波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

夏初月のダイヤモンド

リアクション公開中!

夏初月のダイヤモンド

リアクション

「洋服とバッグはこっちですよー」
「一応中を確認してみてくださいね」
 パートナー達が女性たちに服やバッグを届けている中、椎名真と瀬乃和深はベンチでやっと一息ついていた。

 その近くできゅっきゅっと音を立てながら、レキ・フォートアウフは強盗団の目元にブラジャーの絵を描いていく。
 もちろんマジックは油性だ。
「これで満足でしょ、変態強盗団さん」
 レキも満足したらしくマジックに蓋をするとその場を後にした。

 勿論その程度では満足しない人物もいた。
 若松未散がその身を蝕む妄執を発動し、断末魔の声をあげる強盗団に目茶苦茶な幻覚をみせている。
「私の下着姿や裸を見た奴……!
 とりあえず忘れてもらうからな! これはお前らが見た夢だ! ははははは」
 あきれ顔のパートナー、ハルの前で、未散は両手を天高く上げ、魔王の如く笑い続けていた。

 美緒はセフィー・グローリィア一行に持ち帰られていった。
「言ったでしょ? 付き合ってもらうって」
 からかうように美緒の手を引くセフィー。
 美緒の頬は何かの期待でほんのり赤く染まっている。
 今晩は後で合流予定の雅羅と五人で約束通りの依頼料の食事を食べに行き、近くの宿で疲れた身体を美緒と共にマッサージをして貰つもりだ。
 
 武神牙竜がぶら下げられたままの吹き抜けの下を、宇都宮祥子や樹月 刀真、そして匿名 某やリアトリス・ブルーウォーター、
影月銀、佐野 和輝やミッシェル・アシュクロフトらがパートナーや友人、恋人達と楽しそうに帰って行く。

「レティシア様!」「いかないでください!」「最後にもう一度罵って!!」
 レティシア・トワイニングがパートナー達と帰っていくのを、一部の強盗達は涙を流しながらみおくった。

 気に行った下着を見つけたセシル・フォークナーはホクホク満足した様子で足取りも軽い。

 久世沙幸は今日出来たファン達へのサインの対応に追われていた。

 マグナ・ジ・アースの通報によって駆けつけた空京警察は、強盗団達を連行している。
 そんな中、証拠品のダイヤモンドブラジャーを持っていたドクター・ハデスが絡んできた。
「それはかつてのパラミタ古王国時代に作られた超兵器を起動するための鍵である、大きなダイヤモンドメドゥーサの瞳が縫い付けられているのだ。
この宝石を手に入れ、超兵器を起動させた者は、世界を征すると言われてい――」
「兄さん、帰りますよ」
 あきれ顔の高天原咲耶がハデスを引っ張る後ろで、アルテミス・カリストとヘスティア・ウルカヌスが警察にぺこぺこ頭を下げている。


 外はすっかり日が落ち、イルミネーションが目に眩しい。
 綾原さゆみが恋人アデリーヌとそれらを味わっている少し遠くで、ジゼルは国頭武尊と話していた。
「私、分かったの。男の人と女の子は別の種類の生き物だって。裸や下着は男の人には秘密のものなんだって。
 だから、武尊私のパンツは渡せないわ」
 真剣な眼差しに、武尊は逡巡してから親指を立てる。
「そうこなくっちゃな、羞恥心もないパンツには味がないぜ。だが何時かまた……」
 差し出した手を、ジゼルはがっちりと掴む。
「簡単には取らせないわよ」
 ここに奇妙なライバル関係が生まれた。
 後ろから四谷大助と想詠夢悠へのお説教を終えた雅羅が帰ってくる。

「で、話しは終わったの?」
「うん。あ!」
 ジゼルはこちらへくる人影に気が付いたようだ。
 ――ウン。今度は抱きつかない。
 蔵部食人がこちらへきていた。
「食人、ごめんねさっきは」
「そんな事は別に、それよりさ」
 食人が差し出したのはブラジャーだった。
 女性ばかりの家庭で育ち下着には慣れて居た食人は、さしたる抵抗もなく当然のようにブラジャーを持っていた。
 椎名真らと同じく友人達の”荷物を悪意のある第三者に持ち去られる危険”を考えた食人は、あの後意識を取り戻すと直ぐにジゼル達の荷物を守るべく更衣室へと向かった。
 そして偶然にも始めに入った更衣室でそのブラジャーを見つけたのだ。
 タグの部分に黒いマジックで「ジゼル」と記入されているブラジャーを。
 そういえば以前ジゼルが住み込みで働く定食屋を訪れた時に聞いた話だと、二階の風呂無し部屋に居候しているジゼルは、いつも銭湯に行くのだと言っていた。
「成程、それで記名入りか」
 納得して、ジゼルに渡してやろうとここまで持ってきたのだ。
「このぶらじゃー、サイズが大きめだけど、ジゼルので合ってるよな?」
 ジゼルにブラジャーを差し出しながら屈託のない笑顔を向ける食人は気付かない。
 彼を取り囲んで、女性陣が睨みつけているのを。
 困った笑顔でブラジャーを受け取るジゼルに、己の善行に満足していた食人は気付かない。
 本来の持ち主であった雅羅が彼の前で地鳴りのような音を背景に怒りに燃えているのを。
 
「だっだめですよ! それ以上やったら死んじゃいます! ああ! 顔が! 顔が歪んで!!」
 雅羅が食人に馬乗りになってボコボコにしているのを次百姫星が必死に止めようとしていた。
 ジゼルはそんな彼女たちをベンチに座って苦笑して見ていた杜守柚の隣に腰かけた。
「ねえ柚」
「なんですかジゼルちゃん?」
 柚が隣に座るジゼルの顔を見ると、彼女の頬は夜目にも分かるくらい上気していた。

 初めての買い物はとんでもない結果になってしまったが、とても楽しかったのだ。

 一緒に出かけてくれた人達、新しい友達、自分を護る為に手を引いてくれた人達、それに戦ってくれた人達。
 皆の顔を思い浮かべてジゼルは高峰雫澄に借りっぱなしのジャケットの袖を引っ張る。
 胸元を締めているのは結局火村加夜とおそろいで購入した新しいブラジャーだ。
 加夜は今日一日着けたそれが気にいったようで、ジゼルちゃんもどうですかと薦めてくれたのだ。
 初めての”友達とお揃い”に喜んだジゼルは、あれほど迷っていたのに加夜の薦めがあるとあっさりとそれに決めたのだ。
「……ぽかぽかする」
 ジゼルは小さく呟いて、空を見上げた。
「今日はとってもあったかかったね!」

 春の風が悪戯に彼女の髪を吹きあげて行く。
 気持ちのいい感覚にジゼルはにっこりとほほ笑んだ。

担当マスターより

▼担当マスター

東安曇

▼マスターコメント

……何いい話でまとめようとしてるんだ。という声が聞こえてきそうなエンディングになってしまいましたが……。
今回はご参加頂き、そして読んで頂きありがとうございました。
二回続いたジゼルさんのシリーズですが、今後の予定は特に考えて……ませんでした。どうでしょうか、お気にめして頂けたでしょうか。
感想等頂けると嬉しいです。

***

・2012年4月20日
 初稿(12日発表)から改訂致しました。