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そして、蒼空のフロンティアへ

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そして、蒼空のフロンティアへ
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リアクション

「ようし、いい頃合いだ。俺の一文字を見やがれ!」
 酔った原田左之助が、諸肌脱いで自分の切腹後を皆に見せびらかし始めました。
「つまみ出せ」
 近藤勇に言われて、沖田総司と八神誠一が、原田左之助を庭に連れ出します。
「やれやれ、楽しいですね」
 ちょっと酔い覚ましに縁側に座って、井上源三郎がのんびりと目を閉じました。
「さあ、宴もたけなわとなって参りました。ここいらで余興として、ちょっと手合わせなんかどうだい」
 庭に出た神代 聖夜(かみしろ・せいや)が、神崎優に声をかけました。
「おお、面白そうだ、やれやれー」
 原田左之助が囃し立てます。
「まあ、余興としてなら」
 やれやれという感じで、神崎優が庭に出ていきました。神代聖夜との手合わせなんて、いつものことです。
「二人共頑張れー」
 神崎 紫苑を膝の上にだいて、神崎零が神崎優と神代聖夜を応援しました。
「まあ、結果は見えているけれど。聖夜がどこまで頑張れるかですね」
 陰陽の書刹那も、興味深そうに二人の戦いを見守りました。
「では、始め」
 即席で審判役となった沖田総司が言いました。
いくぞ!
 神代聖夜が、獣人の素早い動きで神崎優に突っ込んでいきました。二刀を使った時間差攻撃をしかけるのを、神崎優が軽く受け流します。
 素早く死角に入り込んで放たれる神代聖夜の攻撃を、神崎優があっさりと躱します。ときに受け流しつつ、ときに鞘などで軽く受けとめつつ、神崎優が神代聖夜を翻弄します。それを見て、観客である新撰組の者たちがやんやと喝采をあげました。元はと言えばみんな剣豪です、こんな戦いに興味がないはずがありません。
 獣人特有の素早い動きで相手を翻弄しようとする神代聖夜でしたが、逆に神崎優によって無駄に大きく動かされ、次第に疲れが見え始めました。獣人特有の俊敏性に頼るあまりに、動きに無駄が多いのです。
「無駄が多いな。動いていると勘違いしていて、動かされていることに気づいていないのが悪い。だから……」
 そう言ったとたん、神崎優が抜刀術で神代聖夜を弾き飛ばしました。
「敵の間合いに誘い込まれたりする……。ということだ」
「勝負あった!」
 沖田総司が、勝敗を告げます。
「ほほう。若いもんたちは、元気がいいのう」
 伊東一刀斎が、興味深そうに言いました。
「いいぞ、いいぞ、もっとやれ!」
 原田左之助が囃し立てました。自分でも木刀を持ち出して、次は自分だと言わんばかりです。
「そうそう、ちょうどいい面子が揃っていますので、どうです、久々に手合わせなど。負けたら、そうですね、この魚を食べてもらいましょう」
 そう言って、得体の知れない魚を横においた沖田総司が言いました。
「おもしれえじゃないか」
 ノリノリで、原田左之助が木刀を構えます。静かに、沖田総司がそれに応えて構えました。
「では、始め!」
 審判役を変わった伊東一刀斎が、合図しました。
 一呼吸の睨み合いが続き、次の瞬間激しい木刀同士のぶつかりあう音が鳴り響きます。双方共に酒が入っているせいか、ちょっと荒っぽい戦いがしばらく続きました。あるいは、単に試合を楽しむために、適当に力を抜きあって戦っているのかもしれません。
 けれども、それもほんのひとときだけの話で、だんだんと戦いが真剣みを帯びてきました。
「そこまで。あまり熱くなりすぎてはいけませんよ」
 さすがに、井上源三郎が止めに入りました。余興で怪我などされてはたまりません。だいたいに、強すぎる者同士の戦いでは、手加減が難しいところです。
「じゃあ、今度は俺だ」
「いや、俺だ、俺」
 酒が入っているせいか、もともと好きなのか、次々に名乗り出て模擬戦をしていきます。まあ、試衛館らしいと言えば、試衛館というところです。
 その戦いを酒の肴にしながら、みんなは楽しく宴を続けていきました。
「おーい、近藤、つまみがたりんぞ」
 芹沢鴨が、卓の上を見て近藤勇に言いました。
「そうか。では、買ってこよう」
 躊躇なく、近藤勇が立ちあがって道場の外へとむかいます。
「大丈夫ですか? 近藤さん」
 ちょっと心配して、藤堂平助が声をかけました。
「なに、さすがにこの程度では迷わんよ。皆はそのまま飲んでてくれ」
 そう言うと、近藤勇は近くのコンビニへと買い出しにでかけました。
「あれ? 近藤さんがいない……。まっ、いつものことか」
 しばらくして近藤勇がいないことに原田左之助が気がつきましたが、華麗にスルーしました。気がつけば、ずいぶんと長い間姿がなかったような気がします。
「ちょっと待て、近藤さんを一人で買い出しに出したのは誰だ」
 さすがに、土方歳三が叫びました。けれども、みんな酒が入っていて覚えていません。
「近藤さんが消えただと? ふむ、事件か?」
 近藤勇の失踪にもあまり動じない新撰組のメンバーを尻目に、マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)が考え込みました。大学卒業後には英国に帰って探偵になる予定なので、こういった事件は実にごちそうです。
「主催である近藤さんが姿を消した。これは、大いなる事件の先触れか? 近藤さんほどの者が、誰かに拐かされるはずもない。いやいや、面倒見のいい近藤さんのこと、誰かに誘導されたか。だとすれば、犯人はこの中に……。参加者は全員ここにいる。いや、クロス・クロノス君が行方不明……。何? つまみの買い出しに行った? 他になくなっている物は……、酒と肴か……。よし、分かった!」
 なんだかよく分からない推理の末、マイト・レストレイドがポンと手を叩きました。
「ただいまー」
 そこへ、タイミングよくクロス・クロノスが追加のつまみを持って帰ってきました。
「えっ、近藤さんと一緒だったんじゃ……」
 推理を披露する前でよかったと、マイト・レストレイドが慌ててクロス・クロノスに訊ねました。
「えっ、知りませんよ。近藤さんも買い出しに行ったんですか?」
 知らないと、クロス・クロノスが答えます。
「よし、分かった。近藤さんは、迷子になったんだ!」
 マイト・レストレイドが結論づけました。なぜか、新撰組のメンバーがうんうんとそれにうなずきます。推理結果に、何も疑問を持っていないようでした。
「近藤さんなら仕方ない」
 どこからともなく、そんなつぶやきが聞こえてきました。
 結局、近藤勇が戻らないまま、お開きの時間となってしまいました。まあ、近藤さんならしょうがないと言うところなのでしょう。
「どれ、一つ記念撮影の集合写真代わりに、一枚描いてやろう」
 集合写真の代わりに、集合イラストを、土方歳三が目にもとまらぬ速さで描きあげました。それが、今日の記念です。
「またこういう場があったら呼んでくれ。旅先からでも、うまいもん片手に駆けつけるぜ」
 別れ際の原田左之助の言葉が、今日の皆の気持ちを代弁していました。