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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

リアクション

「グラキエス様、何があるかわかりません。異変を感じたら教えてください」
 そう言いつつ、エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)の腕に、自らの腕を絡める。
――その瞬間、何処ぞの世界でとある吸血鬼が何かを感じ取り、歯ぎしりしつつ呪詛を吐き散らしていたが、そんなことが彼らに解るわけもない。
「エルデネスト……万が一のことを考えるのはわかるが、もう少し腕の力を緩めてくれないか?」
「そうはいきません。精神が剥離している状態で何があるかはわかりません」
 そう言って、更にエルデネストがグラキエスに身を寄せる。
――その瞬間、その何処ぞの吸血鬼が血涙を流していたが、まぁ今は全くもって関係ないので割愛しておく。
「エンド、提案があります」
「……なんですか、ロア」
 グラキエスの代わりにエルデネストがロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)に応える。邪魔をされたせいか、少し不機嫌そうだ。
「この光景、映像に保存しておけば後に調べるのにも役に立つと思います。私の本体をお使いください」
 ロアはグラキエスが所持していたメモリーカードから変化した魔術書の一種である。
「映像に記録……ふむ、悪くないかもしれませんね」
 エルデネストが考える仕草を見せる。
「物は試しだ、やってみよう」
「承知しました……おや?」
 エルデネストが取り出した【銃型HC】を起動しようとし、首を傾げる。
「どうした?」
「いえ……起動しませんね」
「バッテリー切れか? まいったな……仕方ない、ロアはできる限り見て覚えてくれ」
 わかりました、とグラキエスにロアが頭を下げた。


「……む、困ったな」
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が辺りを見回し、ふむ、と唸った。
「どうしました?」
 紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が聞くと、少し溜息を吐いてエクスが答えた。
「『執事』達が居ない。奴ら、どうやら入れなかったようだ」
 エクスが言う『執事』というのは、【凄腕の執事】の事だ。今回、この『記録』の中で得た情報を記録させるためにエクスが連れてきた、はずだった。
「ふむ、それは少々厄介ですね」
 プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が顎に手を当て、唸る。何が起こるかわからない事態に、少しでも情報はあったほうがいい。
「……問題はありません」
 三人に、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が言う。
「慌てた所でどうにかなるわけでもありません。俺達はここで、ただ見る事しかできない……なら、何事も見逃さないよう注意するべきでしょう」
「……そうだな。わらわとした事が、少し高揚しておったか」
 ふ、とエクスが笑みを浮かべる。
「そういうわけで睡蓮、プラチナムも頼みます。俺一人じゃ見逃す事も多いでしょうし」
「わかりました……特別何ができるわけでもありませんが、私でも見ることはできます」
「マスターの仰せの通り」
 睡蓮、プラチナムが頷く。
「……さて、見させてもらいましょうか」
 そう言って、唯斗がその場に腰を下ろした。


「けど、随分と平和そうな景色だねぇ」
 周囲を見渡しつつ、アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)が言う。
「そうね……今の妖精村とは違うけど、何か争いがあるようには見えないわね……これから起きるんだろうけど」
 水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)も景色を見て呟く。
「何が起きるかわからんからな、しっかりと覚えておくがよいぞ、緋雨」
「言われなくても」
 天津 麻羅(あまつ・まら)に緋雨が頷く。
「……『大いなるもの』がこれから現れるとしたら、何が起こるかわかりません。【イナンナの加護】をかけますね」
 葉月 可憐(はづき・かれん)が口の中で、呪文を詠唱する。が、
「……あ、あれ?」
「? どうしたの〜?」
「……発動、しない?」
可憐が首を傾げる。
「ふぅむ……どれ、わしも試してみるか」
 麻羅も同じく、【ヒール】を詠唱。だが、
「……ふぅむ」
「そっちもダメ?」
 緋雨に麻羅が頷く。
「そちらも同じみたいですね」
 クナイ・アヤシ(くない・あやし)が言う。
「私も先程から試してみているのですが、どうもここでは一部のスキルが発動しないようです」
「スキルだけならいいんだけど、これも動かないみたいだよ」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)が持っていた【銃型HC】を起動して見せようとするが、うんともすんとも反応がない。
「これ、こっち来てから一度も動かしてないんだけどねぇ……」
 北都が言う事が確かなら、バッテリー切れという事は無い。
「困りましたね……何かあったら……」
「大丈夫だと思うがのぉ。わしらはこの世界に干渉できない、と聞いたが、それは向こうも同じようじゃ。ほれ」
 そう言って麻羅が歩いている人物の前に立ちふさがる。その人物は麻羅の姿も見えていないようで、まっすぐと向ってくる。
 そして二人がぶつかる、と思いきや体がすり抜けた。
「……おとなしく見ていろ、ってことみたいね」
「仕方ないねぇ。覚えることに徹しようか」
「それしかないようですね……」
 皆、その場に腰を下ろした。