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リアクション
■幕間:灰鬼
石女神の部屋に笑い声が木霊した。
声の主、ドクター・ハデス(どくたー・はです)は石女神と戦っている者たちに言った。
「今回の事件の中心となっている石女神は、この俺の貴重な研究材料! 契約者どもに破壊させるわけにはいかん!」
その言葉の意味は単純明快だ。
つまりお前らは俺の敵だ、とそう告げているのである。
「さあ、我が部下ヘスティアおよび戦闘員たちよ! 石女神の攻撃に巻き込まれないように気を付けつつ、契約者たちの攻撃から石女神を守るのだ!」
「かしこまりました、ご主人様……じゃなくてハデス博士。石女神様の援護をおこないます」
付き従うように傍に佇んでいた機晶姫、ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)は応えると搭載したミサイルを放った。狙いは石女神と戦っている契約者たち……だったのだが――
ミサイルの軌道は滅茶苦茶であった。
石女神を守るべく駆け出した戦闘員たちを追いかけたり、部屋の至る所に着弾したりとその様は戦時中の爆撃のようでもあった。戦闘員たちの悲鳴が響き渡る。ときおり契約者たちの戸惑う声も聞こえてきた。
「はわわっ、ターゲットをロックオンするの忘れましたっ!」
慌ただしく事態が急変していく中、石女神の部屋に近づく者たちがいた。
「あそこで高笑いしてるの、どう考えてもドクター・ハデスよねぇ……」
「確かにハデスさんですねぇ〜……」
彼女たち、ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)、スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)は通路の先で高笑いしているハデスを見てあきれとも取れる声をあげた。
「ハデスは巻き込んじゃえばいっか。ただ……ヘスティアさんには手加減してあげたいとこだけど……放置したら今度は色々と暴走させちゃうんでしょうねぇ……」
「もう暴走させてるみたいですけど、ねぇ……巻き込むのはぁ〜、賛成ですぅ」
スノゥは言うと目の前に炎の鳥を生み出した。
「え、ちょっと――」
「巻き込んじゃますねぇ〜」
オオゥという音が鳴り炎が揺れた。
それは瞬く間にハデスの背中に追いつく。
「ん? なにやら熱――」
炎の鳥がハデスたちを巻き込んで部屋の奥へと飛び込んだ。
「熱っ! 熱いではないかっ!?」
「ご、ご主人様。どうしましょうか!?」
「ドクター・ハデスと呼ばんか! まあいい、これを使って奴らを倒すのだ」
ハデスはいうと機晶銃をヘスティアに渡した。
彼女は命令されるままに銃を構えた。
「わかりました……って、機晶石が……!」
銃から光が漏れる。
それは力となり部屋の中を奔った。壁を貫き、瓦礫を焦がし、石女神の腕を焼き切った。最後に本体が爆発を起こす。
「ぐぬわぁ!?」
「きゃあっ!」
爆発に巻き込まれたハデスたちはその場に倒れ伏した。
見事な自爆である。
「流さん」
「分かっていますよ、和深」
騒然とする部屋の中、石女神の表面がひび割れ、今にも崩れそうな姿を見て、皆に追いついた瀬乃と上守が互いに目で合図した。上守が前へ出る。
彼女は両腕を失って悲鳴をあげている石女神の前に立つ。
そして上守の刀が石女神の腹部に突き刺さった。そのまま切り裂く。
石女神の外殻が割れ、中身が露わになった。それは肉だ。赤黒い部分や淡い桃色の部分など何の臓器なのかわからない、肉の塊が詰まったようなその姿は見る者に嫌悪感を与える。
「これは……」
皆が見つめる中、肉塊はボコボコと膨れ上がる。
そして破裂した。
肉片が辺りに散らばる。肉塊からは赤黒い血が流れ、所々に存在していた機械からはオイルが漏れた。血と油の匂いが部屋に広がる。終わったのか、と皆が様子を覗っていると、石女神の本体であろう上半身が脈打つようにビクンと動いた。
ズルリと肉塊から這い出てくる。
現れたのは褐色の妙齢の女性だ。肌を隠すことなく皆の視線を一身に受ける。
その瞳は虚ろで何かを見ている様子はない。
彼女はゆっくりと瀬乃へと歩み寄る。
「今なら助けることができるか?」
アルツールの言葉に応えたのは叫びだ。
「油断するなっ!」
彼は見た。カメラのレンズのように前後に動き、収縮を行う彼女の瞳を、だ。
銃を向けようと腕を動かすが遅い。
腕を掴まれ投げられた。彼は上守を巻き込んで壁へぶつけられる。危険を感じ取ったアルツールたちもその場を離れようとするが、石女神の動きはそれを上回った。彼女はいつどこから手にしたのか、一振りの刀を彼らに向けて一閃。
冷気をともなった衝撃が周囲に広がった。
「これが石女神!?」
「宗園さんと交代して来て見ましたけどぉ〜、確かに石女神さんですねぇ〜……」
衝撃を防いでミリアとスノゥが厳しい視線を石女神に向けた。
セシルもさっきまでとは違う真剣な表情を浮かべている。
「シリウス!」
倒れるシリウスを抱えながらサビクが石女神を見やる。
彼女から発せられる圧迫感は凄まじかった。周囲を見回せばアルツールたちもハデスら同様に倒れ込んでいる。シリウス同様、さきほどの衝撃波にやられたようだ。
今来たばかりの4人を除いて、他の者たちの顔には疲れが見えていた。
情勢は覆ったのだ。
「強いね」
「そうですね。それに……あの人――」
上守はぼそっと呟いた。
「動きが私みたい」
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