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夏初月のダイヤモンド

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【第二章】15

「た、大変な事になっちゃいました」
 リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)は、清算済みの買い物袋をナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)アガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)の前に突き出して、わたわたと左右に振った。
「リースよ、そのように慌てずとも吾輩状況をきちんと把握しておる故」
 偉そうな口調で話しだしたのはアガレスだ。
 だが注釈しておくと、彼は鳩だ。
 白い鳩なのだ。
「流石お師匠様!」
「全て分かっておるのじゃ。
 そう、ここはヴァルハラ――戦士たちの楽園になったのだと!!」
「…………」
 バッと翼を広げたアガレスに、予想だにしなかった応えをもらったリースは暫く目を開けたり閉じたりするだけだった。
「爺さんの言う通りだぜ。
 下着姿の女の子達だらけだなんてなんて素晴らし……ハレンチなんだッ!」
「ナディムさん、話しの前と後ろが繋がってません」
「早く何か着る者を下着姿の女の子に渡してやんねぇとw」
「ナディムさん。語尾に”w”ついてます。ワラってなんですか、ワラって」
 そう、リースは感じていた。
 圧倒的な突っ込み不足を!!
「こ、このままじゃ私ずっと突っ込み続けなければ……
 いえ、それよりもこの買ったばかりの服を”恥ずかしい格好の皆”に配らなくちゃ」
「リースよ、貴公も貴公で中々失礼じゃぞ」
 こうして皆に服を配って歩いていたリースが最後に見つけたのはアリサ達と美緒達のグループだった。
「こ、これと、これで最後です!!」
 袋の奥から取り出した鼻眼鏡を配られた美緒は、気持ちを無下にするまいと一応それを顔の前に持ってきて「うーん」と考えた。
 いや、正直これはちょっと無茶だろう。
「リース様、お気持ちは有難いのですがこれはいりませんわ」
「あっああ! 慌てていた余りに先程購入したパーティーグッズを! すみませんすみません!!」
「こちらこそ申し訳なかったですわ!」
 ぺこぺこと頭を下げるリースに、美緒も同じようにぺこぺこと頭を下げる。
 リースの持っていた袋の残りには自分用に購入したキャミソールしか入っていなかったのだが、果たしてそれを美緒に着る事は不可能だった。胸囲的な、格差社会問題で。
 そうして美緒は未だに下着姿で居るのだ。
 これにチャンスだと喜んだのはナディムだ。
「これ、俺がさっき買ったYシャツなんだけどさ。
 泉のお嬢さんさえよければ……」
 それは極めて紳士的な申し出だった。
「まあ……ありがとうございます! 遠慮なく着させて頂きますわ!!」
 顔をほころばせる美緒をあえて見ない様に、ナディムは後ろを向いて思い切り顔をほころばせた。
 そして後ろを向いてYシャツを着た美緒を見て狂喜した。

 彼 シャツ 状態!!!!!

 無理やり止めたボタンのお陰で、美緒のはち切れんばかりのバストが無駄に強調されている。
「最高の裸Yシャツだぜ!!」
「ナディムさん、心の声が漏れてます!」
 リースが突っ込んだ瞬間だった。
 
 ビシーッ!

 ナディムの眉間に美緒のYシャツのバスト部分から飛んできたボタンが突き刺さった。
「ナディムさん!!」
「へへ、大丈夫だリース。我が人生に一片の悔いなしだ」 
「ナ、ナディムさーーーーーーん!!!」










「という一連の下りはやったので次に進むか」
 アリサが言うと、全員が倒れたままのナディムをスルーして作戦を立て始めた。
「しかしこのままではいかんぞ。ここは吾輩のぷりてぃなぼでぇで」
 アガレスは飛び立つと、美緒の胸元に着地する。
 ふにゅっ。
 というぬくもりと感触に精神の一部がかき乱され取り乱しそうになるが、そこは老獪な鳩の事。
 バサっと音を立てて左右に羽根を広げた。
「こうして美緒の胸を吾輩の羽根で隠すのじゃ!
 こうすれば一見Yシャツにおなごが流行りの可愛い鳩の飾りをつけておるようにしか見えんじゃろう!!」
「おおお

 お?」
 果たしてこの作戦に感心していいのだろうか。と思ってる皆の考えを余所に、アガレスは声高々と叫んだ。
「さあゆくぞ皆のもの!!」
「おー!!」
 力技で押し切られた感があるが、こうして美緒達はショッピングモール内を走り出した。
 たゆんたゆんたy
 美緒が足を地面に着け、一歩また一歩と踏み進める度に、美緒の胸に挟まれて乗る形になっているアガレスの身体が色んな意味の衝撃を受けてグラグラと揺れて行く。
「お、おおお胸が揺れる。ゆっ揺れる!!」
「アガレス様、ごめんなさい」
 走りながら胸元を見る美緒に、アガレスは言葉を返す。
「貴公が気にする事ではないのじゃ
 遠慮せずに吾輩をますこっととして可愛がるのじゃ」
「はっはい!!」

 このどうしようもなくしょーもない光景を遠くから見つけた者が居た。
 あれから事件が起こった事ので、美緒を助けに行こうとバイトを中断して館内に入っていた如月正悟だ。
「な、なんだありゃ? 美緒に妙な寄生生物が……」
 正悟は、アガレスを何か別の恐ろしげなものと勘違いしたらしい。
 彼は光条兵器を振り上げると、美緒を対象から外して光の攻撃を一閃させた。

 ……白い羽根が……舞い散った。

「お、お師匠さま!!!!」
 地面に落ちたアガレスを、後ろから駆けてきたリース拾い上げる。
「ふふ、大丈夫じゃリース。我が人生に一片の悔いなしじゃ」
「お師匠様あああああ!!」










「という一連の下りはやったので……
 しかしそなた、美緒の服を脱がすとは何と言う大胆かつハレンチな行動を人前でしたものだな」
「え?」
 アリサに詰め寄られて、正悟は気が付いた。
 美緒を対象から外すのは良かったが、アガレス共々美緒の着ていたYシャツも斬ってしまっていたことに。
 そんな事を仕出かした彼を、彩、理知、智緒、美羽、リースといった面々が睨みつけている事に。

 そして更なる追い打ちが正悟と美緒を襲ったのだ。
 美緒の胸を覆っていたブラジャーがクニャクニャと動きだし、形を変えてゆく。
「え? ええ?」
 動揺している美緒の胸から、するりとあの怪しいブラジャーが本来の姿を現し逃げ出したのだ。
「きゃああああああ!!!!」
「わわわ! み、美緒さんがッ!! 美緒さんのお胸が!」
「これ、フラワシ!?」
「捕まえて!!」
「皆さん見ちゃ駄目ですよ!!」
「取り敢えず何か着せてあげなきゃ」
「いやああ! わ、わたくし!!」
 訳のわからない事が起こってパニックになる面々のに囲まれた、全裸になってしまった美緒の後ろから、そっと何かが掛けられたのだ。

「これでも、着て居ろ」

 声と共に掛けられたのはトレンチコートだ。

「あ、あなたは?」
「名乗る程のものでもないさ」
 美緒が顔を見る間も無く、その男は去って行く。
 ダンディ、とてつもなくダンディだったがその男弥涼 総司(いすず・そうじ)こそが美緒にフラワシブラジャーを着用させた変態張本人だった。
 1・美緒が試着前に付けたブラジャーを回収し、
 2・美緒の生乳を目の前で拝み、
 3・更に裸(ぱんつ)トレンチコートというフェティッシュな姿を拝み、
 4・美緒の素肌が密着したコートをその後上手い事回収する。
 という難関ミッションをこなして見せたのだ。
 洗濯? 勿論しないよ?
 その鮮やかな手口に、誰も犯人に誰も気づく事は無かった。

 ていうかこの場合誰が見ても犯人は正悟だったのだ。

「酷いですわ正悟様!」
「お、女の敵です!」
「せーばいしちゃうんだから!」
「許せないわ!」
「反省するのだ!」
「折角の彼シャツが!!」
「み、皆何言ってるんだ? 特に最後の奴言ってる事がおかしいぞ?」
「言い訳無用!!」
 
 こうして如月正悟君は、その日から夜空に輝く星の一つになりました。