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【第二章】19
 
 コウと氷藍の二人とジゼル達のグループをさがしていた雅羅は、想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)に会っていた。
 しかし二人に会った雅羅が夢悠に気づくまで、かなりの時間を要したのだ。

 なぜなら夢悠は、女装させられていたのだから。

 顔に化粧を施され、頭に赤毛の長髪ウィッグ。
 上着の下にパットを入れたブラジャーに腰にミニスカートと女性物の苺柄スキャンティ、足に太腿までの紺色ストッキングという完璧なる女装姿。
「も、もしかしてあなた……夢悠なの?」
 雅羅が気付いてしまったその時に、慌てた瑠兎子はとんでもない事を言いだしたのだ。
「雅羅ちゃん!
 夢悠は……夢悠は女の子になりたい男の子なのよ! だから今は許して!!」

 このややこしい事態は事件発生時に遡る。
 瑠兎子が更衣室で自分用の下着を試着中、夢悠は更衣室の外で瑠兎子を待っていた。
 男の夢悠が何故ここに入れたかというと、すでにこの時点で夢悠が女装をしていたからに他ならない。
 瑠兎子は考えていた。
 
 夢悠の女装は雅羅を守るための武器になる!!

 これまで二度の女装経験による賜物だ。
 当の夢悠自身は「パンツ取られたり女装癖があると誤解されたり、酷い事にしかなってない……」と嫌がるものの、瑠兎子に「雅羅ちゃんへの愛に殉じる覚悟は無いってこと?」と言われ渋々、女装スキルを上げる事になったのだ。
 かくして夢悠は女装姿で瑠兎子に連れられ、ショッピングモールへ女装用の衣服と下着を買いに来ていた。

 事件発生後に直ぐに階段を下りた二人。瑠兎子だけがピンク生地と白レースフリル付きのブラジャーとパンツショーツの姿だった。
 恥ずかしいが非常時なのでと堂々と行動しているうちに、一階でジゼル達のグループに遭ったのだ。
 彼女たちによるとどうやら雅羅がここにいるらしい。
 二人の姉弟は互いに同じ人物――つまり雅羅に片思いしていた。
「今こそ女装の力で雅羅ちゃんを助ける時よ!!」
 瑠兎子は勇ましく言って強盗達に立ち向かって行く。
 敵が主に夢悠に集中している、という以外に女装の力が何の役に立っているのかは夢悠には分からない。 
 とにもかくにも、性別がバレないよう泣くほど必死になりながら相手にビンタをかましまくった。

 こうして二人は雅羅達の姿を発見すると、雅羅を守る為、一緒に行動を始めた。
 瑠兎子の武器は下着売り場から持ってきたトルソー君二号だ。
 叩く! 突く! 投げてぶつける! の目茶苦茶な扱いで、トルソーはボロボロになっいったが、その分敵もボロボロだ。
 夢悠は氷術を唱えだす。
 そこで――夢悠の声を聞いた雅羅は彼の正体に気付いたのだ。
 必死に隠してきた顔をまた隠そうとするが、もはやそれに意味はなかった。

「あなた夢悠なのね?
 女の子なりたいって……そう、そう言う事だったの」
 雅羅は何かを悟った表情を浮かべている。夢悠の頭にガーンという音が響いていた。 
「でも大丈夫よ、私そういう偏見とか一切ないから」
 慈悲深い目を向けている雅羅に、夢悠は泣きそうになりながら瑠兎子に抗議した。
「ちょっと何言ってるんだよ瑠兎姉!!
 さっきジゼル達にも女装癖があるって勘違いされたばっかりなのにこんな……酷いよ!!」
「大丈夫だって。ジゼルも”よく似合ってるわ”って褒めてたし、皆も笑顔だったし」
「あの笑顔はそういう意味の笑顔じゃないって!」
「でも雅羅も偏見はないっていってるでしょ」
「そういう問題じゃないってば大体瑠兎姉は――」
「きゃあああ!」
「雅羅!?」
 二人の言い争いの最中に襲われた雅羅は氷藍が手を引いて助け、強盗はコウの術で仕留められた。

 のはいいのだが。
「これ……ま、雅羅のお腹……?」
 夢悠は雅羅の悲鳴に反応して咄嗟に振り向いたのだが、その際に落ちていた品物に躓いてしまったのだ。
 そして雅羅と共に崩れ落ち、夢悠の顔は押し倒す形になった雅羅のお腹乗っかってしまった。
「……柔らかい……」
 すべすべと気持ちいいさわり心地に、夢悠が思わずうっとりしてたのを雅羅は見逃さなかった。
「夢悠……女の子になりたいなんて嘘だったのね……」

 平手打ちの音と共に、夢悠の頬にその日一日消えなかった赤い掌の痕が残された。