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葦原城下コイガタリ ~仁科燿助と町娘~

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第2章  城下の際

 さて、ところ変わってこちらは城下の端の端。
 いまだけは、行き交うモノすべてを邪魔だとしか捉えられなかった。

「はぁ、はぁ、おね、さんっ!」

 こう見えて、体力には自信のある燿助。
 極力速度を落とすことなく、あいだをすり抜けていく。

「う〜ん……」

 その視線の先の先に、マーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)がいた。
 燿助はまだ、気付いていない。

「どうしようかなぁ……」
(恋愛成就のお守りを買いに行きたいんだけど、1人では恥ずかしいんだよね……)

 土産屋の軒先にて、ぐるぐると堂々巡り。
 腕組み馳せる想いは、イルミンスール魔法学校で留守番をする彼の人へ。

「マーガレットぉ〜」
「なぁに〜?」

 向かいの店から、リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)の細い音が届く。
 しかしマーガレットの返答は、なんとなく上の空で。

「マーガレットったらぁ〜っ!」
「あっ!」
(そっか、地元の子を捕まえてお土産を選んでもらっちゃえば良いんジャン!
 あったし、頭イイ☆)

 痺れを切らしたリースの声に、マーガレットは叫ぶ。
 だって、とっても素敵なコトを思い付いちゃったのだから。

「ちっ、城下、広いな……」
「待ってぇっ!」

 そう。
 マーガレットとリースのいる土産屋の前を、たまたま通りかかったのだ。
 葦原明倫館に通う、つまり城下を知り尽くしているであろう、同年代の男性が。
 これはもう、捕まえるしかないではありませんか。

「っちょ、なに、どうしたのっ!?」
「お願いがあるのっ!」
「うぅっ……」
(急いでいるのに、綺麗なお姉さんがオレの力を必要としているっ……)

 なぁんて勘違いしちゃったら、断るコトなんてできるわけない。
 マーガレットの裾引きに、燿助はその足を止めた。

「あたし達、葦原へ来た記念にお土産が欲しいんだけど、なにがいいか分からなくて。
 一緒に選んでくれないかな?」
(どさくさに紛れて、恋愛成就のお守りも買っちゃえばいいよねっ!)
「あ、あぁ……」

 いつもなら、なにもなければ、こんなお誘いには泣いて喜んでいるかも知れない。
 だが今日この時に限っては、そうもいかない事情があった。

「ありがとうっ!
 逃げてもお土産選んでくれるまで追っかけるからねッ!!」
「ねぇマーガレットっ、待ってっ!
 わ、私、マーガレットと一緒にお土産を選びたいんです……」
「うん、リースも一緒に行こう!」
「あの、よろしくお願いいたします。
 えっと、地球に住んでいる姉さん達に『今度みんなで葦原に行くんだよ』って電話でお話したら『御土産買ってきてねっv』って頼まれちゃって。
 あ、2番目の姉さんなんですけどね」
「へぇ、そうなんだ……」
「変わった物が欲しいって言われたのですが……し、獅子舞とかふぐ提灯とか、見た目が面白そうなもの、ありますかっ!?」

 普段なら退かれるくらい喰いつく姉情報も完全にスルーしてしまうような、複雑な心中を知ってか知らずか。
 清純な眼鏡っ娘と快活なフェアリーは、燿助を城下へと連れ戻していったのである。

「あぁ〜おじいちゃ〜んっ!」
「おや、どうしたのだ、ラグエル」

 その頃。
 城下の中程には、ラグエル・クローリク(らぐえる・くろーりく)桐条 隆元(きりじょう・たかもと)がいた。
 ラグエルが見詰めるのは、すらっと着物美人、の、足許。

「あれ、カランコロンほしい〜!」
「カランコロン……あぁ、ぽっくりのことだな。
 どれどれ、呉服店へ行ってみようか」

 ということで、行った先にて無事、ラグエルにぴったりのぽっくりを購入できた。
 早速それに足を入れれば、ぱぁっと可憐な笑顔が咲く。

「わ〜い、おじいちゃん、ありがとう!
 このカランコロンすごいよね〜!
 履いて歩くとね、ふぁ〜ってお花が出てくるの!」
「ほぅ……うん、本当だね」
「まほーのカランコロンって、お店のおじちゃんが言ってた!」
「魔法か、葦原にも面白いモノがあるのだな」
「あ、ねぇねぇおじいちゃん!」
 カランコロン、リースに見せに行きたいな!」
「ラグエルっ!?
 まだお土産を選んでないであろう!」
「リース〜っ!」
「祖父と祖母の土産を選ばなければならぬのだよ!?
 待ちなさい、ラグエルっ!」

 さて、店を出てきたラグエルと隆元は、抜群のタイミングでリースと再会した。
 マーガレットに燿助と同行しており、全部で3人。

「ちょうどよかった!
 ラグエルのお土産も、ともに選んでもらいたいのだよ」

 結局、燿助は隆元の、というかラグエルのお土産をも選ぶこととなる。
 4人から解放されたのは、それから十数分後のことだった。

「急がなきゃっ!」

 その背に贈られるのは、なにも知らぬ者からの感謝と、知る者からの応援。
 燿助は、一所懸命に来た路を往き直すのだった。