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封印された機晶姫と暴走する機晶石

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封印された機晶姫と暴走する機晶石

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■幕間:傀儡交差

 遺跡の入り口、中等部くらいの少女と少年の姿があった。
「我が『剣』よ、敵を切刻め」
 彼女の言葉に少年が一歩前へと踏み出す。彼らの見据える先には多種多様な姿の獣があった。一部は彫像の姿を残しているが少しずつ色素を取り戻してきている。封印が解けかけているのだろう。
 数刻後には遺跡から群れを成して溢れ出てきそうだ。
「我が『使い手』の意のままに……」
 少年、八神 誠一(やがみ・せいいち)は遺跡から出てきた獣たちに歩み寄る。
 彼を敵だと認識したのだろう。虎に似た獣が二体、八神に襲い掛かった。
 鋭い爪が届く、そう見えたときには獣の前足が宙を飛んでいた。いつ手にしたのか、八神の手には抜身の刀があった。
 獣はバランスを崩し地上を転がった。身体を支えようとするも前足が切断され、すぐには起き上がれない様子だ。もう一方の獣はその様子を目の当たりにして、彼をひどく警戒しているのかグルグルと八神の周囲をゆっくりと歩く。
「やれ」
 少女、オフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)に促されるように八神の手が動いた。野生の勘とでもいうべきか獣の反応は早かった。危険だと感じたのだろう、少年たちを無視して街の方へと駆け出そうとした。
 一閃。獣はスライスされたように上下に二分し、その場に崩れ落ちた。
 何をされたのか獣自身にもわからなかっただろう。
 八神の手にした刀は形を崩し、力の収束を緩めていた。
 淡い光が柄から糸状に拡散して消える。
 オフィーリアは臓物をばら撒いている死骸を見つめ、次いで遺跡へと視線を送る。
「蟻のようだな」
 それは獣の死に様に対しての言葉なのか、それとも遺跡から今溢れんとばかりに姿を見せ始めた獣の群れに対しての言葉か。おそらくは両方だろう。彼女にとって獣の存在などあってないようなものだ。
「――ッ!」
 八神が腕を大きく振るうと糸状の力が収束し刀へとその姿を転じる。
 そして間を置かず獣の群れが押し寄せた。
 だが八神は動かない。彼の目前に獣の牙が迫ったときであった。獣たちが崩れ落ちた。顔を幾等分にも分割し、身体、前足、後ろ足も乱雑に分解されて地に落ちたのだ。機械処理の施された部分は切断まではいかないものの、表面が削れていた。まるでノコギリで切りつけたような痕を残している。
 生身の部分は綺麗に切断されていた。切断面から臓物が飛び出し、道に中身をばら撒いた。外気に触れ湯気を立てている。鋭利な刃物で切られたらこうなるだろう。さきほど八神が倒した獣と切断面が酷似していた。
 だが獣の群れは止まらない。
 さらに奥から幾匹もの獣が遺跡の外へと飛び出してくる。
 八神も刀で近寄る獣を斬り捨てるが処理が追いつくはずもなく――
「少しだけ、我自らが相手をしてくれよう」
 そう呟くオフィーリアの元までやってきた。
 笑みを浮かべると彼女は地面を強く踏みしめた。
 変化はすぐに起きた。大地が割れ、岩が幾重にも連なって裂け目から姿を現す。
 それは獣の身体を抉り、叩き打ち、足止めをする壁となる。
 獣たちの一部が少女から離れて街の方へ向かう。
「なんだ予想以上にもろいな。慣らしとしては悪くない、が、この程度ではやはり物足りんな。こいつらの親玉でも見に行くべきだったか……」
 警戒し、自分の周りをうろつく獣たちを見据えて彼女は告げた。
 後方から近づく気配を感じ、口を開く。
「我の邪魔だけはしてくれるなよ」
「しないよ。僕たちの目的は魔物退治というよりは、街を守ることだからね」
 振り向くとそこには執事服を着た男の姿があった。
 清泉 北都(いずみ・ほくと)だ。彼の隣にはクナイ・アヤシ(くない・あやし)の姿もある。
 清泉は背の高い異形の生き物を呼び出すと獣たちをできるだけ逃がさないように指示する。そして八神たちの取りこぼした獣たちを見ながら言った。
「ここから先へは通すつもりはないよ」
 両手を広げると吹雪が巻き起こった。
 瞬く間に雪が辺りに積もり獣たちの感覚を狂わせる。
「ギャアウッ!」
 足を止めた獣にクナイの呼び出したゴーレムの一撃が振り下ろされた。
 頭を掴み大振りに投げ飛ばす。木の幹にぶつかりゴキッという骨の砕ける音が聞こえた。力技である。
「北都、私は上から対処します」
「うん。よろしくね」
 ワイバーンに乗り上空へと飛び立つクナイを見送り、清泉はいまだ数を増やしていく獣たちを見据えると弓を構えた。雪になれたのか、縦横無尽に駆け回る獣たちの行動を先読みし、射る。
 ヒュンッという風切り音の後、獣が目に矢を受けて怯んだ。
 その隙を狙ってゴーレムが頭を掴み、先ほどと同様に近くの木々に投げ飛ばす。
「鳥型は面倒ですね」
 クナイは手にした剣で向かってくる鳥型の機晶姫を斬る、がひらりと躱されてしまう。どうやら空という場所では敵に分がありすぎるようだ。剣がダメならばと彼は手をかざす。光が溢れ、刃となり、鳥の機晶姫たちを切り刻んだ。
 続いてワイバーンが口内から炎を吐いた。劫火が敵を包み込む。
「思ったより強くないようですし、北都も大丈夫そう――」
 油断。幾匹かの鳥が彼を通り過ぎ街の方へと飛んで行った。
「しまったっ!?」
 すぐさま追いかけようとワイバーンを反転させるが清泉が制止した。
「大丈夫だよ、ソーマとモーベットが後ろに控えてるから。ここを抜けたのは彼らに任せて僕たちはここで――」
 いまだ遺跡の入り口で獣たちを切り捨てている八神たちを見やりながら告げた。
「魔物を減らすよ!」