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リアクション
第1章 風の戦場
ドックン、ドックン……ドックン、ドックン……。
心臓の音が、高鳴るのを感じる。
激しい気流の先に見つけたのは、なるほど……船の墓場とは上手い事を言う。
五千年の昔、シャンバラ古王国崩壊時より暴走したソイツは、気流を乱し、船乗りらを絶望の海へと叩き落してきた。
下は島の乱立した海原で、壊れた飛空艇や飛行船の残骸が、掃除される事なく残されている。
バンディッツが、命を懸けて狙う理由もわかる。
考えれば、宝の山にもなりうる場所だ。
(しかし。こんな所で、リコっちさん達が何かを探そうとしているようですか?)
空飛ぶ箒に跨った六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)は、言葉を噤んだ。
強い風の吹き荒れる中、レッサーワイバーンやら、レッサードラゴンらが舞っていた。
しかも、飛空艇を漁っていたバンディッツらは、こちらを見つけて、ライバルが現れたと勘違いしたように戦闘準備を整えだしている。
(これは、まさかの……スクープの予感!!?)
ピキーン!!
優希の、六本木通信社の記者魂に火がつき、眼鏡が光る。
飛行艇に乗り慣れた優希にとって、空飛ぶ箒の操縦は不安が残るが、【深緑の槍】の柄を握ると戦闘の準備に入った。
(ここでの私の役割は、露払いですわね。怪我だけで済めばいいのですが。)
基本的な部隊は、三つに分けられていた。
気流コントロールセンター跡の動力源を止める隊と、バンディッツを露払いする隊、アンバー・コフィンを探す隊。
だが動力源と言っても、どこにあるかは不明だし、図面があるわけでもない。
まずはそれを探すしかないのだが、それをする前にやる事は、目の前のピンチを切り抜ける事だろう。
ただ、それには作戦を考えて、行動しなければならないはずなのであるが……。
☆ ☆ ☆
「空峡で好き勝手はさせないわ、覚悟しなさい!」
「!!?」
――と、言うや否や、リネン・エルフト(りねん・えるふと)が動き出した。
片手で剣を振り回し、天馬に乗って、バンディッツの中に飛び込んでいく。
一瞬、呆気に取られたのは、パートナーのフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)だが、リネンに負けじと【ナハトグランツ】と呼ばれる天馬を走らせる。
「おいおい、オレを置いてくなよ!」
「ちょっと、ちょっと、あたしも忘れないでよね。」
同じく、ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)も動き出すと、バンディッツが奇声を上げた。
そして、横一列に隊列を整えて、フライングポニーやヒポグリフといった飛行モンスターに騎乗すると、一気に飛翔してくる。
それを見たフェイミィは、舌をペロリと出して、口の周りを舐めると、大剣を携えながら言った。
「騎獣対決か。面白れぇ、相手になってやる。いくぜ、グランツ!」
バンディッツらは、飛び道具を構えていた。
そして、隊列を組んで、弓を放つ。
リネンは、それをヒラリと避わすと、後ろの理子らに声をかけた。
「ここは私たちの仕事よ。コントロールセンターはよろしく! いくわよ、みんな!」
リネンの声を皮切りに、他の者たちも動き出す。
高根沢 理子(たかねざわ・りこ)も、キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)の背中をポンと叩くと、笑みを浮かべながら言った。
「だそうよ。ここはあんた達の仕事場。後はお願いね♪」
「断っても無駄なんだろ? 間違っても落ちるなよ、遊び人!」
キロスは手の甲をヒラヒラと動かすと、レッサーワイバーンの手綱を掴んだ。
そして、不安定な風に操るように、一気に滑空を行った。
☆ ☆ ☆
「……とは、言ったモノの。」
理子は上空を見上げた。
下から迫り来るバンディッツ、上にはレッサーワイバーン、レッサードラゴンらが待ち構えている。
バンディッツに比べれば、モンスター達は好戦的ではないだろうが、タイミングが悪ければ集中攻撃を受ける可能性は高かった。
「大丈夫、大丈夫。理子っちを守る準備は整ってるから。」
いつの間にだろうか、理子の隣には酒杜 陽一(さかもり・よういち)がいた。
漆黒の翼を広げ、理子に保護結界である【禁猟区(サンクチュアリ)】を張り巡らすと、【キラッ☆】と歯を光らせながらポーズまで取って見せた。
「ありがとう、陽一。それに美由子も……。」
その後ろには、酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)もいた。
キロスの、写真撮影時にカメラを壊されたのが不服で、不機嫌そうな表情をしているが、やる気は満々だった。
「カメラを失った怒り悲しみは戦闘で晴らす!!」
手をポキポキと鳴らして、背中から大きなオーラを湧き上がらせている。
ゴゴゴゴゴッ……ゴゴゴゴゴ……。
別の意味で、戦闘準備は整っているようだ。
セフィロトボウを両手に持つと、敵の追撃を邪魔するように弓を撃つ、撃つ、撃つべし。
「早く、行きなさいよ!!」
「サンキュー☆」
陽一が、理子を導くように空を舞うと、左右から少数の【飛装兵】が周りを囲んだ。
兵らは飛んでくる弓を切り払うと、実に理知的なフォーメーションを展開する。
「まぁ、今回は令嬢周辺の安全確保……おっと、なんでもない。」
アニス・パラス(あにす・ぱらす)の操る、空飛ぶ箒ファルケの後ろに乗る佐野 和輝(さの・かずき)の護衛らである。
だが、その理子の周りの人だかりが、逆にバンディッツの目に付いたらしい。
……が、次の瞬間、全身真っ白な鳩の群れが、バンディッツの目の前を覆うように飛び去っていく。
「な、何じゃこりゃぁ!!?」
敵が騎乗するモンスターらは驚き、バンディッツも大きく体勢を大きく崩した。
これは、アニスの【白鳩の群れ】である。
一糸乱れぬ、その動きは敵の視覚と、乗り物に多大な影響を与える。
「にひひ〜っ、まずはご挨拶がわりだよ。」
そこへ、レッサーワイバーンに乗った二人組が急行したから、敵もたまったものではない。
清泉 北都(いずみ・ほくと)と、パートナーのクナイ・アヤシ(くない・あやし)である。
北都はこの難しい気流の中、スキル【行動予測】を利用し、敵の先手を取る。
「サポート役としては、ここで仲間を行かせるのが仕事ってもんでしょ。」
北都はニコニコと笑いながら、後ろからクナイに抱きついた。
「コホン……、北都。あんまり抱きつかれると……、運転に支障が出ると思われますが。」
「いやいや、ぎゅっと抱きついたのは落ちそうになったから。それだけだよ。」
「今はそんな時ではないと思いますが……。ほらっ!?」
油断した二人の上を、大きな影が遮る。
強固な鱗、耳まで裂けた口に長い牙、巨大な翼。
「ギャアアアース!!!」
それは、レッサーワイバーンだった。
上空から一気に滑空し、獲物を喰らう。
一匹、二匹……、野生の魔物は、餌を求めて動き出したのだ。
『風術!!!』
クナイは、スキル【風術】を放つと、気流の壁を作った。
ワイバーンは、見えない壁に弾かれるように左右に散ると、再び上昇する。
もちろん、獲物を喰らう為だ。
「――やれやれ、面倒事は嫌いなんだけどねぇ。」
北都は赤いネクタイを少しだけ緩めると、左手の手袋をゆるりと外す。
☆ ☆ ☆
「んっ、柚、三月! いいところにいるな。ちょっとついて来い。」
キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)は、自らのワイバーンの手綱を引くと一度止まり、杜守 柚(ともり・ゆず)と杜守 三月(ともり・みつき)に声をかけた。
柚は、呼ばれて嬉しそうに空飛ぶ箒で、三月は不機嫌そうに、荒々しき竜馬で駆けつける。
「何の用だよ。」
三月はぶっきらぼうにキロスに話す。
すると、キロスは腕で、三月の首を抱き寄せて言った。
「今、劣勢だよな。敵はこの地域に慣れてるし、不利だと思わないか?」
「ま、まぁ……。確かに。」
「だから、この戦況をガラッと変えようと思うんだが。」
「どうやって!?」
柚が目を輝かせながら、キロスに尋ねる。
キロスは指で、海原に乱立する島を指差すと言った。
そこには無数のバンディッツらがおり、休息と出撃を繰り返していた。
「あの島だ。あそこを墜とせば、敵の戦力も半減するだろう。俺達の休息の地にもなるしな。」
「でも、敵が一杯だよ。ど、ど、どうやって!?」
今度は三月が、少しどもりながら聞いた。
「ここにドラゴンライダーが二人いる。戦況を変えるなら、敵の裏を狙うしかないだろう。」
「はぁっ?」
キロスは一瞬、目を瞑り、胸の前で十字を切る。
そして、腰に差した、青白く光る長剣を抜くと、一気に風の丘を駆け下りていく。
呆気に取られた、三月、柚も置いてかれては大変と後に続く。
「よーし、貴様ら。オレについてこれる奴はついてこい!」
キロスの声に、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)とヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)、鬼院 尋人(きいん・ひろと)が反応する。
「何ィーッ! キロっちが大変だ。初対面だけど……。」
「確かに、とても危険な事をやってるな。キロっち……。初対面だけど……。」
「冗談言ってる場合かぁ! さっき話した【琥珀の眠り姫】を探す前に、この状況を何とかしなくちゃ!」
尋人は、呼雪&ヘルコンビに突っ込みを入れると、ドラゴンを走らせてキロスを追う。
呼雪はそれを見て、ヘルに声をかけた。
「うーん、冗談を言ってる訳ではないんだけどな。……でもキロっちって、呼び易いよな。」
「うむ、呼びやすいよな。……でも、行くか?」
「そだね。」
二人は顔を見合わせると急降下して、キロスらに合流した。
そこに弓や銃弾が浴びせられるが、キロス達の進撃は衰える事はない。
まるで無人の如く、敵陣に迫っていく。
敵は驚き、急遽布陣を整えて、荒武者を待ち構える。
(いくらなんでも無茶苦茶だ。……けど、無茶苦茶ゆえ、敵に与える動揺も大きいな。)
敵が一時的にキロスに注目し、他の連中への攻撃が手薄になったのだ。
しかし……。
(それでも、状況は不利だ。この地での空中戦は……彼らに一日の長がある。)
三月が心配しながら手綱を取る中、柚は言葉を呟く。
「カナンの豊穣――、女神イナンナの加護――、身に降りかかる危険から身を護りたまえ。」
キラキラと細かな光がキロスら包み込んだ。
【イナンナの加護】である。
だが、戦場は今だ混戦中であった。
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