リアクション
■ エピローグ ■
実ることのない研究は言葉通り一度として成功した試しが無い。
それがどういう意味なのか、そろそろ気づかないといけないのだろう。
系図は、完璧でないと知った。
過去に逃した被験体たる砂色の竜の様に自分で強制的に起動させたり、
最初に創りだされ楔の保有者でもあった機晶姫の様に他者の介入で起動するかもしれない。
楔である俺を無視して、系図は、いつかは子供達を創り変えようと動き出すのだろうか。
そして俺はそんな子供達を強制的に眠らせるのだろうか。
考えても、俺では答えを導き出せない。
答えが出ないとわかっているが、どうしても考えてしまう。
どうして、過去被験者を逃し、現在その子孫たちを集めて回るのか。と。
系図を持つ子らを抱えて、俺は成功する兆しすら見せない研究を続けていいのだろうか。
最年長でシャンバラ人の少女、シェリーが渡してきたノートを読み終えて、手引書キリハは溜息を吐いた。
ノートに綴られた言葉は全文全て特殊な古代文字だった。
孤児院『系譜』にてこの文字を扱えるのは二人しか居ない。加えて手引書キリハは書き込まれはされても書き込むことはないし、文字もこんなに読みづらいものじゃない。
「キリハ」
呼ばれて、手引書キリハははたと目を瞬いた。
紙面から視線を上げると思い詰めた顔のシェリーがいた。
「ずっとそこに?」
ノートを渡してから自室に戻らず、手引書キリハが読み終えるのを静かに待っていたらしい。
「うん。ねぇ、キリハ。クロフォードは、帰ってこないの?」
「盗み聞きをしましたね?」
「……ごめんなさい」
帰宅直後、手引書キリハはマザーに事の全てを話している。どうやらそれを聞き、居ても立っても居られず前に見つけていた破名が書いたノートを手引書キリハに渡したのか。
魔導書は溜息を吐いた。
「私ではわかりません」
「キリハでもわからないことがあるのね」
「どういう意味です?」
「そのまんまの意味。クロフォードの事色々知ってるから、知らないことがあるなんてちょっと意外ね」
「そうですか?」
「うん。あ、ねぇ、聞いても良い?」
「どうぞ」
「クロフォードの名前をキリハは知ってるの?」
問われて、何故そんな質問をと追求しようとして、止めた。
年頃の女の子は何かと聡い。
「シェリー。そういうことはご自分で本人に聞くのが礼儀です」
「え。でも、なんか……聞けるの?」
「むしろ答えてくれますよ。質問をするのが貴女なら答えてくれます。役目がなんであれ、あの人は元々貴女達の話し相手なんですから」
「話し相手、なの?」
「はい。誰一人寂しくないように、話し、語り、歌う。昔は大勢ではしゃぎまわって怒られもしたんですよ」
「……想像できないわ」
「そうですね。全く、本来の話し相手を放っておいて、今は何をしているのか……」
そろそろ時間だ。
シェリーに断りを入れて、手引書キリハは眠り続けている守護天使の元へと向かった。
皆様初めまして、またおひさしぶりです。保坂紫子です。
今回のシナリオはいかがでしたでしょうか。皆様の素敵なアクションに、少しでもお返しできていれば幸いです。
いつも有り難うございます。精進します。
また、推敲を重ねておりますが、誤字脱字等がございましたらどうかご容赦願います。
では、ご縁がございましたらまた会いましょう。
2013/11/10 修正。