波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

リアクション公開中!

【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

リアクション

「ここが、ハイ・ブラゼル地方?」
 今の妖精村とは全く違うこの風景に、少し海が戸惑う。
「随分とあの村とは違うみたいですが……ここがこの記録の最古、ということですか?」
 富永 佐那(とみなが・さな)が『賢者』に問いかける。
『そう、この記録の始まりはここからだ』
「……まだ、随分と平和な光景ですね」
 佐那が辺りを見渡して呟く。平原には所々住家や、人々も見られる。
「しかし、人がぼやけていてよくわかりません……」
 佐那が言う通り、人々が居るにはいるが、『賢者』よりかははっきりしているが顔などはよくわからない。
『すまんな、そこまでは再現できなかった。何せ急ごしらえでな。事実を纏めるのだけで手いっぱいだった』
「……随分と急に記録をまとめたようですが」
『その辺りは後々話すことになるだろう』
 海の問いに、『賢者』が答えた。
「まあ、ともかく色々と見させてもらいましょうか……」
 歩きだした佐那だったが、すぐに戻ってきてしまった。
「あれ、どうしました?」
「いや……なんか変な感覚が……先に進めない、と言いますか……」 
「進めない?」
 佐那の言葉に、首を傾げる海。
「言葉では説明しにくいですね……実際歩いてみてください。そうすればわかると思います」
「はぁ……あれ?」
 海が歩き出すと、途中から感覚にとらわれた。
――体を動かすことはできる。足踏みをしているわけではない。しっかり前を歩いているはずなのに、景色が変わらない。
「どうやら一定の距離までしか動けないようですね……おとなしく見ていろ、って事ですか」
 海が戻り、呟く。
「仕方ないですね……じゃあおとなしく見させてもらいましょうか」
 佐那はそう言うと、その場に座り込んだ。


「うーん、どうやらどこに行けるわけでもありませんし、どうしましょうか?」
「……ふむ」
「どうしましたか、司君?」
 地面を見て呟く白砂 司(しらすな・つかさ)サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)が問う。
「いや、この草原……どうも第一世界に似ていると思ってな」
「第一世界、ですか?」
「ああ、生えている植物も似ている」
 司が地面の草を見て言った。彼らは第一世界を探索したことがある。その時見た光景と今見える光景は、全く同じというわけではないが所々似通っていた。
「言われてみればそうですねぇ。何か関与しているのでしょうか?」
「それはわからないが……覚えておいた方がいいかもしれないな」
「そうですねー、何がヒントになるかわかりませんし、覚えておきましょう!」


「この風景……調べたおとぎ話にはありませんでしたね」
「そうだよなぁ……それに、あの村とも違いすぎる」
「うおー! スゲー!」
「そうですね……どれほど昔だったのでしょうか」
「見た限りじゃ『異国の戦士達』みたいな奴もいない……か……これから戦いが始まるっていうんだろうな」
「……あまり血生臭い光景は見たくありませんね」
「さっきの真っ白なのもすごかったがこれもすげーなー!」
「……あの、いいのですか?」
 結崎 綾耶(ゆうざき・あや)匿名 某(とくな・なにがし)に問いかける。その視線の先にいるのは、騒ぎまわっている大谷地 康之(おおやち・やすゆき)だ。
「いい。最初から期待はしていない」
 某の言葉に綾耶が苦笑する。
「ふふふふふ、熱心だねぇ我らが名もなき空気も。核心を得ようとするその姿勢、実に見事」
 ミスター ジョーカー(みすたー・じょーかー)が辺りを見回して言う。その口調は上から目線だ。
「ああ、お前も期待してないから黙っていてくれないか。正直イラっとするから」
「おお、我らが名もなき空気は気が短いな。それはいけない。いくら情報が得られないからと言ってもな。まだ始まったばかりだぞ?」
「……(いらっ)」
「な、某さん? 落ち着いてくださいね?」
 青筋を立てる某に、綾耶がどうどう、と宥める。
「ふむ……そんな姿勢を取っている名もなき空気に私は協力はできないが、声援くらいは送ってやるとしよう。フレーフレー、でいいかな?」
「……よし、まずは奴を犠牲者の第一号にしよう」
「お、落ちつきましょうよ! ね!?」
 綾耶が止めるが、某は立ち上がるとジョーカーへと向かって歩み寄る。
「おお、凄まじい殺気で満ち溢れているな。だがそんな殺気を振りまいている我が名もなき空気よ、この世界は過去の映像であるぞ? 私に何かできるわぐぇッ!?」
 喋っている最中のジョーカーの頭に、某の蹴りがヒット。
「おお、ヒットした」
「ヒットしたじゃありませんよ!? く、首がぐにゃんって!」
「どーした? ってなんでおっさんの首が曲がってんだ!? 攻撃か!? 攻撃を受けたのか!?」
 騒ぎを聞きつけた康之が、目の前の凄惨な光景を目にし騒ぎ出した。