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そして、蒼空のフロンティアへ

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そして、蒼空のフロンティアへ
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オリュンポスへ



「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)! 今日こそは、我らオリュンポスが、世界を征服する日! ククク、ついに計画を実行する時が来たのだ!」
 空京上空に現れた機動城塞オリュンポス・パレスの司令室で、ドクター・ハデスがいつものように高笑いをあげていました。でも、ちょっといつもと気合いが違うようですが……。
「今日こそ、パラミタ全土を支配してくれよう! まず手始めに、この空京の街を征服するのだっ! 行くのだ、咲耶、ペルセポネ、デスストーカー、および戦闘員たちよ! 今日はオリュンポスの全戦力を投入だ!」
「分かりました、兄さん! とっとと世界征服して、私と兄さんが二人だけで暮らせる世界を作りましょう!」
 高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が、気合いを入れました。ドクター・ハデスに告白してからというもの、気合い入りまくりです。
「行くわよ。ついてきなさい!」
 高天原咲耶に率いられて、オリュンポス特戦隊の戦闘員たちとペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)怪人 デスストーカーが、わらわらと空京の街へと降下していきます。
「ゆけ、我が精鋭たちよ。さてと、俺も用意しなくてはな。来い、合体だ!」
 ドクター・ハデスが、ハデスの 発明品と合体し、メカハデスへと進化しました。

    ★    ★    ★

「ヒャッハー! このままエビ漁だゼエイ!」
「おうよ、最高だぜえい!!」
 空京のメインストリートを強奪したトラックで爆走しながら、アレックス・ノース(あれっくす・のーす)ガルム・コンスタブル(がるむ・こんすたぶる)が、ノリノリで騒いでいました。大音響でTV番組冒険チームのテーマソングを垂れ流し、もうその主人公たちになりきっています。
 なんでこうなったかと言えば、エビ漁です。
 そうです。突如、アレックス・ノースの脳に、エビ漁をすれば、しこたま儲かるというお告げがあったのです。
「そいつぁすげえ!」
 もちろん、その話に一枚乗ったガルム・コンスタブルとともに、資金調達に行ったわけですが、当然のように金を貸してくれる所などありはしません。けれども、雲海に潜む超巨大伊勢エビと戦うのですから、こちらとしてもそれ相応の装備、超巨大要塞漁船ぐらいは最低限必要です。そのぐらいは、二つ返事で貸してくれるというのが本当の漢ではないでしょうか。ところが、そんな漢など、パラミタのどこにもいなかったのです。そう、パラミタに残る最後の漢、それがアレックス・ノースとガルム・コンスタブルだったのでした。
 きっと、これはパラミタ政府が陰謀を巡らせて、二人に資金を供出できなくしたに違いありません。これは国際問題です。こうなったら、頼るべくは、空京にあるアメリカ大使館です。治外法権であるアメリカ大使館であれば、戦闘機の10機や100機、すでに用意してくれていることでしょう。なにしろ、二人は、アメリカのヒーローなのですから、それぐらいしてくれて当然です。
 すぐにエビ漁に出られるために完全武装でアメリカ大使館に行くと……。
 あっ、当然、礼儀として、門は爆破してから入ります。
 さすがはアメリカ大使館です、すでに装甲トラックが用意してありました。
「グッジョブ! さっそくこれに乗ってエビ漁にでかけるゼエイ」
「ヒャッハー!」
 すぐさま武装トラックに飛び乗ると、二人は大使館の壁をトラックの体当たりで破壊して突破すると、雲海目指して爆走を始めました。
 まあ、当然のことですが、すぐにアメリカ大使館やらパラミタ警察から追っ手がかかります。
「シット! もう手が回りやがった!」
「填められたぜ。アメ公め、俺たちを裏切ってパラミタとつるんでやがったんだ!」
 すかさず飛び出す政府陰謀説です。このへん、揺るぎがありません。
「こうなったら強行突破だ。イィィィィヤァァァッホォォォォォォ!」
「ヒャッハハハハハハ!!」
 ガルム・コンスタブルの運転で警察の検問を派手に突破しながら、アレックス・ノースが、追いかけてくる装甲車を機銃やバズーカで吹っ飛ばしていきました。ときおり、ガルム・コンスタブルも振り返っては、ガン・オブ・フロンティアを撃ちまくります。
 爆走する武装トラックは、その先で、何やら暴れている全身タイツの集団と出くわします。
「おらおらおら、邪魔だあ!」
「どきやがれ!」
 スピードを緩めることもせずに、アレックス・ノースとガルム・コンスタブルが、オリュンポスの戦闘員を吹っ飛ばしていきました。
「おのれ、僕たちをオリュンポスの者と知っての反攻か。許さん! 戦闘員よ、まずは奴らから血祭りに上げるのだ!」
「イー!」
 怒りに燃える怪人デスストーカーの命令で、オリュンポスの戦闘員たちが一斉にバイクや戦闘車両でアレックス・ノースとガルム・コンスタブルを追いかけ始めました。
「おうおう、盛りあがってきたぜ!」
 周囲への迷惑を顧みず、アレックス・ノースとガルム・コンスタブル組と、オリュンポス組がドンパチを始めます。
「なんなの、この騒ぎは!?」
 突然始まった戦闘に、たまさか空京を訪れていた朝霧 垂(あさぎり・しづり)が顔を顰めました。
「なあに、ちょっと面白いじゃない」
 一緒にいた騎凛 セイカ(きりん・せいか)が、目を輝かせました。
 出向していた鋼鉄の獅子から、原隊である武装メイド隊に復帰した朝霧垂でしたが、第四師団に収まってからは、配偶者である騎凜セイカといつも一緒でした。
 コンロンに駐留している第四師団ですが、二人は紛争があれば先頭に立ってそれを解決しています。これが、文字通り最前線で敵を圧倒するというものなので、いいかげん周囲にはじっとしていてくださいと注意されるほどです。
 そんな日常ですから、たまにはちゃんと報告に来いと呼び出されて、ヒラニプラの金 鋭峰(じん・るいふぉん)の許へ顔を出したのでした。
 その帰りにこんなトラブルに出くわすだなんて……。
「運がいいですね」
「もちろん」
 すでに介入する気満々の騎凜セイカに、朝霧垂がうなずきました。
 転がっていたオリュンポスの戦闘員からバイクを奪うと、暴走トラックとオリュンポスの怪人たちの後を追いました。
「邪魔ですよ!」
 朝霧垂の運転するバイクの後ろに乗った騎凜セイカが、プージで後列のオリュンポスの戦闘員たちを薙ぎ払っていきます。
「貴様は……」
 皆まで言えないうちに、怪人デスストーカーも吹っ飛ばされます。
「歯ごたえがないですね」
 つまらなそうに騎凜セイカが言いました。
「これならば、を持ち出す必要もないな。一気に片づけてやるぜ
 バイクのハンドルを騎凜セイカに預けると、朝霧垂が立ちあがって光龍を構えました。肩口で弾けた閃光が、右手の手甲に集中していきます。
「吹き飛べ!」
 朝霧垂が、ためたエネルギー波を一気に敵にむかって放出しました。本来は、対イコン用の技です。
「ヒャッハー、雲海が見えてきたゼエイ!」
「あの雲海の彼方の蒼い空のむこうに、俺たちの明日(フロンティア)があるぜ。この漁船用武装トラックに乗って……!」
 高笑いするアレックス・ノースとガルム・コンスタブルが、朝霧垂の放ったエネルギー波に呑み込まれました。そのまま、ゆるが縁から雲海へと放り出されます。
「ひやっ!? ――はあああぁぁぁぁっ!!」
 長い悲鳴を引いて、アレックス・ノースとガルム・コンスタブルは、雲海の奥深くへと沈んでいきました。

    ★    ★    ★

「へぷち! 今、何か落ちてったか?」
 ゆるが縁観光に来ていた椎名真が、周囲を見回しました。突然のくしゃみに襲われて下をむいていた間に、何かが雲海にダイブしていったようです。それにしても、周囲がなんだか騒がしいです。
 まあ、ゆるが縁はゆる族のダイブの名所ですから、未だにそういう奴らもいるのでしょう。御苦労なことです。
 それよりも……。
「誰か、噂でもしているのか?」
 なんだか変な視線を感じて、椎名真は周囲を見回しました。