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リアクション
■幕間:暗躍する者たち
盾の機晶姫と剣の機晶姫は二分されてしまっていた。
それはトメの指示によって生み出された結果であり、また今まで戦い続け、機晶姫すらも疲弊させた契約者たちの力の継続があってこその成功であった。
「え、えいやーっ!」
リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)は舞うように杖を振るう。
白い軌跡が宙に描かれ、彼女を取り巻くように周囲に氷の礫が生まれる。
「行ってください!」
氷の礫は声に押されるように盾の機晶姫目掛けて飛来する。
ガガカガカカガッ! と盾でそのすべてを受け止めた。一枚目、二枚目、三枚目とローテーションを組むように盾を変えていく。その様子を見て彼女は後方に控えていたマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)と柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)、柊 唯依(ひいらぎ・ゆい)に視線を送った。
「最初は唯依、よろしくね」
マーガレットは笑みを浮かべて言った。
唯依は苦笑すると隣に立つ恭也を見やって口を開いた。
「この仕事が終わったら何か奢って貰う予定だから、な」
彼女は礫を受けていない盾に照準を合わせる。
まったく、と愚痴りながら告げた。
「破壊するのは惜しいが、こっちも仕事でね」
手にしたリボルバーの引き金を引く。発砲音が通路に響き、チュインッ! という弾が弾く音が聞こえた。ふむ、と彼女は頷くと次いで腰に備えていたシリンダーから数本の爆弾を抜く。
それらを盾の機晶姫に向かって放り投げた。
銃を再度構える。射線上に爆弾が落ちてくるのを確認すると引金を引いた。
ドォンッ! と爆発が起こり、埃が宙を舞った。
「次はあたしの出番だね」
マーガレットは言うと、剣と盾を構えながら機晶姫に向かって駆け出した。
盾の機晶姫は爆発を受けた盾を下げ、礫の盾も交換し、計三枚の盾が使用済みの様子であった。残りの一枚をマーガレットは狙った。
一回、二回と十字に切り傷を付ける。機晶姫は盾を返すとそれをマーガレットに振り下ろした。彼女はそれを盾で逸らす、衝撃が腕を奔るが軽く痺れる程度だ。
「恭也−っ!!」
マーガレットが叫んだ。
「そんな大声あげなくても分かってるよ……」
ゴッ、という音とともに彼は機晶姫に急接近した。
接敵、手にしたブレードを盾に当てる。
「耐えれるもんなら耐えてみやがれ!」
ガコンッ! という音が二度響く。
杭が打ち出された。十字の切り傷を中心に亀裂が入り、割れる。
彼は落ちた盾を拾うと朋美に投げ渡した。
「ありがとう!」
彼女は礼を述べると手にした盾と剣の欠片を調べる。
朋美の傍ら、盾の機晶姫と剣の機晶姫が合流しないように見計らいながら銃撃を行うウルスラーディとトメ、リオナの三人がいた。彼は朋美に声をかける。
「どうだよ?」
「とりあえず剣の方は光学迷彩の機能を取り付けるには質量が足りてないようで、それを制御している機器がこの筋に埋まってるから、両側から一定の衝撃を与えれば簡単に壊れるみたい」
「だとよ!」
■
朋美たちから情報を得た富永 佐那(とみなが・さな)とエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)、セドナの三人は剣の機晶姫と対峙しながら、宙を舞っている三本の剣を見つめる。
「剣は我がこれで叩き潰そう」
セドナは言うと大槌を振るう。
重い風切り音が耳に届いた。
「では私とエレナで剣をそちらに飛ばします」
佐那は言うと逆手で両手に剣を構えた。
風の流れが変わる。エレナも頷くと手にした槍を構える。
「амин!」
佐那は叫ぶと駆け出した。
地を蹴り壁に足をつけて走る。文字通り彼女はこの通路を縦横無尽に駆け抜けた。剣の機晶姫はエレナに一本、佐那に二本、その剣を放った。剣は回転しながら二人に向かう。
「この程度ならっ!」
彼女は左右の剣を振るった。キン、キィン! と剣の機晶姫の剣が宙に弾かれる。それはすぐに機晶姫の傍に戻る。エレナは槍の柄で剣を絡め取り、地に落とした。それを踏みつける。
「セドナさん――」
応えは来た。大槌が彼女の足元、剣を柄ごと押し潰す。
「残り二本……」
彼女たちの視線の先、佐那が機晶姫に斬りかかる姿があった。
スッっと剣の一本がエレナたちに刃先を向けたその瞬間、分かっていたような動きで佐那が叩き落とした。彼女の頬を風が撫でる。そこに浮かぶのは笑みだ。
(風が読める……)
剣の態勢を立て直そうとしたところを弾き飛ばす。
剣は二本ともセドナたちの方へ飛んでいった。剣が宙に留まろうとしたとき、エレナが槍で叩き落とす。ついでセドナの槌が振り下ろされた。これですべての剣が折れたことになる。
剣の機晶姫を正面に、佐那は二本の剣を左側に構える。
「до свидания」
線が奔る。肩から首にかけて、首から肩にかけて斬撃は交差した。
腕が落ち、頭が落ち、身体が崩れ落ちた。足元に転がるのは機晶姫の残骸だ。
核が砕けすべての機能を停止した。
「思ったより簡単に壊れたのですよ」
「まあ結構な間、我らとも戦っていたからな」
機晶姫の頭部を拾う。その表面にはいくつもの切り傷や爪痕、打撃により陥没したのであろう凹凸が見てとれた。セドナはそれを朋美に渡す。彼女はすぐに機晶姫を調べ始める、がその表情はすぐに強張った。
「――あ、これ……違う」
「何が違はりますの?」
トメの質問に彼女は唇を震わせながら答えた。
「この『人』、機晶姫だけど機晶姫じゃない――頭を揺らしてっ!!」
その声はリースたちに向けられたものだ。
柊たちはすぐに理解した様子で行動に移す。
唯依が銃撃で盾を誘導し邪魔にならない位置にまでずらす。恭也が吹雪を巻き起こしながら機晶姫に迫った。機晶姫の顔が見える位置、彼がそこに辿り着くと盾が機晶姫の姿を隠す。だが彼はそれを意に介さない。
ブレードを盾に当て、そのまま杭を打ち込んだ。
重い音が二連続で鳴り響いた。だが盾が割れる様子はない。しかし盾は後方に吹き飛び、機晶姫の顔にぶつかる。そこへさらに追撃、ブレードを当てて杭を放った。衝撃が機晶姫の頭部を揺るがす、宙に浮いていた盾がすべて地に落ちた。
「この子の核は?」
「……胸です」
マーガレットの言葉に朋美が答えた。
彼女は手にした剣を胸に突き刺す。核が割れ、機晶姫がすべての動きを停止した。
そして二つの影が盾の機晶姫の傍らに現れた。
黒い外套に身を包んだ二人の少年だ。彼らはフードを取る。
下から出てきたのは同じ顔、双子であった。
「助かったよ」
「礼を言う」
彼らは言うと地に落ちている盾を拾った。
そして盾の機晶姫の首を切り落とすと頭を掴んだ。
「ひ、ひどい……」
リースの言葉通り、その行為は残酷に見えた。
「石鬼は手に入らなかったから代わりです」
「技術の流れを知るための代用品だね」
彼らは淡々と述べる。
恭也が動いた。手にした刀で斬りかかる。
だが彼らの武器で弾かれた。返しざま、今度は少年の腰を狙った。
避けようとするがその刃は衣を切り裂いた。懐に隠していたらしいノートが地に落ちた。
「もういらないものです」
「戦果はありました」
二人は去ろうとする。
ウルスラーディが少年らに声をかけた。
「逃がすと思ってるのか?」
「僕たちより自分たちのことを考えた方が良いと思いますよ、人殺しさんたち」
「厳密には人じゃないですけどね」
動こうとしたウルスラーディを朋美が止めた。
その様子を眺め、少年たちはクスクス笑いながらその場を後にする。
■
静寂の中、朋美が剣の機晶姫の頭部を抱えながら告げた。
「この機晶姫ね……人の脳が使われてるんだ。核も一緒に繋がっていたりしてて、複雑すぎてどういう理論で動いていたのか分からないんだけど――」
彼女は息を止め、苦しそうに言葉を綴る。
「人だったんだよ――」
「まさかこの遺跡にいた彫像の魔物とかは、元は全て生き物か!?」
その事実に皆が言葉を詰まらせた。
戦いは終わった。
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