ、溜息を吐く。
「そうしたら、このゲートは一体……?」
『……抑え込んだといっても、所詮は臭い物に蓋をしただけに過ぎない。急ごしらえの仮想世界は脆弱だ。ほんの少しの外界の異変でも綻びが生じる。仮想世界が乱れるのも時間の問題だ』
――『賢者』が入り込み、少し経つとゲートが閉ざされた。
「ゲートが閉じた?」
『我らはいずれ、この『大いなるもの』と戦う者達が現れると信じていた……その者達が現れるまでの間の時間稼ぎとして、この地から空間を隔離することにしたのだよ。我らが中に入り、外からも中からも出入りができぬようにな』
――そして『賢者』達が立ち去る。恐らく他の封印があるのだろう。

――そこで、風景は消え去り、再度真っ白な世界へと戻る。

『……ここで記録、過去に起きた事は終わりだ……封印でほとんど力を失った我らは、この出来事を後世の戦う者達へこの記録の書を作った――急を要していたし、力もほとんどなかったので一回限りといった制限がついてしまったのは申し訳ない……そして、この書をハイ・ブラゼルの住人だった機械仕掛けの少女に託した。彼女ならば、永い時を生きられる』
 『賢者』の言葉に、誰もが同じ人物を思い浮かべた。
「……ドロシーか」
『……ゲートが開いた、ということは仮想世界の封印も最早限界が来ているのだろう。崩壊は近い。その後待ち受けているのは『大いなるもの』の復活でしかない』
 そう言った瞬間――世界が揺らめいた。
『……どうやら、この書の終わりが近づいてきたようだ。少しでも力になれたのならばよいが……』
――世界の揺らめきは止まらない。徐々に大きくなっていき、やがて歪みへと変わる。
『……『大いなるもの』は危険な存在だ。あの存在はハイ・ブラゼルやディル・ナ・ノーグだけではなく、必ず君達が住む他の世界にも害を及ぼすだろう……君達『大いなるもの』を倒せる事を祈っている――さらばだ』
――『賢者』の言葉と同時に、世界は光に包まれ――

「……はっ!?」
――気が付くと、海達は花妖精村のテラスにいた。
「あら、目が覚めたようで……えーっと、皆さんが『原典』を大体時間にして一時間ってところですかね? どうです? 何か分かりました?」
 レモリーグ・ヘルメース(れもりーぐ・へるめーす)が問いかけるが、誰も答えない……否、答えられなかった。
「……何を見てきたのでしょうか?」
 その様子を見て、レモリーグが首を傾げた。