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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの真実

リアクション

「んー……、ここも、ここまでしか行けないみたいだな」
 過去の光景を探索するため歩いていたライオルド・ディオン(らいおるど・でぃおん)が呟く。ある一定以上先は、歩いても思う様に前に進めない。
「なんでなんだろうなぁ、わかる?」
「え? わ、私に解るわけないでしょう!?」
 ライオルドに話題を振られたエイミル・アルニス(えいみる・あるにす)が、顔を赤くして言い返す。
「ふむ、『記録』というからには、作られた世界であるわけでして、やはり範囲があるのでしょうな。その範囲以上は行こうとしてもいけないのでしょう」
 ハングドクロイツ・クレイモア(はんぐどくろいつ・くれいもあ)が顎に手を当てながら言う。
「そうかー……色々と見てみたいものなんだがなー」
 ライオルドが少し不満げに漏らす。元々何があったのかを知りたい好奇心で参加したのだ。
「『記録』というからにはその内事態が動き出すでしょう。それまで、おとなしくしておきましょう」
「……最初から私じゃなくてハングドクロイツに聞けばいいのに」
 ぽつりとエイミルが拗ねたように呟いた。
「何か言った?」
「なーんに……も……」
 エイミルが上空を見上げ、言葉を詰まらせた。
「どうした?」
 ライオルドも振り返り、空を見上げる。
「……なあ、ハングドクロイツ……確か長く生きているんだったよな? あれ、なんだかわかるか?」
「……残念ながら。長く生きている自負はありますが、『あのような物』を見るのは初めてです」
 見上げた空に映る『それ』を見て、ハングドクロイツが言った。


「うーん……ダメみたいね……」
 持参した【デジタルカメラ】が動かない様子を見て漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が溜息を吐く。
「せっかく昔のことが記録できると思ったのに……昔のハイ・ブラゼルの土地、記録しておけば何か情報になるかもしれないけどなぁ」
「月夜」
「何……って、と、刀真!?」
 突如、樹月 刀真(きづき・とうま)が月夜の肩を抱き寄せる。
「干渉できない、と言っても何があるかわからないからな。離れるなよ?」
「う、うん……」
 頬を染め、月夜が頷いた。

「……はぁ」
 そんな光景を目にして、杜守 柚(ともり・ゆず)が溜息を吐いた。
「羨ましい?」
 杜守 三月(ともり・みつき)がからかう様に言うと、柚は顔を赤くして小さく頷いた。
「そう言いながらもしっかり掴んでるよ、袖」
「え? あ! ご、ごめん海くん!」
 指摘され、漸く自分が海の袖を握っている事に柚が気づいた。知らない内にやっていたらしい。
「ん? ああ、別にかまわないけど」
 当の海も気づいていなかったようだ。
「柚は怖がりだねー」
 三月がからかいながら笑うと、柚が顔を更に赤くした。

――突如、周囲が影がかかったように突如暗くなった。

「え? いきなり暗くなったけど、何が――ひっ」
 暗くなった空を見上げた柚が息を飲み、海の腕にしがみつく。
 そんな光景を普段はからかうはずの三月は、
「……あ……え……?」
突如現れた『それ』に言葉を失っていた。
 三月だけではない。誰もが言葉を失い、ただ『それ』を見ていた。
「――何だ、あれは」
 海が、漸く呟いた。

――『それ』は、何の前触れもなく突然姿を現した。
――巨大な体躯を持つ『それ』は、生物だと言われたら生物に見えるし、無生物だと言われたら無生物にも見える。
――他にも魔法生物、機械、果ては神族なんて物を上げてもそう見える――否、『そう見える』と思いたくなる。
――でなければ認めざるを得なくなってしまうから――何かに例えようにも、類似する物は勿論、形容する言葉も見つからない『それ』の存在を。

――『大いなるもの』と、『賢者』がそれを見て呟いた。

「あれが……あんなものが『大いなるもの』だっていうのか!?」
『そうだ。あれが『大いなるもの』だ』
 海に『賢者』が『大いなるもの』を見ながら言う。
『あれは突然現れた。何の前触れもなく、突然だ。そして――ハイ・ブラゼルの民を襲いだした』
「海! あれを見て!」
 三月が叫ぶ。『大いなるもの』を指さして。
「あれは、モンスター!?」
 海が『大いなるもの』を目にすると、そこからはモンスターが現れていた。その数は一つ二つと、次々と数を増やしていく。
 モンスターは人々を目にした瞬間、襲いかかる。突然の事に抵抗などできるわけもなく、人々は襲われ、命を落としていく。
「ひどい……」
 柚が呟き、その凄惨な光景から目を逸らす。
「なんでモンスターなんて……さっきまで居なかったぞ!?」
『私は『大いなるもの』が産み出したと考えている……それまでの間、モンスターなどこの地方ではそう見かけるものではなかった……この光景はここまでで見せるのはやめておこう。起きたのは、君達の予想している通りだ』
 『賢者』がそう言い、再度手を叩くとまた世界は真っ白になった。恐らく、この後あるのはモンスターによる一方的な虐殺行為でしかない。
「……この後どうなった?」
『ハイ・ブラゼルの民達もただ黙っているわけではない。武器を手に取り、必死に抵抗したが……』
 そこで『賢者』は言葉を一度止めるが、再度口を開く。
『……あまりに数が多すぎた。徐々に押され、被害だけが増えていった……民達を絶望が襲い、最早死を受け入れるだけになりつつあった……そんな時だ。彼らが現れたのは』
「彼ら?」
『異国から来た、戦士達だ』
 そう言うと『賢者』が手を叩く。
 光景は変わり、モンスターと戦う者達の姿が現れた。