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リアクション
二階、廊下。和深達とはまた別の場所。
先ほどまでの賑やかさは消え、寒気がするほどの静けさが漂う場所。
残されたのは女装させられた五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)と綺麗な落ち武者姿の上杉 三郎景虎(うえすぎ・さぶろうかげとら)だけだった。
「……もうダメって言ったのに何でホラーハウス!? しかも女装!」
血濡れメイド姿の東雲は色白の肌がさらに真っ白になって血の色が映えている。女装の絶好の機会だとか苦手克服には最高の場所だとか言われて無理矢理連れて来られたのだ。
「術師も物の怪もやるだけやって行ってしまったな。あの二人のように“ほらぁはうす”とやらの理解は無いが、これでいいのか? 東雲」
東雲の横では三郎景虎が腕を動かしながら東雲に訊ねた。いかんせん横文字が苦手なので。
「……三郎さんはここにいるんだよね」
三郎景虎の問いかけなど耳に入っていない東雲はゆっくりと青ざめた顔で隣に立つ三郎景虎に訊ねた。一人でなければ多少乗り切れるかもと思いながら。
「ここは苦手克服には良いかもしれんが、無茶はするなよ東雲」
三郎景虎はそう言ってどこかに行こうとする。
「……って、一人にしないでよ」
ホラーが駄目な東雲は思わず、三郎景虎の腕を掴んだ。
「東雲なら心配無い。俺は、この辺りを見回って来るだけだ。何かあれば呼んでくれ」
三郎景虎は励ましにと東雲の腕を軽く叩いてから行ってしまった。東雲の手は自然と離れてしまった。
「……この血濡れのメイクなら振り向くだけで客が泣いて逃げるって」
取り残された東雲は、自分を女装した仲間が言った事を思い出していた。
「……何か泣きそう」
薄暗い中、取り残されたままホラーハウスの営業が始まってしまった。
この辺りを見回っているはずの三郎景虎の姿を見る事は当分無かった。
地下室。
「なかなかいい感じ」
九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は、静かな通路を眺め回していた。
この場所は、ユルナに出口に一直線に伸びる廊下を提案し、用意された場所だ。墓石や棺桶がある場所を抜けた先に設置された長い石畳の道で歩き続けた先には洋館の中庭にあるコテージ内の暖炉に続いている。ちょっとした隠し通路のようなものだ。
「東雲の女装を見て満足してから来たけど、ここも満足!」
魔女の格好をしたリキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)が最高の驚かせ場所を探してやって来たのだ。
「良かったらここでお客さんを驚かせてみない?」
ローズは連携して驚かせる事を誘った。
「やるやる。ダークブレードドラゴンを従える魔女。火を噴いたり派手にやるよ!」
「お願いね」
リキュカリアは快く引き受けた。
「こんな所があったんですね。他の部屋は結構人が多くて地下室を担当しようと思って来たんですが」
博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)は驚かし役が少ないだろうと思い、地下室にやって来た。ちなみに今三人がいる通路の併設前は地下室で行き止まりとなり来た道を帰るという順路だった。
今までは、洋館の中庭を全く活かせていなかったのだ。
「それなら一緒に連携ししてお客さんを驚かせよう。その方がずっと面白くなるから」
新たな人物にローズはすかさず勧誘。
「是非。ローブを着て剣を持って顔を見えないように何か被り物をしなければ」
博季は頷いた。もうどのように驚かせようか考えているようだ。
「それならここは洋館だから兜や仮面はどうかな」
ローズが博季にちょっとした提案をした。
「それはいいですね。持つのは剣なので兜にしますよ」
博季は頷き、ローズの提案を受け入れた。
「ここが追加された道か」
次に現れたのはダン・ブラックモア(だん・ぶらっくもあ)だった。
「もしかして驚かし役?」
ローズは現れたダンに訊ねた。
「そうだ。棺桶に潜む吸血鬼でもやろうかと」
一緒に来たアメリを心配しながらも自分のやるべき事を遂行しようと地下室にやって来たのだ。
「良ければ、みんなと一緒に連携でも」
「そうだな」
断る必要も無いのでダンは博季の誘いに乗った。
「楽しくなりそうだね」
リキュカリアは楽しそうに言った。そして、打ち合わせが始まった。
「では、準備をしようか。実際、もしかしたら打ち合わせ通りにいかないかもしれないけど、お客さんを驚かせる事が一番の目的だから頑張ろう。私は部屋を担当していない他の人にも声をかけておくから」
打ち合わせを終えたローズはそう言って自身の準備をするために出て行った。
「僕は準備をしてきます」
博季は衣装を整えるため出て行った。
「さぁて、楽しまなきゃね」
リキュカリアは楽しそうに待機場所に移動した。
「……やる前に」
ダンは何か心配事があるのかそわそわと地下室を出て行った。
「カンナとシン、上手くやってるかな。シンは怖いのが苦手だし」
衣装やメイクを整える前にローズは一緒に来た二人の様子を見に行った。シンについては、イリアと一緒に何とか頑張っているのを見て安心し、カンナがいる部屋に来た時、アメリを心配して様子を見に来ていたダンと遭遇した。
「……入らないの?」
ローズは、ドアを開けずに立っているダンに声をかけた。
「あぁ、あんたか。アメリが心配で様子を見に来たんだが」
声をかけられ、ローズの方に顔を向けるもすぐに背を向けて歩き始めた。
「様子を見なくてもいいの?」
てっきり様子を見るものだと思っていたローズは訊ねた。
「あぁ」
そう一言答え、行ってしまった。
今回の依頼はアメリが引き受けたもの。ここで心配しているよりもアメリのために出来ることがあると思い直したのだ。自分の仕事を真面目にしてアメリに迷惑をかけないようにする事が大事だと。
「……」
ダンを見送った後、ローズはそっとドアを開けて様子を確認した。カンナとアメリの様子を。二人共何とかやれているみたいで安心したところでローズは最強のゾンビになるべく急いだ。途中、廊下の驚かし役に声をかけたりもした。
「本当にここは面白そうだね」
ニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)はいつも一緒にいる子供の霊達からホラーハウスの噂を聞き、彼らと一緒にやって来た。
子供達の霊は楽しそうに走り回り、悪戯をして回る。
玄関にいるポチの助を発見しては、尻尾を掴んだり。
「……ん、この僕の尻尾を引っ張るのは誰だ? いない? 気のせい?」
一瞬、気配を感じ振り向くもすぐに前を向き、仕事に戻るポチの助。
「とても気に入ったようだね」
ニコは満足そうにその様子を眺めていた。
色々と歩き回る途中、
「ニコ!」
部屋を担当していない驚かし役に声をかけていたローズは、ニコを発見して呼んだ。
「……九条、どうしたんだい?」
やって来たローズに用件を聞いた。
「驚かし役だよね。部屋を担当していなくて時間があるようだったら地下室にも来てくれないかな」
ニコに声をかけるまでにいろんな人に同じように声をかけていた。その中にはエッツェルも含まれていた。
「友達が行くようだったら行くよ」
ニコは子供の幽霊達を見ながら答えた。
「……分かった」
ローズはこくりと頷いて自身の準備を整えに行った。
「営業が始まったら姿を消して様子でも見ていようかな」
ニコは営業を楽しそうに待った。
「……この飴、全体が少しずつ透き通って最後は見えなくなるのよね。上半身だけ薄ぼんやり見えて下半身は完全に見えないようにしたいけど」
写真に写っている次女と同じ衣装を着たアメリは次女の練習部屋に向かいながら透過飴を手に自分の計画を練っていた。
「……照明を工夫するしかないよね。この飴を何とか出来たらいいんだけど」
飴を何とかする方法を諦め、視覚的な所から攻めようと考えるも少し難しいかもしれないと思った時、
「何か困った事でも起きた?」
アメリより後に衣装を整えて出て来たローズが困っているアメリを見かけ声をかけて来た。
「……透過飴を上半身だけ薄ぼんやり見えて下半身は完全に見えないようにしたいんだけど」
アメリは静かに悩んでいた事を話した。
「そう。通常だと全体が徐々に消えるんだよね。まだ少し時間あるし、私が改良してあげる」
ローズはじっとアメリの手にある透過飴を見ていたがすぐに笑顔で協力を申し出た。
「……ありがとう」
アメリは静かに礼を言った。
『薬学』を持つローズはすぐにアメリが希望する効果を発揮する飴、透過飴・改を作り上げ、彼女に渡した。
それから二人はそれぞれの待機場所に急いだ。
いよいよ、ホラーハウスの入り口が開かれた。
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