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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~
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リアクション


第1章 13日の魔物 10

「あら、あらあら。こぎゃんとがおるとねぇ〜」
 魔物――ガーゴイルを見て、そんなのんびりした口調の声を発したのは、一人の男だった。
 見た目は30歳そこらであるというのに、やけに落ち着いている印象を受ける。
 佐々木柳――神社の神主を務めるその男は、魔物に対してさほど動揺した様子を見せないのだった。
 魔物は無論、初めて見るはずである。
 彼は未来からやって来た契約者ではない。2009年で、魔物を見る力を持っていたことから対魔物チームに編成された、単なる神主である。
 それでも決して動揺を見せず、落ち着き払っているのは、彼の肝っ玉が成せることなのか。あるいは単に鈍いだけか。
 いずれにせよ――
「ほれ、若いの。まだ、早かばい。急がんちゃまだ逃げんごたるけん、相手ばよう見なっせ」
 冷然と魔物を見つめて状況を判断する様は、歴戦の契約者に引けを取らない。
 ガーゴイルの動きをしばらく観察して、柳は迎撃に移りだした。
 敵は翼を持った魔物である。となれば、翼を狙うのが定石だ――神主は刀を手にし、地を蹴って跳躍するとガーゴイルたちの翼を斬りつけていった。
 若い衆も、それに続いて魔物に果敢に挑んでいく。
 柳が前に切り込んだことで、彼らの勇気が奮い立ったのだった。
 だが――残念ながら柳は単なる一般人。高い観察眼は有していても、その運動能力は、契約者の基礎能力とは比べるべくもなかった。
「いやーーーー!」
 気合いの声を吐き出しながらガーゴイルに斬りかかる。
 が――次の瞬間には、柳はガーゴイルからついに反撃を受けてしまった。そのパワーたるや、想像を絶するものである。
 地に叩きつけられて、その痛みと衝撃に神主の意識はすぐに朦朧とし始める。
『しばし体を借りさせ給え』
 どこぞから不思議な声が聞こえたのは、その時だった。
 次の瞬間、柳の意識は別の何かに取って代わられた。髪が黒髪になり、少年のような雰囲気を帯びるようになる。
 胸骨にヒビでも入っているのか、身体が軽い悲鳴をあげるものの、神主の身体はむくりと起き上がる。
「ふむ……」
 回復の魔法をかけてから、柳は勢いよく立ち上がった。
「なかなかよく鍛えられた身体だね。気に入ったよ」
 柳――いや、それは、柳の身体を借りた別人だった。
 名は伊勢 敦(いせ・あつし)。ナラカの底から現れた、他人の身体を借りねば地上で生きることの出来ない奈落人である。
 偶然、地上に行こうとしていた最中に柳を見つけたのだ。彼はそのままでは地上では息が続かない。柳の身体が借りられたことは好都合だった。
 そして、身体を借りた以上は、敦とてその恩には報いるつもりである。
「さてと……」
 彼は周りにいたガーゴイルたちを眺め回した。
「これからは、僕のターンだよ」
 言うがいなや、神主の姿は突風にでも吹かれたように消えた。
 残った残像を追ってガーゴイルが視線を動かす。だが、そのスピードは追いかけるだけでやっとである。
 ぐおん――と、風が唸ったかと思ったら、神主は地上すれすれで頭部を基点に回転していた。手だけを使って、両脚を伸ばした形でガーゴイルを蹴り飛ばす。二匹を吹き飛ばした後、最後の一匹は両脚を使って、その首をがっちと締め上げた。
 ここまで、脚は地面についていない。見事なまでの足技であった。
「さっ……まだまだ終わらないよ」
 神主は童心に返ったようなにこやかな笑みを浮かべると、更にガーゴイルたちに挑んでいった。

「……あら?」
 柳が目を覚ましてむくりと起き上がったとき、周りに広がっていたのはガーゴイルたちの亡骸だった。
「……あらあら?」
 何が起こったのかわからないものの――とにかく柳は魔物を倒したことだけは納得し、首を傾げながらその場を後にした。