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正体不明の魔術師との対決準備?

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正体不明の魔術師との対決準備?

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 遺跡前。

「……ここが取り壊されるのは少し残念だが、楽しみだ」
グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は昔は立派だったろう建物を見て探索は楽しみだが少しだけ寂寥を感じていた。
「そうですね。しかし、そのおかげで普通の依頼ではなかなか許して貰えない遺物や資料の個人所蔵が出来ます」
 とロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)。キープセイクもまた魔道書と製作者のとある学者の性でグラキエスと同じように知識欲に溢れていたり。それ以上にグラキエスが楽しそうなのが嬉しいのだが。ちなみにグラキエスは所蔵に関してあまり執着はしない。
「確かに。書物を持ち帰って精読出来るのはありがたい」
 そう言うなりグラキエスは一人さっさと遺跡に向かって歩き始める。考古学好きであるため普段早々出来ない資料の読み漁りや遺物回収が出来るとあって好奇心が疾走中なのだ。
「魔法中毒者の研究所か……おい、エンドロア一人でさっさと進むな」
 ウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)は、研究所に対して十二分な警戒が必要だと考えていたところグラキエスが一人先を行くのに気付き、急いで止める。
「……分かった」
 ウルディカに呼び止められたグラキエスは素直に立ち止まり、二人が追い付くのを待って三人一緒に遺跡へ入った。侵入後、キープセイクは遺跡の立体画像やマップを作成するなど忙しくしていた。ウルディカは『殺気看破』で常に周囲の警戒をしていた。

 遺跡内部、書庫。

「…………」
 『考古学』に精通し『秘宝の知識』を有するグラキエスは知識欲をすぐに満たせる場所に辿り着いていた。
「…………」
 興味のある書物や書類などを探し回っては読み漁っている。『博識』によって古代特有の文字にも詰まる事無くさっさと片付けて行く。
「……エンドが嬉しそうで何よりです」
 キープセイクは夢中で書物を漁っているグラキエスを微笑ましそうに眺めていた。
「……あぁ。あれは鍵付きだな」
 キープセイクにうなずいていたウルディカは鍵付きの本を手に所定の位置に戻るグラキエスの元に行った。

「……鍵付きか」
 グラキエスは確認せずに選んだ鍵付きの本とにらめっこをしていた。
 そこに
「エンドロア、貸せ」
 困っているグラキエスを手助けするべくウルディカが登場し、『ピッキング』で解錠した。
「……助かる」
 グラキエスは礼を言って解錠済みの本を受け取った。
「楽しいのは分かるが、休憩ぐらいは挟め」
 ウルディカは表紙を開き、読み始めようとするグラキエスに注意をした。
 ウルディカが見る限りグラキエスは休む事無く書物を読み続けていたから。元々身体が丈夫では無いので心配をしていたり。
「……これを読んだら休む」
 グラキエスはそう答え、書物を読み始めた。
 ウルディカは自分の興味を満たす調査をするかと思いきや棚に収められている書物や書類で鍵付きの物を幾つか抜き取り始めた。
「……キープセイク、ニヤニヤするな」
 ウルディカは口元に笑みを浮かべながら自分を見るキープセイクの視線に気付いた。
「……いえ、ウォークライもずいぶん世話焼きになりましたねーと」
 キープセイクはからかいを含みながら言った。
「……またあの時の事を茶化すつもりか」
 と少々不機嫌な声音のウルディカ。前回の事件でのグラキエスを救うための熱い叫びをあれからからかわれまくっているのだ。
「私が言っているのはそれもありますが、手に持っている物ですよ」
 キープセイクはウルディカの手にある本を指さした。
 読むグラキエスのために書物の鍵を予め解錠しておこうという優しさが見え隠れしているのは明らか。
「……キープセイク」
 ウルディカは反論する言葉が無かった。以前は遺跡の調査は自分の強化のためという言い訳があったが今は誤魔化しとしては通用しない上にウルディカ自身グラキエスが喜ぶから付き添っているという感じなのだ。
「私も何か調べてみましょうか。何せ魔法中毒者の研究所、エンドの事で役立つ物が見つかるかも知れませんし、手始めにあの机を調べて来ますね」
 ウルディカが何か言う前にキープセイクは早々に『サイコメトリ』での読み取り調査を開始した。

「……これは日記だ」
 グラキエスはウルディカに解錠して貰った書物に目を通すなり日記である事に気付いた。
「……名も無き旅団……恐ろしい魔術師……確か、フレンディス達が知りたがっていたはずの魔術師で間違い無いな。ポチの方に連絡してみるか」
 文章中気になる単語を目にしたグラキエスは、本当の姉のように懐いているフレンディスとそのペットのポチの助が調査をしている事を思い出し、手助けをしたいとポチの助に貰った腕輪型HC犬式で連絡を入れた。
 連絡をした結果、フレンディス達は近くだからグラキエスの所に駆けつけると言った。聞くよりも実物を見ておきたいという事らしい。
 この間、ウルディカもキープセイクもそれぞれ発見していた。
「……これは」
 キープセイクが机から読み取ったのは、
 魔力に対して身体が拒否反応を示す仲間に対して作製した魔力を失わせるレシピで作り上げた魔法薬を拒否反応を示す仲間を実験台に試したくてたまらないのに魔法を失う事は自分達にとって死より辛いからやめろと他の者に止められヒステリックを起こしている男の姿だった。
「……魔力を失わせる、ですか。手を加えれば別の形に出来るかもしれませんね。レシピが近くにあればいいのですが」
 キープセイクは、机の周囲を探索するが全く見つからなかった。

「……これはこの遺跡についてだな」
 ウルディカはとある隠し部屋についての記述を発見していた。永年あらゆる遺跡で磨いてきた『追跡』や『捜索』の勘が貴重な書類に引き寄せたようだ。
「……異常事態による回避機能の発動……解除についてか」
 手に入れたのは遺跡に緊急事態が起きた際に起動する魔法装置や部屋についてだった。その形状や解除の仕方に部屋の場所が大まかに書かれてあった。
 このようにキープセイクもウルディカもそれぞれ有用な情報を入手していた。

 少ししてグラキエスの待ち人達がやって来た。
「……情報を手に入れたと聞き駆けつけました」
「さっさと出すのですよ!」
 フレンディスとポチの助が一番にグラキエスに声をかけた。
「これに載っていた。ここの研究者の日記だ」
 グラキエスは開いたままの日記を差し出した。
「……日記ですか」
 受け取ったフレンディスは確認を始めた。
 その間、
「……ここは書庫か」
 ベルクは場所を確認していた。
「マスター、これはどういう事でしょうか」
 フレンディスは読み終わるなり隣にいるベルクに日記を渡した。
「……ん」
 日記を受け取ったベルクも確認する。

 日記に書かれていた内容は、

「本日は名も無き旅団と名乗る旅人達が宿を求めてここに立ち寄った。我々は彼らの様々な話を聞いた後、泊まる事を許した。それは現在からかなり昔にまで遡る話で話し手が生まれる前、というか自分の役職の前の人が体験した事を自分の事のように話すのだ。それでいて自分と前任者の記憶の区別はついているようであった。それはまるで自分と別の人の記憶をいくつも有している感じだった。魔法以外興味など無いが、旅話を聞くなり彼らはただの旅人には思えなかった。逗留を許したのはそのためだ。彼らはあの恐ろしい魔術師の事件にも何度も遭遇し、仲間を多く失ったと言っていた。それでも彼らは旅を続けるのだと続けなければならないのだと言っていた」

 というものだった。

「……現在の話し手が自分の前任者が体験した話をする、近くて遠い目的地、目的地を決めるのは自分達では無い、か」
 ベルクは今回入手した情報をまとめ何か見えないだろうかと考え始める。
「……やはり精神体のような何かに取り憑かれている線が強いのでしょうか」
 とフレンディス。
「……取り憑かれる事で前任者の記憶を引き継ぐという事か」
 とグラキエス。
「つまり、宿主が命を落とす度に変えているという事になるのか」
 ベルクはグラキエスの意見も入れて情報をまとめ続ける。
 ここで
「あ、そうです。遺跡探索中に凄い物を見つけたんですよ」
 フレンディスは思い出したように探索中に発見した魔法薬のレシピを取り出し、グラキエスに差し出した。
「……凄い物?」
 興味を引かれたグラキエスはレシピを受け取り、確認。
「……確かに凄いな」
 『博識』を持つグラキエスはすぐにレシピの内容を知り、感心の声を上げた。
「必要なら持って行くがいいですよ! 勘違いはするなですよ。手放すのは必要無いレシピだからなのですよ!」
 ポチの助はツンを含む言葉でありながらもグラキエスが欲しいならあげてもいいと素直に思っていた。
「ただ必要素材が貴重な物や現在には存在していない物ばかりな上に手順がいちいち面倒だ。魔術師退治に役立てるのも無理になった」
 ベルクが軽く注釈を付けた。魔術師との対決に利用出来ず、持て余していたのだ。
「……エンド、少し見せてくれませんか」
 レシピの話を聞きつけたキープセイクが会話に加わった。
「あぁ」
 グラキエスはレシピをキープセイクに渡した。
「……これですね。あの机から読み取ったレシピは」
 レシピを読み終わった後、キープセイクは今手にあるレシピは自分が求めていた物だと確認した。
「ありがたく頂きます」
 キープセイクも改めてフレンディス達に礼を言った。
「そっちも何か見つけたみたいだな」
 ベルクは何やら発見したと思われるウルディカに声をかけた。
「……あぁ。これだ」
 ウルディカはうなずき、やって来て書類をベルクに渡した。
「……危機回避装置の解除方法か。場所と簡単な手順だけだが、知らせておいた方がいいな」
 ベルクは確認後、これまでの情報も含め他の探索者に伝えた。
 互いの用事が終わった所でフレンディス達とグラキエス達はそれぞれ遺跡調査に戻った。