波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

リアクション公開中!

【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

リアクション



第二章

――花妖精村、花畑。
 ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が咲き誇る花々の手入れを行っていた。
「うん、綺麗になりましたねぇ……」
 ひと段落ついたルーシェリアは辺りを見渡し、満足そうに呟く。
「後でこの風景、撮影しましょうか。みんな、ありがとうございますです」
 ヴァーナーが手伝ってくれた子供達に言う。子供達は、すこしはにかんだ様な顔を見せた。
「かわいいですねぇ……えへへ、ぎゅーっと♪」
 そう言ってヴァーナーが子供にハグをする。すると、いきなりで驚いたようであったが子供も抱きしめ返してくる。
 他の子供が、その様子を見ていたルーシェリアの袖を引く。
「ん? なんですか?」
 子供の目線にルーシェリアが屈むと、子供はヴァーナーがするように、抱きついてきた。
「あらあら♪」
 ルーシェリアも子供を抱きしめる。花の香りが、鼻腔をくすぐった。



「……はぁ」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が溜息を吐く。
「……どうしたのよ、溜息なんて吐いて」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が溜息に気づき、声をかけた。
「いや、こういうのってやっぱあたしには向かないなーって実感してたところ」
 セレンフィリティの手元は、全く進んでいない。対してセレアナはもうセレンフィリティの先の先を行っている。
「こういうのは慣れよ、慣れ」
「それが慣れないんだよねー……やっぱ向いてないのかなぁ」
 少し、寂しそうにセレンフィリティが呟く。
「……確かに、貴女には不向きかもしれないわね」
「……そうはっきり言われると少し傷つくんだけど」
「でも、貴女にも向いている事くらいあるんじゃなくて?」
「……破壊活動?」
 セレンフィリティは色々と考えてみるも、行き着くところはそこになった。『壊し屋』なんて呼ばれるくらいなので、そっち方面は得意である。
「そうね、セレンの得意事って言ったらそれね……壊す事が得意なら、危険を壊して守ることができるんじゃなくて?」
「……はは、くさいなー、セレアナは」
 セレンフィリティが苦笑する。
「……ま、ありがとね」
「どういたしまして」
 セレンフィリティが感謝の言葉を述べると、セレアナはひらひらと手を振って応えた。



「……ああ、やっぱり可愛いわね」
 多比良 幽那(たひら・ゆうな)が呟く。彼女の視界に入っているのは、花畑。そして、その花を世話するアッシュ・フラクシナス(あっしゅ・ふらくしなす)ジャンヌ・ローリエ(じゃんぬ・ろーりえ)アストルフォ・シャムロック(あすとるふぉ・しゃむろっく)だ。
「お手伝いをしていただけるのはありがたいのですが、いいのですか?」
「いいのよ、花にしか興味ないから、私」
 それも人としてどうか、という事を幽那はさらっと言った。そして、目線は再度花畑へ。
「随分とお好きなんですね」
 ドロシーがほほ笑む。
「花だけじゃないわ。私は植物全般を愛しているのよ」
「……あの子達も愛されているようですね」
 そう言ってドロシーは、幽那が連れている三人の花妖精を見た。
「そりゃもう。私の大事な子達ですから。子を愛さない母は居ないわ」
 誇らしげに幽那が語る。
「まあ、私がお腹を痛めて生んだ子ではないけれど、それでもあの子達は私の子だもの」
 そう言うと、幽那はつかつかと歩み寄ると、ジャンヌとアストルフォを抱きしめる。
 突然のことに二人は一瞬驚くが、喜んで幽那を抱きしめ返す。
「……母の愛情を最近感じない……これが倦怠期か」
 そんな光景を見て、アッシュがつまらなそうに呟いた。後倦怠期違う。
「あらあらぁ? アッシュったら、嫉妬? そう言うところも可愛いんだけどね」
 ニヤニヤと幽那が言うと、アッシュは顔を赤くして急いでそむける。
「ほら、おいで」
 そんなアッシュに幽那が微笑みかけると、躊躇いつつもアッシュは幽那に歩み寄り、体を預ける。
「ふふ、羨ましいですね」
「あら、あげないわよ?」
 幽那が誇らしげに言った。
「ドロシーお姉ちゃーん」
 ドロシーを呼ぶ声が聞こえる。振り向くと、マリーがこちらへ向かって駆けよってきた。
「あら、マリーちゃんどうしたの?」
「海さんが人集まったから来てほしいって」
「そうなの? わかった。すぐ行くわ」
 じゃ、とマリーが去っていく。
「あの子、マリーゴールドの花妖精? 中々可愛いじゃない」
 幽那が言うと、一瞬彼女の子供達がむっとした表情になる。全て母への愛ゆえに。
「ふふ、あげませんよ?」
 そんな幽那にドロシーは笑みを浮かべて言った。